超速い慇懃無礼な従者   作:技巧ナイフ。

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ついにここまで来たか……。と言っても、戦闘描写はちょっとだけですけどね。

今回は信一の立ち回りの都合で少し内容を変えさせていただいております。タグにもある“オリジナル展開”ってやつですね。

それでは、どうぞ!!


第6話 少年が刀を抜く時

 グレンの授業は非常に分かりやすく、造詣の深いものであった。

 理路整然とした話術。その話術から繰り出される講義の内容は、問いを作り次にその問いの原因を探り、最後に答えを教えるという基本の体系。しかし、結果に行き着く過程すら理解を深めるためのスパイスになっているという特徴があった。

 

 そんなグレンの噂はすぐに学院中に広まり、別のクラスや他学年、果ては若手の講師すら拝聴しにくる始末。二組のクラスは混雑し、立ち見がいるという少し奇妙な光景すら出来ていた。

 

「じゃ、今日はここまでだ。そんじゃな」

 

 授業も終わり、生徒は各々グレンの授業に対する感想や自分なりの解釈を話し合っている。

 

 本日の内容は汎用魔術と固有魔術について。

 固有魔術とは本来、魔術師なら誰もが憧れる魔術の極致。しかし、グレンはその固有魔術にを大したことはないと言ってのけた。

 対して、汎用魔術とは魔術の歴史を作ってきた魔術師が長い時間をかけて洗練し作り上げた、『誰でも使える術』という隙のなさが上げられた。

 

『誰でも使える術』というのはそれだけで充分完璧ということだ。

 そこまで話して浮き彫りになってくるのが、固有魔術という自分だけ(オンリーワン)の術でどうやって汎用魔術を超えるかだ。

 

 グレン曰く、並大抵の物じゃ汎用魔術を超えられないらしい。

 

 だからこそ、汎用魔術の歴史や式を紐解くことで理解を深めることが大切なのだ。

 

「やられたわ……」

 

「お嬢様?」

 

 頭の中でグレンの授業を反復していたシスティーナが、その頭を抱えて悔しそうに机に突っ伏した。

 

「認めたくないけど……人間としては最悪だけど……講師としては本当にすごい奴だわ。……人間としては最悪だけど!!」

 

 システィーナがここまで言うのにはもちろん理由がある。

 先ほどの授業、板書を取りきってない内に黒板を消されてしまったのだ。グレンの100パーセントの悪意によって。

 

「まぁまぁ、そう怒らないでください」

 

「信一は板書……取ってないわよね」

 

「もちろんです」

 

 にぱぁと花が咲くような笑顔に一瞬誤魔化されたが、やはりこいつは取ってないらしい。落胆のため息が口から漏れる。

 

「あれだけ分かりやすい内容なら板書を取る必要なんてないでしょう。全部頭の中に入っていますよ」

 

「その無駄に良い頭が今は羨ましいわ……」

 

 理解力に乏しいくせに、理解したものは覚えてしまう。そして覚えたものは基本忘れない。

 

 この男の頭は良いと評すればいいのか、とんでもない欠陥品と評すればいいのか。

 今この時だけは良いと評することができることが悔しさを助長させた。

 

「ま、わからないことがあるなら聞きにいけばいいんです」

 

 パパッと鞄にノートをしまい込み、信一はシスティーナの手を引いて立たせる。

 

「たぶんグレン先生なら東館の屋上バルコニーにいますよ」

 

「なんであんたがそんなこと知ってんのよ?」

 

「とあるとても信用できる人からの情報です」

 

 後ろで黙ってこちらを見ていたルミアを軽く振り返る信一。

 その視線に気付いたルミアはやはりにこにこと笑っているだけだった。

 

 東館の屋上バルコニーに着いてみれば、予想通りグレンがいた。

 手すりに寄りかかりながら金髪の女性と話している。

 

「あれは……アルフォネア教授かな?」

 

 豪奢なドレスを身に纏った金髪の美女、セリカ・アルフォネアとグレンが話している。

 彼女は見た目に反してかなりの時間を生きた人物で、歴史の教科書に名前が載っているほどだ。もちろん同姓同名などという悪ふざけではなく、れっきとした本人。

 元はアルザーノ帝国でも重要な魔術師で、かの女王陛下とも友人という大物だ。

 

 とりあえず2人の話が終わるのを待っていると、セリカが自分たちに気付いたらしく手を振ってくる。

 

「どうしたお前たち、グレンに用事か?」

 

「あ、はい。今日の授業のことで質問があって……」

 

