提督「はぁ………。」トボトボ
俺は何が悲しくてこんないい天気の下を一人ぼっちで歩いているのか。
俺は今、この島の鎮守府に向かっている。
今日をもって着任予定の新任提督である。
だが、俺は元々陸軍の兵士だ。
なんでこんな事になっているのか、少し時間を遡る。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ある日
大佐「よう、提督。」
提督「あ、大佐。こんにちは。」
この人は知り合いの大佐で、色々とよくして貰っている。仲間や上層からの信頼も厚い、優秀な士官だ。
大佐「お前に頼みがある。」
提督「またコンビニにお使いですか?あれバレるとめっちゃ怒られるんですよ?」
大佐「いや、そうじゃない。お前、海軍に異動になった。」
提督「………は?」
このハゲは何を言ってるんだ?
同人誌で滑ってコケて頭でも打ったんじゃあないのか?
提督「なんですかそれ。意味不明なんですが。」
大佐「言葉の通りだ。今期の任務をもってお前は海軍に異動になった。」
提督「俺を売ったんですか?」
大佐「な訳あるか。それに異動っつってもただ向こうの兵士になる訳じゃない。」
大佐「艦娘、鎮守府、深海棲艦。ここら辺の話は聞いたことがあるだろ?」
艦娘。噂は聞いたことがある。女の子の姿をしているのに桁外れの戦闘力を持っていて、人類を脅かす敵と戦ってるとかなんとか。
提督「まさか………。」
大佐「そのまさかだ。お前には新しく提督として着任してもらう。」
提督「あ、そっちか。」
大佐「なんだと思ったんだ?」
提督「いや、てっきり俺も一緒に戦わされるのかと。」
正直そっちの方が気楽なのだが。
大佐「まぁ、とりあえず話はこの通りだ。頑張れ。」
いやいやいや。このまま引き下がれるか。
提督「へぇ〜………。いいんですか?大佐。」
提督「俺を飛ばしたらコレクションはもう二度と拝めないんですよ?」
このコレクションと言うのは、有名な同人誌の事だ。入手方法は企業秘密で。
ちなみに、この大佐は重度のロリコンである。
YESロリータGOタッチ!
大佐「なっ!き、貴様、卑怯な!」
提督「いやいやいや!勝手に決めといて何言ってるんですか!」
大佐「聞け。お前を推薦したのは俺じゃない。准将だ。軍議中に適任者が決まらず頭を悩ませていた時に、彼が言ったんだ。」
提督「あの野郎………。」
准将はこの基地の中でもかなりトップの方の存在で、買収済みである。
その為、俺達はこの基地の中でも色々と自由がきく。
ちなみに准将はおねショタ専門家である。
提督「どうにかならないんですかそれ………。」
大佐「無理だな。」
提督「orz………。」
大佐「拒否権が無い事は言うまでもないな。それにいつまでもそうしてる暇はないぞ。准将がお前を推薦した意味をよく考えろ。」
提督「………。」
大佐「それとこれ、今後の予定だ。」ピラッ
提督「なんですかこれ、研修?」
大佐「ああ。いきなり着任って訳にはいかないそうだ。まずは二、三ヶ月研修期間を経て、着任するように、との事だ。」
提督「うわぁ………。」
大佐「俺がこんなことを言うのもなんだが、相当つまらないだろうな。既に知ってる知識が殆どだろうし、周りの連中も士官学校出身のお坊ちゃんばかりだ。」
提督「うわぁ素敵。」
大佐「ま、お前なら大丈夫だろう。」
提督「そんな他人事みたいに………。」
大佐「今日の夜にでも飲むか。俺からの餞別だ。」
ーーーー ーーーー ーーーー
その日の夜は、大佐としばらく飲んで話をした。
次の日。
提督「やれやれ、いよいよか………。」
大佐「ま、終わったらまたここに戻ってくるんだから気楽に行ってこい。」
提督「うっす。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
1ヶ月半後
提督「ただいまっす。」
大佐「おう。早かったな。」
提督「ええ、まあ。」
大佐「話は聞いた。災難だったな。」
提督「………怒らないんですか?」
大佐「俺がか?確かに喧しい奴らはいたが、俺は怒ってなんかいないぞ。」
大佐「むしろお前がした事を誇らしく思ってる。」
提督「………ありがとうございます。」
何があったか説明すると、最初の1ヶ月くらいは学校で座学中心の研修をしていた。
それは順調に終わったのだが、次の研修が実際に鎮守府で提督業を手伝うというものだったのだ。
そして俺の行った先の鎮守府の提督は、絵に書いたようなクソ野郎だったのだ。
艦娘をモノ扱いし、犠牲など全く厭わず、不正も色々しているようだった。
俺は行ったその日に決断し、こっそり証拠を集めて上層部に叩きつけ、そいつとそいつの周りにくっついていた奴らをぶん殴った。
結局研修は1ヶ月半で終了し、今に至る。
我ながらやり過ぎたかも知れない。
が、あれを見過ごすことなど出来なかった。
自分を壊してまで組織に従うことは俺には出来なかった。
大佐「それで、これが通達だ。」ピラッ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
通達
第二支部東基地〇〇中尉
貴殿ノ着任ス鎮守府ガ決定シタ
明日、モシクハ明後日マデニ着任ヲ命ズル
尚、研修中ノ件ニツイテハ貴殿ノ勇気アル行動ヲ賞賛スルト共ニ大本営カラモ礼ヲ言ウ
鎮守府ニハ既ニ一定量ノ資材ト秘書艦ヲ待機サセテイル。早急ニ向カウベシ。
大本営
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
提督「………ちっ、相変わらず腹立つ文面だな。」
大佐「見ての通り、特にお咎めもなしだ。良かったな。」
提督「はい。」
大佐「必要な物はまとめてある。お前は早く自分の持ち場へ行け。」
提督「………はい。」
大佐「迎えももうすぐ来るだろう。それじゃあな。」
提督「………。」
大佐「おい、提督。」
大佐「頑張れよ。」
提督「………長きに渡りご指導ご鞭撻、本当にありがとうございました。」
提督「行ってきます!」
大佐「おう。」
そうして俺は大佐の用意してくれたタクシーに乗り込んだ。
なんでタクシーなのかは知らんが。
さて、このまま行けば俺は順調に鎮守府に着いたはずだ。
そう、着く筈だったのだ。
あれさえなければ。
走り始めてから二時間ほどして、急に現れた暴走族に煽られ、俺達はブチ切れ、そこらじゅうを追いかけ回した。
挙句、道に迷い、ようやく元の道に出たかと思ったら料金メーターはとんでもない金額を表示していた。
これ以上は払えないということで、俺は途中で降ろされた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
そうして、今に至る訳だ。
まったく………。
提督「………ん?」
ようやく視界にそれらしい建物が入った。
提督「や、やっと見えた………。」
俺は悲鳴をあげる足に鞭打って歩いていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
提督「鍵は………開いてるか。」ガチャリ
そういえば既に秘書艦がいるとかなんとか書いてあったな。
未知の敵と戦う女軍人など、どんなゴリラ野郎なのか………。
この世に教官より恐ろしい女など居ないと思っていたが、間違いかも知れない………。
提督「てか広いな、ここ………。」テクテク
見た目もかな立派な建物だ。基地ほどではないが、かなりの広さでなかなか目的の部屋に辿り着かない。
なにやら執務室なる場所に行けと書いてあったが………。
執務ってなんだ?
提督「お?あそこか。」
しばらく歩くと執務室と書いてある部屋を見つけた。
提督「すー、はー………。」
深呼吸し、落ち着く。
どんなゴリラが待ち構えているのか、かなり怖い。
提督「第二支部東基地の〇〇中尉、ただいま到着した。入ってもいいだろうか?」
???「はっ、はい!どうぞ!」
返事はとても綺麗だった。
軍人にしては珍しい。
そして何やら慌てているようだが、どうかしたのだろうか。
とりあえず入るか。
提督「失礼す……る………?」ガチャリ
五月雨「は、はじめまして!白露型駆逐艦六番艦の、五月雨って言います!よろしくお願いします!」
提督「………。」(゜д゜)
提督「………。」(;つд⊂)ゴシゴシ
提督「………。」(゜д゜)
拝啓、教官殿
安心してください。
やはり貴女より恐ろしい女性などいません。
そこに立っていたのは、青髪の綺麗な少女だった。
大佐が喜びそうな子だな………。
じゃなくて。
五月雨「あ、あの………提督?」
提督「あ、ああ。済まない、すこしボーッとした。ええと、君が通達にあった秘書艦、でいいのか?」
五月雨「はい!一生懸命頑張ります!」
提督「お、おう。じゃあ、よろしく頼む。」
五月雨「はい!」
艦娘って可愛いのか………。
これはもしかしたら、とんでもない役得な仕事に就いたかも………。
………ん?
