名探偵コナン〜新一の妹〜   作:桂ヒナギク

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57.加我山香の死様

 杯戸町では、幼女連続誘拐殺人事件が発生していた。

 杯戸警察署に捜査本部が設置され、事件を捜査するが、依然、犯人に繋がる有力な手掛かりは掴めなかった。

 そんな中、杯戸公園で女子高校生の遺体が発見される。

 生徒手帳から加我山(かがやま) 香(かおり)という名が判明した。

 と、聡美の元を訪ねた加我山(かがやま) 沙織(さおり)という依頼人が5年前の話をした。

 沙織は事件当時は8歳だった。小学3年生と言ったところか。

 そして5年経った今は中学生だ。

「それで、君はお姉ちゃんを殺害した犯人を捜して、警察に突き出したい、と?」

「うん」

「確か君は、目出し帽を被った正体のわからない人物に連れ去られそうになったんだよね? そこにお姉ちゃんがやってきて、君を庇って刺殺され、犯人は逃走して今も捕まっていない」

「捜してくれますか?」

「わかった。やってみるよ」

 聡美は事件の調査を始めた。

 最初に向かったのは、やはり警視庁である。

 捜査一課の目暮に話を聞く。

「5年前の幼女連続誘拐殺人事件の捜査資料を見せてくれだ?」

「お願いしますよ、目暮警部」

「あの事件は杯戸警察署が捜査した事件だ。話はしておくから、そっちで確認してくれ」

「データで取り寄せられないんですか?」

「データでは通信中に傍受される可能性がある、と前にサイバー犯罪対策課の方が言っておってな」

「杯戸警察署ですね?」

 聡美は警視庁を出ると、バイクに跨って杯戸警察署に向かった。

 杯戸警察署刑事課。

「おお、君が目暮の言っていた工藤さんか」

 と、聡美を刑事課の左近寺(さこんじ) 優介(ゆうすけ)警部が出迎えた。

「私は今、誘拐未遂の末、殺害されてしまった加我山 香さんの事件を調べています」

「加我山……ああ、あの殺人事件だな? 我々捜査本部の見立てでは、加我山の事件以前に起きた幼女連続誘拐殺人事件と妹の沙織の誘拐が未遂となった末、姉の香が殺害されたあの事件は同一犯の犯行と考えて捜査を始めた。しかし……」

