いや〜、入学から一月で反省文を書くなんて誰が思ったか……。
奴ら、許さん!!
今回はちょっぴりシリアスなお話です。オリ主の過去が明かされる的なアレです。
システィーナとグレンの決闘から3日後。
今日も今日とてグレンの授業は不真面目なものだった。
変わったことと言えば、グレンはシスティーナに負けたにも関わらず約束を反故にしたことから、今までは一応授業を聞いていた生徒たちもほとんどが耳を貸さなくなったくらいだ。
例のごとく本を読んでいた信一はもちろん、基本真面目なシスティーナですら自習をする始末。
それでも、未だにこの不真面目な非常勤講師に質問をする健気な生徒はいるみたいだが。
「あ……あの、グレン先生。質問があるんですけど……」
メガネをかけた小柄で小動物のような女生徒———リンだ。
リンはオドオドと拙くも頑張って言葉を紡ぎながら教壇のグレンの元へ教科書を持って向かう。
「んだよ、しゃーねぇなぁ。で、何?」
「え…えっと……このページなんですけど……」
「無駄よ、リン」
だが、質問をしている最中にシスティーナが割って入る。
「その男に聞くことなんて何もないわ」
事実、リンの質問にグレンは面倒くさそうな態度を隠そうとしていなかった。
俺もわからんから自分で調べろと言われるのは目に見えて明らかだ。
「何せそいつは、魔術の崇高さも偉大さも何一つ理解してないんだから」
グレンを見ながらシスティーナはそう言い放つ。それを止める者はこのクラスにはいない。システィーナの言っていることは何も間違ってないと全員が思っている。
いつものグレンなら特に気にしないだろう。だがなんの気まぐれか、
「魔術ってどこが崇高でどこが偉大なんだ?」
珍しく反論してきた。
少し驚いたようにシスティーナはグレンに振り向く。本を読んでいた信一も顔を上げて2人に注目する。
それも一瞬。システィーナは得意げな表情で魔術がいかに素晴らしい学問か語り出した。
「フン…何を言うかと思えば。魔術はこの世界の真理を追究する……いわば神に近付くに等しい尊い学問よ」
「ふぅん……で?それって何の役に立つんだ?」
「え……」
グレンの思わぬ返しにシスティーナが言葉を詰まらせる。
「例えば医術は人を病から救うよな。農耕術、建築術……人が生きる上で必要な技術は多い。だが魔術は?まともに生きてりゃ一般人は見る事もなく人生が終わっちまう。そんな魔術が何の役に立つのか疑問に思うのは俺だけか?」
「ま、魔術は……人の役に立つとか…そういう次元の話じゃなく……その……」
グレンの猛攻は続く。
それは魔術を見ないのが当たり前の一般人の考え方だ。
あんなにも特別な力があるのに、自分たちには何の恩恵もない。
だが、それをこの魔術学院に通う者は考えたことがない。なぜなら、魔術師である自分たちはその恩恵を当たり前のように受けているから。
この一見相反する2つの“当たり前”がシスティーナに言葉を詰まらせる。
そんなシスティーナを見て、グレンはフッと息を吐いた。
「……悪ィ悪ィ、嘘だよ。魔術はちゃーんと役に立ってるさ———人殺しのな」
その瞬間、教室全体に緊張が走る。
もしかしたらこのクラスの大半も一度は考えたことがあるのかもしれない。
「剣術で一人殺す間に魔術は何十人と殺せる。これほど人殺しに長けた術は無いぜ?」
「ち……違うわ!魔術はそんな……」
「違わねぇよ」
グレンの目は冷たい。魔術そのものをどこまでも見下げ果てているような……魔術の根本をどこまでも理解してるような、そんな有無を言わさない暗い光がシスティーナを射抜いている
「このアルザーノ帝国が他国から魔導大国と呼ばれる意味は何だ?“帝国宮廷魔道士団”なんて物騒な連中がいる理由は?」
「う……あ……ちが………」
「違わねぇっつってんだろ!なんでお前らが習う魔術がほとんど攻撃用なのか、考えたこともねぇんだろうな!なぜならお前らにとって魔術は偉大で崇高なものだから!だから講師として教えてやる……魔術はな、殺戮に特化した人殺しの術だ!どこまでも血に汚れた、ロクでもね———」
パァンッ!!