「そうか。あ、心配しなくていいぞ。私はもう行くところだ」

 

「そうですか」

 

 誰に対しても物怖じしないルミアが代表して応える。

 信一もシスティーナも、入学してすぐに少しお話をしたが、今になって考えてみるとかなり勇気があったものだと過去の自分に関心してしまう。

 

 セリカの背中を見送り、3人はグレンに振り返った。

 

「なんだ、俺に用って?」

 

「今日の授業でどうしても聞きたい事があるってシスティが……」

 

「ちょっ、それは言わないって約束でしょ!?」

 

 ルミアがサラッと約束を破り、システィーナが顔を真っ赤になる。それにグレンはとても悪い顔をして、どこまでも尊大な態度で上から目線の物言い。システィーナは真っ赤になってぎゃーぎゃー騒いでいる。

 

 その光景は……とても穏やかで優しく、いつか時間の波に埋もれてしまう日常。本当に尊く、そしてありきたりなものだった。

 

 

 

 

 

「はぁ〜やだ〜帰りたい〜」

 

「もう信一ったら、学院に来てからそればっかり!」

 

「だって本来なら今日休日ですよ?休みの日ですよ?せっかく一日中本読んでヒャッハーできると思ってたのに……」

 

「あんまり本読んでヒャッハーする人はいないと思うけど……」

 

 ぐでぇ〜とどこまでもやる気なさそうに机に突っ伏す信一をシスティーナは呆れた目で、ルミアは可愛い弟を見る目でそれぞれ眺めていた。

 

 ちなみに一日中本を読むと言っても食事の支度はするし、屋敷の掃除をちゃんとやる。それを除いた時間で信一はヒャッハーするつもりだった。

 

 信一の言う通り、本来なら今日学院は休みのはずだった。というか普通に休みだ。

 しかし、グレンの前任であるヒューイが突然辞めたせいで授業時間に穴が空き、今日はその穴を埋めるためにこの二年次生二組だけが学院に来ていた。

 

「ヒューイ先生……今あなたに会えたなら、思いっきりぶん殴ってますよ……」

 

 元々ヒューイのおかげで二年次生になれたというのに、とんでもなく恩知らずな男である。

 

「てか、学院長殺そうかな……うんそうしよう。あのジジイの提案だろうし」

 

 しまいには学院の最高権力者をディスる始末。チャキっと足元にある刀がぶつかりあって音が鳴る。

 

「あんた、どんだけ休日に学院来たくないのよ……」

 

「俺は用がなければ屋敷の敷地から出たくないんです!」

 

「まぁ、家の中でも楽しいことはあるしね」

 

「さすがルミアさんです。今日のおやつはルミアさんの好物でも作りましょうか?」

 

「やった!」

 

 嬉しそうにガッツポーズをするルミア。甘いものをこよなく愛す女の子らしい反応に信一の頰も緩む。

 

「それにしても、グレン先生遅いですね」

 

「そうね。最近は真面目にやってるから見直したと思ったら……来たら説教ね」

 

「そんなにお説教ばかりしてるから『説教女神』なんていうあだ名付けられるんですよ」

 

「えっ!?なにそれ私初耳なんだけど!?」

 

「……ルミアさん、練り切り等はいかがですか?」

 

「無・視・す・ん・な!!」

 

 自分の失言に深いため息が漏れる。周囲の男子生徒から何やったんだという視線を感じ、ここはカッシュ辺りのせいにして逃れようとわりと最低な算段を立て始めた時だ。

 

 バァンッ!!と乱暴に教室の前扉が開いて、チンピラ風の男と紳士然とした男が2人入ってきた。

 

「ちぃーっす。ジャマするぜー」

 

 軽薄そうな声で挨拶するチンピラ風の男を見て、クラスがざわめきだす。見たことのない人物だ。後ろで静かに控えている紳士然とした男も同様。

 

「まずは自己紹介から。お兄サン達はね、簡単に言えば君らを拘束しに来たテロリストってやつかな?」

 

 このアルザーノ帝国魔術学院はこの学院の関係者か、その関係者から正式に許可を得た者しか出入りできないように結界が張られている。

 つまり、この学院にテロリストを含めた部外者は入らないようになっているのだ。

 にも関わらずこの男達は入ってきた。

 

 ここで考えられることは2つ。

 

 1つはこの2人の正体が学院の関係者でただふざけていること。

 

 もう1つは本当にテロリストで、なんらかの手段を用いて侵入してきたこと。

 

