超速い慇懃無礼な従者   作:技巧ナイフ。

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第38話 彼の思惑

 フェジテ東地区市某所。女王アリシア7世からルミアの護衛を密命されていた朝比奈零は、1つの死体を見下ろし顎に手を当てていた。

 帝国宮廷魔導士団特務分室、執行官No.13《死神》を拝命する零にとって、死体自体は特に珍しくもない、ごく日常的なものだ。しかし、この死体は異常であった。

 生前の容姿が判別困難なほど全身が崩れ、周囲はバケツで撒き散らしたかのように血で溢れていた。よく見ると、それは死体の全身から噴水のごとく血が噴き出していたことが分かる。

 そして、この死に方に零は心当たりがあった。

 

「『天使の塵(エンジェル・ダスト)』……だよな」

 

 元々零はこの周囲で信じられないほど暴れ回っている人間がいるという噂を聞いて駆けつけた。ルミアの身を脅かす可能性がある以上、彼女や共に生活するシスティーナ、そして自分の息子である信一には悟られる前に排除したい。その一心で駆けつけ、その逃走したという者を追ってここまで辿り着いた。十中八九、暴れ回っていたという人間はこの死体になった者で間違いないだろう。

天使の塵(エンジェル・ダスト)』は錬金術を用いた魔薬だ。被投与者の思考と感情を完全に掌握し、脳のリミッターを外す。さらに、投与者の命令を忠実なまでにこなす無敵の兵士を作ることができる。だが当然、副作用は存在する。『天使の塵(エンジェル・ダスト)』を投与された人間は廃人となり、定期的に『天使の塵(エンジェル・ダスト)』を投与し続けなければ死に至るのだ。だが、投与を続けても末期中毒で死ぬ。

 一度投与されれば死のカウントダウンを刻み始める、そんな悪魔の魔薬であった。

 その魔薬の製法を知る者はただ1人。ならば、この事態の下手人は決まったもののようだが、事はそう単純ではない。

 

「だけどアイツは死んだはずだ」

 

 そう。1年余り前、この『天使の塵(エンジェル・ダスト)』を精製できる唯一の人間は死んだ。当然、死人に薬は作れない。

 そこから導き出される結論はただ一つ。

 

 流石にこれは自分1人の手に余ることを確信した零は、半割れの通信結晶に魔力を通そうとして———振り返る。

 

「なるほど。誘い込まれたわけか」

 

 そこには、暴れ回っていた人間がどこに逃げたかを教えてくれた者が立っていた。確か精肉店の店主だったか。その店主が、全身に網目模様の血管を浮き上がらせながら精肉用の肉切り包丁を片手にゆらゆらと近付いてきている。

 さらに、その背後にも一般に普及している刃物や鈍器を手に6人ほどの男女が続いていた。

 

「アァァァァぁアァァァァ!!」

 

 言語とも言えない呻き声を上げ、先頭の店主が斬り掛かってくる。

 

「チッ……!」

 

天使の塵(エンジェル・ダスト)』に犯された者は、もう元の生活に戻れない。それは理解できていても、やはりこの店主は一般人だ。守るべき帝国民を殺さなければならない事に強い嫌悪感を覚えながらも、零は即座に対応する。

 脳のリミッターが外れているという点では【迅雷】を使っているのと変わらないが、元が一般人なので素の身体能力でも零ならば問題なく対応可能だ。死体の処理もあるので、出血の少ない殺し方が良いだろう。

 間合いに入った瞬間、膝関節を正確に打ち抜く前蹴り。明らかに曲がらない方向まで曲がったところでバランスを崩した店主の首を抱え込み———ゴキュッ!自分の体を回して素早く頸椎を粉砕し即死させる。

 さらに死んだ事で力が抜けて宙を舞う肉切り包丁を指先で挟み、粉砕した動きのまま遠心力を使って、こちらに鎌で襲いかかってきた女の眉間へとぶん投げる。持ち手ギリギリまで刃が埋まり、出血はほとんど無い状態で殺した。

 

「あうあうあうあうぅぅゥうぅぅ!!!」

 