乾いた音が教室に木霊した。システィーナの右手は左肩まで振り抜かれ、グレンは左頬を赤く腫らしている。
「……大っキライ……!!」
そしてシスティーナは教室を飛び出して行ってしまった。目から雫を流しながら。
その様子を黙って見ていた信一は、
「……クソッ…」
システィーナを追うこともせず……いや、できずにいる。その両手からは、爪が掌に食い込んだせいで血が流れ出していた。
本来ならシスティーナを泣かしたグレンをズタズタに斬り裂いているが、どうにも体が動かない。
『魔術は殺戮に特化した人殺しの術』
そんなことはずっと前に理解している。5年前のあの日に。
眠れずに、システィーナは自分のベッドで寝返りを打つ。
いつもなら楽しくおしゃべりが弾む夕食も、自分のせいで葬式のような空気になってしまった。気に入っている信一の卵焼きの味も感じないくらい美味しくなさそうな顔をしてしまった。なにより……
「さすがに引っ叩くのはマズかったかなぁ……」
今日学院で非常勤講師にビンタしたこと。
それらが気になって眠れずにいる。
いくら相手は素行が悪くても学院の講師。それを相手に手を上げるのは些か以上にマズい。
またごろりと寝返りを打つ。
「やっぱり……罰則とかあるだろうなぁ」
それでも譲れなかった。悔しかった。大好きだった祖父が人生をかけたものを人殺しの術と貶める非常勤講師が許せなかった。
「……ヒグ…ウゥ……明日…エグ……サボっちゃお…ヒック……かなぁ……」
嗚咽を誤魔化すようにひとりごちるが、ダメだった。涙は止めどなく流れてシーツに小さなシミをいくつも作っていく。
また寝返りを打つ。
自分が偉大だと思い、憧れた魔術は決して清廉潔白でどこまでも美しいものではないことくらい分かっていた。それでも魔術を否定されたことは、祖父の生き様を否定されたようで我慢ならなかった。
そして、寝返りを打つ。
どれほどの涙が流れたのか、数えるのもバカらしいほどにシーツのシミは大きくなっていた。そんな時、コンコンと控えめに部屋の扉がノックされる。
『お嬢様、眠れないようなのでホットミルクをお持ちしました。入ってもよろしいでしょうか?』
「ごめん、信一。今は1人にして」
信一の部屋はシスティーナの部屋の真下。寝返りで軋むベッドの音がうるさかったのかもしれない。
それでも優しい声で自分を気遣ってくれる信一には感謝するが、今の顔を見られるのは恥ずかしい。
確認しなくても分かるくらいに目は赤く腫れているだろう。
『わかりました。入りますね』
「ちょ、ちょっと!!」
自分の返事とは反する行動を取り、遠慮なく信一は扉を開けた。
慌てて布団を頭まで被る。
「1人にしてって言ったじゃない」
「でも1人にしておくと今のお嬢様は眠れないと思いましたので」
「……バカ」
この『バカ』は誰に向けたものなのか。きっと意地を張っている自分に向けたものだ。
きっと信一は自分が泣いていたことなんてお見通しなのだろう。
「横、失礼しますね」
ベッドの縁に信一が腰を下ろす。ギシシっと小さく軋む音が聞こえた。
どうせバレてるなら意地を貼るのもバカらしい。被っていた布団から顔を出して信一の顔を伺うと、こちらにマグカップを差し出してきた。
「熱いから気をつけてください」
「……ありがと」
それを両手で受け取り、恐る恐る一口飲んでみる。熱いと言っているわりには、飲みやすいちょうど良い温かさだった。
それから数分ほど、無言でシスティーナがホットミルクを飲む時間が続く。
一応信一も自分の分として持ってきてるようだが、口をつける様子はない。ずっとこちらを優しげな表情で眺めている。
「……何も聞かないの?」
「聞いたほうがいいですか?」
「……………………」
こうやって意地の悪いところを見せなければ、本当に優しい人と言えるのだろうが……きっとわざとなのだろう。
信一は悩んでいる人がいた時、聞き出すような真似はしない。自分から言い出すように誘導はするが。
「信一はさ……今日先生が言ったこと、どう思う?」
「先生が言ったことというと、『魔術は殺戮に特化した術』という?」
「うん」
う〜ん……と考え込むような仕草を信一は取る。だが、すぐにそれを止めていつもの優しい笑顔を向けてきた。
「俺はグレン先生の言ったことが正しいと思いますね」
「………………え…………………っ?」
一瞬、信一が何を言っているのか理解出来なかった。
しかし、やはりそれは一瞬。すぐに信一の言っていることを飲み込めた。
