急いで書いたので内容を見た読者さん方がどう感じるか自信ありませんが、どうぞ見ていってください。
「みんな、いるかしら? 大丈夫そうね。
ではこれより、第二回特災史の講義を始めるわ」
半擂り鉢状に造られた講堂の左右に控える教官の一人が「起立!」と号令の発した後に、
全員が一斉に席を立つと「敬礼!」で返礼して「直れ!」「着席!」と流れるように
一週間の間に叩き込まれた動作を終えて席に着く。。
初めての操縦訓練から翌日、他の第6期生と講堂に来た俺は時計を見て現時刻
「本来なら古い順に怪獣を紹介したかったけれど、最近頻発するギャオスの被害を考えると事態は切迫しつつあるわ。
そのため、今回はギャオスとは何なのか、それを講義の内容にするわね。質問はこちらが許可した上で受け付けます」
前回と同じように講堂の照明が消されるとスクリーンに映像の投影が始まった。
「現在でこそギャオスと一般的に呼ばれているけど、奴等の別名は他にあるわ」
家城教官が前置きした直後スクリーンには、四年前の俺にとっても悪夢だった怪物の顔が映し出された。
「飛行型巨大生物ギャオス。幼鳥のうちは翼長15㍍、成長すれば180㍍にまで成長する世界でもっとも危険な怪獣よ。
初出現は今から18年前、1995年日本の九州地方五島列島に位置する姫神島で雛の状態で発見。
それから急激に成長した3羽の個体が調査に訪れた学者1名を含む島民17名を捕食しているわ」
説明する間にも無残に破壊された島の家屋、大きく積み上げた白いペレット。
ヘリから至近距離で撮影したと思われるかなりアップの写真などがスライドショーで流れていく。
四年前もそうだった。人の往来が昼夜問わず絶えない渋谷の町をアヤと逃げたあの日を。
建物を切り崩され、割れたガラスや瓦礫が散乱する歩道を走り回って、
危うく俺の命どころかアヤも守れず食い殺されそうになった。
それを思い返しているうちに、俺の右手の甲に柔らかく感触が伝わってくる。
見ると右手には誰かの手が重ねられ、視線で辿っていくと隣に座っているアヤと目が合う。
視線が重なるとそれを逸らさず、俺をじっと見つめて来る。同時にその意味を察した。
俺はいつの間にか拳を作るように、机の上で両手を握り締め手汗をかいていた。
それに気付いたアヤが安心させようとしている。意図せず不安にさせたようだ。
俺も安心させるように笑顔を繕いながら頷くと、アヤも視線を合わせる。
────大丈夫だ、心配かけてごめん。
────わかった。
視線だけで意思を疎通する。このくらいは、近所で幼なじみとして一緒に過ごして付き合いの長い俺とアヤにとっては既に当たり前となっていた。
そんな俺達のやり取りの間に周囲では動揺した空気が広がっていた。
「小規模とはいえたった3羽で集落が壊滅したわ。だけど警戒すべきは殺傷力だけじゃなく、雛の状態から急激に成長したという点で、これがギャオスを地球規模の脅威たらしめた理由のひとつよ。
その後周辺に進出しようとするギャオスに対し、政府は捕獲を決定。
ギャオスと接近遭遇した鳥類学者長峰真弓さんの協力のもと、自衛隊はヘリ3機でギャオスを福岡ドームに誘導して捕獲する作戦を実施した。
この時ギャオスは光を嫌う習性があると考えられたため夜間に実施されたわ」
続いて投影されたのは当時のニュース番組の映像で、ニュースキャスターが作戦の実施を伝えている様子だった。
更には遠くから福岡ドームを写した映像も流され、照射されたライトに追い立てられる上空を飛ぶ3羽が映っていた。
「作戦は順調に進み、逃げた1羽を除いて残りの2羽を捕獲に成功するも結果として作戦は失敗。
原因は、この怪獣が出現したからよ」
スクリーンに映し出されたのは、上空から撮影された巨大なリクガメを思わせる巨大な生物。