「おぉおああぉきゅぅぅぅぅぅうぅう!」

 

「だおぉぉぉぉおぉぉぉ!!」

 

 しかし、後続の連中はすかさず呻き声を上げて襲いかかってくる。恐れもなく、動揺も無い。どこまでも忠実に、この命令を下した投与者に従って()()()()()()

 

「腐れ外道が!」

 

 この胸くそ悪い状況を作り出した下手人に悪態を吐き。不愉快極まりない罪悪感を抱えて、零は彼等彼女等を殺すしかない。

 

 

 

 

 

 

「ねぇおバカ!本当におバカ!とってもおバカ!あなたって本当にバカ!」

 

「だって……」

 

「だってじゃない!あの場であんな事言ったら、ヒートアップするに決まってるじゃない!」

 

「まぁまぁシスティ。あんまりシンくんを責めないであげて」

 

「そうです。あんまり俺を責めないであげてください」

 

「反省しなさいって言ってるのよ!」

 

 昼休み。腕組みをするシスティーナに、正座をした信一は見下ろされていた。一応反省の姿勢を取ってはいるが、信一にその気持ちは一切ない。

 確かにあの状況で彼が取った行動は、事態の混乱を招く以外の何物でも無かった。だが、それでも我慢できなかったのだ。

 

「ハァ……。なんであんな事したの?」

 

「……怒りませんか?」

 

「言い分に寄るわ」

 

「むぅ…」

 

 頬を膨らませ、不満げに目を逸らす信一。そんな彼に、ルミアが助け船を出す。

 

「シンくん。私、たぶんシンくんの言い分はシスティを怒らせることないと思うよ。だから正直に伝えよう?ね?」

 

「ルミアさんがそう言うなら。……ただ、気に入らなかったんです」

 

「気に入らなかった……」

 

「…………………」

 

「……え?それだけ?」

 

「はい。以上です」

 

 ブチっと、システィーナのこめかみに青筋が浮かぶ。これはあまりにも浅慮過ぎないか。

 

「シンくん。その理由も言わないと」

 

 その姿を見て、ルミアが慌ててフォローをいれる。

 

「えっと……なんて言えばいいんでしょうか。口ではお嬢様を幸せにすると言っておきながら、レオス様はまるでお嬢様の自由を奪うような行動を取ろうとしていました。少なくとも、俺はあの場でグレン先生の『納得するまで夢を追わせる』という意見を支持しています」

 

「それで?」

 

「俺だってお嬢様の幸せを願っています。確かに、レオス様との婚姻は大半の女性が夢見るような生活を送ることができるでしょう。ですが、お嬢様の夢が『メルガリウスの天空城』の謎を解くことである以上、それを強制的に辞めさせるレオス様の行為はお嬢様の幸せを阻害するものだと判断しました」

 

「…………」

 

「それに、以前お嬢様は約束してくれました。魔術が人殺しの道具と言われても、世界中に響く声で『違う』と叫ぶと。もしお嬢様が魔術を嫌いになったならば、そんな事はしなくても構いません。ですが、魔術が好きなうちは、どうかお嬢様の進みたい道を邁進していただきたい。それを全て断とうとするレオス様が気に入らなかったのです」

 

 己の中にある行動理由をなんとか言語化して、信一は誠心誠意システィーナへ伝える。自分だってシスティーナの事を想って行動しているのだ。少々根幹まで染み込んでいるせいで、言葉にすることが難しいだけで。

 意見を聞き入れたシスティーナは掌を彼の頭に向ける。この状況では叩かれても仕方ないな、と信一は観念して目を閉じるが、予想に反して頭部に痛みは走らない。

 代わりにゆったりと掌を頭に乗せられ、スライドさせているのが分かる。どうやらシスティーナに撫でられているらしい。

 

「……お嬢様、怒らないのですか?」

 

「怒らないわ。怒鳴ったりしてごめんね、信一」

 

 信一は確かに自分を理解してくれていた。いつだって味方でいようとしてくれている。浅慮だったのは自分の方だったと、システィーナは反省した。

 

「あなた、私のこと大好き過ぎじゃない?」

 

