超速い慇懃無礼な従者   作:技巧ナイフ。

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はい、お久しぶりです。いや〜、この1ヶ月は忙しかった。

モンハンをやったり、レポートを書いたり、またモンハンをやったり、テストがあったり、ボーダーブレイクのオープンβテストがあったり。本当に……忙しかったです!!

というわけで、VSリィエル編です。纏黒を着た信一の姿は中二病患者が大好きなコートに、暴走族が履く地下足袋をご想像ください。


第32話 明かされるは彼女の真実

 炎や電撃の音が後方から響いてくる中、グレンと信一は薄暗い通路を駆ける。

 

「なぁ、信一」

 

「なんですか?」

 

 視線は前に向けたまま、並ぶグレンの声に応える信一。その声には先ほどまでと違い、狂気の色は感じられない。

 

「お前は……リィエルを殺すつもりなのか?」

 

「…………」

 

「……おい」

 

 疑問に答えない信一に、グレンは訝しげな目を向ける。無視をしてるわけではないと思うが、ならば何故答えないのか。

 

「正直、迷ってます」

 

「迷う?」

 

「はい。俺としてはリィエルを殺すことが最善策だと考えてます。ですが、お嬢様やルミアさんはリィエルが死んだらどんな反応をするのか。たぶん……」

 

「……泣くだろうな」

 

「えぇ」

 

 長いこと彼女達と共に暮らしてきたので、どうしても分かってしまう。リィエルは自分達の日常に溶け込み過ぎたのだ。

 

  本来なら絶対に交わってはならないはずの道が何かの手違いで交わり、幸か不幸かその道の相性が良かった。

 その結果生まれたジレンマが、信一を悩ませる。

 

「おそらく従者としてなら、彼女達にどれだけ見下げ果てられようともリィエルを殺すのが正解なんです。危害を加えてきた時点でリィエルは敵であり、排除するべきものですから。でも———」

 

 自分が嫌われるのは良い。罵倒されるのも構わない。

 

「———家族が悲しむことだけは絶対に許容できない。だから迷ってます」

 

「そうか」

 

 何をおいても主の幸福を最優先にする姿はある意味従者としての完成形とも言えるが、その為なら道徳や倫理を度外視する信一は人として確実に壊れている。

 

 だがそれだけというわけではないのだ。

 

「なら、まずは殺さないようにしろ」

 

「はい?」

 

「もし白猫やルミアがリィエルを殺したい程恨んでるってなら、それに従えばいいさ。お前は従者なんだろ?」

 

「つまり……お嬢様達の意見を聞いてから決めるってことですか?」

 

「そういうことだ」

 

 眉間に皺を寄せ、顎に手を当てる。確かにそれが一番安全なものかもしれない。

 

 独断でリィエルを殺した場合、取り返しがつかない。だからまずは彼女達に意見を仰ぎ、もし死んでほしいということなら改めてその時に殺す。

 

「なるほど。それはナイスアイデアですね」

 

「まぁ……まずはあの猪娘を殺さず引っ捕らえなきゃならないんだけどな」

 

「それなら大丈夫です。次は絶対に負けませんから」

 

 実のところ、信一は既にリィエルと戦った時の敗因には見当がついていた。

 刀がなかったから、ではない。

 

 ———リィエルが自分より()()()からだ。

 

 信一が今まで戦ってきた敵———ジン、レイク、ゼーロス、果ては3年前ルミアを攫った外道魔術師から自身が殺した母親まで、全てが信一より大きかった。

 人種的な問題でアルザーノ帝国の男性としては小柄な信一にとって、大体の人間は大きい。だから鍛錬の時も、無意識に自分より背の高い相手を想定して刀を振るっていた。

 

 旅籠でリィエルと戦った時に感じた違和感はこれだ。全く想定していない相手というのは、考えている以上に厄介極まりない。だからこそ、相性が良いはずのリィエルに敗れた。

 