提督「………。」(;つд⊂)ゴシゴシ
提督「………。」(´・ω・`)?
何やら五月雨の肩に小人の様なものが座っている。
疲れすぎてとうとう幻覚でも見ているのか俺は。
提督「な、なあ、五月雨君?」
五月雨「はい!あの、提督、五月雨でいいですよ?」(* ॑꒳ ॑* )
提督「ッ………。」
な、なんだこの生物は!
持って帰りたい!
いや、これからはここが帰る場所か。
じゃなくて!
提督「ああ。その、変な事を言うかもしれないが、五月雨の肩にいるのは………?」
五月雨「………え?」
提督「あ、ああ、済まない忘れてくれ。ちょっと疲れているみたいだ。」
やはり幻覚か………。やばいな………。
五月雨「あ、待ってください!この、カチューシャを付けた制服の女の子の事ですか!?」
提督「あ、ああ、そうだが。五月雨も見えてるのか?」
五月雨「はい!むしろ、なんで提督が見えるんですか?普通の人には見えない筈なんですが………。」
提督「な、何で俺に………。ていうかその子は一体………?」
五月雨「この子は妖精さんの一人で、私の装備の機銃の取り扱いを手伝ってくれるんです。」
提督「よ、妖精………?」
五月雨「妖精さんって言うのは、私達艦娘の戦闘や修理等を手伝ってくれる子達の事です。特別な存在で本当は私たちにしか見えない筈なんですが………。」
提督「なんで俺に見えるんだろうな………。」
五月雨「さぁ………?」
提督「まあ、何はともあれ、この子も戦友なんだよな。よろしく頼むよ。」
妖精「」(`・ω・´)ゞビシッ!!
提督「はは、良い敬礼だ。」ナデナデ
妖精「」(*´﹃`*)
五月雨「あ、ずるい!私も!」
提督「え?」
五月雨「私も撫でてください!」
提督「お、おう………。」ナデナデ
五月雨「ふわぁ………。」( ⸝⸝⸝• ̫ • ⸝⸝⸝ )
妖精「」(*´﹃`*)
なんだこの状況。
ま、まあなんとかなるか。
ーーーーーーーーーーーーーーー
提督「ぐおお………重い。」
五月雨「よいしょ、よいしょ。」
提督「悪いな、五月雨にも手伝って貰って。」
五月雨「いえ、これも秘書艦としての務めですから!」
俺達は今、大本営から送られてきた書類やら荷物やらの整理に追われていた。
くそ、基地にいた時はこういう事は全部賭けで負けた奴 (九割が大佐) がやってたからな………。
提督「ふう、こんなもんか。」
五月雨「お疲れ様です!あ、提督、もう一つダンボールがありますよ?ええと、大佐さんからですね。」
提督「え?」
五月雨「これも開けt」
提督「ストオオオップ!」
五月雨「きゃあ!ど、どうしましたか!?」
提督「い、いや、これは俺が開けるから!大丈夫だ!な!?」
五月雨「は、はい………。」
あの野郎、また余計な事を………!
一体何を送り付けてきやがったんだ!?
もしコレクションとかだったらやばい………!
恐る恐る開ける。
提督「………お?」
そこには、基地の仲間の写真や彼らが詰め込んだであろう色々な物が入っていた。
提督「ごめん五月雨、大丈夫だ。見ていいぞ。」
五月雨「」(゚ω゚艸)
五月雨「わあ、これって………。」
提督「ああ、俺がいたとこの連中だ。」
五月雨「みんな笑顔だ………!優しそうな、いい人たちに見えます!」
提督「ああ、バカばっかりやる様な連中だが、民衆が思ってるような奴は居ないさ。」
提督「ああ、またみんなで飲みてぇなぁ………。」
考えると少しだけ寂しさを感じる。
なんだかんだでずっと一緒にいた奴らなのだ。
五月雨「………あの、提督?」
提督「ん?どうした?」
五月雨「提督は、ここで、提督としてお仕事をするのは、嫌ですか………?」
先程までの明るい様子とは打って変わって、寂しそうな顔をしていた。
我ながらデリカシーのない発言だったかもしれない。
提督「そうだな。その質問に答えるのはまだ難しい、かな。」
提督「でも俺は、これから沢山の仕事をして、沢山の仲間と出会って、沢山笑って………。」
提督「誰にでも誇れる、ここに来てよかったって思える鎮守府にしたいと思ってる。」
提督「もちろん、五月雨とも一緒に、な。」
思ってる事を、そのまま言葉にした。
少なくとも俺は、基地の仲間達は誰にでも誇れる最高の友だと思ってる。
だから、ここもそんな場所に、したい。
五月雨「………提督!」
提督「ん?」
五月雨「私、頑張ります!提督が、みんなにこの場所を自慢出来るように、この鎮守府をいい場所に出来るように!」
提督「………おう、よろしく頼む。」
さて、ここで終われば( / _ ; )イイハナシダナーで終わるのだが、そうは問屋が下ろさなかった。
あのハゲ野郎がこのままで終わる筈が無いということを、愚かにも俺は忘れていた。
提督「よし、じゃあそのダンボールも空にしてたたんでくれ。」
五月雨「分かりました!………え。」
提督「ん、どうかしたか?」
五月雨「て、て、て………。」
五月雨「提督のえっち!!!!」バチーン!