「えぇ。それはもう狂おしい程に」

 

 心地良い感触に目を細め、彼女が笑ってくれたことに幸福を感じる信一。レオスが現れてから、どうにもシスティーナは感情と立場の板挟みになり愛想笑いしかしていなかった。1日たりとも家族が心から笑えない日などあってはならない。

 だからこそ、数日ぶりに見るシスティーナの笑顔は嬉しいものだ。

 

「……ねぇ、ルミア。私もシンイチを撫で撫でしたい」

 

「う〜ん、もう少し待っててあげようか」

 

 2人の独特な雰囲気に何か思うところがあるのか、リィエルが空気の読めない発言をするが、そこは空気の読めるルミア。やんわりと窘めておく。

 彼女も、どこか羨ましそうに2人を見ている。しかし幸か不幸か、それを知る者はこの場にいなかった。

 

 

 

 翌日、グレンとレオスがとある女生徒の伴侶の座を賭けて決闘する…そんな噂が学院中に流れる中、グレンは2年次生2組の教壇で決闘の内容を発表した。

 

「———俺が見事、白猫とくっついて逆玉の輿、夢の無職引きこもり生活をゲットするために……今からお前らに魔導兵団戦の特別授業を行う!」

 

「「「 ふっざけんなぁああああッ!! 」」」

 

 クラス一同、大ブーイングであった。

 

 魔導兵団戦とは魔術師個人の一対一の戦闘ではなく、魔術師の多対多の戦闘———つまり集団戦を指す。これはアルザーノ帝国が魔術師を諸外国に対する潜在的な戦力と捉えており、いざ戦争が起こった場合は学院の生徒すら戦場へ動員することを視野に入れていることから、カリキュラムにも組み込まれているものだ。

 剣で1人殺す間に魔術なら10人は殺せると言うが、その程度で趨勢が決まるほど国同士の戦争は甘くない。男子生徒の必修科目になるのは必然と言える。

 だが、それはそれ。今回この魔導兵団戦は授業として扱われるが、実質グレンの私情が発端だ。快く首を縦に振るほど、2組の生徒馬鹿ではない。

 

「俺達を巻き込まないでくださいよ⁉︎」

 

「そうだそうだ!ちゃんと授業なれ!」

 

 文句の嵐が吹き荒れる中、グレンはふてぶてしくふんぞり返って言い放つ。

 

「ええい、うっさい!各必修授業の進行は担当講師の裁量に任されてるんだぞ!」

 

 職権濫用ここに極まり。生徒たちの表情は呆れ果て、諦めきったものに染まっていた。

 しかし、2組の生徒はここで疑問に思う。『システィーナを景品にした決闘』などという、明らかにシスティーナ大好きな信一がブチ切れそうなものをここまで大々的に宣言して、何故グレンが無事なのか。

 まだグレンが非常勤講師だった頃、システィーナに向けて適当な挑発をした際、憚ることなく“お前を殺す”と言い切った信一だ。こんな事許さないだろうと推測できる。

 今にもグレンに斬りかかる為、布袋から刀を取り出しているのではないかと、恐る恐る2組の生徒は彼へ視線を向ける。

 

「やってやりましょう、先生!お嬢様を任せられる人はグレン先生しかいないと俺は信じています!」

 

「おう!」

 

「「「 えぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎ 」」」

 

 クラス一同、驚愕であった。

 

 ありえない。ほぼ関係のない自分達ですら、正直付き合っていられないこの状況。信一が関わっていくのはまだ理解できるが、グレンを応援するなんて事はまさに天変地異に等しいものである。今日は【ショック・ボルト】でも振るのだろうか。

 しかしそんなやる気満々の信一に対して、いつものように彼を両側から挟むように座るルミアとシスティーナは苦笑いであった。リィエルはいつも通りボーっとしている。

 

 そんな3人は昨晩、フィーベル邸で信一が話したとある“作戦”を思い出していた。

 

『いいですか、お二人とも。ついでにリィエル。まずこの決闘、グレン先生に勝ってもらいます』

 