「絶対……か?」

 

「はい。絶対です」

 

 信じられないものを見るような目で見てくるグレンに頷きを返し、前方を見据える。

 

 扉が見えてきた。あの先にルミアがいる。

 

「だらっしゃぁあああッ!!」

 

 その扉をグレンが乱暴に蹴り開けた。部屋の中にはリィエル、ルミア、そして見知らぬ青髪の青年。3人の視線がこちらに集まる。

 

「せ、先生っ!?それに……シンくんも……っ!?」

 

 2人の姿を見たルミアの目が潤む。死んだと聞かされたグレン、目の前で殺された信一、どちらもちゃんと二本の足で立っていることに安堵の涙を禁じ得なかった。

 しかし、囚われたルミアの姿はひどいものだ。鎖で頭上に両手を繋がれ、服は破かれて瑞々しい柔肌が露出している。

 

 ひとまず体に傷がないことは確認できたので、そこは一安心だが……信一の殺意はもはや留まるところを知らない。

 それはグレンも同じことだ。

 

 2人は各々の得物に手を掛け、黒幕であろう青髪の青年を睨みつける。

 

「馬鹿な……お前らは確かにリィエルが……っ!?」

 

「お生憎様。殺されたくらいでいちいち終わってるようじゃフィーベル家の従者は務まらないんだよ」

 

 そしてX字に背負う刀を右、左……それぞれを羽ばたくように抜刀。天井からぶら下がる照明の光を真銀(ミスリル)の刃が美しく反射させる。

 その姿勢のまま、グレンと共に刀で威圧感を与えながら青年へ歩み寄ろうとした……その時。

 

「グレン、シンイチ……それ以上、兄さんに近づかないで」

 

 リィエルが錬成済みの大剣を構えて、2人の前に立ちはだかっていた。

 

「リィエル! さ、流石は僕の妹だ!例の素体の調整にはもう少し時間がかかる!それまでにそいつらを抑えておいてくれ!」

 

「……わかった」

 

 リィエルが立ち向かったを見て、青年は部屋の奥に描かれた儀式法陣へと駆けていき、作業を始める。

 

 今すぐにでも兄と呼ばれた青年の首を刎ね飛ばしてやりたいが、彼を庇うように立つリィエルが邪魔だ。まずは彼女を無力化したほうが建設的だろう。

 

「兄さんの邪魔をするなら———斬る!」

 

「………………」

 

 大剣を握る手から、梃子でも動かないことがよく分かる。

 

 リィエルは強い。戦法が【迅雷】を使う自分との相性が良くとも、油断するのは命取りだ。

 しかし、自分は1人ではない。

 

「先生、合わせてください」

 

「あぁ」

 

 刀身に反射する照明の光。手首を微調整してその光を操り、リィエルの両目に当てた瞬間———

 

「……っ…」

 

「《疾くあれ》」

 

 バチイィィ———ッ!!

 

 脳内へ【ショック・ボルト】を撃ち込み、【迅雷】を起動。バキッ……バキバキ……と筋肉が引き絞られる音を鳴らしながら人間の潜在能力を43%まで解放してリィエルへ走り込む。

 

 低く、深く———地を這うように飛ぶ燕が如く。全身を落としながら、二刀を大鋏のように構えてリィエルへ突進。

 リィエルは迎撃の構えを取るが———ドウゥ! ドウゥ!銃声と共に放たれた2発の弾丸が彼女の両肩を正確に狙い、幅広の大剣で防ぐことを余儀なくされる。

 

「———『刄鋏嶽(ジンキョウガク)』———」

 

 幅広というのが仇になり、弾丸を防いだ瞬間だけリィエルの視界が塞がれて信一が見えなくなった。その隙に大鋏に見立てた二刀を閉じ、足首の切断を狙う。

 

「———ッ!?」

 

 しかし、なんとリィエルは見えていない攻撃を動物的直感で軽く飛んで躱して見せた。だがこれでいい。意識は下に向けられた。

 

 突進の勢いそのままに、信一は前宙を切る。纏黒の裾を翻しながら片足を伸ばして胴回し、重力、遠心力を全て込めた踵落としをリィエルの脳天目掛けて叩き込む。

 

「……くっ…」

 

 ———パキイィン!