提督「ブベラッ!」
とんでもない衝撃を受け、徐々に薄くなっていく視界になんとか入ったのは、大佐が選りすぐったコレクション (18禁) だった。
そりゃこうなるわ………。
あのハゲ、次にあったら性癖暴露してやる………。
戦意も虚しく、俺は冷たい執務室の床に受け止められて意識を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
提督「………む。」
ふと目を覚ますと、見覚えのない天井が目に入った。
夕張「あ、提督。おはようございます〜。」
隣にはうたた寝をする五月雨と、見知らぬ少女がいた。
俺は、確か五月雨にビンタを喰らって………。
あのハゲ、次にあったらただじゃ済まさん………。
じゃなくて。
提督「ええと、君は?」
夕張「ああ、自己紹介がまだね。兵装実験軽巡、夕張よ。よろしくね。」
提督「よ、よろしく。で、なんでここに?」
夕張「あれ?着任の書類、届いてませんでした?」
提督「ああー、まだ確認してない……。」
夕張「あはは、事情は聞いたよ。災難だったね。ビックリしたよ?」
夕張「執務室に来たら提督は倒れてて五月雨ちゃんはわんわん泣いてるし。」
提督「ははは……面目ない。」
なるほど、なんとなく事情が飲み込めてきた。
夕張「ところでさ……提督って、こういうの好み?」
夕張の懐からコレクションが出てきて、冷や汗が溢れてきた。
提督「い、いや!違うんだ!五月雨の時は説明する間もなくぶっ叩かれたんであって!」
提督「なんつーかそれは仲間のジョークなんだよ!」
夕張「へぇー。でもさ、提督?」
急に夕張が身を乗り出してくる。
夕張「私、提督がご希望なさるのならこういう事、してもいいですよ?」
提督「えっ。」ボフッ
夕張にベッドに押し倒された。
いかんせん女性との触れ合いなど皆無だった為か、肝心な所で理性は役に立たない。
提督「い、いや、夕張………?」
夕張「いいから、じっとしてて………。」
段々と、夕張の顔が近付いてくる。
ええい、ままよ。
目をつぶった。
しかし、しばらくしても何も起こらない。
俺はそっと目を開けた。
提督「夕張……?」
夕張「ねぇ、提督………?」ギュッ
夕張が寂しげに抱きついてきた。
押し倒されているのも相まってなんか色々やばかった。
夕張「どうして私がこんな事するのか、分かりますか?」
提督「………?」
夕張「私、前は提督が研修にきた鎮守府に居たんです。本当に、毎日がただただ辛かった………。」
夕張「でもある日、提督が研修に来た日に、駆逐艦の子が凄く嬉しそうに、でも泣きながら部屋から出てきて………。」
夕張「みんなで話を聞いたら、提督が、自分の話を真剣に聞いてくれた。涙を流して抱きしめてくれた。心から怒ってくれた、って。」
夕張「私はその時は話はしなかったけど、提督なら、何かを起こしてくれるんじゃないかって、みんな思ってたんです。」
夕張「それが今、期待通りにこうなってる。もうあの元提督はいないし、みんなもそれぞれ幸せに暮らしてる。」
夕張「私は………私は、提督への感謝がしてもしきれない。だから、貴方の力になりたくてここに来たんです。」
夕張「だから、あなたになら、何をされても構わない………そう思うんです。」
あの日。
研修に行った初日。
自分の部屋に行く途中、たまたま廊下で泣き伏せていた電という駆逐艦の子に会った。
そのまま俺の部屋に連れて行き、話を聞いた。
前提督の事を聞いたのはそこでの事だ。
思わず電を抱きしめ、絶対に助けると誓った。
だから、あの様な行動をした。
確かに、彼女らからすれば俺は感謝の対象になるのかも知れない。
だが、俺はだからといってこのまま夕張の言う通りにする訳にはいかなかった。
夕張「だから、ね?提督………。どうか、私の気持ちを………。」
提督「ダメだ。」グイッ
夕張「え?」
絶対にダメだ。
夕張がそういう事をしていいと思っているのは、俺だから、じゃない。
俺が只の恩人だからだ。
確かに、彼女らからすればあの出来事は本当に救われたことかもしれない。
だが、それは俺じゃなくても出来ることだ。
仮にあの騒動を起こし、夕張達を助けたのが俺じゃない他の人間だとしても、夕張はきっと恩を感じてこの様な行動を取るのだろう。
それじゃ、ダメなんだ。
提督「夕張、お前がそういう風に思うのは、俺が恩人だからだ。」
提督「だが、あの件は俺じゃなくても出来ることなんだ。だから、こういう返し方はして欲しくない。」
提督「もっと、自分を大切にしてくれ。君たちも女の子なんだ。」
提督「だが、自惚れかもしれないけどもしも俺じゃなきゃダメだって言うなら、その時は俺もちゃんと応える。」
提督「ええと、長くなっちまったけど何が言いたいかって言うと、そんなに気を使わなくていいよ。」
夕張「………。」ポロッポロッ
提督「ゆ、夕張?大丈夫か?」
夕張「………うるさいぃ……バカ。」ギュウゥッ
夕張 (分かってるよ、そんな事……。そういう事を言ってくれる、提督だから、私は………。)
五月雨「う、ん?」
提督「あ、五月雨おはよう。」
五月雨「………。」
提督&夕張「「あ。」」
五月雨「………。」パタリ
提督「五月雨ええええええ!」
夕張「五月雨ちゃん!誤解だよおおお!」
そこから誤解を解くのにしばらくかかったのはまた別の話。
ーーーーーーーーーーーーーーー
次の日。
提督「くあぁ………ふう。」
マルナナマルマル、いつも通りの時刻だ。
さて、トレーニングしに行くか。
……………。
トレーニングルームなんかないよな、ここ。
とりあえず、走り込みくらいやるか………。
ーーーー ーーーー ーーーー
鎮守府の周りから海沿いをしばらく走る。
提督「はっ………はっ……ふう。」
海からの風が火照った体を通り抜ける。
これからは、この海を守るのか………。
ま、なんとかなるだろう。
グゥ〜。
提督「ぬ。」
いい感じに腹も減ってきたし、そろそろ帰ろうか、と思ったその時だった。
提督「………ん?」
何か、海に浮かんでいる。
人、か………?
いや、違う?
いや人だ!
まずい、すぐに助けねぇと!
提督「ッ!」ザブン
急いで服を脱ぎ散らかし、海に飛び込んだ。
間に合え、間に合え!
ただその一心で必死に泳いだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
マルハチマルマル、鎮守府にて
提督「ゲホッ、はぁ、はぁ、五月雨!夕張!」
提督「頼む、来てくれ!」
五月雨「は、はい!どうしましたか?」
夕張「提督、どこいってたんですか、って、どうしたの!?」
提督「入渠ドックに、こいつを、早く!」
今は一刻を争う。
助けた女性の体温はかなり低かった。
この一秒が生死を分けるのだ。
夕張「わ、分かりました!五月雨ちゃん、提督も、手伝って!こっち!」
三人がかりで必死に運ぶ。
提督「くそ、間に合え!」
夕張「ここです!」
入渠ドック、と書かれた部屋に着いた。
夕張「この湯船の中に!服は、とりあえず来たままでいいですから!」
提督「よし、そっとな、よ、いしょ。」
急いで、だがそっと、衝撃を加えないように湯船に寝かせる。
夕張「あ、提督!そのお湯に触っちゃ」
提督「えっいだだだだだだ!」
その湯船に張られていたお湯に少し手が入ると、途端に痺れるような激痛に襲われた。
提督「いったぁ!なんだこれ!」
夕張「これ、入渠用のお湯は人には有害なんですよ!触っちゃダメです!」
提督「ああ、分かった。いてて。」
五月雨「提督、大丈夫ですか?」
提督「おう、平気だ。にしても………。」
全く起きる気配がない。
これだけ近くで騒いでも目覚めないのだから、相当ダメージが酷いのだろう。
夕張「提督、そろそろ事情を聞いてもいいですか?」
提督「ああ。とりあえず、着替えてもいいか?」
濡れた服を洗濯カゴにぶち込み、着替えてから執務室で事情を説明した。
夕張「そうですか………。」
夕張「とりあえず!提督、私達に何も言わずに出ていかないでください!」
提督「え?」