『えっ…ちょっ……なんでそうなるのよ!そしたら私、グレン先生と結婚することになっちゃうじゃない⁉︎』

 

『もちろん、お嬢様が嫌なのは理解しています。安心してください』

 

『いや別に…嫌ってわけじゃないけど……って、そうじゃなくて!』

 

『でもグレン先生が勝ったら、それこそレオス先生はクライトス家の力を使って無理矢理システィをお嫁さんにしようとするんじゃないかな?』

 

『その時はその時です。とりあえず、現状レオス様がグレン先生に勝つのはまずいのです。何故だかわかりますか?』

 

『えっと……レオス先生が魔術師的な理由でシスティをお嫁さんにできる大義名分を手に入れる…から?』

 

『概ねその通りです、ルミアさん。その結果、下手をしたら特別講師の期間が終了次第、お嬢様をクライトス領に連れて帰る可能性が出るわけです。そうなると旦那様や奥様ならともかく、俺達は手出しができません』

 

『そっか。私達は立場上フィーベル家の居候だもんね』

 

『はい。いくら貴族の家(フィーベル家)に居候していても、俺たちの立場は“平民”です。アルザーノ帝国が貴族社会である以上、本物の貴族(クライトス家)には抗議すらできません』

 

『で、でも!だからってグレン先生が勝ったら、それこそあのロクでなしに大義名分ができちゃうじゃない!』

 

『ですがお嬢様、先生が今住んでいるアルフォネア教授の家はフェジテにあります。加えてアルフォネア教授もグレン先生も貴族ではありません。つまりお嬢様が嫌と言えば、この約束は反故にできるんです』

 

『だから別に先生との結婚が嫌なわけじゃ……』

 

『まぁ、俺が全力で先生の粗を探しに探して旦那様に須く報告すれば婚約破棄くらいは余裕でしょう。……最悪殺せば、ね』

 

『なんか最後にチラッと怖い事が聞こえた気がするけど……とりあえず了解だよ、シンくん!』

 

『ありがとうございます、ルミアさん。お嬢様とリィエルもいいですか?』

 

『ま、まぁ、わかったわ』

 

『……ん。それよりシンイチ、お腹空いた。イチゴタルト食べたい』

 

『リィエル……さっき20個くらい食べてなかったっけ?』

 

『大丈夫。イチゴタルトは別腹だから』

 

『いや、別腹いくつあるのさ』

 

 少し余計な事も思い出したが、リィエルのおかげでピリピリしていた信一の雰囲気が少し和らいだので良しとする。

【迅雷】を用いて40%ほど開放した人間の頭脳で考えただけあり、一応の隙は埋めてある作戦であった。だいぶ信一個人の私情も介在しているが。

 そして意識はグレンへの怒号が9割を占める喧騒に戻る。そんな中、冷ややかな少年の声がざわめきに水を差した。

 

「ふん。先生の決闘の行方になど興味はありませんが……どうせ無駄ですよ」

 

 ギイブルだ。

 

「ほう……無理、とは?」

 

「だってこのクラス、僕とかシスティーナとか、ウェンディとか、戦力として使える魔術師が数えるほどしかいませんよね?この模擬戦で使用可能な呪文は決まっていますから、インチキ錬金術一辺倒のリィエルは戦力になりませんし」

 

 さらにチラッと、ギイブルは信一を一瞥して続ける。

 

「信一だって、こういった学院のカリキュラムで行う模擬戦じゃ使い物にならない」

 

 確かに、彼の言い分は最もだ。2組の生徒は、ギイブルの挙げた面々を除けばどんぐりの背比べ。

 一方、今回レオスが臨時で担当することになったクラスは成績優秀者が集まっており、ハーレイの担当クラスに次ぐとされている。

 いくら2組が魔術競技祭で優勝したとはいえ、あれはクラス単位の個人戦だ。今回の魔導兵団戦はクラス単位の集団戦なので、勝負にならないという彼の意見は2組の共通見解でもあった。

 

「なーに言ってんだ。現時点で、このクラスで使い物になる奴なんて1人もいねーよ。ぶっちゃけ、お前みてーなやつが1番使えん」

 