「魔術は人を殺します。そもそも、人を傷つける術だからこそ人の怪我を治す術があるんですよ」
「……………………………」
信じられない気持ちだった。
いつも隙あらばからかってくるような奴だけど、なんだかんだ言って最後には味方でいてくれる。そんな信一だから、無意識に今回も自分の言い分の方に味方してくれると思っていた。
でも、違った。
「そうですね……いい機会ですから話しておきましょうか」
信一の表情が少し変わる。何かを決意するような、そんな表情。だが、すぐに『優しげな微笑み』という仮面で隠してしまった。
「5年前、俺は自分の母親を殺しています」
「……っ———!?」
「あ、もちろん殺したくて殺したわけじゃありませんよ?その辺りは誤解しないでくださいね?」
自分の知らない5年前の出来事を話そうとする信一の口調は……いつもと変わらない。昨日見た大道芸の内容を語るような、軽い口調。
それが紡ぎ出す言葉は想像を絶する重さだ。
「俺は5年前、母と妹の3人で帝国郊外の港町に住んでいました。そこで極東の料理を出す小さな定食屋をやっていましてね、それなりに繁盛していたと記憶してます。その時の夢は料理人になることでした」
「…………………………」
だから信一の作る料理は美味しいのか、と。変なところで合点がいく。
「5年前の俺は……そうですね、泣き虫で弱虫でした。近所の悪童にいじめられても、うずくまって何も言い返せずに泣いて帰るどうしようない奴でしたよ。でも、そんな俺に母は言ったんです」
『泣き虫でもいい。弱虫でもいい。それでも美味しい料理を作れば、みんなが笑顔になるんだよ』
「だから俺は“泣き虫で弱虫の料理人”になることにしました。笑えますよね。情けないったらありゃあしない」
ははは、と笑う信一の表情は昔を懐かしむようなもので……。母親を殺したことを悲しんでいる様子はなかった。
「頑張って、頑張って、たくさん頑張って、卵焼きくらいならお客さんに出しても恥ずかしくないくらいになった頃です。どこから流れたのか、『朝比奈家の使う【迅雷】という固有魔術は、実は誰でも使える』という妙な噂が立ちました」
「………………………」
「お嬢様には見せたことありませんが、【迅雷】は誰の目から見ても強力な魔術です。その噂を聞きつけた魔術師がうちに押し込み強盗に入ってきまして、母に精神作用系の魔術をかけて俺と妹を手にかけさせようとしたんです。しかも自我を保ったまま、深層心理に働きかけて体だけを動かす最低最悪の術でしたよ」
そこまで話して、やっと信一の表情が嫌悪に歪む。
「最初に母が襲いかかったのは妹でした。包丁を持ち、地面に倒した妹に乗りかかって涙を流しながら刺し殺そうとしたんです。母は叫びました」
『信一!私を殺して!!早く!!』
「その後はお察しの通りです。俺は店に護身用として置いてあった刀で、【迅雷】を用いて母の首を飛ばしました。それを間近で見ていた妹は、その日から精神的なショックで昏睡状態。世界を見ることを止めてしまったんです」
大好きな母親が自分を殺そうとし、その母親を大好きな兄が目の前で殺す。
そんな光景を見てしまえば、確かに世界なんてものに失望して覚めない眠りに逃げてしまうだろう。
「そして俺は“泣き虫で弱虫の人殺し”になりました。もう自分に料理を作る資格はない。料理を作るというのは、人を生かす糧を作るということですからね。“泣き虫で弱虫の人殺し”に許されるようなことじゃありませんよ」
「……じゃあ信一は……信一も魔術が嫌いなの?魔術を殺戮に特化した人殺しの術だと思ってる?」
「人殺しの術だとは思ってますけど、別に嫌っちゃいませんよ」
またニコリと優しく微笑む。いつもと変わらない。こんな過去を人に話しても、信一の笑顔はいつもと変わらない。
「なんでかはよくわかりませんけど、たぶん母を殺した日に俺は心のどこかが壊れちゃったんですよね。人を殺すことに何も感慨を持たなくなって、全ては使い方次第って考え方になりました。
「使い方……?」
「はい。例えば……包丁。あれって料理を作る道具ですよね?でも人を殺せます。刀だってそうです。芸術品という見方をこの国ではしますが、人を殺せますね?魔術もそれと同じです。考え方は逆ですけど」
「逆?」
「魔術は人を殺せますが、でもさっき言ったように人の怪我を治すことができます。そういう意味では偉大で崇高な術ですよ」
「……………………」
マグカップのホットミルクを一口飲む。これで空になってしまった。しかし、それとは逆にシスティーナの心には何かが降り積もっていくような感覚が広がっていく。