夕張「凄く心配したんですよ?五月雨ちゃんまた泣きそうになるし………。」
五月雨「な、泣いてないですよ!」
提督「あはは、悪いな。次からはちゃんと声をかけるよ。」
俺の事なんかを心配してくれるとは、嬉しい限りだ。
なんにせよ、まずは彼女が目覚めるのを待たなければならなかった。
ーーーー ーーーー ーーーー
ヒトフタマルマル
提督「なあ、夕張。あの様子だと完治するまでにどのくらいかかりそうだ?」
夕張「そう………ですね。顔が髪に隠れて見えなかったので確証はないですけど、多分彼女は戦艦です。それがあそこまで重傷だと、六、七時間はかかるかと………。」
提督「そんなに………。」
夕張「バケツがあればいいんですが………。」
提督「とりあえずもう昼だし、飯でも食いに行くか。」
ーーーー ーーーー ーーーー
ヒトヨンマルマル
五月雨「あれ、提督?そういえば、たしか資材と一緒に開発資材とバケツもたくさん届いてませんでした?」
提督「え、そうだっけ?」
夕張「何でそれを先に言わないんですか!じゃあ、使ってきますよ?」
提督「おう、俺も行く。傷が治ったら空いてる部屋に運ぼう。五月雨も来てくれ。」
傷が治っても意識が戻るとは限らない。
ずっと昏睡状態のままの奴も見てきた。
今はとにかく、そうならない事を願って早足で歩いた。
ーーーー ーーーー ーーーー
夕張「それじゃ、入れますね。」
湯船に緑の液体が注がれていく。
すると、彼女の傷があっという間に治っていった。
提督「信じられないな………。」
僅か数秒で、あれだけの重傷が治ってしまった。
提督「よし、運ぼう。」
ーーーー ーーーー ーーーー
とりあえず、執務室に近い空き部屋に運び、ベッドに寝かせた。
提督「………くそ。」
まだ目は覚まさない。
嫌な記憶が頭をよぎる。
提督「夕張、悪いが、しばらくこの人に付いていてやってくれないか。」
夕張「はい、分かりました!目が覚めたら、呼びに行きますね。」
提督「頼む。」
流石にその日一日付きっきりになる訳にもいかなかった。
執務室に戻り、五月雨から任務等の説明を受け、執務を始めた。
提督「………。」カリカリ
五月雨「………。」カリカリ
提督「………。」
五月雨「………?」カリカリ
提督「………。」
五月雨「………提督?」
提督「………。」
五月雨「………提督!」
提督「あ、ああ、悪い。どうした?」
五月雨「………気になるんですよね?」
提督「………ああ。」
正直、彼女が心配で執務どころではなかった。
すると五月雨がひょいっと席を立った。
五月雨「行きましょう?」
提督「………ありがとう。」
五月雨「いえ、そこが提督の良いところですから。」
ーーーー ーーーー ーーーー
ヒトハチマルマル
いてもたってもいられず、結局部屋に行った。
提督「夕張、どうだ?」
夕張「あ、提督!少しまずいです。さっきまで普通に寝てたんですが、段々と呼吸が弱くなってきていて。」
提督「ッ……!」
傷は治っている。
それは間違いない。
提督「くそ、一体何が………!」ギュッ
力強く、手を握りしめた。
提督「頼む、帰ってきてくれ………!」
夕張「提督………。」
五月雨「提督………。」
提督「まだ一言も喋ってないじゃんか!そんな簡単に、居なくならないでくれ………!」
提督「ここには、お前が必要なんだ………!」
ドクン
ドクン
昏睡状態に陥っていて、医者が望みがないと言っても、奇跡的に意識を取り戻すことは、ある。
科学的には説明出来なくとも、何処かにあるその人の心が、生きたいと、強く願えば。
心臓が、熱く鼓動を刻めば。
???「」ムクリ
提督「………!」
???「あなた、なのね。私を呼んだのは。」
提督「え、え?」
???「ありがとう………。」ギュッ
目の前の状況にあまり頭がついて行っていない。
それは二人も同じのようだ。
提督「と、とりあえず、名前を聞いてもいいか?」
扶桑「扶桑型超弩級戦艦、姉の方、扶桑です。ありがとう、提督、私を呼んでくれて………。」
提督「よ、呼んだって言うのは?」
扶桑「暗い暗い海の底で、ずっと陽の光を待っていた………。」
扶桑「ある日、ようやく助けが来たと思ったら、その艦隊の提督は私を必要とはしなかった。」
扶桑「せっかく海に出られたのに、何も出来なくて、悔しくて、辛くて、寂しくて………。」
扶桑「燃料が尽きて、意識も体もまた深い深い海の底に沈んでいった。」
扶桑「もう、疲れたなぁって。ここで終わってもいいんじゃって思ったの。」
扶桑「でも、上の方から、小さな光が見えた。」
扶桑「それは、見てるとどんどん大きく、力強くなっていって………。」
扶桑「私に、優しい言葉を、強い言葉を、沢山与えてくれた。あの光はきっと、いえ、間違いなく…………。」
扶桑「提督、あなたのものだった。」
提督「そう、か………。」
提督「何より、無事に戻ってこられて、良かった………。」ギュッ
提督「ふぅ………。」
一日中心配だったせいか、眠気がすごい。
提督「とりあえず、扶桑もまだ休んでくれ。二人も、今日は上がってくれ。いろいろありがとな。」
五月雨「わ、分かりました。」
夕張「提督も、ちゃんと休んでね。」
提督「おう、わかってる。」
軽く手を振って二人を見送る。
提督「さて、俺もそろそろ……。」
扶桑「………。」ギュッ
服のはしを掴まれた。
提督「ど、どうした?扶桑。」
扶桑「あっ、す、すみません………。な、なんでも、ないです。」
提督「………。」
寂しいのだろうか。
それもそうかも知れない。
ようやく来た助けだと思ったら、いきなりそれに裏切られたのだ。
提督「………ふっ。」
今日くらいは一緒にいてもいいかも知れないと思った時。
提督「………ん?」フラッ
扶桑「え、提督?」
提督「あ〜………やべ。」バタリ
体の自由が効かず、床に倒れてしまった。
意識もどんどん遠くなる。
無理をし過ぎたようだ。
不覚………。
提督「扶桑………俺は、ここに、いる………から………。」
その一言が、ちゃんと言えたのかどうかは、分からなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
次の日。
マルナナマルマル
提督「うっ………。」
暖かい………。
あれ?たしか俺は昨日、倒れちまって………。
五感が周りの状況を知覚し始める。
柔らかい………なんだこれ。
扶桑「スー………スー………。」
提督「………。」
え?
アイエエエエ!?
フソウ!?フソウナンデ!?
なんで一緒に寝てるんだ!?
いやまあ確かに一緒にいるとは言ったかもしれんが!
こ、これは流石にまずいんじゃ………。
そっと、扶桑の顔を見てみる。
扶桑「えへへ………。」
提督「………。」
満ち足りた様な顔でスヤスヤ寝ている。
これは、起こせないなぁ………。
でもやべぇなぁ。
たしかマルハチマルマルにはあれが届くはずなんだよな。
もう少しして起きなかったら、起こすか。
ーーーー ーーーー ーーーー
マルナナヨンマル
提督「扶桑………?扶桑………。」ユサユサ
結局、あの後とりあえずベッドから出ようとしたが、扶桑が起きない限り出られそうになかった。
扶桑「ん………。」
提督「おはよう、扶桑。」
扶桑「おはようございます……。」ギュウゥッ
提督「おおお、おはよう。だ、大丈夫か?」
ヤバイヤバイヤバイ。
扶桑って体つきが大人だからなんかもうヤバイ。
扶桑「ふわぁ、何がですか?」
提督「体調とか、何かおかしなところはないか?」
扶桑「私はバッチリです。それよりも、提督の方こそ大丈夫ですか?急に倒れて、本当に焦ったんだから。」
提督「ああ、その節に関しては本当に申し訳ない………。」
扶桑「ふふ、まあいいですけどね。そのお陰でこうして一緒に眠れたわけですし。」
提督「お、おお。とりあえず、もう起きないとな。朝飯も食わなきゃだし。」
扶桑「はーい。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
マルハチマルマル
鎮守府正面玄関にて
提督「………。」
