これは本来この世界では確認できず、そもそも知ることもできない世界。その青空広がる夏の日、吸血鬼は外へ出た。

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「青空に映える紅」

 

 

 

満開の花がギラギラ輝く太陽の光に当たり、よりその花の強さを引き出している夏の頃。雲がぷかぷかと空に浮かび、青い海に多様な鮮やかさを生み出していた。

━━━━━幻想郷。忘れられた者たちが集う世界。それ故にこれは虚実、フィクションだ。だが、幻想郷という世界の中で生きる少女たちにとっては現実、ノンフィクションだ。

そんな中、太陽に一際弱い種族、吸血鬼のレミリア・スカーレットはいつもより大きめのフリルつき日傘をさし、隣には一番信頼できるレミリアのメイド、十六夜咲夜が最大限の注意をはらいながら主人をエスコートしていた。夜の支配者である吸血鬼が何故昼間から外出しているのか、それは彼女たちの目的地にあった。

「……暑いわね咲夜」

先程まで二人の間に流れた何もない時間。今までならそれも一興だとゆっくりしていたが、今の彼女たちは急いで目的地に行こうとしていた。吸血鬼とは至高の種族。人間で言うならば貴族のようなもの。故にレミリアは昼間ということもあってゆっくり歩いているように見えるが、本心は随分と焦っていた。そのため、沈黙をうち破ろうとした結果として、今の言葉がするりとレミリアの口から出た。ほんの気休めにしかならないような主の部下に対する言葉に咲夜は思考がフリーズするが、すぐその意図を察し、「いいえ」と首を横に振って答えた。

「お嬢様は暑いですか?喉が渇いたのでしたらパチュリー様から頂いた水筒に水が入っておりますが」

「大丈夫よ。それにその水筒は私がパチュリーに頼んで用意して貰った物よ」

「そ、そうでしたか……」

レミリアの友人で魔女でもあるパチュリーが用意した水筒ということもあって普通の水ではなく、何か飲んだら気分が良くなるような魔法でもかかっているのかもと少し注意していた咲夜だったが、レミリアが用意させたと言われて余計心配になった。奇想天外なことを思い付くお嬢様に尊敬の心すらあれど、いつもハラハラさせられるのだ。だが、そんな事を口に出すことはなく、申し訳ありませんと言ってペコリと頭を下げた。そんなことをしながらレミリアたちは鬱蒼とした林に足を踏み入れる。日傘を持っているからといっても直射日光に当たればレミリアは灰になってしまう。それを回避し、かつ目的地に安全に到着するためには、少しでも迂回して日陰の場所が多い林に行った方が得策なのだ。レミリアは日傘を閉じて小走りで進んでいく。咲夜も歩幅を合わせて道の途中に落ちている倒木を飛び越えた。

「……ありがとう咲夜」

突然レミリアは咲夜に感謝の言葉を伝えた。いつの間にかレミリアの目の前には鬱蒼とした木々ではなく、青空と平原が広がっており、更に遠目には人々が住む大きな里が見えた。咲夜は……というか幻想郷の住人の殆どがこういった特殊能力を持っており、それを「〜程度の能力」と呼称している。咲夜はその中でもかなり異質な部類に入る「時を操る程度の能力」を持っているのだ。時を戻すことはできないにしろ、時を止めて小柄な主を脇に抱えて鬱蒼とした林を越えるぐらいわけないのである。レミリアは感謝の言葉を述べた後、また大きなフリルのついた日傘をさす。咲夜はありがとうございますと感謝を返して先に進む。少し照れている自分の顔を見られたくないために……そういった分かりやすい従者の行動に少し落ち着きを取り戻したレミリアは少し咳き込んでから歩き始めた。

「こほん。さあ、もうちょっとね」

「はい」

咲夜は主が横に来るまで立ち止まり、二人は歩幅を合わせてまた歩き出した。

━━━━━二人が到着したのは人間が多数住んでいる里。ここが当初の目的地である。レミリアと咲夜は堂々と道のど真ん中を歩く。妖怪が我が物顔で人里の道を闊歩するなどとは許されることではない。だが、妖怪の中でも高等種である吸血鬼に時を操ることができる人間相手にすることができるのはチートじみた化け物だけだろう。そのため、人々が彼女たちを避けるのは当たり前であった。ひそひそと道の端で、恐らくレミリアと咲夜の悪口を言っているのであろう人の声を消そうかと咲夜の目が鋭くなると、レミリアは振り返りもせずに咲夜を静止させる。

「無駄なことはするなよ?」

「……承知いたしました」

咲夜にとって主の侮辱をする者は第一級の削除標的であり、万死に値する。それをあろうことかレミリア主本人にストップをかけられ、ぐぬぬと堪える。そんなこと露知らず、レミリアは一つの店に目をつけ、そこに入る。

「邪魔するぞ」

「はいよー……ってあんたか」

店に入ったや否や、店のカウンターの奥から一人の男が出て来てレミリアを見た瞬間、ため息をついた。咲夜はまたこんなのがとすぐナイフを取り出して、グサッとしたい気分に駆られる。

「なあに、霊夢みたいに恐れ知らずなんだ咲夜」

「博麗の巫女さまと一緒にしないでくれ。俺は客には殺されんと高を括ってるだけだ」

ククッとレミリアは笑っているのを横目に咲夜が店に展示している品物を見る。貴金属類や、季節外れの編み物等……男が経営している店という一見だったが、女物のアクセサリーが並んでおり、一気にイメージがひっくり返った。ただし……

「あの……このイヤリング、片方しかないんですけど」

「それは買わない方がいいぜ。呪われてるからな」

(それは品物というの!?)

「この赤いヒールなんか私に合いそうだな」

「あ、それも呪われてるグッズだわ」

(まともなのがない!)

香霖堂以上にまとな品々が存在しないこの店、繁盛しているのかと逆に心配してしまう。そんなことを考えている咲夜とは別に品物を見ていたレミリアが一つのアクセサリーに目を止める。

「店主、それ一つ」

「おお、珍しく呪われてないやつだなそれ」

(ほんとにまともなのがない!)

レミリアが何かのアクセサリーを購入し、袋にいれて貰うと一言も言わずに店を出る。

「いい買い物だったわね」

「そ、そうでしたか……」

「さて、もう一歩きするわよ」

「え?今回は買い物だけでは……?」

「気が変わったわ。もう少し色々と歩きましょう。二人で」

「……!はい。どこまでもお供しますわ」

先程の店で疲れてしまい、気が進まなかった咲夜だったが、レミリアの言葉の「二人で」の部分にその気疲れもどっと吹き飛んだ。二人とも微笑ましく笑いながらゆっくりと歩いた。今度はこの時間を楽しむために……

 

 

 

 


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