「包丁も刀も魔術も人を殺せます。でも、包丁は料理を作って人を笑顔にできる。刀はその美しさで人を感嘆させられる。魔術は人の怪我を治すことができる。これらを綺麗事と笑うような奴らもいるでしょう。それでも俺は……」
そこで初めて信一は自分のホットミルクを飲んだ。
「この綺麗事が好きです。だから俺はお嬢様の考え方、好きですよ」
「……そっかぁ」
包丁も刀も魔術も、人を殺すことができるというのは一部の側面にしか過ぎない。他の面を見てみれば、確かに人を笑顔にさせていた。
自分だってそうだ。その綺麗事な側面に憧れた。大好きな祖父が目指し、通った道がどこまでも尊いと思えたから魔術を学ぶことで笑顔になっている。
「じゃあお嬢様。世界中の誰もが魔術は人殺しの術だと言った時、あなたならどうしますか?」
「それは違う!と世界中に響く声で言ってやるわ」
「その粋です。大旦那様が通った道を自分も究めたい。そう思ったからお嬢様は魔術を学んでいます。だからお嬢様だけは、誰がなんと言おうと魔術は“偉大で崇高なもの”だと言い張らなければなりません。俺のように魔術を使って人を殺したようなクズにその資格はありませんから、どうか俺の代わりにも言い張ってください」
「任せなさい」
やっぱり信一は自分の味方だった。今なら分かる。自分の過去を話そうとした時の信一の決意したような表情の理由。
ただ、怖かったのだ。魔術を偉大だ、崇高だと言っている自分に魔術で人を殺したことがあることを打ち明けて軽蔑されることが。
でもそれはあり得ない。いつも味方でいてくれる信一を、人を殺した
もしかしたら信一は親を殺したことを、使い方次第と割り切って正当化しようとしているのかもしれないが、だからなんだと言うのだ。親殺しの大罪を背負って、それでも自分の心を保つ為にはその心自体を壊すしかなかった。
自分がその大罪を代わりに背負うことはできない。でも、隣で寄り添うことはできる。信一が自分の味方でいてくれるように、自分も信一の味方であり続けようと心に誓った。
「さ、そろそろお休みください。明日も学院はありますよ」
「うん、わかった」
持っていたホットミルクのマグカップを信一に渡し、いそいそとシスティーナは布団に潜る。
何故か今ならよく眠れるような気がした。だから……少しだけどわがままを言ってしまおう。
「ねぇ、信一」
「はい?」
不思議そうに振り向く信一。
不真面目で、努力嫌いで、隙あらばサボろうとする……それでも大好きな家族の1人。どんな時も自分の味方でいてくれる、優しい人。
「私が眠るまで……その…手、握っててくれる?」
一瞬驚いたように目を見開くが、すぐにいつもの優しい表情に戻った。
ゆっくりともう一度ベッドに腰掛け、包むように左手を握ってくれる。
「いついかなる時も、貴女の御心のままに」
システィーナが眠ったことを確認した信一は、静かにその部屋を後にする。
すると、部屋の前でルミアが壁にもたれかかって待ち受けていた。
寝間着姿なのだが、目はそこまで眠そうではない。
「どうかしましたか、ルミアさん?眠れないようでしたらホットミルクをお持ちしますが」
「ううん、大丈夫。それよりシスティはどう?」
「明日にはいつも通りになると思われます」
「そっか……良かった」
安心したように息を吐くルミアを見て、信一も相好を崩す。
やはりルミアは心優しい少女だ。
「立ち話もなんだから、私の部屋に来てくれる?」
「よろしいのですか?男は夜になるとケダモノに変身致しますよ?」
「シンくんは狼男じゃなくて、可愛いワンちゃんになりそうだね」
「むぅ……」
仔犬っぽいルミアに言われたくないのだが……あまりそこは掘り下げないでおこう。信一にも男としてのプライドはあるのだ。
一度キッチンに戻り、自分の冷めたホットミルクを煽ってから改めてルミアの部屋にお邪魔する。
「それで、何かありました?」
「グレン先生のことなんだけど……。シンくん、気付いてるよね?」
「……3年前の男のことですか?」
「うん」
3年前———ルミアがフィーベル家に来てすぐの頃に、システィーナと間違えて魔術師達に誘拐されたことがある。
その頃の信一は……別にルミアのことなんてどうでもよかった。
その日の前日にフィーベル家を貶める発言をし石を抱かせたばかりで、むしろシスティーナが誘拐されずに済んで良かったと安堵したくらいだ。
だが、件のシスティーナは違った。誘拐されるまでルミアとはケンカばかりしていたにも関わらず、システィーナは泣いていた。