 

 頭上に掲げた大剣で防ごうとするが、当然のように甲高い音を立てて砕かれた。

 

(ここまでは想定通りだね)

 

 油断は出来ない。リィエルの大剣は魔力が切れない限り錬成可能な代物だ。一本折ったところで形成を傾かせる一手にはなり得ないのだから。

 

 信一は背中に納刀しながら空中で器用にリィエルの右腕へと両足を絡める。次いで両腕も。

 これで残った大剣の柄を握るリィエルの右腕に、信一の四肢が絡んだ状態になった。鍵固め(キーロック)———両手両足で相手の腕一本を極める関節技だ。

 片腕に全体重をかけられたことで右半身をガクンッと落とし、信一は背中を地面にぶつけるが構わず、ギリッ…ギリギリッ———リィエルの肘関節を壊しにかかる。

 

 43%———常人の21.5倍の膂力で極められればすぐに破壊できるだろう。しかし、リィエルをそのような常識に当てはめるのは少々心許ない。

 

「信一、そのままだ!」

 

 銃を収めながらグレンは拳を握り、関節を極められて動けないリィエルへ格闘戦を仕掛けにいく。

 これで終わり———そう思ったのも束の間、信一を軽い浮遊感が襲ってきた。

 

(マジか……ッ!?)

 

「んぅ……ぐぐ……っ!」

 

 リィエルが信一を右腕一本で持ち上げたのだ。

 

 それ自体はさほど驚くことじゃない。リィエルの人間離れした筋力なら可能だとは思っていた。だが、今は()()()()()()()()状態なのだ。

 激痛が走り、満足に力も入らないはず。

 

 そんな常識知らんと言わんばかりにリィエルは右腕を振りかぶり、迫るグレンを信一ごと殴りつけた。

 

「くっ……!?」

 

「チッ……!」

 

 信一はグレンにぶつかる寸前で関節技を解いたが、それでも2人はもつれ合うように地面を転がる。

 

「いいぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 気合一閃。再び錬成した大剣でもつれた2人をまとめて斬り潰すように振り下ろされる。

 喰らえば挽き肉になる。そんな未来が容易に想像できる勢いの凶刃へ向けて、下側になっていた信一は慌てて地下足袋を履いている片足を伸ばし———ガッ!

 

 取った。

 

 二又に分かれている()()()()()()()()()()。【迅雷】の膂力と防刃加工を施した地下足袋ならではの白刃取りだ。

 

 驚愕の時間は与えない。信一の上で難を逃れたグレンは、彼の瞳を鏡代わりにしてリィエルの右腿へと狙いを付け発砲。だが既に彼女は抑えられた大剣を離してその場から離脱していた。

 

「ふぅ……!」

 

 グレンを押し退け、両手と背筋で飛び上がるように立ち上がった信一はすぐさま取った大剣を回し蹴りの動作でリィエルに向けてスローイング。

 

 ———ギイィィィンッ!

 

 離脱してすぐ新たに大剣を錬成していたリィエルがこちらへ向けて投擲していたものと空中でぶつかり火花を散らす。

 だが、投擲と同時に走り込んできた彼女はぶつかった二本を掴み取って斬りかかってきた。

 

「《疾くあれ》」

 

 54%まで引き上げ、左手でナイフを抜いて腕を伸ばしながらその場で反時計回りに回る。ジジッジジジィ……と空気と摩擦を続ける刃の部分が赤熱化し、回転の勢いそのままにナイフを振り抜く。

 

 赤熱化した刃で相手の刀剣を融解させて斬り飛ばす———『殺刄(サツジン)』で大剣二本を無力化に成功。

 