「犯人に繋がる有力な手掛かりはない、と?」

「いや、違うんだ。上層部から捜査の打ち切りを指示されたんだ」

「え?」

 聡美は警察の上層部か、その横のパイプか何かが関係しているのだと推測した。

「我々警察は犯人に目星はつけていてな。内閣情報調査室の職員の息子の篠宮(しのみや) 圭一(けいいち)という人物だ」

 内閣情報調査室——アメリカのCIAのような組織。

「しかもその圭一も、米花マンションの屋上から転落して亡くなっている」

「なんですって!?」

「それ以上は話せない。情報がないからな」

「どうもありがとう」

 聡美は米花警察署へ飛んだ。

 エントランスで小五郎とコナンに遭遇する。

「おお、こんなところで会うとはな」

 と、小五郎が先に言う。

「ああ、小五郎さんにコナンくん。どうしてこんなところに?」

「篠宮 圭一さんっていう人の転落事故を調べてるんだよ。ね、おじさん?」

「……!」

 聡美の表情をコナンは見逃さなかった。

「どうしたの?」

「二人とも、調査状況を教えて」

「いや、それは……」

 小五郎は躊躇した。

「話してあげようよ。聡美姉ちゃんも篠宮さんを調べてるみたいだしさ」

 三人はお互いの情報を交換する。

 小五郎たちが調べているのは、篠宮が米花マンションの屋上から突き落とされ殺された事件だった。

「え……」

 聡美は言葉を失った。

「篠宮が、殺されてる……?」

「うん。5年前なんだけどね。転落の瞬間を見た人は、その直後にマンションから飛び出してきて走って逃げる女子高生がいたっていうんだ」

「……!?」

「その女子高生はマンションを出ると国道の方へ向かって……」

 コナンの顔が曇る。

「まさか?」

「うん。車に轢かれて死んじゃったみたいだよ」

 小五郎が一人で外へ向かって歩く。

「おじさん?」

「篠宮 圭一を殺害したのはその女子高生で決まりだ。犯人が死んじまってる以上、俺たちには何も出来ねえよ」

「そ……そだね」

「コナン、帰るぞ」

「ああ、悪いんだけど僕は聡美姉ちゃんといるよ」

「そうか。聡美、悪いがコナンを頼んだ」

 小五郎はそう言い残して警察署を出て行った。

「お兄ちゃん、女子高生の件、調べるんでしょ?」

「ああ。交通課へ行こう」

 聡美とコナンは警視庁の交通課へ向かった。

「え、5年前に米花町の国道で轢かれた女子高生の加害車両の運転手を知りたい?」

 と、交通課の宮本(みやもと) 由美(ゆみ)が訊ねる。

「君たち、今度は何を調べてるの?」

「5年前の幼女連続誘拐殺人事件です」

「え、その事件と交通事故に何か関係が?」

「それを調べたいんだ。加害者のこと教えてよ」

「いいわ。この宮本 由美様に任せなさい」

 聡美とコナンは苦笑いをする。

(大丈夫かなあ……)

 聡美は思った。

「御影(みかげ) 俊哉(としや)。20代後半の会社員の男よ」

「それってどんな事故だったんですか?」

 国道で起こった事故は凄惨なものだった。

 横断歩道を渡っていた数人の男女を巻き添えにし、中央分離帯へと突っ込んで、女子高生だけが亡くなってしまった。

 現場にブレーキ痕はあったものの、本人からの警察への通報はなく、辛うじて意識のある被害者が逃走する車のナンバーを覚えていて、犯人は逮捕されたのである。

「現場、行くんでしょ? 乗せてってあげる」

 由美の申し出に二人は承諾する。

 

 

 米花町の事故のあった国道。

「ここはね、3年前にバイパスができて、今は旧道なの」

「なるほど。それで車の往来が少ないんですね」

 現場には歩行者用押しボタン信号と横断歩道がある。

 当時のブレーキ痕などは流れてしまってはいるが、聡美は当時の状況を想像する。

「けど不思議なのよねー。捕まえた御影は横断歩道の手前でブレーキをかけたと言ってるんだけど、ブレーキ痕は横断歩道を超えた先にあったのよ」

「……?」

 聡美は怪訝な表情を見せた。

「由美さん、ブレーキ痕はどこに?」

「横断歩道から数メートル先のあそこよ。けどそのブレーキ痕も変なのよ。前進のブレーキ痕ではなく、後退のブレーキ痕だったのよ」

(後退? もしかして、ひき逃げじゃない?)