少尉「あ、中尉ー!」
提督「お、来たか。わざわざ済まなかったな。」
少尉「ほんとですよ!中尉が海軍の連中は信用ならんなんて言うから。」
少尉「俺だってあいつらから荷物受け取るのめっちゃ気まずかったんですよ?」
提督「ははは、悪い悪い。今度飲みにでも行こうぜ。奢るからよ。」
少尉「あ、まじっすか!?楽しみにしてます!じゃ、これ受け取りの書類と、品物です。」
提督「おう、さんきゅ。」
少尉「じゃ、俺はこれで!」
提督「またな。」
海軍の連中に届けてもらう気にはならなかった。
少なからず俺を目の敵にしてる奴もいる。
ちなみに、あいつはレイ○系専門家だ。
大人しそうな顔でけっこうヤバイ。
マジで。
ーーーーーーーーーーーーーーー
マルキューマルマル
執務室にて
提督「じゃあ、本当にいいんだな?」
扶桑「はい。提督が許していただけるのなら、私はここで戦います。」
提督「ありがとう。戦艦扶桑、心より歓迎する。」
五月雨&夕張「「」」パチパチ〜
提督「よし、それじゃ、この書類にサイン頼む。」
扶桑「分かりました。………あの、提督?」
提督「ん?」
扶桑「本当に、私の着任で御迷惑がかかったりしませんか?」
提督「だから大丈夫だって。上の連中なんかどうだっていい。」
提督「もう二度と欠陥戦艦なんて呼ばせないからな。」
扶桑「提督………ありがとうございます!」
提督「そうそう、あとこれ。俺からの着任祝い。」
朝、少尉が届けてくれた小包を渡す。
扶桑「開けてもいいですか?」
提督「おう、いいぞ。」
ガサガサ
扶桑「あ、これって………。」
扶桑の手には、彼女の為の髪飾りがあった。
扶桑「私の髪飾り………。」
提督「流されてる時に取れちまったのかと思ってな。上に頼んで取り寄せておいた。」
扶桑「嬉しい………提督、本当にありがとう!」
提督「おう。」(ヤバイめっちゃ可愛い)
夕張「もー、提督?こういう時は普通提督が付けてあげるんでしょ?」
提督「え、そういうもんか?」
五月雨「そういうものですよ!」
提督「分かったから………扶桑、ちょっと失礼するぞ。」
提督「………よし、出来た。」
扶桑「ありがとうございます!」
夕張「わあ、可愛い!」
五月雨「よく似合ってます!」
扶桑「そ、そうかしら。提督、どうですか?」
提督「ああ、よく似合ってるぞ。凄く綺麗だ。」
扶桑「あ、ありがとうございます……///。」プシュー
提督「まあ、そんな感じで、これからよろしく頼むよ。扶桑。」
扶桑「はい!よろしくお願いします!」
提督「よし。それじゃ、出撃もそろそろ始めようと思う。そこでだ。俺から言うことがある。」
提督「絶対に生きて帰ってこい。犠牲が出る事は絶対に許さん。そんな状況は訓練に訓練を重ねて補え。」
提督「とにかく、失敗してもいいから、誰も欠けずに戻ってこい。」
扶桑&夕張&五月雨「「「はい!」」」
提督「よし!」
いよいよ、明日に初出撃の予定だ。
きっと大丈夫だ。
そう信じている。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヒトヒトマルマル
提督「鎮守府正面海域………これか。」
明日の初出撃に向けて、情報収集をしていた。
島からも一番近い海域だし、偵察艦かはぐれ艦程度しか索敵にかかった報告はないが、余念は欠かさない。
基地にいた時からの教えだ。
提督「敵にも艦艇分類があるのか………。」
情報によると、この海域の主戦力には軽巡洋艦もいるらしい。
幸い、扶桑も五月雨も夕張も練度はそれなりに高い。
扶桑はまだ改装前だが、十分戦えるはずだ。
扶桑「提督、艤装の確認、完了しました。」
提督「おう、助かる。五月雨と夕張は?」
扶桑「ああ、五月雨ちゃんがオイルの缶を被っちゃって。今は二人でお風呂に。」
提督「はは、五月雨らしいな。」
提督「じゃ、二人が戻ってきたら昼食にするか。」
扶桑「そうですね。」
ちなみに、ここにはまだ間宮さんは着任していない為、昼食は街に出て食べるか、誰かが作るかのどちらかだ。
扶桑「あ、もし良かったら、私が作りましょうか?カレーくらいなら、私も作れますよ。」
提督「お、扶桑特製のカレーか。いいな。そうしよう。」
扶桑「食材は自由に使っていいですか?」
提督「おう、いいぞ。出来たら呼んでくれ。二人も連れてくよ。」
扶桑「分かりました。それじゃあ楽しみにしててください♪」
機嫌良さげに厨房に向かう扶桑を見送る。
どうしても、明日の事が心配になってしまう。
三人の練度と海域の攻略難度から考えれば余裕で攻略出来る筈なのだが、それでも、だ。
自分が戦うよりよっぽどこたえる。
教官、あなたがあんだけ強いのに胃薬を常備してた理由がよく分かります………。
そう考えると、大佐あの野郎平気な顔してやがったな………。
五月雨「提督ー!お風呂、上がりましたー!」
提督「おかえり。俺は艤装の点検を頼んだんだが?」
五月雨「ご、ごめんなさい!オイルをこぼしちゃって、それで、ええと………。」
提督「はは、冗談だ。事情は扶桑から聞いたよ。怪我はないか?」
五月雨「はい、大丈夫です!」
提督「ん?夕張は?」
五月雨「あ、夕張さんはもう少し艤装を見ておくって。」
提督「そうか。今は扶桑が昼飯にカレー作ってくれてるから、完成したら行こう。」
五月雨「えっ、じゃあ私もお手伝いしてきます!」
提督「えっ。」
五月雨「大丈夫です!行ってきます!」ガチャリ
行っちまった………。
なんかすげぇ心配だ………。
まあ、扶桑もいるし大丈夫か………。
ーーーー ーーーー ーーーー
少しして
夕張「提督、装備点検終わりましたー。」
提督「おう、ごくろーさん。状態は?」
夕張「バッチリです!明日の出撃も万全の状態で出来ますよ!」
提督「そうか………。」
夕張「………やっぱり、心配ですか?」
提督「ああ。自分が戦うより全然きつい。既に胃が痛いよ。」
夕張「もう、もう少し私達を信用してくださいよ!」
提督「ああ、分かってる。」
テートクーデキマシタヨー!
遠くから五月雨のものであろう声が聞こえた。
提督「お、昼飯も出来たみたいだな。行こうぜ、夕張。」
夕張「五月雨ちゃんが作ってくれてるんですか?」
提督「いや、五月雨はアシスタント。扶桑がカレー作ってくれてる。」
夕張「じゃあ大丈夫ですね。」
提督「だな。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヒトフタマルマル
食堂にて
提督「よし、それじゃ。」
「「「「いただきまーす。」」」」
提督「」パクッ
提督「」( ˙༥˙ )モグモグ
提督「うん、美味い!」
夕張「美味しい!」
扶桑「良かった、上手に出来て………。」
五月雨「おいしい〜!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヒトヨンマルマル
提督「ふぅ………こんなもんか。」
大体の準備は出来た。
あとは、明日を待つだけだ。
扶桑「お疲れ様です。緑茶を持ってきましたが、お飲みになりますか?」
提督「お、ありがとう………うん、美味い。」
緑茶の丁度いい苦味と温かさが染みる。
ピンポーン
提督「ん?」
鎮守府のインターホンだ。
扶桑「誰か来客でしょうか?」
提督「いや、そんなの聞いてないが………。」
とりあえず玄関まで行ってみる。
ーーーー ーーーー ーーーー
配達員「あ、こんにちは。これ、本営からの書類です。」
提督「ああ、ありがとう。ご苦労様。」
配達員「それでは。」
提督「………大本営から?」
扶桑「な、何でしょうか………まさか、私のせいで………?」
提督「いや、今更文句は言ってこないと思うんだが………。とりあえず、執務室に戻って見てみよう。」
ーーーー ーーーー ーーーー
提督「よし、開けるぞ。」
ビリビリ
ガサガサ
提督「………ん?」
扶桑「これは………。」
提督「着任許可願?こんなにたくさん?」
封筒の中には十枚近くの着任許可願が入っていた。
無論、艦娘からのものである。
しかしなんで俺のところに?
