超速い慇懃無礼な従者   作:技巧ナイフ。

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春休みに入り、書く時間が大量に確保できて嬉しい(*´꒳`*)

今回はバークスおじさんとパパ&アルちゃんのお話。こう書くとなんだか御伽噺みたいな感じがする……?


第33話 星と死神が導く先は

「ふははははッ!そうれ!そうれ!」

 

 バークスが魔薬によって得た『人体発電能力』をフル発動させ、左右に散開した零とアルベルトを狙う。

 無数の稲妻が部屋を四方八方に奔るが、2人は全て紙一重で躱し、あるいは脳髄の浮かぶガラス円筒を盾にしてしのいでいる。

 

「まったく、邪魔なゴミ共よなぁ!研究の役にも立たず、ここでも私の足を引っ張るとはッ!」

 

 思わず身を竦ませるような雷鳴が響く中、命をなんとも思っていないことが丸分かりなバークスの言葉を受けて2人はあからさまに不快な表情を浮かべていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 割れたガラスと共に地面に落ちる脳髄を申し訳無さそうに見る零とアルベルト。

 

 あれがどこの誰だったかは知らない。男だったのか、女だったのか。子どもだったのか、大人だったのか。他人に優しかったのか、厳しかったのか。

 

 しかし、分かることもある。

 

 ———生きたかった筈だ。今、自分達が野蛮に暴力を交えているこの時を。大切な人と笑い合えたかもしれない幸せな未来を。

 少なくとも、異能を持って生まれたというだけでこんなクズに喰いものにされて良い人生ではなかった。

 

 いくら世間に公表されていない特務分室であろうと、自分達も人間だ。死んだ彼らは戻らないが、仇を取ってやりたいと思う心はある。

 

「《氷狼は疾走す》」

 

「ふん、小癪な!」

 

 アルベルトの黒魔【アイス・ブリザード】に対して、バークスは『発火能力』を発動。氷獄と炎獄が空中でぶつかり、水蒸気を発生させた。

 

「さっさと死ねよ」

 

「む……ガァッ!?」

 

 刹那、渦巻く水蒸気からバークスに向けて赤と金が奔る。狙いは眼窩、首、延髄、心臓、気道、肺———突きと斬撃が人体の急所を正確に穿ち、血煙を上げさせる。

 しかしそれも一瞬。即時再生していくバークスの体を見て憎らしげに舌打ちを溢しながら零は未だ漂う水蒸気の中へと消えていく。

 

「逃がすかぁ———ぐぅ!?」

 

 追撃を掛けようと『発火能力』を発動しながら零が消えた方向に手を伸ばすバークスの喉に、トスッ! と。静かに……しかし深々とナイフが突き立つ。

 

「チィ、小賢しい!」

 

 やっと水蒸気が晴れ、視界の端で並んで立つ2人を捉えたバークスは———ブオォォォァァァァァ!!

 B級軍用攻性呪文(アサルト・スペル)に匹敵するであろう『発火能力』を使い、2人丸ごと灰に変える勢いの炎を放つ。

 

「おっと危ない」

 

 対して零が迫る炎へと右手の金刀を超音速で振るって真空を作り、弾けさせて対処。炎が視界を塞ぐ中、アルベルトがさらにナイフをバークスに投げつけて雀の涙程の出血を促す。

 

 バークスから見れば、まるで馬鹿の1つ覚えだ。最初から攻性呪文(アサルト・スペル)を一切使わず金刀と赤槍で斬りつけてくる零はともかく、アルベルトは魔術を使いこなして異能を捌いている。

 にも関わらず、彼すらほとんど攻性呪文(アサルト・スペル)を使わずナイフで攻撃してくる始末。

 

 眉を顰めてアルベルトの狙いへと思考を巡らすバークスを他所に、零が口を開いた。

 

「う〜ん……どうしよう、アル? アイツ殺しても全然死なないわ」

 

「……フン。お前も似たようなものだろう」

 

 軽口を叩く同僚へアルベルトはくだらないと言いたげに鼻を鳴らす。それを見て、バークスはほくそ笑む。彼らに作戦など無く、ただ手詰まりだから魔力の消費を抑えてるのだと確信できたからだ。

 

 ———だが、それは大きな勘違いである。

 

 そうとは気付かず、哄笑混じりに得意げな声音で彼は吠える。

 

「棒を振るしか能の無い東方の猿もやっと気付けたかッ!そうだ!真の魔術師たる私にとって、不死身など容易く手に入るのだよッ!」

 