 今の段階では判断材料が少なすぎる。ここで武力を行使してこの場から2人に立ち去ってもらうのは、場合によっては色々と危険な為、信一は何も言わずに観察するという手段に出る。

 

 しかし、システィーナは違った。

 

「ふざけないでください。、あなたみたいなチンピラがどうやって侵入できたかは知りませんが、すぐ出ていかないのなら無力化した後警備官に引き渡しますよ?」

 

 フィーベル家の娘として、不審な者に徹底的に立ち向かうという行動を取った。

 

 これは愚策だ。もしこの2人がただふざけているだけなら、『君は勇気のある子だね』で済むが、もしテロリストなら……

 

「《ズドン》」

 

 危害を加えてくる可能性がある。

 

 今回の場合は残念ながら後者だった。チンピラ風の男がふざけたように唱えた呪文で魔術が発動。恐ろしく速い電撃がシスティーナの顔スレスレを通り、後ろの机をすんなりと貫通した。

 

 一瞬【ショック・ボルト】のように見えたが、これは違う。

 

「【ライトニング・ピアス】……軍用魔術!?」

 

「お、よく知ってんじゃん。見た目は【ショック・ボルト】とよく似てるけど、これはお前らガキ共がお勉強するお遊戯じゃねぇ。正真正銘———人殺しの術だ」

 

 静かな殺意を込めたその言葉がこの空間を支配した。

 

 生徒達は一切の抵抗の意思を捨て、顔を絶望に染める。ガタガタと震える者。涙を流す者。行動は様々だが、恐怖に怯えるしかないといつ意味では皆同じだ。

 

 そんなことはお構いなしに男は告げた。

 

「この中にさ……ルミアちゃんって女の子、いる?」

 

 だが、誰もそれに答えない。当然だ。これに答えるということは学友を売ることと同義。そんなこと、誇り高い魔術師の卵に許されることではない。

 

 その様子に、男は困ったように唸る。

 

「ん〜……どれがルミアちゃんだ?君かな?」

 

 そこで男に指差されたのは女子の中でも特に気の弱そうな女の子、リンだ。

 ただでさえガクガクと怯えていたのに、男に目を向けられてさらに不安そうな表情が浮かび上がってくる。

 

「ち……違います……」

 

「あっそ。じゃ、どの子がルミアちゃんか知ってる?」

 

「……し……知りま…せん……」

 

 恐怖の中、それでも彼女はなんとか言葉を紡いでルミアを庇おうとする。その勇気は賞賛に値するのだろう。

 

「ホント?俺、ウソつきは嫌いだよ?」

 

 しかし、そんなものは今この状況でなんの役にも立たない。男はリンの顔を覗き込み、脅すようにドスの効いた声で確認する。

 

 だが、これ以上はリンも恐怖でしゃべれなくなってしまう。それを見て、またもや義憤に燃えたシスティーナが口を開いた。

 

「貴方達……ルミアって子をどうするつもりなの?」

 

「おぉ、さっきの。何?お前ルミアちゃん知ってんの?それとも……」

 

「私の質問に答えなさい!!貴方達の目的は一体……」

 

 この状況はもはやこの男達のホームとなっている。そんな中でシスティーナは気丈にも気高く親友であり家族である少女を守る為に声を上げた。

 

 それはやはり……とても愚かなことだ。

 チンピラ風の男は青筋を立て、システィーナの顔面に指を向ける。

 

「ウゼェよ、お前。《ズド……」

 

「やめて下さい!!」

 

 男が呪文を唱える寸前、教室にルミアの声が響いた。

 

 その声の主に男達は振り向き、システィーナは目を見開き、信一は密かに起動しようとしていた【迅雷】をキャンセルする。

 

「私がルミアです。他の生徒達に手を出すのはやめて下さい」

 

 ルミアの目に怯えはなかった。ただ、こんな自分自身が目当てにも関わらず、他の生徒が巻き込むのは許さないという怒気に燃えている。

 

「へぇ……」

 

 その姿に関心するように、チンピラ風の男は声を漏らした。

 

「君がルミアちゃんなんだ。うん、実は知ってた。君が名乗り出るか、我が身可愛さに教える奴が出るまで関係ない奴を1人ずつ殺していくゲームしてたんだよね」

 

 およそ、正常な人間の考える事ではない。間違いなくこの男は狂人と呼べる部類の人種なのだろう。

 ルミアの目で燃える怒りの炎がさらに強く燃えていることが見て取れた。

 

「遊びはその辺にしておけ、ジン」

 