普通はもっと強くて有名な鎮守府に届くはずなのだが。
提督「もしかしてこれ、届け先間違ってるんじゃないか?」
扶桑「いえ、届け先はちゃんと合ってるみたいですが………。」
夕張「なになにー?どうしたんですかー?」
提督「お、夕張。なんか着任許可願ってのがめっちゃ届いたんだけど。これ宛先間違ってないか?」
夕張「どれどれ………?」
夕張「………あ。」
提督「ん?」
夕張「提督、これ、宛先はここで間違いないです。」
夕張「だってこれ、私の元同僚からですもん。」
提督「って言うと、あの鎮守府にいた………?」
夕張「はい。そうです。」
提督「………まさか俺のせいで居場所が無くなって………?」
もしそうだとしたら、俺は自分のエゴで取り返しのつかない事をしてしまったという事になる。
夕張「………はぁ。」
夕張「そんな訳ないじゃないですか。」
夕張「私もみんなも、提督の元で戦いたくてそれを出したんですよ。」
夕張「提督があいつを追っ払ってくれた時点で、戦いたくなければ私たちは自由になる事も出来たんです。」
夕張「それでも、あなたに感謝したい。あなたの力になりたい。あなたと一緒にいたい。そうして、私も、みんなも、ここに来たいって思ったんです。」
提督「そう、なのか……。」
夕張の言葉が本当なら、これほど嬉しいことはない………。
少なからず、余計な事をしてしまったんじゃないかと恐れていた。
だが、大丈夫だったようだ。
そして、彼女達がそう思っているのなら。
提督「よし、じゃあ、全員受け入れよう。」
当然、全員受け入れる。
夕張「あー………あの、提督ならそう言ってくれると思ったんですけど。」
夕張「規則があって、一つの鎮守府には艦娘は八人までしか着任出来ないんですよ。」
夕張「一つの鎮守府に戦力が固まりすぎてほかが手薄になったり、深海棲艦に集中的に狙われるのを避ける為です。」
提督「うーん………そうか………。」
そう言われると納得せざるを得ない。
提督「だったら、どうすれば………。」
夕張「あの、提督。」
夕張「私だけ先に来ておいて勝手かも知れないんですが、提案があります。」
夕張「一つの艦隊は六人までしか編成出来ませんし、先のことも考えると、このタイミングで八人まで埋めるのは得策じゃないと思うんです。」
夕張「だから、三人、その中からランダムで選んではどうですか?」
提督「ランダムか………。」
理にかなっている。
確かに、いきなりマックスまで着任させるのは、いざと言う時に対応出来ない可能性がある。
提督「よし、分かった。」
ーーーー ーーーー ーーーー
そうして、俺はあるものを用意した。
提督「これだ。」
扶桑「ダーツ、ですか?」
提督「ああ。着任許可願は全部で何枚だ?」
五月雨「ええと、九枚ですね。」
提督「じゃあ、それぞれに番号をふってくれ。」
提督「俺が三回投げて、当たった番号の三人にする。誰が当たっても恨みっこなしだ。」
扶桑「準備出来ました。」
提督「よし、回してくれ。」
カラカラカラ
ヒュッ
タン
提督「何番だ?」
扶桑「三番です。」
五月雨「三番………電ちゃんです。」
提督「電………そうか………。」
駆逐艦、電。
俺があの鎮守府で一番最初に話した艦娘。
助けると誓った艦娘。
彼女に最初に当たったのは、必然だったのかもしれない。
提督「よし、次だ。」
カラカラカラ
ヒュッ
タン
扶桑「二番です。」
夕張「二番は………げ、足柄さんだ。」
提督「なんだ、げ、って。」
夕張「いえ、あの人も着任許可願出してたんだって。足柄さん、みんなの為に唯一前提督に正面から意見してたんです。」
夕張「だからてっきり、もう自由にして貰ってたのかと………。」
提督「………なるほど。」
提督「よし、最後、回してくれ。」
カラカラカラ
ヒュッ
タン
扶桑「七番です。」
五月雨「七番………ええと………これ、なんて読むんだろう………?」
なにやら五月雨が頭を悩ませ唸っている。
提督「ん?どれどれ。」
提督「………わ、分からん。」
アルファベット表記ではあるのだが、発音するとなるとよく分からない。
夕張「もう、しょうがないなぁ。えーっと………?ああ、これはグラーフ・ツェッペリンって読むのよ。」
提督「グラーフ?」
扶桑「海外艦………でしょうか?」
夕張「うん。グラーフさんは、ドイツの正規空母ね。」
提督「ドイツ艦、か………。」
まあ、電も含めて会ってみないことには始まらない。
提督「よし、じゃあこの三人で決定だ。夕張、本営に連絡しておいてくれ。」
夕張「はーい。」
提督「二人も、準備は済んだな。じゃあ、今日はもう自由にしてていいぞ。」
扶桑「分かりました。」
五月雨「分かりました!」
五月雨「扶桑さん!良かったら夕張さんも連れて街のケーキ屋さんに行きませんか?」
扶桑「ええ、私はいいわよ。あ、もし良かったら、提督も行きませんか?」
提督「いや、俺は甘い物はあんまりな。」
五月雨「えー………提督、来てくれないんですか?」
提督「悪いな。また別の機会にでも行くよ。」
五月雨「ちぇっ。じゃあ、また今度遊びましょうね?」
提督「おう。」
五月雨「それじゃ、行ってきます!」
扶桑「行ってきます。」
提督「いってらー。」
楽しそうに歩いていく二人を見送る。
ちなみに、甘い物が苦手というのは嘘だ。
俺はかなりの甘党だが、正直美女三人とケーキ屋など、恥ずかしくてとても行けない。
提督「………チキンだな、俺。」
なんてボヤいたりしながら、次の日を待つのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
そして、次の日。
マルキューマルマル
提督「よし。時間だ。各員、出撃ブースへ移動、準備を完了しろ。」
扶桑「了解。」
夕張「オッケーです。」
五月雨「準備出来ました。」
提督「それじゃ、さっき言った通りだ。主力も軽巡クラスしか見つかってないし、お前らの練度なら問題無いだろう。」
提督「だが、くれぐれも油断はするな。戦闘海域に入ったら索敵、警戒を忘れずにな。」
提督「とにかく、無事に戻ってきてくれ。」
夕張「よーし、行きますか!」
五月雨「頑張ります!」
提督「扶桑、頼むぞ。」
扶桑「任せてください。必ず、あなたに勝利を。」
正面海域程度で大袈裟かも知れない。
だが、戦争は何があるか分からない。
ついさっきまで会話していた奴が突然死ぬ、なんて珍しくもない。
だからこそ、どんな小さな作戦でも万全の体制で臨む。
俺の決めたルールだ。
提督「よし。出撃開始!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヒトヒトマルマル
提督「………。」カリカリ
三人が出撃してから2時間ほど経った。
天候や風向きに問題なければ、そろそろ作戦海域に到着するだろう。
………クソ。
自分が戦えない事がこんなにも辛い事だとは知らなかった。
書類仕事などとても手につかづ、仕事も思うように進まない。
そんな時だった。
ピンポーン
提督「ん?」
鎮守府のインターホンだ。
だが、来客の予定もない。
また本営からの書類だろうか。
とりあえず玄関に向かう。
提督「ご苦労さま。今回は何の書類………?」ガチャリ
提督「え?」
そこに立っていたのは、配達員でも少尉でもない、銀髪の綺麗な女性だった。
???「その服装………そしてその顔。」
???「間違いないようだな。」
提督「えっと、どちら様で?」
グラーフ「自己紹介が遅れたな。Guten Morgen。私が航空母艦、Graf Zeppelin だ。よろしく頼むぞ、admiral。」
提督「グラーフ………そうか、よろしく頼む。提督の〇〇中尉だ。」
提督「とりあえず、立ち話もなんだ。中へ入ってくれ。」
ーーーー ーーーー ーーーー
向かい合う形で、ソファに座る。
提督「ずいぶん早いんだな。許可願を受理したのは昨日のはずだが。」
グラーフ「ああ。昨日本営から受理されたと連絡を受けて、すぐにこっちに向かって来たからな。」
グラーフ「ここには他に艦娘は?」
提督「三人いる。今は出撃中だ。戦艦扶桑、軽巡夕張、駆逐艦五月雨だ。仲良くしてやってくれ。」
グラーフ「ふっ、了解だ。うちの同僚達が、夕張ばかり抜けがけしたと騒ぎ立てていたが、本当だったようだな。」
提督「ああ。なんせ俺が着任したその日にもう来たからな。ま、悪いやつじゃないのは分かってるさ。」
提督「ところでグラーフ。一つ聞いてもいいか?」
グラーフ「ああ。何でも聞いてくれ。」
提督「何故、ここに来る気になったんだ?」
グラーフ「………。」
これだけは聞かなければならない。
ここは譲れなかった。
本当ならみな、もう戦いたくなどないはずなのだ。
グラーフ「そう、だな………。」