「あぁ、いや……別にそれは構わないんだ。不死身の相手とか、今の職場に入ってから何度も戦ってるし」

 

「……?」

 

 不可思議な言動に眉を顰めるバークスの視線の先で、零はおもむろに宮廷魔導士礼服の上着を脱ぎ、腰の留め具を外して刀の鞘を地面に落とす。

 

「別に不死身と無敵って必ずしもイコールで結ばれるわけじゃないんだよ」

 

 そう続けながら零は左手の赤槍を、腕を伝わらせるように回す。すると赤槍はまるで生きているかのように零の腕を回りながら登っていき、胴をグルっと一周。さらに右腕へと伝っていき、また左腕に戻っていく。

 

 その動きが加速しながら何度も繰り返され、次第に———パンッ!パァン!!

 槍の両端から弾けるような音が鳴り出した。音速を超えたのだ。

 

 赤色の残像が零を中心にして球形を描く。それはさながら、1つの結界のように。前後、上下、左右、御構い無し。その範囲内に入れば問答無用で解体されるのは火を見るよりも明らか。

 防御でありながら攻撃。攻撃でありながら防御。赤槍———()()()の役割を果たしている。

 

 この一見手品のようにすら見える赤槍の動きにトリックは無い。ただただ全身の微細な筋肉の動きだけで槍を操っているだけだ。

 零が上着を脱ぎ、鞘を捨てたのは槍が引っ掛かる場所を減らす為である。

 

「殺しても死なない奴は山ほどいたよ。でもさ———()()()()()死なない奴はいなかったぜ?」

 

 よくよくバークスを観察すれば、彼が戦闘というものを理解してないことなど一目瞭然だった。

 それが顕著に表れたのは、零とアルベルトが左右に散開した時。バークスは1人に狙いを絞ればいいものを、わざわざ2人同時に狙っていた。

 

 敵が集団の場合は各個撃破する。そんな子どもでも知ってる喧嘩の基本を、彼は知らない。結局のところ、バークスは戦闘者ではなく研究者なのだから。

 

 彼は大きな勘違いをしていた。

 零とアルベルトは別に作戦が思いつかず手詰まりだから魔力の消費を抑えてるわけではない。

 ———作戦など立てる必要が無いほどに、彼は容易い相手というだけだ。

 

「ほざいたな、東方の猿……っ!」

 

「あぁ、ほざいたよ。だからほざいたついでに宣言しておく」

 

 怒りを露わにするバークスへ向けて空いた左手を使い、零は親指で喉笛をカッ切る仕草を見せた。

 

「今夜お前は、地獄で眠る」

 

 それはまさに彼のコードネーム、No.13『死神』を象徴するかのような言葉。魂を奪い、地獄へと運ぶ送り人の囁き。

 

「野蛮な猿風情がぁ!私を愚弄するかァッ!!」

 

 怒りに任せて『冷凍能力』を発動させるバークス。骨の髄まで凍らせる猛吹雪に、零は赤槍の結界を纏った状態でアルベルトを守るように正面から突っ込んでいく。

 

 ———バオォォウゥゥゥ!バオォォウゥゥゥ!!

 

 吹雪は風を斬り裂き纏う赤槍の結界に触れると瞬時に霧散していた。冷気は大気中に残るが、零からすればただ少し寒くなったように感じるだけ。

 

 そのまま突っ込み、結界の範囲内にバークスを収めようとした瞬間……消えた。

 ———ドスッ、ドスッ!

 

「んなぁ……ッ!?」

 

 柔らかい物に何かが刺さる音を最後に、バークスの視界が暗闇に染まる。触って分かったが、これは先ほどからアルベルトが投げていたナイフだ。

 それが2本。綺麗にバークスの両目を潰している。

 

「確かに俺は野蛮人だよ」

 

 ——ヒュンッ…バシュ……ザザザザザザァッ!!