「おらぁ!」

 

 またも得物を失くしたリィエルへ、グレンが横から足刀蹴りを放つ。だがリィエルは残った剣の柄を離して空いた両手をその蹴り足に着き、彼の足の上で逆立ちするように捌いた。

 

「死ね」

 

 未だ赤熱化するナイフを逆手に持ち替え、逆立ち態勢のリィエルへ三閃。言葉とは裏腹に手首、肩、腿へ向けて放たれた斬撃を、今度は木に絡まる蛇のようにグレンの足の上で避けて見せる。

 

 なんとデタラメな反射神経。なんとデタラメな動き。人と時間が長きに渡り洗練した剣術とは一線を画く邪法の極地。野良犬剣法とすら揶揄されそうな程の我流。リィエルの戦闘技法はそのように表現さえできる。

 しかし侮れない。邪法や我流であろうと、極められた技はなんであれ脅威なり得るのだから。

 

「このっ……降りろ!」

 

 リィエルの乗っていた足を下ろし、それでバランスを崩れたところへグレンは銃撃するが、難なく避けられてしまう。それを先読みして逃げてくるであろう軌道に信一がナイフを投げるが、結果は同じだ。

 

 距離を詰められないようにグレンはさらに牽制の銃撃をリィエルへ浴びせ、その隙に信一は彼女へと迫りながら抜刀。無数の斬撃を奔らせる。

 

「———っ!」

 

「……んっ」

 

 ガガガガガガッ!ギギギギギギンッ!と、大剣と二刀による剣戟の音が部屋中に響く。

 

「チッ!」

 

 思わず舌打ちを漏らす信一。彼は斬り結ぶことを極端に嫌っている。

 いくら世界最高峰の強度を誇る真銀(ミスリル)で作られていようと、所詮刀は消耗品。硬いものとぶつかれば刀身にダメージが残るし、いつかは折れる。

 魔力の許す限り錬成し放題なリィエルとは武器に対する考え方が根本から違うのだ。

 

「シィッ」

 

 信一は仕切り直そうと、不意を突いた飛び膝蹴りで顎を狙う。もちろん避けられるが、そのままリィエルを飛び越えてパーカッション式リボルバーに弾を再装填したグレンの横へ並んだ。

 

 睨み合う三者。一挙手一投足に意識を集中し、相手の動きに最大の注意を払う。

 

「先生、このままじゃジリ貧です。どうしましょう?」

 

「いや、お前……絶対に負けないんじゃなかったのかよ」

 

「予想以上にリィエルの動きが狂気染みてました」

 

 旅籠で戦った時とはまた違う。恐ろしいほどに型破りな剣法は【迅雷】の対処能力だけじゃ足りない。何かあと一手、決め手が欲しい。

 

「ったく、この手はあんまり使いたくなかったんだけどな……」

 

「何かあるんですか?」

 

「まぁな」

 

 グレンは迷う素ぶりを見せながらも、苦虫を噛み潰したような顔で頷く。よほど使いたくないものらしい。

 しかし、やってもらおう。それがルミアを助けることの近道となるのなら。

 

「……おい、リィエル」

 

 銃口を向けながらグレンが語りかける。その間に襲い掛かられては敵わないので、信一も二刀の構えを解かない。

 

「まぁ、そんなに必死になって戦っちゃって……お前、よっぽどお兄ちゃんが大好きなんだなぁ」

 

「ハッ!」

 

 理由はわからないが、グレンはいかにもリィエルの神経を逆撫でするような言動を取っている。ならば、と信一もそれに合わせて鼻で笑う。

 案の定、素直なリィエルはムッとした顔になった。

 

「……何が言いたいの?」

 

「そんなお兄ちゃん大好きリィエルさんや、少し紹介してくれませんかね?」

 

「……?」

 