その生物は甲殻を何枚も重ね合わせたような重厚な質感の甲羅を背負い、
下顎から突き出る大きな犬歯が特徴的で映像は生物が進路上の建造物を破壊しながら、
福岡ドームを目指している様子を捉えたものだった。
「知っている人も要るかもしれないけどこれが、かつての日本を震撼させたゴジラと並ぶ大怪獣ガメラよ。
ギャオスと同時期に出現してそれを追うように日本列島を縦断、戦闘による建物の被害が大きかったけど結果的にギャオスを撃滅。
以降、この怪獣は数々の逸話を生み出したとされるわ」
言葉と共にガメラを写した画像がスライドショーで流れていく。
そのどれもが見上げるほどに巨大な体で、青白い光を伴って空を飛んでいるものや、
巨大な昆虫のような巨大怪獣と組み合っている様子のものまであった。
俺はそれらの映像を瞬きもせずに見ていた。そして映像越しだがその圧倒的な存在を感じ取っていた。
「これが、ガメラ……」
「この怪獣については今後の特災史の講義で説明するとして話を戻すわね。捕獲された2羽のギャオスはガメラが接近すると
今度は金属製の格子を収めた画像だが明らかにおかしい部分がひとつあった。
鉄格子は、綺麗なほど断面が滑らかに切断されていた。
「見ての通り、ヤスリで磨いたみたいに綺麗に切断されてるわね。
もちろんこれはギャオスの仕業よ。強烈な高周波を撒き散らした直後口から光線を吐いて檻を切断、2羽はそのままドームを飛び去っていくわ。
これはEDFがギャオスを脅威とする理由のひとつとなった“超音波メス”。
その切れ味は個体のサイズによってはビルを分解するほどに増大し、標準的な戦車の装甲くらいなら破壊可能とされるわ」
告げられた内容に講堂に再び動揺した空気が広がった。
ただ、動揺するのも無理はないかもしれない。今までの常識で言えば戦車は陸戦において最強の存在、
それが空を飛ぶ怪獣には役に立たないとなれば当たり前の反応だろうな。
「ギャオスを脅威とする理由は他にもあるわ」
壇上のリモコンを操作して新しい画像を映し出す。
スクリーンに映るのは、幾重に重なる糸状のものと先端が分かれたふたつの画像だった。
「これは当時の鳥類学者長峰真弓さんが姫神島の洞窟で発見した、食害されたと思われるギャオスの死骸から採取した細胞を分析した際に撮影した染色体の画像よ。
因みに右が人間の染色体で左がギャオスの染色体ね。
これを見て、何か分かるなら挙手しなさい」
直後に手を挙げる。周りを見ると、講堂にいる半分程度の同期が挙手していた。
「……ヴォルフ候補生」
「……人間の染色体は23対です。でもギャオスのは、一対しかありません」
名前を当てられたのは、薄暗い講堂ではツインテールに結った金髪がスクリーンの光を反射して一際目立つ女性──クララだ。
彼女は予備知識があったのだろう、目を見開いて信じられないと言いたげな表情で答えた。
「その通りよ。遺伝子学関連は専門じゃないから詳しい説明はできないけど、よっぽど単純だったり無駄の少ない進化をしてなければ、染色体の数が一桁になるのはあり得ないらしいわ。
更に驚くべきことに発見されたギャオスは全てメスで、しかも人間の男性が持つXYの染色体を持つ事が判明してる。
この事から長峰さんと分析した九州大学の後輩に当たる道弥さんは、ギャオスは雌雄共有の性質を持つという結論に至ったとされているわね。
同時にその性質から爆発的に繁殖する可能性が示唆されており、実際にギャオスはその繁殖力をもって今もなお人類を脅かしているわ。
これとは別に質問はあるかしら?」
「……ひとつだけ」
これからする質問を躊躇うように表情を固くしているが、家城教官をまっすぐ見据えた。