 

 軽い風切り音が二。バークスの右側頭部と左腋の下から。激しい斬裂の音が六。うなじから。

 刹那、音の出どころから壊れた蛇口のように血が噴き出す。

 

 後ろに回った零が金刀で側頭動脈と腋窩動脈に切り目を入れ、纏う赤槍で7本ある頚椎の隙間を斬り裂いたのだ。

 

「魔術もロクに扱えず、理解不能な意地で200年も国交を断ってた島国出身のお猿さんさ」

 

 刀を両手で握り、三閃。全身を回り続ける赤槍に一切当たること無く、左外頭動脈と右外頭動脈、右椎骨動脈を斬る。

 その間に赤槍は地面と水平に零の胴を回りながら下がっていく。12本ある胸椎の隙間、11箇所を余さず斬り裂き、前脊髄動脈と後脊髄動脈の太い血管3本と多数の毛細血管から盛大に出血させる。

 

「でもな、その200年間をノホホンと過ごしてたわけじゃない。お猿さんらしく棒切れ(刃物)片手にどうやって効率良く相手を殺すか実践し続けてたんだ」

 

 赤の球形中で乱舞する金。それは美しく、しかしおぞましい。血風を巻き起こしながらも零の刀を振るう両手は止まらない。彼が纏う攻防一体の赤槍も止まらない。

 

「冥土の土産に教えといてやるよ。刃物を握った東方の猿はな———」

 

 やっと最初のナイフで負わされた傷が治り、戻った視界を頼りにしてその場を離脱しようとするバークスの足に———ガガガッ!再びアルベルトのナイフが突き刺さり、体の前面にある歩く為の筋肉———腸腰筋、大腿四頭筋を正確に断ち切る。

 

「———世界最強の首刈り民族なんだ」

 

「グハァ……ッ!?」

 

 そろそろか、と何かの頃合いに気付いた零はバークスを明後日の方向に蹴り飛ばす。

 老人にしては体格の良いバークスだが、まるで小石のように転がっていった。その間に体から煙を上げて傷が治っていくが、零とアルベルトは特に追撃を加えない。

 

「ふん、でかい口を叩く割には体力が先に底をついたか?その槍による曲芸はそこそこ見ものだったがのぉ」

 

 バークスは元気に立ち上がり、やはり彼らを見下したかのような言動を取る。しかし2人の表情は変わらない。アルベルトは氷のように冷たい無表情、零は害虫を見るような目と口元には酷薄な笑みを浮かべている。

 

「126回だ」

 

「……なに?」

 

 右の金刀を肩に担いだ零はおもむろにそんな事を言う。当然何のことかわからないバークスは眉を寄せるので、それに答えるよう続けていく。

 

「俺達はお前を126回殺した。俺が71回。アルが55回だな」

 

「ハッ!それがどうした?私には叡智の結晶たる魔薬から得た『再生能力』があるのだぞ?現に元気100倍だわい!」

 

「……突然だけどさ、槍にはこんな使い方もあるんだぜ」

 

 突如バークスの足が地面を離れ、弾かれたように後方へ飛ばされる。

 

「ガアァッ!?」

 

 背中を壁に強打してやっと止まったバークスは自身の胸から何かが生えていることに気付いた。

 ———槍だ。赤い槍が生えているように見えるくらい胸に深々と刺さり、壁に縫い付けられている。

 

 ジャベリックスロー(槍投げ)という極めて原始的な技術。それに【迅雷】の膂力が上乗せされれば、それはもはや必殺の一撃となる。

 

「これで127回……いや」

 

「…………ッ!」

 

「———っごぉおおおッ!?」

 

「128回か」

 

 アルベルトの投げたナイフがバークスの喉元に刺さり、訂正しながら零は壁に縫い付けられたバークスへと歩み寄って行く。ゆったりと、日常生活を送っている時と同じように。

 

「げほっ!ごほっ! ふん、何度繰り返そうと同じことよ」

 

「……忠告しておくが」

 

 自分が今どれだけの窮地にいるのか理解していない。それがバークスから見て取れたアルベルトは呆れの混ざった声色で告げる。

 

「死にたくなければ、そのナイフ……抜かない方が賢明だぞ」

 

「なにを、馬鹿な……ッ!」

 

「やめておけ、アルの言う通りだ。お前が128回死んだ時の死因、何が1番多かったか覚えてないのか?」

 

「げほっ! な、なんだと……?」

 

 苛立ち混じりにナイフを引き抜こうとするバークスに、零は制止を呼びかけた。彼も呆れた表情を隠そうとしない。

 

「考えてみろよ。俺達は刃物で攻撃し続けた。宮廷魔導士団のエリートとして名高いアルですらな」

 

「まっ…まさか……ッ!?」

 

「刃物で皮膚を斬れば出血する。お前の再生能力とかその他諸々は血液中に薬物を打ち込むことで初めて使うことができる。さて———ならその薬物が混ざった血を抜いてやればどうなるんだろうな?」

 

 血液に薬が溶けた場合、それが効果を発揮するのは血中薬物濃度がとある閾値に達している時のみだ。それを下回ると、当然ながら薬の効果を得ることはできなくなる。

 

 言われてやっと気付いたバークスは壁に縫い付けられている状態で慌ててポケットに手を突っ込み、件の魔薬が入った注射器を取り出す。

 それを首元に打ち込もうとして———グサッ!

