わたしたちは『幸せ』、あるいは『平和』の代償として多くのものを失った。
いや、失ったのではなくて彼らがそう望んだのだ……大好きなわたしたちを守るために。
彼らはその身を犠牲にして、わたしたちを救った。
「……でもね」
わたしが望んだのは、こんな幸せじゃなかったんだよ?
ただ皆が笑って泣いて、たまには喧嘩をして……それから、また泣いて笑ってを繰り返す。
傍から見れば、くっだらなくて何の面白みのない日々。
「足りないんだよ……全員が揃ってないと意味がないんだよ! わたしたちだけがこんな日常を送っても……意味ないよ!」
今更な叫び。
今更過ぎる叫び。
もうとっくに手遅れなことなのに、叫ばずにはいられなかった。
「何か一言でも言ってくれれば良かったのに! わたしたちにだって何かできたかも知れないのに……」
あはは、馬っ鹿みたい。
自分が一番分かっているはずなのに……悲劇のヒロインみたいなこと言っちゃって。
もし全てを知っていたとしても、あの時自分には何もできなかっただろうに……。
『無力』って辛いよ、ほんと。
ただ黙って指を咥えているだけ、時が流れるままに身を任せるだけ。
ひたすら傍観。何もできない。
「……」
ただ黙って今の、わたしにとっては偽りの幸せを堪能するしかないの?
ねえ、誰か教えてよ。
本当にもうどうにもならないの?
皆にもう会えないの?
「誰でもいいから、さ……教えてよ!」
@ @ @
人類が今暮らしているこの世界は、地球ではありません。
じゃあ何なのかと訊かれれば……それを言葉で表現するのは少し難しいですね。
けれども例えるなら―そう、『ノアの箱舟』。神々たちが人類を洪水とも形容すべき災厄から逃がすために造りだした『箱舟』……最後の希望。
人類はその中で暮らしています。
この真実を知っている者は殆どいません。
それと同時に、この真実を知ろうとする者もいないでしょうね。
いや、そもそも知る必要がないのでしょう……。
「ですが全人類……とまではいきませんが、違和感を覚えている者が多数いるようです。さらにその中には、神々たちが消えたことも知っている者が極少数」
不思議なことではないです。
何十億年もの間、人類と神々たちはそれこそ一心同体と言ってもおかしくないほどに、密接に接してきました。
人類にとっては親そのもの。突然いなくなってしまえば、誰でも不自然に思うことでしょう。
それが例え『霊力』を失った状態であったとしても。
「そんな彼らの想いが、この私を呼び起こした。私の『使命』、『存在理由』……ええ、全て理解っていますとも」
私が何のためにここにいるのか。
それはこの人類を真の『幸福』へと導くこと。
神々たちを取り戻し、本来の未来へと舵を取ること。
これは一つの悲しい世界に過ぎないのですよ。こんなの嫌でしょう? 辛いでしょう? 苦しいでしょう?
……どうせなら幸せな結末が良いでしょう?
「ねえ、そうでしょう? 月読 鎖々美」
私が叶えてあげましょう、その希望を。
長い間、傍観を続けてしまった私にも責任がありますからね