 ここで初めて紳士然とした男が口を開く。この男も雰囲気で分かりにくいが、狂人の類いだろう。今のチンピラ風の男———ジンの凶行を遊びと言い切ったのだから。

 

「貴女は私と来てもらう。言うまでもないと思うが、是非はない」

 

「わかりました」

 

 紳士然とした男の言うことに素直に従い、ルミアは席から移動した。

 そのルミアが、何故か遠くに行ってしまうような気がして……システィーナは声をかける。

 

「ダ……ダメよ……ルミア……行ったら殺されちゃう……」

 

「大丈夫だよ、システィ。きっとグレン先生がみんなを助けてくれるから……」

 

 しかし、ルミアの言葉には不思議な諦観を感じる。

 ここでグレンの名が出たのは、3年前の出来事を知っている信一にとって納得はできる。しかし、そのグレンが助けてくれると言った『みんな』にルミア自身は含まれているのだろうか?

 

 答えは否だ。彼女の目は、自分が助かることを諦めていた。

 

 それでもルミアはシスティーナを安心させる為に手を握ろうとするが……

 

「触るな。貴女が魔術師に触ることは許さん」

 

 紳士然とした男がどこからか取り出した剣でそれを阻む。

 

 何故なのか、それはルミア自身がよく理解している様子だった。やはり自分は助からないな、と諦めのため息を吐いてシスティーナと信一に微笑みかける。

 

「あ、そのグレンって奴なら来ないぜ。もう俺らの仲間がブッ殺したからさぁ」

 

 そんな彼女の小さな希望すら、ジンの軽薄な声に打ち消される。

 この狂人の口から出た、虫を殺したことを報告するような声音。それが今はなによりも納得できる材料となっていた。

 

 生徒達の表情が絶望に染まる中、ルミアと紳士然とした男は教室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 2人が教室から出て数分間、ジンは生徒達を【マジック・ロープ】で縛り上げ、呪文の起動を封じる【スペル・シール】をかける途中で……良いことを考えたと言いたげにニヤリと笑った。

 

「おいお前、こっちに来い」

 

 縛り上げられて抵抗できないシスティーナの髪を掴み、無理矢理教壇まで連れて行く。

 

「な、何するのよっ!きゃっ!?」

 

 叫ぶシスティーナを無視して、その場に転がす。

 

「これからね、このガキを犯したいと思いま〜す。あ、もちろん男が女を組み敷いて無理矢理ってやつのほうね?」

 

 高らかに陽気な声で宣言されたことは、どう考えても女性の尊厳を踏み躙ること。

 それを聞いているクラスの女子生徒達は嫌悪感に顔を歪ませる。

 

「それで〜、もしこの子を助けたいって言う勇気ある若人は元気に手を挙げてくださ〜い。制限時間はそこの扉から俺たちが出て行くまで。あ、もちろん俺たちが出て行った後に逃げようとしたら殺すから。もし手を挙げてくれた若人には、俺との魔術決闘をする権利を与えちゃいま〜す」

 

 しかし、それに手を挙げる生徒は誰もいない。さきほど見せられた【ライトニング・ピアス】の一節詠唱、あれだけ見ればこの男がどれだけ魔術戦に優れた魔術師かは理解できる。

 

 ここでこの男に挑んでも死ぬだけ。そんな未来がアリアリと浮かんでいた。

 

「あれ〜、いないのかな〜?じゃあこのガキが男子生徒諸君にサービスしてあげよう!」

 

 システィーナは何も言えないでいる。ここで誰も助けてくれなければ、自分の純潔は理不尽に汚される。だが、助けに入ればその人が死んでしまう。

 

 おいそれと助けてなんて言えない。

 

 そんな彼女の気持ちなど1つも理解しようとせずに、ジンは教室で座っている生徒達の方向にシスティーナの足を向けた。

 そして、システィーナのスカートをどんどんめくり上げていく。

 

「や…やめて……やめ……て…」

 

「ひひ!綺麗な肌じゃん!ほら、クラスの連中に見てもらえよ!」

 

 下着があろうと、自分の秘部を晒される恥辱。それは年頃の少女にとって到底耐えられるものではなかった。

 

「お願い………やめて……やめて…ください………」

 

「ぎゃはははっ!!———うぶっ!?」

 

 下品で聴くに耐えない笑いを響かせながらシスティーナの泣き顔を楽しむジンの顔に、革製の手袋が当たる。

 

「へぇ……誰?これ投げたの?」

 

