相互確証破壊(そうごかくしょうはかい、英: Mutual Assured Destruction, MAD)とは、核戦略に関する概念・理論・戦略。核兵器を保有して対立する2か国のどちらか一方が、相手に対し核兵器を使用した場合、もう一方の国が先制核攻撃を受けても核戦力を生残させ核攻撃による報復を行う。これにより、「一方が核兵器を先制的に使えば、最終的に双方が必ず核兵器により完全に破壊し合うことを互いに確証する」ものである。理論上、相互確証破壊が成立した2か国間で核戦争を含む直接的な軍事的衝突は発生しない。
(wikipediaより引用)

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抑えて止める力

 「もう大丈夫。何故かって? 僕が来た!!」

 

報道バラエティー番組の特集を横目に見ながら、俺は朝一の仕事で中断された朝食に再度ありついていた。肉厚の巨大なベーコンが挟まれた白パンに舌鼓を打ちつつ、リビングの壁に懸かった姿見で軽く髪を整える。肩までの灰色の髪を後方に撫で付け、赤黒いバンダナを巻くスタイルも、ほうれい線が目立つ老け顔も、小さな頃からずっと変わっていない。

 携帯端末の画像フォルダから保存したスクリーンショットを探し出し、これからの予定を確認する。その時ふと、『お気に入り』フォルダの最奥に保存された一番古い写真の存在を思い出し、それを表示させた。

 

「また見てるの?」

 

起き抜けの娘が、端末の画面を覗き込んでくる。この家は道を挟んで小学校の向かいにあり、彼女はホームルームが始まるギリギリまでゆっくり過ごすことができる。

 

「…まあな。あそこでのことは昨日のことのように思い出せる」

「お爺さんみたい」

「どうせ誰でも老人になるんだ、遅かれ早かれ」

 

 写真に写っているのは、制服を着た複数人の高校生。その中には当時の俺と妻、そして今テレビに映し出されている人物もいた。

 『平和の象徴』と呼ばれたナンバーワンヒーロー、オールマイトが力を失ってから十余年。彼の“個性”『ワン・フォー・オール』の継承者にして俺の同級生『デク』こと緑谷(みどりや)出久(いずく)が新たな平和の象徴となっている中、俺は仲間と協力してある社会システムを構築した。

 『SOP』――Societal Operations for Permanent Peace(恒久的平和の為の社会活動)の略称であるこのシステムは、ヒーロー達が相手取る敵の犯罪行為を抑止し、制裁を加えるものだ。システムは俺を含めた八人のヒーローからなる。上空から全国を監視、犯罪行為を発見し次第即座に敵の情報を洗い出す。逃亡しようともどこまでも追跡、捕捉、足止めし、最後に俺がとどめを刺す。システムの持つ抑止力を完全に機能させるべく、各々が持つ“個性”の情報はほぼフルオープンだ。

 まだデクらヒーローが活動していることからわかるように、犯罪全てが消えた訳ではないが、それでもシステム発動までと比べれば犯罪率は段違いに減少している。幼い頃から抱き続けた俺の夢は叶った。

 

 「…そんなに懐かしいんだ?」

「聞きたいのか?」

「あと二時間は暇だし、聞かせて貰おうかな。()()()()の昔話をさ」

「覚悟しておけよ…老人の話は長いぞ?」

 

何のことはない。遡る時間は少しだけ、丁度オールマイトが緑谷出久に“個性”を受け渡す一年弱前までだ。

 

「いいか、これは――この俺、歌野原(うたのはら)鳩遠(くおん)の、抑止力ヒーロー『ピースウォーカー』の、少年時代の話だ」

 

 

 

 

 

 出久との関係は小学生の頃からだ。全人口の八割が超常の力“個性”を持つ中、残り二割の『無個性』を理由にいじめられていたところを、俺が間に入って“個性”を使い、いじめっ子三人を成敗したのだ。…尤も、誰かに命令された訳ではないにしろ、“個性”の使用については俺の意思ではないのだが。

 今朝のホームルームでも、俺の“個性”は出久を守る為に躍り出た。人材の面でも()()()()()()、学校には俺を止められる者はいない。教室が大混乱に見舞われたのは言うまでもない。

 

 「よう鳩遠、今朝は災難だったらしいな」

「アンタ言うに事欠いてそれ…? 大丈夫鳩遠? 仕方ないにしても、先生に何か言われたんじゃない?」

「そうでもない」

 

