地球防衛軍~怪獣王の系譜~(リメイク)   作:東部雲

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本編がなかなか進まない。そんなこんなでようやく投稿。

今回は原作要素を含んだオリジナル設定が登場してきます。では、どうぞ。


第18話 第3区画

 家城教官に行き先を告げられてから俺はとある場所を目指して歩いていた。

 

 アカデミーの敷地内を歩いてるのだが目的地はその一角に位置しているらしく、移動を制限するためかフェンスで両側から頭上を覆う通路を通っていた。

 

 しばらく進むと外壁が見えて来てその手前に小さなコンクリート製の建築物があった。

 

 

「あれは特別管理棟の上部構造物。超能力者が訓練することで生じるリスクを考慮して、訓練フロアは地下に設けたのよ」

 

「リスクとは」

 

「これから分かるわ」

 

 すべては語らずそのまま上部構造物の鉄扉を開けて中に入ると、すぐの場所に設置されたエレベーターに乗り込んで家城教官がボタンを操作した。

 

 ガコンッと揺れてエレベーターは下降していき、ドア右横の操作盤は『B-3』を表示していた。

 

 そう時間は経たずにエレベーターは地下3階に到達してドアが開いて外に出ると、何処からか振動が伝わってくる。

 

 

「……教官、この振動はなんです?」

 

「少し大きいわね、振動からして静利かしら。レーヴァテインは加減しろと言ったんだけど」

 

 レーヴァテイン?確か北欧神話に出てくる炎の巨人が持つ剣だったか。

 というより、今教官が話したのは技の名前か?超能力者とは言え一応軍属で少し厨二臭いな。

 

 

「この先に彼らが訓練する第3特別訓練室があるわ、ついてきて」

 

「了解」

 

 それから歩き始めて少しすると通路を右に曲がり、その先に黒煙を吐き出す開けた鋼鉄の扉が見えた。

 

 

「……教官。あれはどういう状況ですか?」

 

「すぐに分かるから心配しなくていいわ。そのままついてきて」

 

 特に気にした風もなくそのまま入り口を通る教官に俺も続いて入る。

 

 

「何時ものように派手に燃やしやがって! 消火急げ!」

 

「リリィ、炎が広がる方向を制限しろ! アンディはシールドを展開し続けてくれ!」

 

 室内では制服に身を包んだ士官が消火器を持った何人かの作業員と少年少女に指示を出し、辺りは喧騒に満ちていた。

 

 部屋の端には赤みがかった茶色いショートボブの少女、静利が所在なさげに俯いて立っていた。

 

 

「静利」

 

 教官が声をかけると静利はこちらに視線を向けてすぐに申し訳なさそうに逸らした。

 

 

「すみません、少佐。制御に失敗しました。レーヴァテインは、未だ実戦に使用できる段階ではありません」

 

「過ぎたことを悔やんでも仕方ないわ。派手に室内を破壊してしまったのは減点だけど、被害は前回よりはまだましだと思うし、焦る必要はないわ」

 

 作業員と少年少女が必死に消火作業する現場に視線を向けながら宥めた。

 

 よく見ると火災現場の炎は不自然な広がり方をしていて、細長い火柱を上げる様子はまるで見えない壁に遮られているようだ。

 

 

「……感謝します、少佐」

 

「改めて連絡するけど、今度開催する防衛祭は彼が実行委員長を勤めることになったわ」

 

「よろしく」

 

「そうか、それで……。こちらこそよろしく。勝一が実行委員長なら安心だな」

 

「期待に添えれるよう頑張るよ」

 

 そんなやり取りをした時点で、俺はこの場所を隔離するほどのリスクについて理解した。

 

 

「教官、先程言われたリスクとは、こういうことだったんですね?」

 

「そうよ。そして今回ここに連れてきたのは、彼らについて色々知ってもらうため。静利、統括には連絡しておくから何時もの面子を会議室に集めておいて」

 

「了解、では失礼します。勝一、案内するから付いてきてくれ」

 

「分かった」

 

 未だに炎上する現場を後に、俺と静利は第3特別訓練室を出た。

 

 

 

          ◇◇◇

 

 勝くんと第2ミーティングルームで別れてから少しの間移動して、私達は第3教育棟の2階にある集会室で第1教育大隊の先輩達と顔合わせに来ていた。

 

 ただその先輩達は、

 

 

「いい加減質問に答えてくださいよ。神山候補生とは幼なじみですが彼をどう思ってるんですか?」

 

「どう、て言われても」

 

 凄く面倒そうな人もいるらしかった。目の前の東洋系の女性がペンとメモ帳を持って追及して来ると、私は返事に困った。

 

 

「やっぱり止したらどうだ? 個人のプライバシーにあまり触れるべきじゃないと思うが」

 

「そうよ、この子だって答えづらいだろうし。……でもお姉さん的にはちょっと気になるかな~」

 

 他にもそれを見かねた先輩達が間に入ってくれたけど、女性の方は勘弁してほしいかも。

 

 今現在進行形で私に追及してるのは中国出身の第5期生で、一応事務科らしいんだけど言動が既にパパラッチとしか……。

 

 

