館のメイドが話をする話。多分二分程度で読めるかと。過去作とは別に何の関係もありません。本当にただの短編。

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Q:貴方の好きな飲み物はなんですか?


あの、お嬢様。痛いのですが。

 実は私は珈琲も好きだ。もっとも、淹れる頻度も飲む頻度も紅茶のほうが多い。だが、だからと言って珈琲を飲まない理由にはならない。

 ここ幻想郷では嗜好品の類を手に入れるのは難しい。まあ、だからといって全く手に入らないわけではないが。だが、茶葉と違い豆は鮮度が命だ。なかなか美味しい豆に巡り合うことはない。

 

「さっきから朗々と語っているけど、一体何が言いたいわけ?」

 

 お嬢様は眉を顰めて私を見た。私は今お嬢様のために紅茶を淹れている最中だ。ガラスのポットの中では紅茶の茶葉が悠々と舞っている。

 

「何が、も何も……。あ、口に出てました?」

 

 私はポットにカバーを被せ、ティーカップを用意する。お嬢様は小さくため息をつくと机の上で手を組んだ。

 

「珈琲の何が美味しいか分からないわ。ただの苦い水じゃない」

 

「それは流石に偏見ですよ。紅茶と同じく、味、香りともに楽しむものです。私はどちらかというと後味が好きですが」

 

「興味ないわ」

 

 あ、はいそうですか、と私は適当に話を切り上げてティーカップに紅茶を注いだ。

 

 

 

 

 

 

「という話をしていたんだけどね。」

 

「いや、いったい何の話ですか?」

 

 人間の里で偶然すれ違った冥界の庭師に今朝の話をしたら、露骨に困った顔をされた。そんな顔をされたこっちが困るのだが。

 

「あなたは紅茶派? 珈琲派?」

 

「……緑茶派ですが」

 

 全く使えない庭師である。私は早々に庭師と別れた。

 

「珈琲は私も好きですよ」

 

 庭師と別れた途端、突然背後から声を掛けられた。この声には聞き覚えがある。私はできるだけ優雅に見えるように後ろを振り返った。

 

「人里ではあまり上質な豆が手に入らないのが難点ですね。館のほうではどうしているんですか?」

 

「お嬢様はあまり珈琲がお好きでないみたい」

 

 私は目の前にいる歴史家にそう告げた。次の幻想郷縁起の吸血鬼の項目に、珈琲が弱点として追加されるかもしれないが、まあ私の知ったことではないだろう。

 

「そうですか。それは残念ですね」

 

「ちなみに貴方は紅茶派? 珈琲派? それとも緑茶派?」

 

「抹茶派です」

 

 新勢力の登場に戦々恐々としつつ、私は人里を後にした。これ以上新勢力が増えてもたまらない。

 

 

 

 

 

「ていう話をしていたんです」

 

「珈琲は僕も好きですよ。たまにしか飲みませんが」

 

 古道具屋の店主は店の中をうろうろしながら私の話に相槌を打った。店主は棚の上から一つの箱を取り出すと、机の上に置く。

 

「このようなものは如何でしょう」

 

「このようなものはどのようなものなのでしょう」

 

 私が聞き返すと、店主は自慢げに胸を張った。

 

「最近入荷した最新式の筆記具です」

 

 確かに、机の上にはペンのようなものが置かれている。置かれているが、ペン先に触れてもインクが付くことがない。そもそも、筆記できるかどうかも怪しい。

 

「名前をタッチペンといい、これ一つで仮想世界を操作できる。実際に線を描くことはできませんが、縁起物としては良いものですよ」

 

「英語ってことは西洋のものなのかしらね。これの素材は?」

 

 一見石のようにも見えるが、妙に軽く、何より石特有の冷たさはない。

 

「最近よく入荷する素材なのですが、プラスティックで出来ています」

 

「まあなんでもいいわ。一つお包み願えるかしら」

 

 店主は手慣れた手つきで縁起物のペンを紙袋に包むと私に差し出した。私は提示された金額を支払い、店の出口へと向かう。

 

「そういえば、貴方は紅茶派? 珈琲派? 緑茶派? 抹茶派?」

 

「最近はコーラ派かな」

 

 随分とハイカラな。

 

 

 

 

 

「って話をしていたんだけどね」

 

「私は——」

 

「酒派でしょ。聞かなくてもわかるわ」

 

 帰りがけに寄った神社の縁側に座りつつ、隣に座る鬼に話しかける。鬼は瓢箪を傾けると、小さくしゃっくりをした。

 

「何をぉ。今少し馬鹿にしたか?」

 

「そんなことはないわ。私もお酒は好きだし」

 

 じゃあ飲めと鬼は私に杯を渡してくる。私はその杯をひっくり返すと膝の上に置いた。

 

「仕事中には飲めないわ。この季節に顔を赤くして帰るわけにはいかないもの」

 

「じゃあ酌だけでもしてくれよ」

 

「貴方その瓢箪から直接呷るじゃない。瓢箪ごと直接口に注いであげましょうか?」

 

 一向に構わんぞ、と鬼はケラケラ笑いながら大口を開ける。私はため息をついて鬼の口に日本酒を注いだ。

 

 

 

 

 

「ってことがあったんですよ」

 

「なんともまあ」

 

 お嬢様は興味なさげに相槌を打つと私の淹れた紅茶を飲んだ。その味には満足したらしく、ふむ、と小さく呟く。

 

「まあ趣味嗜好はそれぞれだから、別にそれでいいんじゃない。誰も強制しないし矯正しない」

 

「そういえば、お嬢様は紅茶派なんです? 今のところ紅茶派、珈琲派、緑茶派、抹茶派、コーラ派、酒派が出ていますが」

 

「無粋な質問ね。勿論私は」

 

 お嬢様は私の右手を掴むと、ゆっくりと引き寄せる。そのままティーカップの上まで引っ張ると、鋭い爪で私の親指の腹を突き刺した。

 

「血液派よ」

 

 滴り落ちた一滴の血は、そのままティーカップに吸い込まれるように落ちていき、紅茶の赤を紅にした。




A:私は珈琲が好きだったりします。

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