「聞いた限りでは、進化の過程でそうなるのはあり得ないと思います。なら…………
ギャオスとはいったい、どのような存在なのですか?」
クララの放った質問の内容に緊張した空気が広がった。
……当然の疑問で的を射ているな。
実際、俺も同じ疑問を抱いていた。つい一週間前にギャオスに関連する事件が相次いだが、
ヤツらに関する情報は一般にはよく判っていないため、それについては気になるところだった。
「その疑問は尤もだと思うしそれこそが今日の講義内容の主旨よ。
実はガメラもギャオスも、政府が呼称したことに変わりないんだけど、由来はもっと別にあったのよ」
対して家城教官は俺やクララの疑問を予想していたようで、それを肯定しながらリモコンを操作した。
映し出されたのは船の上から撮ったと思われる画像だ。
画像中央の海上には、湯船に浮かべた玩具のように巨大な岩の塊が浮かんでいる。
「ギャオスが最初に出現したのとほぼ同時期、太平洋を航海中だった原発用核燃料を輸送するプルトニウム輸送船『海竜丸』が座礁したわ。
座礁した地点は水深は3000㍍、環礁なんてあるはず無いというのが一般的な常識だった当時は原因について騒がれたけど、特に海竜丸を警護した海上保安庁所属の巡視船『のじま』の海上保安官を動揺させる出来事があったわ」
続いてリモコンを操作すると、当時の新聞の記事と思われる画像がスライドショーで流され、
『放射能漏れなし』『海上保安庁』『プルトニウム』と言った単語が強調されたサブタイトルが目に映る。
だがそれより気になる単語があった。
…………『漂流環礁』?聞き慣れない四字熟語で何を指しているかはまだよく分からない。
「現場の証言によると、海竜丸が乗り上げたとされる環礁は移動したらしいわ。
更にその漂流環礁は移動を続けて何件も同様の海難事故を起こしたため、海上保険会社が調査に乗り出すわ。
さっき出した画像は当時の調査で発見された環礁を撮影したものよ」
なるほどな。何故か勝手に移動する環礁だから漂流環礁、確かに、当時で言えばぴったりの呼称かもしれない。
「発見された環礁は停止していたため、上陸して調査が行われた。
次の画像は、調査で見つかった物品を撮影したものよ」
更に画像は切り替わる。画像は丸みを帯びた勾玉状の物体がケースに底一杯に入ったものや、何か文字の書かれた金属板を写したものだった。
「これはその後の調査で分かったことだけど、勾玉状の物体は現在までに発見されたどの金属とも成分が一致しない、未知の金属で作られたものだと判明しているわ。
更に金属板の文字を解析したところ古代ルーン文字と共通点が多く、翻訳するとこのような内容だった」
──最後の希望 ガメラ 時の揺りかごに託す
災いの影 ギャオスと共に目覚めん──
また切り替わる画像には予言のような内容の一文が書かれており、それを見た俺は戦慄した。
予言の一文が告げる通りなら、ガメラとギャオス、両者の出現を古代の人間は予測していたことになる。
しかし、何故それを知り得たのか?それに、もしも古代の人間が何か関係しているのだとしたら。
「この碑文を見る限り、恐らく古代の人々はこの事を予測していたんでしょうね。
更に調査に同行した草薙直哉氏によると、年代測定ではその金属板や勾玉状の物体、漂流環礁は一万二千前から存在しており、人工物であるため古代文明の遺産である可能性が高いと言う見解を発表しているわ。
この事で何か質問は?」
「では……家城教官、貴女の見解をお聞かせ願いますか」
そう来たか。俺はアカデミーに入学するまでの学生生活で必修課目として国が指定した特災史を学んできたが、ガメラとギャオスに関しては分からないことが多い。
