このお話を読む前に偉大な原作 北斗の拳 を何らかの形でご覧になって頂けると、大変うれしく思います。脳内再生がはかどると思うので。
なお、この物語はフィクションです。えぇ、フィクションですとも。
このお話を読む前に偉大な原作 北斗の拳 を何らかの形でご覧になって頂けると、大変うれしく思います。脳内再生がはかどると思うので。
なお、この物語はフィクションです。えぇ、フィクションですとも。
西暦199X年、地球は核の炎に包まれたが、人類は死に絶えてはいなかった。暴力がすべてを支配する世の中になり、世にはヒャッハーと叫び暴れまわる無頼どもが阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出していた!
……そんな時代が過ぎ去ってはや200年くらい。
世界は核戦争前の平和な姿を取り戻していた!
……だがぁ! しかしぃ! ヒャッッハーたちはぁ! 滅びてはぁ! いなかった!!
西暦22××年、天帝の国 某街 某所
「キャー!」
「酒だぁ! 酒をだせ! 酒をぉぉぉ!」
平和な街の行列ができる人気のカフェに突如現れたヒャッハーな姿の男!
具体的にはモヒカンヘアーに凶悪な面構え。その面構えには様々な入れ墨がある。そびえたつような長身のヒャッハー! の上半身は当然のように裸! 浅黒く鍛え上げられた肉体はまさに鋼の肉体! ズボンは革! 当然のように革! そんな周りから二世紀ほど浮き上がった男が、平和な街、その街角のカフェに! そのオープンテラスの席をいきなり順番を無視してテーブル一つ占拠して座り込んだ。恐ろし気に男を見る行列の客。その中には小さな子供たちも少なくない。
そこに恐る恐る近寄るそのカフェのウエイトレス。かわいらしい制服に身を包んだ少女だ。
「……あの、お客様……。当店ではお酒は提供しておりませんので……」
その言葉に激昂するヒャッハー! 立ち上がり小柄なそのウエイトレスを急角度で見下す形で喚き散らす!
「なぁにぃ! 俺に飲ませる酒がないっていうのか、テメェ!」
そういって拳を振り上げるモヒカン男! そこに駆けつける警察官!
「そこの半裸の男! 警察だ! 大人しくしなさい!」
「なぁに~! 雑魚どもぉ、邪魔だぁ!」
だが、屈強な警察官にもモヒカン頭のヒャッハー! は恐れる様子もなく、逆に警察官たちに襲い掛かる!
「ぐぁ!」「ぎゃぁ!」「ぶへぇ!」
あえなく蹴散らされる警察官たち。倒れた警察官の一人(イケメン)にとっさに駆け寄るウェイトレス。
「警官さん、大丈夫ですか?」
「うぅ……。逃げてください、お嬢さん。あの男は危険です」
そう身を寄せ合う警察官とウェイトレスに影が落ちる。
「……なぁに俺様の目の前でイチャイチャしてやがるんだぁ? テメェら。ん? おねえちゃん、お前よく見るとカワイイな。よし、酒をさっさともってこい。そして俺にお酌しろよぉ」
そういってすくい上げるように丁寧に彼女を持ち上げるヒャッハー!
このままでは彼女の身に、あんなことやこんなことがおきてしまうかもしれない! 周囲の人間がそう思ったその時! 傍若無人なヒャッハーの肩に手がかかる!
「貴様、そこまでにしておけ」
現れたのはGジャンに赤いシャツ、ジーパンに身を包んだ黒髪の男。その肉体は服越しでもわかるほど引き締まっており、顔は濃い。かなり濃い。そしてそのぶっとい眉毛の下から鋭い視線をモヒカン野郎に向けていた。
「なんだぁ、お前はぁ!」
そういって丁寧にウェイトレスを足から地面に下した後、振り返りざま黒髪の男に殴りかかる!
だが! それより速く! 無数の拳がヒャッハーを襲う!
「アタタタタタタタタタタタタッタタタッタタタタタタタッタタタタッタタタタ、アタァ!」
北斗百裂拳!
マシンガンから打ち出されたかのような無数の拳を全身に受け、そしてそのまま硬直し棒立ちで立ち尽くすモヒカン!
そこで黒髪の男から、一言!
「……お前はもう死んでいる」
そう告げられたモヒカン! 固まったまま反論する。
「なにぃい、体が動けねえだけで別になんとも……」
だがそういうヒャッハーの耳、鼻、そして口からおびただしい血が流れだす! そして!
「ぶべら!」
と最後に叫んで倒れるモヒカン!