 

「させると思うか?」

 

 冷酷な声と共にアルベルトがナイフを投擲し、注射器を握る腕の深指屈筋を切断した。金属製の注射器は割れることなく地面に落ち、カラカラと音を鳴らして転がっていく。

 

「今、お前にあの驚異的な再生能力は無い。じゃあ問題だ。———この喉に刺さったナイフを抜くとどうなるのかな?」

 

「ひ、ひいぃぃぃぃ———ッ!?」

 

 狂乱に陥るバークス。引き抜こうとしたことも忘れ、文字通り首の皮一枚となったナイフを歩み寄ってきた零に抜かれまいとジタバタ暴れながら必死に手で抑えて守ろうとする。

 死が目の前にあるということで彼は気付いていないらしい。暴れたことで自身を縫い付けている赤槍の傷口も徐々に開き、血が滴っていることに。

 

 どのみちバークスはここで死ぬ。もちろん【ライフ・アップ】などの法医呪文(ヒーラー・スペル)を使えば助かるが、2人にそれをしてやる義理は無い。

 

「よっ……と」

 

 縫い付けられたバークスに向けて零は2回刀を振った。途端にボトボト、と。ナイフを守っていた腕が呆気なく落ちる。

 

「あっ……うあぁ……っ…!」

 

 両腕を切断されたことで、出血量が増した。自身からこぼれ落ちる血を見てバークスの顔に絶望が色濃く表れている。

 そんな彼に、零は場違いなほど優しい笑顔で問いかける。

 

「死にたくないか?」

 

「———ッ!? し、死にたく……な……い」

 

「助けてほしい?」

 

「た、頼む……いや…お願い……だ……」

 

 無様に涙を流して見るに耐えない泣き顔を晒しながら必死に命乞いするバークスへ、零は聖人のように慈悲深い笑顔を向けて———

 

 

 

 

「ダメ」

 

 

 

 ———情け容赦無く喉元のナイフを引き抜いた。

 

 間欠泉のように喉から噴き出す血が掛からないよう、そっと横に逸れながら小さく呟く。

 

「土は土に。(チリ)は塵に。灰は灰に」

 

「あっ……が……この私が…」

 

「墓前は自分の血華で飾りな、腐れ外道」

 

 横薙ぎに金刀を構えた零の姿。それがバークスの今生最後に見た光景だった。

 赤槍で縫い付けられた彼の胴体を中心に、刎ね飛ばされて散った血液が花弁の如く壁を彩っている。

 

 

 

 

 

 

 赤槍も引き抜き、ブンッとこびり付いた血を払いながらアルベルトへと語りかける。

 

「ったく……血を抜いて無力化するなんてよく思いつくな?恐ろしいよ」

 

「む? お前も最初からそのつもりだったのだろう?」

 

「いや、途中で気付いた。ぶっちゃけどうしてアルが魔術を使わないのか不思議だったし」

 

「……………。……一つ聞くが、お前は俺の考えに気付く前はどうやって奴を倒すつもりだった?」

 

 アルベルトが顎をシャクって五体全て落とされたバークスの死体を一瞬だけ示す。視線を戻すと、いつの間にか赤槍は消えていた。

 上着を着直し、再び腰の留め具に鞘を着けながら零は質問に答える。

 

「殺し続けるって言ったはずだぞ。1回殺して死なないなら10回殺す。10回殺しても死なないようなら100回殺す。死ぬまで殺せばいつか死ぬだろ?」

 

「………………」

 

 脳筋と言えばいいのか、益荒男と言えばいいのか……。まともな返答を期待した自分に嫌気が刺すアルベルトであった。

 

 頭痛を堪えるように眉間を揉みほぐす彼は気付かなかった。零がバークスの死体の横に転がる注射器をそっとポケットに入れたことを。






はい、いかがでしたか?本気のパパは凄い!けど掲げる理屈は大抵頭がおかしい! それが伝わっていれば嬉しいです。

自分一応書き終えたら読み直すようにしてるんですけど、パパが槍と刀で71回殺す間に投げナイフだけで55回殺したアルベルトさんの方が凄い気がする……。

皆さん、チートキャラ2人にボコられたバークスおじさんのご冥福を祈りましょう。ラーメンƪ(˘⌣˘)ʃ
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