 ジンの表情が怒りに変わった。正直、助けに入る奴なんていないと思っていたし、何よりこの少女の怯える顔は自分の情欲をどこまでも昂ぶらせてくれるものだった。

 

 それを邪魔されたのだ。

 

「俺です。貴方に魔術決闘を申し込みます」

 

 そう言って立ち上がったのは……刀を一振り、縛られた両手で握っている信一だ。

 

 別に信一は、恐怖に怯えて今まで行動に移れなかったわけではない。この男がシスティーナと一緒に教室を出た瞬間、扉越しに男の心臓を貫いてやろうとタイミングを見計らっていたのだ。

 しかし、予定が狂った。この男のふざけた余興のせいでそれができなくなってしまった。

 

 だがそれについて特に悔やむことはない。

 システィーナが涙を流している。それだけで、信一が命を張る理由はできているのだから。

 

「《ズドン》」

 

「………………………」

 

 突如何の前振りもなく信一の頭部を狙った【ライトニング・ピアス】が放たれる。しかし、それを首を傾けるだけで回避してみせた。

 

 特に今の行動を気にせず、信一は微笑みながらジンに問いかける。

 

「勝負の内容はどうしますか?一応俺から投げたのであなたが決める権利がありますが?」

 

「お前が決めていいよ、坊ちゃん。そのくらいのハンデはくれてやるよ。ほら、お兄サン優しいから」

 

「それは助かります」

 

 口調そのものは穏やかだが、信一の心中は嵐のように怒りと殺意が渦巻いていた。

 

 システィーナを泣かした。システィーナを辱めた。システィーナに汚い手で触れた。

 

 だからこそ、この男は殺す。もちろん地獄の苦痛を与えて。

 その為にはまず、どうすればいいか。すぐに考えは纏まった。

 

「じゃあ、俺がこの刀を貴方に当てたら俺の勝ち。それを阻止したら貴方の勝ち。使用する魔術はなんでもいい。これでどうですか?」

 

「はっ!バカだね坊ちゃん。そんなの俺が有利に決まってるじゃねぇか」

 

「そうなるようにしてあげたんですよ。———お前みたいな三下、そのくらいのハンデがないと俺に太刀打ちなんてできないしね」

 

「あ?」

 

 直後、信一の目つきが変わる。相手に何の価値も見出していない、そんな目。

 挑発的な物言いに、ジンは青筋を立てた。だが、これも信一の狙いだ。冷静さを失ってくれるならラッキー。

 なにより、自分の優位性を信じて疑わない者のプライドをへし折るのは快感だ。憎い相手ならなおさら。

 

「お前みたいな三流魔術師、俺でも勝てるね。たかが【ライトニング・ピアス】()()()、一節詠唱できるくらいで得意になってるだけのお子様だよ。いい歳こいたお兄サンが恥ずかしくないの?」

 

「———《ズドン》《ズドン》《ズドン》」

 

 ジンはもはや信一の言葉には取り合わず、即座に殺す決断を下した。

 

 さきほど信一が【ライトニング・ピアス】を避けたのは偶然じゃない。あれは読んだのだ。

 最初にシスティーナに向けて撃った時、2度目に放とうとした時、どちらも頭部を狙っていた。

 

 だからこそ、また頭部を狙ってくると読んでいた。

 

 しかし、今回は違う。【ライトニング・ピアス】の3連撃。しかも腿、心臓、喉とどこに当たっても行動不能になる箇所を正確に狙っている。

 

【ショック・ボルト】にも似た、しかし【ショック・ボルト】とは比べ物にならない威力の紫電が信一に向かう。防ぐことなど不可能。避けることも不可能。

 この場にいる誰もが次の瞬間、信一の死を予感した。

 

 そんな中、信一は小さく一言呟く。

 

「《()くあれ》」

 

 その瞬間信一の足下の床が爆ぜ、紫電が信一を貫いていく。

 

 

 

 

 

 

「———え?」

 

 

 

 

 

 そんな間抜けな声が()()から上がった。

 自分の視界が右方向に傾いているのだ。軽い浮遊感と共に。

 

 倒れている。何かバランスを崩すような物を踏んだのかと思い、右足を見ると……そこにあるはずのもの()()()()()()()()

 

 ジンの背後では、刀を振り抜いた姿勢の信一が幽鬼の如く佇んでいる。その顔のすぐ横を、誰かの右足が舞っていた。




はい、どうでしたか?

やっと書きたい描写が書けましたよ。嬉ぴー!!

ということで、本格的な戦闘シーンは次回から。
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