「おぉ! やった!」「助かりました、ありがとう!」「さすが北斗神拳伝承者!」
という周囲から感謝、喝采の声!
その声に背を向け、去っていく黒髪の男。何故か早く立ち去りたいといわんばかりの速度で、しかし静かに彼はその場から消えた。
代わりにやってきたのは、バンタイプの車だ。後部の大きなドアを開け、倒れたヒャッハーの体をその車に乗せる。それを見守る子供たちの眼には怒りが。悪いことをしたやつへの怒りがあった!
……だがその一方大人たちの目には憐れみと、そして幾人かの目にはうっすらと涙が。
粛々と車に乗せあれるモヒカンの巨体。閉まるドア。去っていく車。
こうして今日もいつまでも滅びぬ過去の遺物たる狼藉者は、正義の北斗神拳伝承者の手によって退治された!
完!
その後の車内。
運転しているのは紺のスーツに身を包んだ官僚風の男。いかにもデキル男だが、華奢で暴力的な印象はどこにもない。その男が後部座席に向かって、明るく声をかける。
「田中くん~、もう起き上がっても大丈夫よ~」
「え? もういいんですか? いや~、今日の仕事もきつかったですよ~。さすが当代北斗神拳伝承者! まったく拳が見えないってすごいですよね~。ありゃただ棒立ちで喰らい続けるしかないですよ~」
なんと死んだはずのモヒカンヒャッハーがムクリと起き上がり話しだした! しかも敬語で!
「で、いかがでした? 今日のボクの仕事ぶり!」
しかも一人称が『ボク』! これは一体どうしたことか?
「いや~、なかなかよかったけど、もうちょっと派手に暴れてよかったかもねぇ。警察の人になんてアレ軽く撫でただけでしょ? あんなんじゃ勘のいい子供には気づかれかねないからさぁ」
「そうっすか~。いや~自分ではなかなかだとおもったんですけどねぇ。まだまだ一流のヒャッハーには程遠いっすか~」
「あと、あのウェイトレスさんへの扱いも丁寧すぎるよ~。あれじゃお姫様抱っこだし、下す時も割れ物注意だよ~」
「いや~、ボク性格的に女の人にひどいことするの難しくて~。あの最初の暴言も結構頑張ってやったんですよ~、実は」
「まだまだ若いな~、田中君は。まぁそのうちね、そのうち」
そうして何故かのんきな会話を繰り広げる車内に携帯電話のコール音が。どうやらそれはモヒカン男のもののようだ。電話に出るモヒカン田中。
「もしもし、あ、ケンシロウさんですか? お疲れさまでした、え? 体は大丈夫かですか? 大丈夫ですよ、ボク、ケンシロウさんの腕、超信用してますし。体も鍛えてますから大丈夫! えぇ、仕事ですから気にしないで、はい、じゃあ失礼します」
そういって切れる電話。
運転席の男が声を再びかける。
「ケンシロウ君?」
「えぇ、いつもすぐに電話してくれるんですよ、大丈夫かって」
「彼もまじめで優しい男だからねぇ。しかたないよ。でもこれもお上の方針だから。さぁ、今日はもう一回仕事してもらうよ! だから、早くタオルで血糊を拭いてねぇ~」
そんな言葉とともに今日も車はどこかへと去っていく。
これは西暦199X年、地球は核の炎に包まれ、暴力がすべてを支配する世の中になり、世にはヒャッハーと叫び暴れまわる無頼どもが阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出していた時代が過ぎ去ってはや200年くらい後のこと。世界が核戦争前の平和な姿を取り戻した世界のことである。
この物語は!
過去の悲惨な暴力がすべてを支配した、あの時代の! 悪しき教訓を忘れぬために!
再びあのような悲惨な時代が来ないように! 日夜、反面教師としてほんの少しの悪事を働き!
そして北斗神拳伝承者に倒されるためだけにひたすら体を張り続けるヒャッハーたちの、血と、愛と、涙の、物語である!
ちなみにこの愛すべきヒャッハーなモヒカンたち!
全員、国家公務員である!!!
今度こそ完!!!
人物紹介
田中ジョニー
24歳 国家試験第一種に見事合格後、適性試験を経て晴れてヒャッハーとなった社会人二年目の男性。最近の悩みは、休みに出かける時、夏でもニット帽が手放せないこと。
スーツの男
30歳 ヒャッハーたちの仕事をサポートする現場の責任者。割とノリが軽い。
北斗神拳伝承者
当代北斗神拳伝承者。国策とはいえ、罪もないヒャッハーたちを倒し続ける日々に、何か割り切れないものといたたまれない罪悪感を感じている。