グラーフ「そこの所は、私もよくわからないな。」
グラーフ「正直、あの前提督がいなくなった直後は艦娘など御免だと思っていたんだがな。」
グラーフ「同僚達がadmiralの鎮守府に行きたいだ何だと騒いでいるのを耳にした途端………。」
グラーフ「なんだかいてもたっても居られなくなって、すぐに着任許可願を出した。」
グラーフ「だから、そんなに重い理由はない、かな。」
グラーフ「強いて言うなら、admiralの傍にいたい、と言ったところか。」
提督「そ、そうか。」
な、なんか照れるな。
提督「まあ、よろしく頼む。グラーフ。」
グラーフ「こちらこそ。admiral。」
新しい仲間がいい奴だったおかげか、少し心が落ち着いてきたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヒトフタマルマル
グラーフ「admiral。」
提督「………。」
そろそろ、戦闘が始まってから一時間近く経過しているはずだ。
予定通りなら、偵察艦を撃沈して主力の潜む海域に向かっているはずだ。
………大丈夫だろうか。
グラーフ「admiral!」
提督「あ、ああ、悪い。どうした?」
グラーフ「………大丈夫か?少しボーッとしていたようだが。」
提督「大丈夫だ。すまない。」
グラーフ「………仲間が心配なのか?」
提督「………分かるか、やっぱり。」
グラーフ「admiral………心配なのは分かる。」
グラーフ「だが、もう少し彼女達を、私達を信じてくれ。」
グラーフ「それに、今出撃しているのは夕張達だろう?あいつがそう簡単にくたばったりしないと思わないか?」
提督「………そう、だな。」
グラーフ「だから、信じて待とう。きっと、大丈夫だ。」
提督「………すまない、ありがとう。」
そうだ。
彼女達はきっと今も命懸けで戦っている。
各々の戦う理由を抱いて。
俺が縮こまってちゃ始まらないじゃないか。
信じて待つ。
それが俺の仕事だ。
グラーフ「………もう大丈夫そうだな。」
提督「ああ。」
グラーフ「もう昼過ぎだ。admiral、昼食はどうする?」
提督「ああ、俺が作るよ。何か食べたいものはあるか?」
グラーフ「何でもいいぞ。admiralの得意なものを作ってくれ。」
提督「分かった。出来たら呼ぶよ。」
昼食には魚の煮付けなどの和食を作った。
グラーフは味噌汁がお気に召したようだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヒトゴーマルマル
鎮守府出撃ブースにて
提督「よし、ハッチを開け。」
ゴウンゴウン
ガチャン
バシュゥゥゥゥ
提督「………おかえり、みんな。」
五月雨「提督ー!」ダキッ
提督「ぬお。苦しい。怪我はないか?」
五月雨「はい!バッチリです!」
夕張「ただいまですー!提督ー!」ダキッ
提督「おう、お疲れ様。」
夕張「提督の作戦、完璧だったよー!敵の配置も編成も予想通りだった!」
提督「そりゃ良かった。で、そろそろ離してもらってもいいか?」
五月雨「えー………。」
提督「また別の機会にでもしてやるから。」
夕張「ちぇっ。」
提督「扶桑も、お疲れ様。」
扶桑「はい。提督の作戦のおかげです。」
提督「いや、そんなもん些細なもんさ。お前らのおかけだ。ありがとな。」
扶桑「提督………。」ギュゥッ
提督「んむ。」
扶桑「少し、こうしててもいいですか?」
提督「おう、いいぞ。」
扶桑「暖かい………。」
グラーフ「………。」ムッスー
夕張「あれ、グラーフさん。早いね。」
グラーフ「お前に言われたくはない………。すっかり馴染みおって。足柄が来たら怒られるぞ。」
夕張「うわ、やだわそれ。」
提督「よし、じゃあとりあえず執務室へ行くか。」
ーーーー ーーーー ーーーー
提督「じゃ、報告を頼む。」
扶桑「はい。出撃から二時間、戦闘海域に入ったらまず駆逐ロ級一隻に遭遇、撃沈。」
扶桑「そこから四十三分後、敵主力艦隊の軽巡ホ級、駆逐イ級二体と遭遇、昼戦で撃沈。完全勝利です。」
提督「さすがだな。よし、怪我はないにしても、それなりに疲れてるだろう。ゆっくり休んでくれ。」
五月雨&夕張「「はーい。」」
提督「あ、ちょいまち。その前に、グラーフ、自己紹介でもしてくれ。」
グラーフ「ああ、分かった。航空母艦、グラーフ・ツェッペリンだ。よろしく頼む。」
提督「よし、じゃあ、解散!お疲れさん!」
おー!
かなり心配だったが、何事も無く終わって良かった。
やっぱり、待っているだけは性に合わない。
何かしら打開策はないだろうか………。
とりあえず、今日は休むか。
その後は、みんなで夕食を食べ、ゆったりと過ごした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
次の日。
マルナナマルマル
提督「」ムクリ
提督「」フワァ
提督「」キョロキョロ
グラーフ「スー………スー………。」
提督「」( ・д・ )
提督「」(つд⊂)ゴシゴシ
提督「」( ・д・ )
な、なんでグラーフが俺の布団で寝てるんだ?
昨日は確かに別々に寝たはずだが。
夜這いでもされたのか?
とりあえず起きてもらわないとトレーニングに行けない。
提督「おい、グラーフ。起きろ。朝だぞ?」
グラーフ「む………おはよう、admiral。」
提督「おう、おはよう。なんでここにいるんだ?」
グラーフ「admiralが悪いのだ。」
提督「え?」
グラーフ「昨日散々私のことを放ったらかすから寂しくなってしまったのだ。」
提督「………。」
い、意外と可愛いところがあるんだな。
見た目とのギャップでちょっとくる。
提督「あ、ああ、悪かったな。」
グラーフ「私にも少しは構ってくれよ?」
提督「おお、分かった。」
ーーーー ーーーー ーーーー
ヒトヨンマルマル
拝啓〜この手紙〜読んでいる貴方は〜
どこで〜何をして〜いるのだろう〜
提督「〜♪」
扶桑「提督、失礼します。誰か来たようですが。」
提督「あ、悪い。インターホン聞こえなかった。誰だ?」
扶桑「あ、すみません、まだ確認はしてないのですが。」
提督「そっか、いいよ。行こう。」
ーーー ーーー ーーー
玄関にて
提督「はいよ、お待ちどうさま。どちらさんで?」
電「あ、司令官さん!こんにちは、電なのです!」
提督「お、電じゃんか!久しぶり!元気してたか?」
そこにいたのは、前の鎮守府で出会った電という少女と一人の女性だった。
電「はいなのです!司令官さんのところに来るのが待ち遠しかったのです!」
提督「そっか、ありがとな。」ナデナデ
電「えへへー!」
???「おほん、そろそろ自己紹介してもいいかしら?」
提督「あ、ああ。どうぞ。」
足柄「足柄よ!砲雷撃戦が得意なの!よろしくね!」
提督「ああ、君が足柄か。………なんか、予想と違ったな。」
足柄「何よやぶからぼうに。いきなり失礼じゃない?」
提督「いや、悪い意味じゃないんだ。夕張がビビってたからどんないかつい奴かと思ったら、普通に綺麗な女だったからな。」
足柄「えっ、い、いきなり口説かないでよ!」
提督「え、別にそんなつもりは」
夕張「げっ、足柄さん!」
足柄「あ、夕張!あんた、よくも抜けがけしたわねぇー!待ちなさーい!」ドドドドド
夕張「イヤアアアアアアアアア!!!!!!!!」
提督「………とりあえず入るか。」
電「なのです。」
主要な手続きも終えて、よく馴染めているようで何よりだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
二日後
南西諸島沖
完全勝利
ーーーーーーーーーーーーーーー
そこから五日後
製油所地帯沿岸
夕張がかすり傷
S勝利
ーーーーーーーーーーーーーーー
そこから六日
南西諸島防衛線
五月雨が小破
S勝利
ーーーーーーーーーーーーーーー
俺達は着々と戦果を積んでいった。
が、未だに納得出来ていない事があった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
南西諸島防衛線での勝利から三日後の朝。
マルキューマルマル
提督「ふぅ………。」
執務はあらかた済んだ。
夕張達は遠征に行ったし、非番のグラーフと足柄はまだ起きてこない。
提督「本当に済まないな、扶桑。せっかくの休みを潰しちまって。」
扶桑「いえ。提督のお願いならば、私は全然構いませんよ。」
提督「ありがとな。今度何かしら埋め合わせするから。」
扶桑「ふふ、それは楽しみです♪」
俺は今から扶桑を連れて大本営に向かう。
上層部の連中に話をつける為だ。
書類のやり取りじゃ埒が明かない。
提督「よし、行くか。じゃ、二人が起きてきたら説明頼むな。」
妖精「」ビシッ!