放課後、校門から外に出ようとする俺に、同級生の男女が声をかけてきた。後ろ髪が上下左右の四方向にはねた銀髪――光の加減で虹色にも見える――の男が星乃(ほしの)(まもる)、刺々しい赤銅色のウルフカット――今日は、という言葉が最初に付くが――の女が(つたえ)(れい)。出久より付き合いそのものは短いが、ある理由でその関係性は出久よりも密接である。

 

「鳩遠って面倒事に巻き込まれる体質なのかしら」

「よく言うぜ、“個性”伸ばしにわざわざ危険地帯に行くこと鳩遠に提案したのはどこのどいつだったか」

「それを言ったら衛、アンタだってノリノリで触法すれすれのことしてたじゃない!」

「そうだっけ?」

「白々しいわね…」

 

 『無個性』の問題を差し置いて、二十年程前から取り沙汰されてきた問題がある。

 『認定特異個性』。保有者の意思に依らず不特定多数の個人の心身、財産を侵害する恐れのある“個性”、と定義されている。平易な言い方をすれば、()()()()()()()()()()()()()()危険性を持った“個性”のことだ。俺を含めたこの三人は、認定特異個性を持つ者同士。

 例えば、衛の“個性”は『サテライト』。気象観測、早期警戒、衛星通信、およそ人工衛星に可能なことならどんなことでもできる。大気圏外に位置する、被撃墜防止用のアクティブ防御システムが搭載された彼の人工衛星の正確な数は本人も把握しておらず、そのうちの幾らかを占める静止衛星は各国の軍事機密を入手可能な座標にも存在する可能性がある為に、認定特異個性に分類されている。

 零の“個性”は『カスタムロボ』。『ボディ』『ガン』『ボム』『ポッド』『レッグ』に分かれた数十種類のパーツを組み替えて自身の身体を構成するロボット人間だ。今はまだ全く問題ないが、将来的にはパーツ内部の燃料電池にあたる器官が経年劣化により爆発する可能性があるとして、認定特異個性に分類されている。

 そして、俺の“個性”は――

 

「…ん? ありゃあ…」

「緑谷君、よね。それと…」

 

 たった今、まさに発動しようとしていた。

 普段使っている帰路を辿ってきた俺達の前方には、もっさりした緑色の髪の少年…緑谷出久。彼は商店会の入り口に固まった人集りに向かっていく。その向こうから聞こえるのは、何かが爆発するような轟音。

 既に、身体の主導権は“個性”が握っていた。

 

「あ、おい鳩遠!!」

「また()()()()なのね…衛、一応監視付けといて」

「はいよ! だが案外体質ってのも頷けるかもな…!」

 

衛と零を置き去りにして、“個性”に逆らわず人混みの向こうへと急ぐ。商店会はあちこちが燃え、崩れ、破壊された惨状を呈していた。その中心は、人の形をとり損ねたヘドロのようなもの。幾人かのヒーローが駆けつけていたが、状況を打破できる能力を持つ者がいないのか、皆手を拱いていた。その上よく見れば、

 

「!!」

 

敵と思しきヘドロの中には、同級生の姿があった。

 

 「防衛対象への攻撃を確認」

 

“個性”の裁断が下るのと、出久がヘドロに向けて飛び出していくのとは、ほぼ同時だった。

 

「報復攻撃開始」

 

 俺の意思に関係なく紡ぎ出されていく言葉をトリガーに、俺の身体に不可視の外骨格が形成されていく。外骨格の背中側から湧き出るように現れた黒い金属製の‘箱’、俺はその下のグリップを掴み、左肩に担ぐ形でヘドロに向けた。

 

「サーモバリック弾装填」

 

左手に、ガコン、という手応え。攻撃の準備が整ったことを意味する。接近した出久はヘドロに鞄を投げつけているが、彼のお陰でヘドロの動きが止まったこのタイミングなら巻き込まずに済みそうだ。何より、俺は“個性”の判断を信じている。

 

「ロケットランチャー発射」

 

文字通りの宣言。前方にロケット弾が発射される。宣言を聞いて横っ飛びに飛び退いた出久の横を、ロケット弾は目にも留まらぬ速さで通り過ぎ、ヘドロの脇で炸裂。極小規模ながら猛烈な火球が発生した。

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!?」

「ぐぅ…クソが!!」

 