 グレンの意図が読めず、リィエルの表情が疑問に染まっている。だがそれも仕方のない事だろう。味方である信一も表情にこそ出さないが同じ気持ちなのだ。

 この状況でリィエルの兄について知ったところでメリットがあるとは思えない。

 

「そう、例えば……まず、お兄様の『名前』……とかな?」

 

「……え?」

 

「名前だよ、名前。お前の大好きな兄貴の『名前』を教えてくれよ」

 

「意味がわからない。なんでそれを今聞くの?」

 

「いいから名前を言ってみろ。言えたら俺達は、この一件から手を引いてやるよ」

 

 流石にぎょっとする信一だが、こんなものはただの口約束だ。それ以前に敵であるリィエルとの約束など守ってやる義理は無い。

 適当に首肯を返し、リィエルにグレンの言ってることへ同意するという意思を伝える。

 

 元々そこまで考えて行動を起こすタイプでないリィエルは怪訝な顔をしつつもグレンの質問に答えようと口を開いた。

 

「兄さんの名前は……『名前』……? あれ? 兄さんの『名前』は…なんで……? ……うぅ…!?」

 

 何故か名前について答えないリィエル。否、頭を痛そうに抑える仕草から答えられないというのが正確か。

 

「今のお前の状態、俺が言い当ててやろうか?」

 

 グレンはそんな彼女に、淡々と言葉を連ねる。

 

「感覚としては当然のように兄の名前を知っているつもりだが、それを言葉として明確に思い浮かべようとすると、どうしても出てこない。無理矢理思い出そうとすると、今度は頭が痛いよ、助けてお兄ちゃん!……ドンピシャだろ?」

 

「……ッ!?な、なんで……?」

 

「リィエル!そいつの言うことに耳を貸すんじゃない!」

 

 あからさまに動揺するリィエルへ、突如今まで魔導装置を操作していた『兄』が口を挟んできた。

 

「に、兄さん……兄さんの『名前』は……『名前』は……なんだっけ?」

 

「そんなの今はどうでもいいじゃないか!僕は僕だ!君の唯一の無二の兄だ!」

 

 狼狽を露わにして視線を兄へと向けるリィエルを前に、グレンは不敵にほくそ笑んだ。まるでこの状況を待っていたかのように。

 そう、リィエルが視線を自分達から外したのだ。ならば———

 

「ふっ!」

 

「《疾くあれ》」

 

 66%まで解放した潜在能力を使い、グレンの銃撃を合図に踏み込んでいく。

 

 ———ビシィ!

 

 着弾音は地面から。不意打ちにも関わらず、足を狙ったグレンの弾丸は避けられた。

 だが、これはまだ彼の想定内。今のでリィエルの意識もこちらに向き、さらに狙いをつけてくるグレンへ大剣を盾にしながら突っ込んでくる。

 

「やらせないよ」

 

「シンイチ……!?」

 

 大上段に剣を構えて飛び上がるリィエルとグレンの間に割り込んできた信一は妙な構えを取っている。右刀は上に、左刀は下にそれぞれ切っ先を向けた状態。

 

(刀では受けたくない。けど、避けたらすぐに二撃目が飛んでくる。それなら……!)

 

 信一の頭に浮かぶのは、この島でリィエルと魚を食べながら交わした会話。そしてその日の夜に行ったギイブルとのチェス。

 いつか大人になった時笑いあえるであろう思い出が信一にこの構えを取らせていた。

 

「いいぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 熾烈、苛烈、強烈。自然災害とすら思えるような稲妻の如き唐竹割りが脳天に振り下ろされる。

 

「———『廻刄(カイジン)』———!」

 

 対して信一は、バッ———!