彼女の祖国はロシアだからどうなのか分からないが、恐らく日本で学ぶより情報は少ないだろう。
「そうね……ギャオスは生物として異常よ。卵から孵って仲間を食害したことから普通に共食いするし、成長速度は私の知るどの怪獣よりも速い。
遺伝子レベルで雄雌両方の特性を持つから生殖の必要が無いから繁殖力が桁外れで、どんな環境にも適応するから何処だろうと繁殖する。
これは長峰さんの見解で私も同じなんだけど、ギャオスは古代文明が生み出した生物兵器ではないかと考えているらしいわ。
事実、漂流環礁から発見された勾玉状の物体は未発見の金属だったことから古代の技術で作られたもので、当然ながら技術水準は現代と遜色無いと思うし、ね。
これが私の見解だけど、どうかしら」
「充分です。ありがとうございました」
最後にそう言うと席に戻った。
「ちなみに、ちょうどヘリで金属板を引き上げようとした時に環礁が激しく揺れて調査隊は放り出されたわ。
そして、その環礁はガメラだった。震動の直後移動を開始したから調査隊も追跡して生物だと判明したそうよ。
もしかしたら時の揺りかごは環礁その物だったのかもしれないわね」
家城教官が告げるとまたも講堂にざわめきが広がる。
……古代の技術で生み出された怪獣ギャオス、同時期に目を覚ましたガメラか。古代文明は厄介なものを残してくれたものだ。
「移動したガメラはそのまま日本に上陸、後のことはさっき説明した通りよ。
以上が1995年の関連する事件よ。ここからは、1999年以降の話に移るわ」
話を区切るとリモコンを操作して、次の画像を写し出した。
「これは1999年に大量発生したギャオスの出没地域の分布図よ。
世界中至るところで出現して人里を襲い、旅客機が襲撃されて墜落する事件も発生してるわ。
どうやらギャオスは渡りをしていたようね。分析の結果世界中に産み付けられた耐久卵が一斉に孵化したことが示唆されているわ。
更に日本の奈良県では新種と思われるギャオスが出現して南明日香村を襲撃、村の半分が犠牲になったわ」
スライドショーで新たに写す画像は最初に見た姫神島と殆ど変わらない様子で、なにより注目すべきは元がギャオスとは思えない程に変質した個体を写した画像だった。
「確認された個体はかなり大型で体長は約100㍍、翼長200㍍で長い触手が確認されており、最大延長は2㌔に及ぶらしいわ。
この個体は奈良県から京都に向けて飛翔、途中交戦したガメラは空自のミサイル攻撃で足止めされそのまま降下。都内でガメラと激突して最終的に死滅したけどかなりの被害が出たようね。
また同年に世界中に出現したギャオスをガメラが攻撃して殲滅するけど、数万人が犠牲になった東京を含む数ヶ所の大都市で甚大な被害を与えているわ」
それを最後にスクリーンの投影が終わり、落とされていた照明が再び点くと明るくなった構堂の眩しさに意識せず目を細めた。
「これで今回の特災史はおしまい。ガメラの詳細やギャオスの遺伝子構造に当時の出来事については資料館で確認してね」
2回目の特災史が終わったことを告げ、これで解散かと思ったその時だった。
「突然だけど皆に連絡事項があるわ。
今から約一ヶ月後、5月に日本の天皇・皇后両陛下がここアカデミーに訪問されることが1週間前に総司令部に打診され、要求を受け入れる事が決まったわ」
どうにか締め切り(という名の一周年)に間に合った今回の話を読んでくださった皆様、いつもお待たせして申し訳ありません!
今後はなるべく急いで投稿します。では次回予告を。
~次回予告~
突然告げられた日本の要人の訪問、だが実際はそれに便乗する各国の視察団もいると聞かされ、更に何故か勝一は歓迎式典の実行委員長に任命されてしまう。
第17話 俺が実行委員長!?
次回もお楽しみに。