 瞬間的に高熱に晒されたヘドロは水分が蒸発、固形燃料と化して燃え上がる。対して囚われていた同級生は無傷で脱出する。彼が爆轟(ばくごう)勝己(かつき)…『爆発』の“個性”を持った腐れ縁でなければ、俺の“個性”はロケットランチャーを使ったりはしなかっただろう。

 

 「怪我はないな、出久」

「くーくん?! どうして君もここに?!」

「俺の“個性”と、信念に従ったまでだ」

 

救出劇の立役者となってくれた出久の前に立ち、再度ロケットランチャーを構えてヘドロを見据える。近くの水場で何とか鎮火と水分補給を済ませたヘドロは、ぎょろりとした眼でこちらを睨み返した。

 

「お前ェ…!!」

「……ッ」

 

何度経験しても、この視線には慣れない。(ヴィラン)の、人を殺すことに躊躇のない眼。悪意、敵意、殺意…それらは全て俺の“個性”が行なう報復行動の苛烈さを増す糧にはなるが、俺の心は、未だにそれらへの恐怖を拭い切れずにいた。

 だが、それが報復を止める理由にはならない。

 それが“個性”による代弁だとしても、やられたら…守るべきものを侵されたのなら、絶対にやり返す。それが俺だ。

 

「警告する。即刻投降しろ。火炎放射器にドリルミサイル、白燐手榴弾や自由電子レーザー砲まで…俺の“個性”には、貴様を焼き尽くす算段など幾らでもある」

「フンッ! ハッタリかましたって無駄だぞガキ!!」

「後悔するぞ。俺の“個性”は俺にも制御できんからな」

 

 こちらの警告にもヘドロは応じない。睨み合いが続き、最早交渉決裂…否、脅迫が通じないとなればと、“個性”が俺に次の報復行動をとらせようとしたまさにその時、

 

「DETROIT…SMASH!!」

 

横合いから掛け声と共に振るわれたその一撃は、その余波だけでヘドロを吹き飛ばした。

 その声には覚えがあった。メディアへの露出も多いヒーローの中のヒーローであることもそうだが、

 

「…オールマイト…ッ!!」

 

何より彼とは、九年越しの再会となる。

 天候すら変える拳に野次馬が万雷の拍手喝采を送る中、かつてと変わらぬ姿で雨中に佇むオールマイトは、口の端に僅かに血を滲ませていた。

 

 

 

 

 

 飛び散ったヘドロが駆けつけていたヒーローらに回収され、警察に引き渡された後。無謀にも自分の身を危険に晒した出久はヒーロー達にこっぴどく怒られ、勝己はヘドロに取り込まれそうになりながらも耐え抜いたタフネスと強力な“個性”を讃えられた。

 一方俺は。

 

「これを」

「ん…なるほど、君があの鳩遠君か。噂は聞いているよ」

 

俺を補導するつもりで来た警官に、一枚のカードを見せていた。『認定特異個性保有証明書』。保険証に記される“個性”の情報とは別に、認定特異個性保有者に所持・携帯が推奨される一種の身分証明書で、これがあるだけで保有者には絶大なアドバンテージとなる。

 本来“個性”を許可なく公共の場で使用することは、たとえ自衛の為であっても固く禁じられているが、他者に害を与える可能性を自分の意思で制御できない“個性”については、裁判でも無罪、有罪の場合でも大きく減刑される。そして俺のような、「特定の条件下で()()()()発動する」“個性”は尚更だ。

 

「認定特異個性『相互確証破壊』…これまた仰々しい名前の“個性”だ。(ヴィラン)は虎の尾を踏んだってところかな」

 

相互確証破壊(Mutual Assured Destruction)』。冷戦期に生まれた概念に由来する名を持つこの“個性”は、自分もしくは自分が「守るべきである」と判断している人やものが、何らかの形で攻撃を受けた場合――正確には、「攻撃を受けた」と“個性”が()()()()場合――、報復攻撃を行なうものだ。基準こそ俺の意思によるが、“個性”そのものが報復の意思決定を行なっている為、“個性”の発動に俺自身の意思は介在せず、報復行動への「同意」によって、報復の確実性(つまり報復の威力と規模及び報復行動中に妨害を受けても報復を続行する為の防御力)が向上するのみである。

 

「俺や俺の大切なものに攻撃することは、自分に向けて核ミサイルのスイッチを押すも同義です」

「それは恐ろしい…」

 

 警官は調書を取りたかったようだが、任意であることを知っている俺はきっぱりと断った。商店街から離れると、衛と零に合流することができた。

 