「由美さん、その事故、殺人事件かもしれないよ」

 そう言うのはコナンだった。

「由美さん、御影の事故で死んだ子の名前教えて!」

「えっと……確か、如月(きさらぎ) 留美(るみ)だったはず」

 聡美はスマホを取り出すと、目暮に連絡を取った。

 御影と如月、篠宮の接点を調べるように、と。

 調査の結果、御影が加我山姉妹の異父兄妹であることがわかった。

 三人は警視庁に戻った。

 目暮に直接話を聞く。

「目暮警部、加我山 香が亡くなる時、何かの相談記録はありませんか?」

「実は彼女、ストーカーの相談をしていたんだ。そしてそのストーカーが——」

「篠宮 圭一ですね?」

 聡美は目暮が言い終わる前にその名を口にした。

「ああ、その通りだ。しかしなぜわかったんだね?」

「篠宮 圭一はなぜ香さんをストーカーしていたんでしょうか?」

「恐らく、香さんではなく、沙織さんを狙ったんじゃないか。そう捜査資料には書いてあった」

 そのことは沙織の依頼から察しはついた。

「捜査は打ち切りになったみたいですが、その直後に篠宮は亡くってますよね。その転落事故、他殺の疑いがあります」

「なんだって? 犯人は一体誰だね?」

「如月 留美。5年前、旧国道で御影のひき逃げで死亡した女子高生ですよ」

 目暮はチェアーの前に移動すると静かに腰を下ろした。

「あのマンションに住んでいた如月 留美が犯人だったのか」

「あのマンション?」

「篠宮が転落したマンションだよ。転落時に如月 留美が何かを見ていたんじゃないか、そう思って話を聞こうした矢先、ひき逃げで亡くなったからな」

「5年前となると、証拠はもうないと思いますが……ひき逃げの御影が如月を殺害した可能性があります」

「ひき逃げじゃいのかね?」

「そこも含めて、目暮警部には御影の事情聴取をお願いしたいです」

「わかった。手配しよう」

 その後、警察の捜査で事件の真相が判明した。

 時系列はこうだ。

 5年前、幼女連続誘拐殺人事件が発生。

 誘拐をしたのは如月 留美で、殺害したのが篠宮 圭一だ。

 その事件の捜査を担当したのは、当時、警察官だった御影 俊哉だ。

 如月の死後、御影は警察を辞め、民間の会社に転職していたが、交通捜査課の捜査でひき逃げが発覚し、逮捕されることとなった。

 しかし、そのひき逃げは妹の香が殺害されることとなった加害者を始末するための計画的犯行だった。

 車で殺害する際、無関係の人に対しては自身のドライビングテクニックで被害を最小限に抑え、如月だけを確実に轢き殺したのである。

 前進では殺し損ねたのか、バックで如月を車で中央分離帯に挟み込んで他害したのだ。

 如月殺害に使った車には、自分に捜査の手が及ぶのを遅らせるため、偽造ナンバーを取り付けていたという。

 殺害の一週間前、捜査が打ち切りになっていた。

 この時、御影は如月のこともマークしていた。

 御影は単身、如月に話を聞いてた。

「如月さん、幼女連続誘拐殺人事件の誘拐犯は君だね」

「なんだ。もうバレてんのか。そうだよ。私が誘拐犯。殺害しているのが、圭一だよ。あいつ、私にゾッコンでね。私の言うことなんでも聞いてくれるから、ゲームをするのが楽だったわ」

「ゲーム?」

「そ、ゲーム。女の子誘拐して、殺して、捕まらずに一生を終えることができるかどうか」

「もうやめてくれ」

「いやだ」

「条件を出そう」

「条件?」

「篠宮 圭一を殺してくれ。そうしたら君の誘拐行為は不問にしてあげよう」

「嘘。マジで?」

「ああ」

「わかった。じゃあそうする」

 御影はニヤリと笑みを浮かべた。

「あ、電話だ」

 如月が電話に出る。

「いい子を見つけた。沙織って子。その子を殺したい」

(沙織? まさか!)

「はあ? お前何勝手に決めてんの? 沙織ちゃんには手を出さないで!」

 沙織の姉、香は如月の親友だった。

「留美さん、今回は僕が自分で連れ帰って解体する。だから留美さんは何もしなくていいよ」

「あんた今どこいんの?」

「杯戸公園だよ」

 杯戸公園に目出し帽を被った篠宮 圭一がいた。

 篠宮は杯戸公園で香が沙織から離れるのを待っていた。

「沙織、ごめん。お姉ちゃん、トイレ行ってくるから、ここを動かないでね」

 香は公衆トイレへと入っていく。

 一人になった沙織に篠宮が近づく。

「……………………」

 沙織は無言で篠宮を見た。

「お嬢ちゃん、楽しいところへ連れてってあげるよ」

 沙織の腕を掴み、連れ去ろうとする篠宮。

 抵抗する沙織。

 そこに、用を足し終えた香がトイレから出てくる。

「あなた何やってんのよ!?」

 香は篠宮を蹴り飛ばすと、沙織を連れて逃げ出した。

「待てよてめえ!」

 篠宮が香の肩を掴んだ。

 香が振り返ると同時に鈍い音がする。

「……!」

 香の腹部にナイフが刺さっている。

「妹に……手は出させ……ない……わ……よ」

 香は倒れた。

 篠宮は逃げ出した。

「……………………」

 沙織は香の様子を見ている。

 香は119番通報をしようとスマホを取り出したが、力尽きて息を引き取った。

 そこへ如月と御影が駆けつけた。

「香!」

 御影が香に駆け寄った。

「香……!」

 御影は香の脈を確認した。

「……………………」

 立ち上がる御影。

「沙織、君は帰りなさい」

 沙織は無言で帰って行った。

「俊哉さん、圭一殺したら、本当に私の事を逮捕しないでくれる?」

「ああ、約束する」

「わかった。じゃあ殺す。私のマンションの屋上で」

「殺害後、俺が車で遠くへ逃がしてやる。ほとぼりが冷めた頃に迎えに行く」

 と、言うのがあの日起こったことだった。

 そのあとは警察の捜査通りだった。

 聡美は調査報告書をまとめ、沙織に書類を渡した。

「犯人たち、死んでるんですね。しかも、その犯人たちをお兄ちゃんが……」

 聡美はなんと声をかけていいかわからなかった。

 沙織は「お世話になりました」と、お辞儀をして工藤邸を出て行った。

 

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