「……それより、質問ばかりで失礼じゃないか? まず自己紹介からだな」

 

「そう言えばそうですね! では改めて、中華人民共和国の香港から来ました、事務科の紅 詩音(ホン・シーイェン)です。こちらをどうぞ」

 

 男性にそう促されて女性、紅先輩がハキハキと自己紹介して名刺?を渡してきた。やってることが既に企業戦士だよ。

 

 

「なら俺も自己紹介させてもらうな。飛行科の真田 将太(さなだ しょうた)だ、よろしくな。で、こっちが」

 

「同じく飛行科の近藤 梨沙(こんどう りさ)よ。疲れたときは言ってね? マッサージで体を解してあげるから!」

 

「え? は、はい。よろしくお願いします」

 

 真田先輩と近藤先輩も気さくに話しかけてきた。でも近藤先輩はちょっとマイペースで調子狂うかも。

 

 

「自己紹介は済ませましたし、もういいでしょう? 繰り返しますが、神山候補生との関係は? 付き合いの長さは何れくらい? 彼をどう思ってるんです?」

 

 ズイ、ズイと距離を縮めて質問を迫ってくるけど、やってることがゴシップ記者のそれだしだからって乗るのは得策じゃないし。

 

 

────勝くん、お願いだから早くこっちに合流してーー!!

 

 

 

          ◇◇◇

 

「ん?」

 

 不意に何か感じた俺は後ろの、正確には壁のやや上を振り返った。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「……何でもない、気にするな」

 

「はぁ……」

 

 曖昧な返事をしてるのは一週間前に知り合った和希だ。あれから移動して静利が声をかけて集めた主だった面子と会議室に集まっていた。

 

 

「話し合いに麻里も参加するとは思わなかったけど」

 

「ここには……実戦経験がある、若しくは有力な能力を持つメンバーが揃ってる。当然私も、例に漏れない」

 

「なるほどな」

 

 彼らと交流するようになって分かったことがある。アカデミーに在籍する超能力者は固有する能力を持っている場合とそうでない場合があるらしい。

 基本的には精神感応(テレパシー)念動力(テレキネシス)を用いるとされるが、稀に3つ目の超能力を使える能力者──静利や和希のような者も中にはいるようだ。

 

 同時に静利のような突出した能力者は最優先で実戦を迎えたり、麻里のようにパイロットとしてその能力を活かす例も存在するらしい。

 

 

「……以上の理由から、彼が今年度の防衛祭で実行委員長を勤めることになった。

彼はこのご時世では珍しく差別しない、私達にとって頼りになる相手だ。勝一、挨拶を」

 

 静利が促すと、室内にいる少年少女達の視線が俺へと収束する。それらのなかには期待と不安のない交ぜになったものも感じ取れた。

 

 

「今年からアカデミーに入学した候補生、名前は神山勝一。静利が説明してくれたけど敢えて言わせてもらう、俺はみんなを虐げはしない。

俺より年下の、いや……俺にとって君達はどこにでもいるような普通の少年少女にしか見えない。だからこそ困ったことがあれば何でも言ってくれ、微力だけど手伝わせてもらうよ。俺からは以上だ」

 

「少々長く水臭いが挨拶ありがとう。さて、みんなも聞いた通りだ。彼は世間での風潮に染まっていない、これからは彼を頼りにさせて貰おうじゃないか」

 

 静利はそう宣言すると誰ともなく拍手する音が鳴り響き、やがて全員の拍手が会議室を満たした。

 

 

「みんな、待たせたわね」

 

 それらが収まるとその直後、何人かのスタッフを連れた家城教官が会議室に入ってきた。

 

 

「お待ちしていました、訓練室の火事はよろしいので?」

 

「ちょうど終わったから、手空きを何人か連れて来たのよ。時間が勿体ないし、本題に入るわ」

 

 席を立った静利に教官はそう返すと、後ろに控える一人が会議室最奥のホワイトボードに紙を貼り付け始めた。

 

 

「さっき緊急の連絡が入ったので通達します、日本の北海道で調査していた部隊が新種のギャオスと交戦。付近の集落は全滅し、部隊にもかなりの犠牲者が出たわ」

 

「なっ!?」

 

 思わず驚くあまり声を出してしまう。それは周りの静利を始めとした超能力者の少年少女達も同じらしく、一様に動揺した様子が見られた。

 

 

「新種のギャオスとは?」

 

 そのなかでも静利はある程度冷静さを保っているようで、落ち着いた口調で問い掛ける。

 

 

「部隊は多数の歩行型(・・・)と交戦、不利を悟って撤退を開始。それ以上の情報は機密レベルが下がり次第知らせるそうよ」

 

「……そう、ですか」

 

 普段達観した雰囲気を醸し出す彼女は教官が答えると心なしか、少し落ち込んだ様子だ。

 

 だがそんなことより気になることがある。

 

 

「教官、新種のギャオスが日本に出現したなら防衛祭どころではないのでは? そんな状況で各国から視察団が来られるんですか」

 

「それも機密レベルを下げてから知らせるそうよ。今は予定通り、防衛祭のみに集中してちょうだい」

 

「……了解しました」

 

 少々腑に落ちないが、今はそれで引き下がるしかないか。

 

 

「ところで静利、神山候補生にはどこまで話したのかしら?」

 

「能力なら私と和希の固有能力についてと、基本の二つについては教えました」

 

「それは良いんだけど、あなた達の力の本質(・・)については話したのかしら?」

 

 本質?何のことだ、体が突然変異したからとかじゃないのか?