「遅くなった」

「いんや、気にすんな!」

「今日も鳩遠の鉄槌が炸裂! だったわね!」

「ならよかった。早速だが衛、オールマイトがどこにいるかわかるか?」

「確かに、マスコミいなしてすぐどっか行っちゃったけど…どうかした?」

「どうしても話したいことがある」

 

話したいこと、というより、言いたいこと、というべきか。ファンだと自負するつもりはないが、俺にはオールマイトに大きな恩がある。それを伝えたかった。すると衛は胸を張って答える。

 

「じ・つ・は、さっきオールマイトとすれ違ったんだけど…その時こっそりGPSで追跡できるように設定しちゃいましたぁ!! …あだぁ!?」

「だから触法スレスレだって言ってんのよこの馬鹿ァ!!」

「ふぉ、フォーミュラーレッグでの脛への一撃…クリーンヒットです…」

 

衛の“個性”は、衛星から得た情報を指定した人間に送信することができるが、その逆に、衛星通信によって指定した対象から情報を送信させることもできる。彼は“個性”の訓練の一環として、俺と零を含めた他人の位置情報を取得する行為を小学生の頃から‘極秘に’続けているが、ストーカー行為そのものなのは明白である。

 ともあれ、情報が得られるに越したことはない。

 

「すぐに向かうぞ」

「ほら衛、置いていくわよ」

「ま、待ってくれ、“個性”に一切のフィジカルな恩恵がない俺を置いていかないで…!」

 

脳内に送られてくる位置情報は、すぐに地図データに変換されてオールマイトと自分との位置関係を示す。入り込んだのは閑静な住宅街。角を曲がればオールマイトを拝めるだろうと踏んで、いざ飛び出してみると、

 

「…?」

 

先程までのオールマイトの服装――非番(オフ)なのか私服だった――と同じ服を身に纏った痩身の、というよりげっそりとした金髪の男が立っていた。

 

 「…ねえ、衛」

「…言いたいことはわかるが、何だ?」

「アンタの“個性”、今調子悪かったりしない?」

「いやいや、すこぶる調子がいいぜ。校長先生絶好調」

 

地図上でオールマイトがいると表示されている場所に、あの男がいる。それはたった一つの事実を表していた。

 

「「「オール…マイ…ト…?!」」」

「む…? …ハッ!?」

 

彼が、オールマイトその人であるということ。

 居合わせた出久――ほんの数十分前に同様の事実(真の姿)を知ったばかりの彼と、オールマイトは話していたようだった。オールマイトは出久にもしたらしい説明、即ち五年前の戦いの後遺症による変化を簡潔に述べ、そして絶対に口外しないことを、俺達に約束させた。…無論、追跡も外すよう衛に言いつけた。

 そして、立ち去ろうとする彼を、俺は引き止めた。

 

「…オールマイト。俺を覚えている筈だ」

「…ああ。覚えているよ、歌野原少年」

「九年前のあの時、貴方に言えなかったことがある」

 

振り返るオールマイト。痩せ細ってはいるが、その眼光は衰えてなどいない。むしろヒーローとしての姿を剥ぎ取ったことで、一層強調されているように感じられる。最初は真の姿に驚きこそすれ、やはりその眼が頼もしくなって、投げかけられた視線に応えられた。

 

「止めてくれて、ありがとう」

 

 九年前の夏、俺はオールマイトに初めて遭遇した。立ち位置で言えば、俺が(ヴィラン)だった。

 朝鮮民主主義人民共和国、通称北朝鮮は、超人社会が訪れても尚挑発的な軍事力の誇示を行ない続けていた。これまでも日本は領海に北朝鮮の放った弾道ミサイルが落下しており、その日もまた北朝鮮はミサイルを撃ってきたのだ。

 しかし、この時あるテレビ局が流した速報がいけなかった。弾道計算の誤った結果を鵜呑みにしたまま放送してしまい――具体的には、関東に核ミサイルが落下すると報じてしまったのである。幼い頃から「やられたらやり返す」を地で行っていた俺の“個性”は、俺の有り余る愛国心と報復心、そして僅かな情報を元に報復の意思決定を行なった。

 

 “やられたまま死ぬのは負け犬だ! 家族が死にこの国も滅ぶのなら、北朝鮮も道連れだ!!”