「なっ……」

 

 そんなグレンの切り返しに、クラス中がどよめく。ギイブルは2組において、システィーナに次ぐ第2位の成績優秀者で、学年全体から見ても相当上位に入るほどだ。

 そんな彼が1番使えないというのはどういうことなのか。

 明らかにグレンの発言ができてないクラス一同へ、グレンは一言。

 

「いいか、お前ら。魔術師の戦場に———英雄はいない」

 

 そして、グレンの特別授業が始まった。

 

 

 

 ———ふと、夢を見る。視線の先には、何年か前にフィーベル家で遊びに行ったクライトス領の光景が広がっていた。

 今よりも顔立ちはだいぶ幼いが、それでも見間違えようもない美しく長い銀髪の少女。そしてそんな彼女よりも年上の金髪を輝かせる美少年。

 2人はクライトス家の敷地内にある花園で芝に座り込み、なにやら作業をしている。

 そんな2人を自分は少し離れた木陰から眺めていた。その時の感情はどんなものだっただろうか。恐らく“面白くない”だった。

 

『ねぇレオス。ここからどうすればいいの?』

 

『この部分を下に回すんだ。そうそう、上手だね』

 

 いつもフィーベル家では一緒にいる銀髪の少女が、クライトス領に来てからは金髪の美少年にベッタリだ。年に数回しか会えない上、まるで絵本の王子様のような大人びた対応をしてくれるのだから無理もないのかもしれないが、それでも少しは自分に構ってくれても良いではないか。

 むすっ、と。頬を膨らませていると、銀髪の少女の利発的で嬉しそうな声が花園に響く。

 

『できた!』

 

 少女がまるで宝物のように掲げた物は、花園のものを使って作った花冠だった。どうやら金髪の美少年に教わりならがら作っていた物はそれらしい。

 どうせ隣の王子様にでも渡すんだ。そんな風に降り積もる負の感情が子どもながらに惨めに思え、この場から離れようと思った。

 すると、2人はこちらに手招きをしていた。少女は今できたばかりの花冠を見えないように後ろ手で隠している。

 そちらへ寄ると、少女はパッと勢いよく自分へ花冠を被せてきた。

 

『はい、信一!これあげるね!』

 

『……え?』

 

『レオスがね、信一がここに来てからずっと元気無いからって言っててね、だから教えてもらいながら作ってみたの』

 

 その言葉に驚き、金髪の美少年へと視線を向ける。

 

『妹によくせがまれるんだ。だから覚えてただけだよ』

 

 自分の視線を、男なのに花冠なんて作るのか、といった見当違いのものに受け取ったらしい少年は照れ笑いで教えてくれた。

 なんと答えれば良いものか。そもそも、フィーベル家の居候である自分がクライトス家の御曹司と普通に口を利いて良いのか。そんな疑問が頭の中で渦巻き、押し黙っていると———

 

『ねえ?元気出た?』

 

 少女が自分の顔を覗き込んでくる。とても心配そうだ。なのですぐさま頷くと、途端に少女の表情に利発さが戻った。

 少年の方にもう一度視線を向けると、木漏れ日のような優しい表情で手を差し伸べてくる。

 

『信一くん…だったよね。君も一緒に遊ぼう。1人より2人。2人より3人のほうがきっと楽しい』

 

 もし自分に兄がいたら。そんな“IF”を思い起こさせる彼の手へ、自分は———

 

 

 

 

 信一ゆっくりと目蓋を開く。随分と懐かしい夢を見ていたらしい。

 ふと、ベッド脇のサイドテーブルへ目を向ける。正確には、その上に置かれている枯れた花冠へ。

 

「どうして……あんなに変わっちゃったんだよ」

 

 どこか悲しげで、どこか寂しげに漏らしたその言葉を聞く者は、信一以外誰もいない。







はい、いかがでしたか。信一くん、面倒くさい奴ですね。

次回は魔導兵団戦。彼がどの配置に着くかは、たぶん想像がつくと思います。ここまでヒロインとイチャイチャしないのも珍しいですね。
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