 

 

「いえ、まだです。それを聞くと言うことはつまり?」

 

「折角だし、話しても構わないわ」

 

「解りました」

 

 この手の話って、あまり外部に漏らさないのだろうか。それだけ重要なことかもしれない。

 

 

「家城少佐からお許しが下りたので説明に入らせてもらう」

 

 宣言すると厳しい表情を顔に貼り付け、咳払いを一つ吐いた。

 これから知らされるであろう内容が如何なる物か、緊張から無意識に唾を飲む。

 

 

「私達超能力者は、マナ(・・)と呼ばれるエネルギーが力の源だ」

 

「マナ?」

 

「マナはどこにでも存在する、超自然的なエネルギーだ。

例えば私達が座っている椅子。更にはこの部屋の壁にも、部屋に置いてあるテーブルやホワイトボードにも、この星に存在する万物に宿るとされている」

 

 へえ意外とオカルト、いや超能力者何だから今更か。て言うかその話し方、どっかで聞いたな。

 どっかがなにかって、某銀河戦争な映画に出てくる緑色の尖った耳が生えた爺さんだけど、解る人いるよな?

 て言うか特別訓練室の時も思ったけど、超能力者ってみんな厨二を患ってるんだろうか。

 

 

「……随分失礼なことを考えているようだな」

 

「ああ、悪い。確か心を読めるんだったよな。流石に無遠慮すぎた」

 

「まあ構わんがな。厨二臭い名前を付けるのは、基本的にはその方が都合が良いからだ」

 

「そうなのか?」

 

「うぬ。その辺りのことは話すと長いし時間が惜しいので今回は話さないが、その方がやり易いということだけ覚えといてくれ」

 

 と言うことはやはり名前をつけた方がイメージしやすいとかそんな感じかな?必殺技の練習で言えば定番だな。

 

 

「分かった」

 

 取り敢えず首肯しながら返事した。

 

 

「続けるぞ。私達超能力者は自分の体内、若しくは大気中のマナに干渉することで特定の現象を起こす。

例えば精神感応と念動力だが、これらは大気中のマナを通して物を動かしたり、対象となる生物と言葉を使わず心を通わせることができる」

 

「マナに干渉、と言うことは消費じゃないのか?」

 

「いい質問だな、その通りだ。消費ではなくマナを介して発現するから消費した訳じゃない。私の発火能力もそれと同じで、マナに干渉して空気中の酸素を燃焼させてるだけだ。そう複雑なものじゃない」

 

「へえ、意外だな」

 

 ただ納得のいく原理でもあった。とすれば和希の放電能力も同じだろうな。

 

 

「これで超能力に関しては大体話したな。……家城少佐、そろそろ本題をお願いします」

 

「分かったわ。これは皆も知ってるだろうけど、アカデミーは今から一ヶ月後に防衛祭を開催。その当日中に日本の天皇・皇后両陛下が訪問する予定で、各国の視察団やメディアも訪れる可能性が濃厚になってるわ」

 

 スタッフの一人が棒状に丸めた紙の一つをテーブルに広げる。

 

 

「状況は例年と異なるけれど、通例として実行委員長を新入生から選んだわ。あと何人かは神山候補生が決めていいけど、重要なのはそこじゃないわ」

 

「と、言いますと?」

 

 俺は家城教官に先を促した。

 

 

「今回の防衛祭は国際的な超能力者のイメージアップという側面があるわ。だからこそその目的に沿った企画をすべきなんだけど、そう言うのは毎年候補生達に委託してきたのよ」

 

「つまり、今年の防衛祭は超能力者が主役と言ってもいいから、それも含めて実行委員会で決めなければならないんですね?」

 

「その通りよ。そして神山候補生以下実行委員会の決定次第では、この場のあなた達もそれに備えてもらうわ」

 

 なるほどな、と内心で納得しながら頭を抱えたくなってくる。

 今までの防衛祭の規模がどの程度だったかは知らないが、少なくとも今回は過去最大の規模になるはずだ。それを入学したての士官候補生に企画しろと言うのだから、丸投げにも程がある。

 

 

「ここでの説明はこれでおしまい。これから神山候補生は第1教育大隊との顔合わせに合流して、静利と和希も一緒に来て頂戴」

 

 家城教官の号令でその場は解散し、数名のスタッフが後片付けする会議室をあとにした。




前回からまた執筆に時間をかけましたが、次回から本編の時間軸を進めていきたいと思います。

では、次回予告です!

~次回予告~

第3区画で超能力者の秘密を知ることとなった勝一。その後第1教育大隊との顔合わせに彩音達と合流して、一ヶ月後の防衛祭に向けた準備が始まる!

第19話 実行委員選定と方針

次回もお楽しみに!

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