 

 つまり、北朝鮮への報復核攻撃である。

 “個性”が報復の為に召喚する兵器は多岐に亘るが、特に極めて重大な報復の意思決定を行ない、且つ俺自身の報復の意思が最大限に同調した際には、“個性”の結晶たる真の姿『AI搭載自動報復歩行戦機』、通称『ピースウォーカー』を呼び出し一体化する。この形態では一メガトン級の長距離核ミサイルを発射可能になり、球状の頭部に内蔵された百メガトン級の水爆による自爆さえ報復の選択肢に入ることになる。――これが、俺の“個性”の名称の所以にして、認定特異個性に分類される最大の理由だ。

 最大限の同調が可能にした圧倒的な防御力は、駆けつけた並み居るヒーロー達の攻撃を悉く弾き返し、Sマインとロケットランチャーで返り討ちにしてみせた。そして遂に長距離核ミサイルの弾道計算が終了しようとしていたところで、オールマイトが現れたのだ。

 

 “ニュースを見たまえ歌野原少年!! ミサイル発射は失敗した!!”

 

 周りの野次馬もヒーローも、俺を止めることに夢中でニュースなど見ていられなかったらしい。ミサイルが適切な再突入角度を維持できずに空中分解、日本海に落下したという情報、そしてそもそも北朝鮮に日本を攻撃する意図がなかったという情報を取材先の北朝鮮で入手したのが、今は亡きジャーナリストにして軍事アナリストの父、歌野原哀斗(かなと)だったのは、後で知ったことだ。

 オールマイトの言葉で、俺はようやく報復を中止した。両親は逮捕、俺は少年院に行くことになりかけたが、俺の“個性”の特性が判明したことで、半年後に普通の暮らしに戻ることができた。…故郷の茨城県から、ここ埼玉県まで引っ越して。

 

 「俺は今、この二人…衛と零と共に、ヒーローを目指しています。俺が持って生まれたこの力を、全ての悪への、(ヴィラン)への抑止力とする為に」

 

俺は“個性”に『相互確証破壊』の名が与えられた時、その由来を調べた。その時に出てきた「抑止」…脅迫して思い留まらせるという意味の単語が、冷戦という時代そのものを表していた。お互いが相手の力に恐怖していたからだ。だが、今の超人社会で(ヴィラン)が“個性”を持ちそれを振るうことは、恫喝というレベルを凌駕している。己の力に驕り昂ぶり、相手を捻じ伏せようとして、「抑止」はまるで成り立っていない。

 だからこそ、俺は抑止力としての己の力を世界に知らしめる必要がある。俺がヒーローを目指す以上、「守るべきもの」は平和に生きる人々の全て。それを侵すものは、何人も許しはしないのだと。

 それこそが、俺のヒーロー像だ。

 

 「…では、私からも言葉を贈らせて貰おう。君のことは、さっき見ていたからね」

 

オールマイトが口を開き、俺は耳を傾けた。

 

「慣れない銃は握るなよ。構えるだけでは、抑止力にはならないぞ」

「ッ…肝に銘じます」

 

彼は見ていたのだ。俺があのヘドロに相対した時、相手に抱いた恐怖を。そして俺の“個性”は、ピースウォーカーは、平和を望む心ばかりでなく、俺の恐怖心が創り出した怪物そのものでもあることを、彼は見抜いていたようだった。父も遺していた…「恐怖を味方につけろ」と。

 夕焼けの中に去っていくオールマイトを、俺は見えなくなるまで見送った。

 

 「衛、零。明日からまた訓練を始めよう」

「マジかよ鳩遠!? またヤの付く自営業に殴り込みか?!」

「いや、ヒーローと(ヴィラン)の戦いにもっと積極的に近付いていく」

「野次馬根性逞しいどころの話じゃないわよねそれ…」

 

ヒーローになるには、今朝のホームルームでも出た話題――進路希望調査にヒーロー科を書き込むことになる。狙うは偉大なヒーローの絶対条件とされる国立雄英高等学校ただ一つ。筆記と同時に実技も試験として課されるのだから、戦闘能力を高める必要があるのは当然といっていい。

 

「だがまあ…どっちみちやらなきゃなんねえしな」

「そうよ。小三の頃から約束してたものね」

「…“俺達で、ヒーローチームを作る”」

 

 俺の抑止力の、それが第一歩となる。




現状、対人戦闘訓練終了までしかプロットは作っておりません。
原作コミックを所持していないためネットで得た僅かな知識のみで書き上げています。

雄英までの道のりが地下鉄乗り継ぎ四十分なのに静岡はおかしいと感じたため、埼玉県に修正しました。

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