自分のせいでルミアが誘拐された事に責任を感じたのか、はたまた知り合いが危険な目にあっているのが怖かったのか。
どちらにせよ、システィーナが泣いた時点で信一が行動を起こすのは当然の帰結と言えた。
刀を二本持ち、ルミアを誘拐した魔術師達を探し当てた時のことだ。既にルミアを守る男がいた。
その男の周囲の魔術師達は何故か魔術を使わずに男と対峙し、そしてその男は次々と魔術師を殺していた。信一も加勢する為に【迅雷】を使おうとしたが、何故か発動しなかったのを覚えている。
【迅雷】がなくとも、武器を持っている信一のほうが魔術を使えない魔術師よりも圧倒的に強いのは変わらないので特に気にしなかったが。
そして、その男は———今自分たちの非常勤講師をしている。初対面の時に信一は勘付き、ルミアも確信を持っているようなので間違いない。
「ルミアさんはいつお気づきに?」
「なんとなく似てるなぁ〜とは思ってたんだ。でも、今日の放課後に確信したよ」
「……何かありましたか?」
信一の目が鋭くなる。今日はシスティーナが早退したことで、信一も授業が終わり次第すぐに帰った。ルミアは復習したいことがあるというので、残していったが……もしやグレンはルミアに何か淫らな事をしたのではないか。
もししたのなら去勢して川に放流しよう。うん、そうしよう。
密かな決意を胸に、ルミアに優しく問いかける。目の鋭さと声音の優しさという変なギャップがちょっと怖い。
「『流転の五芒』っていう魔力円環陣の練習してたの。でも上手くいかなくて……それで手伝ってくれたんだ」
「……変な事はされていませんよね?」
「あはは、されてないよ。大丈夫」
確か法陣を行う魔術実験室を生徒が個人的に使うのは禁止されてたはず。見かけによらずやんちゃなルミアはどうせ事務室に忍び込んで鍵をゲットしたのだろうが、そこで男と2人きりというのは家族として気が気でない。
「まぁ、そこはおいおい後でお説教するとして……それで?」
「うん、ただ水銀が足りてなかっただけだったんだ」
「いえ、そっちではなくて」
どうやらお説教という言葉は聞こえなかったみたいだ。都合の良い耳である。
「まさかそれで手伝ってくれたから『あの人』だ、なんて言いませんよね?」
「あぁ……うん。えっとね、それで一緒に帰った時にそれとなく探りをいれてみたんだ。そしたら少し反応があって、きっと『あの人』だって確信した」
「そうですか。じゃあルミアさんはあの時のお礼、言えたんですか?」
「ううん。なんかはぐらかされちゃって……」
あの時、あの男が自分より早くルミアを守っていなければ彼女はどうなっていたかわからない。
今なら思える。やはりあの男は恩人だ。あの時ルミアを守ってくれていなければ、自分とルミアは家族になんてなれなかっただろう。
あの日はルミアをおぶって帰った。フィーベル家でお世話になってる分際で卑屈なことばかり言う、気に入らない少女だったが……それでも守るべき存在になっていた。
『死にたければ死ねばいい。自分がいない方がいいと思うなら消えればいい。でも、もし君が生きていたいと思うなら俺は———』
その言葉を言った瞬間、ルミアは大泣きして信一の背中に抱きついていた。帰れば今度はシスティーナが泣きながら抱きついてきた。
夜は……初めて3人で寝たっけなぁ。
少し大人に近付いた今はもうそんなことできない。でも、手を握って眠るまで隣にいてあげることはできる。
信一はベッドにルミアを寝かし、布団をかける。
「さ、ルミアさんも寝てください。朝弱いんですから」
「システィかシンくんが起こしてくれるから大丈夫だもん」
「自分で起きる努力をしてくださいよ……」
呆れたようにため息を吐き、ルミアの手を握って微笑みかけてやる。
殺してしまった母親はもう戻らない。でも、今はまた新しい家族がいる。刀を握り続けてゴツゴツになった自分の手を眺め、今度はあんな惨事にならないことを願う。
刀や【迅雷】を使う時が来ないならそのほうがいい。だが、もし使わないといけない時がきたら迷わず使って家族を守る。
フィーベル邸に住む方々に害を為す者……その全てを———
殺す
はい、どうでしたか?
オリ主、心のどこか壊れちゃってます(笑)
補足しておきますと、人を殺すことに何も感慨はありませんが進んで殺しに行くわけではありません。そんなに頭がヤバイ奴ではないですからご安心を。
それでは、感想や評価などお待ちしております。くれたら更新速度があがる……かも(チラチラ)