 あの夜チェスでギイブルが使ったように、上下の二刀を旋回(キャスリング)。その動きで生まれた()()が振り下ろされた大剣の軌道を逸らした。

 あの日リィエルが言っていたのとはまた違う使い方になったが、(空気)()を制したのだ。

 

 ガアァァンッ!と、顔の右側を擦過していった大剣が地面にクレーターを作る。

 しかし、リィエルからすれば一撃目を対処されただけに過ぎない。外したのなら返す刀で二撃目を放てばいい。その信条を元に、Vの字を描く切り返しで信一を両断しようとした……その時。

 

「あ、ぐっ———!?」

 

 リィエルのこめかみに激しい衝撃が弾け、目の前に星が散った。

 

(なっ、なに……?)

 

 視界の端で床を転がっていく拳銃を見て、すぐに事態を悟る。グレンが拳銃を投げたのだ。目の前の信一を回り込むように避け、その先のリィエルに当たるよう弧を描く軌道で。

 

 態勢を直そうとぐらついた体を起こそうとするが、そこには一瞬の隙がある。その隙を、【迅雷】を使っている信一は逃さない。

 

「———『刄鋏縛(ジンキョウバク)』———」

 

 先ほどとは上下が逆になった二刀を横向きに倒し、あえて峰側をリィエルに向けたX字のように構え———ガッ! 二刀の交点を彼女の細い顎に引っ掛けて押し下げ、仰向けに倒した。

 

「うぐっ……!?」

 

 リィエルが小さな悲鳴を上げるも———ザクンッ!二刀の先端が同時に地面を深々と刺す。彼女の首の直上には刀の交点があって立ち上がれない。さらにその逆側の交点は信一が防刃素材の地下足袋で踏みつけ、体重で抑えている。

 

「先生!」

 

「《・———理の天秤は右舷に傾くべし》!」

 

 黒魔【グラビティ・コントロール】。自身、もしくは触れている物体にかかる重力を操作する魔術。それをグレンは仰向けのリィエルに触れながら起動する。

 彼女の膂力は体重だけでは抑え切れないことを先ほど証明されていたので、重力を使おうという魂胆だ。

 

 なにはともあれ、これでリィエルは何もできない。いくら人間離れした膂力があろうと、結局のところ構造自体は人間なのだから。

 

 もう抑えておく必要は無いので、地面から引き抜いて納刀。すると、

 

「ぼ、僕の妹に何をする気だ! 離れろ!」

 

『兄』が金切り声を上げてきた。

 

「離れてほしかったらアンタも立ち向かってくれば?」

 

「うっ……ぐ…」

 

 見たところ戦闘能力はそれほど高くないであろう『兄』は悔しそうに歯噛みするだけだ。操作していた魔導装置から離れようとしない。

 

 そんな彼を見て、グレンは得心がいったように頷く。

 

「てめぇが何をやりたいかわかったぜ。その儀式は『Project:Revive Life』だな」

 

「なっ、なぜ貴様にそれがわかる!?」

 

「『Project:Revive Life』……通称『Re=L(リィエル)計画』。兄を標榜するくせに、こいつを『リィエル』なんて呼んでる時点でお前はニセモノだ」

 

「……え?」

 

 重力に戒められた状態のリィエルがグレンの言葉を聞いて呆けた声を上げた。

 その理由はわかる。『Project:Revive Life』の通称が自分の名前なのだから当然だろう。

 

「ねぇ、グレン……どういう……こと?」

 

「お前の兄貴の名前は『シオン』だ。これで多分思い出すんじゃねぇか」

 

「……『シオン』……?」

 

『シオン』という名前を反駁するように何度も呟くリィエル。彼女の目が、まるで何かを思い出すようにどんどん見開かれていく。

 それを確認したグレンは、やはり苦虫を噛み潰したような顔で驚愕の真実を告げた。

 

「リィエル。お前の正体は……世界初の『Project:Revive Life』の成功例なんだ」







はい、いかがでしたか?ちゃんと伏線回のやつを回収しましたぜ!新技として!!

本当はバークスおじさんと戦う父親&アルベルトの方も書きたかったのですが、長くなりそうだったので切らせていただきます。次回はそちらの方メインで書いていきますね。
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