提督「はは。行ってくる。」
ーーーー ーーーー ーーーー
鎮守府の前には、迎えの車が既に待機していた。
提督「よう。度々悪いな。」
少尉「いえいえ、大丈夫ですよ。今日あいつらと話すのは中尉なんですよね?」
提督「おう、そうだ。」
少尉「なら全然………所で、隣の美人さんはどちら様ですか?」
少尉は不思議そうな目で扶桑を眺めている。
提督「ん、俺の今の仲間の扶桑だ。艦娘のな。」
少尉「ほぇ〜………。本当に普通の人と変わらないんですね。本営の奴らよりよっぽど人間らしいや。」
提督「人間らしいも何も、俺は普通の人間だと思ってるんだがな。そこら辺はよく分からん。」
少尉「さて、じゃそろそろ行きますか。」
提督「おう、頼む。」
扶桑「よろしくお願いします。」
バタン
ガロロロロロロ
なんだか車に乗るのは久々だな。
ーーーーーーーーーーーーーーー
扶桑「あの、少尉さん?」
少尉「はい、どうしました?」
ふと、扶桑が口を開いた。
扶桑「提督って、前はどんな感じだったんですか?」
提督「」Σ(・ω・ノ)ノ
少尉「ああ〜、基地にいる時の事ですね?あはは、懐かしいなぁ。」
扶桑「ぜひ聞きたいです。」
少尉「いいですよ。………ははは、今考えると本当にバカばっかりやってましたね、俺ら。」
提督「まあ否定はしない。」
少尉「大佐のお使いでこっそりコンビニ行って教官にクッソ怒られたり。」
提督「一日中走らされたなぁ………ありゃキツかった。」
少尉「雑用係の大富豪で大佐が連敗記録打ち立てたり。」
提督「あの人ほんと弱かったな……。」
少尉「前支えのトレーニング中に軍曹が屁こいてやり直し食らったり。」
提督「あれ以来芋類は食わせてないな。」
少尉「オレンジマスタードレモネード緑茶作ったり。」
提督「あの時お前らが俺を嵌めたのまだ根に持ってるからな?」
少尉「闇鍋やってる途中に一人づつ教官に連れ去られていったり。」
提督「今までで一番怖い経験だなあれ………。」
扶桑「ふふ、ふふふ。」
提督「ん、どした?」
扶桑「いえ、お二人とも、とても楽しそうに話しているので。素敵だなぁって思って。」(*´ω`)
提督&少尉「「………。」」
少尉「あの、中尉。」
提督「なんだ。」
少尉「扶桑さんをぜひお嫁さんに」
提督「やらん。扶桑は俺のもんだ。」
扶桑「えっ///」
少尉「いいなぁ………中尉ったら提督業なんてめっちゃ役得じゃないですか。」
提督「今回みたいな事がなけりゃ否定しないんだけどな。ほれ、着いたぞ。」
喋っているうちに、本営に到着した。
さーて、座ってるだけしか脳がない老人共を説得しに行くか………。
提督「じゃ、行ってくるわ。」
少尉「うっす。ご武運を。」
扶桑「ありがとうございました。とても楽しかったです。」(^^)
少尉「はい!またいつでも!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
コツコツ
本営の中を元帥がいる部屋まで歩く。
ヒソヒソ
クスクス
憲兵や役員の話し声が鬱陶しい。
提督「………チッ。」
扶桑「大丈夫です提督。気にせず行きましょう。」
提督「ああ。」
憲兵「ここです。元帥は中に。どうぞ。」
提督「ありがとう。」
提督「失礼します。東鎮守府、〇〇中尉です。」ガチャリ
元帥「おお、来たか。まあ、二人とも座りたまえ。」
提督「いえ、すぐに済むので結構です。」
中将「元帥が座れと仰っているのだ。さっさと座れ!」
提督「………はぁ。」
また面倒臭い奴が………。
正直な話、元帥はそこまで悪い人間ではない。
が、こういう奴ら、上層部の連中が圧力をかけているせいで元帥自身の力は半減している。
だからこいつもここにいるのだろう。
そして。
提督「お前に話はねえよ。黙って見てろ。」ギロッ
俺はこういう奴が心底嫌いだ。
中将「何だと!?陸軍風情が好き勝手しおって!」
提督「あ?」
扶桑「あ、あの、提督………。」
元帥「二人ともやめないか!」
提督「すみません。」
中将「………チッ。」
元帥「中尉、何も言い争いをする為に来たわけでは無いだろう。中将も、同席しているからと言って好き勝手な行動は慎みなさい。」
中将「………申し訳ありません。」
元帥「座らなくても良い。中尉、話というのはなんだね?」
提督「回りくどいのは嫌いなので簡潔に言います。」
提督「俺の鎮守府の艦娘の着任人数制限を無くしてください。」
中将「何!?」
提督「規則自体の改変でも、俺だけが例外でもそこは構いません。とにかく俺の鎮守府の人数制限を無くしてもらいたい。」
元帥「それは簡単な事ではないぞ。」
元帥「戦力の偏りなど様々な問題が生じる。」
提督「何も艦娘全員を集めようなんて思ってないです。ただ、着任許可願を拒否するのは俺の理念に反する。」
提督「それに、ドロップ艦娘を見捨てるなんて俺は絶対に出来ない。」
提督「だから制限をなくしてほしい。」
中将「本当に貴様は我が儘ばかりだな。そもそも、ドロップ艦娘など噂はされているが実際はいないだろう?」
提督「ここにいる扶桑がそうだ。滅多な事口にすんじゃねえよ。」
中将「へえ、こいつが?」
中将「さっきも言ったが、貴様の我が儘をそう簡単に許す訳にはいかないんだよ!」
提督「許す許さないはてめぇが決める事じゃねえだろ。」
中将「ふん、何も艦娘の役割は戦闘だけじゃない。」
嫌な笑みを浮かべながら近づいてくる。
中将「男を満足させる女の役割もあるんだよ。こんな風にな!」
中将は急に扶桑の胸を強く揉み始める。
扶桑「い、嫌っ!やめてください!」
提督「おい!!」グイッ
腕を掴み引き剥がす。
中将「………離せ。」
提督「………チッ。」
中将「ふっ、そんなにムキになるなよ。冗談だ。」
ニヤニヤと、嫌味を言ってくる。
扶桑「て、提督………。」キュッ
扶桑が不安そうな顔で服の裾を握ってくる。
提督「大丈夫だ。もう少し待っていてくれ。」
スタスタ
中将に歩み寄り、奴の帽子を奪う。
中将「貴様、何をする。」
提督「こうすんだよ。」
俺は奴の帽子をゴミ箱に叩き入れた。
中将「なっ、貴様!」
提督「冗談だ。笑え。」
中将「貴様ぁぁぁ!」
元帥「二人とも、落ち着け!」
提督「じゃ、帰ります。よろしくお願いしますね。」
ガチャリ
バタン
提督「ふぅ………。」
ふざけやがってぇ!!
部屋から怒鳴り声が聞こえるが気にしない。
提督「扶桑、わるかったな。嫌な思いさせちまって。」
扶桑「いえ、大丈夫です。提督が、私達を思ってくれてるって感じられたから。」
提督「ありがとうな。さっさと帰ろう。」
扶桑「はい。」
結局、話は十分程度で終わった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
少尉「あ、おかえりなさい、お二人とも。」
提督「おう。」
少尉「………交渉は決裂ですか。」
提督「はは、分かるか、やっぱり。」
少尉「そりゃ、顔見れば分かりますよ。どれだけの付き合いだと思ってるんですか。」
少尉「相当癇に障ること言われたんですね。」
提督「まあ………な。」
中将。
奴は艦娘を平然とモノ呼ばわりしていた。
絶対に許せない。
いつか目に物見せてやる。
とりあえず、今は切り替えよう。
済んだことだ。
提督「あー、クソー!俺って交渉不向きだなーー!!」
少尉「お、中尉の切り替えタイムだ。」
扶桑「き、切り替えタイム?」
少尉「はい。あーやって思ってることを口に出して、スッキリして次の手を考えるんです。」
提督「クッソー、中将あの野郎禿げちまえ!毛根残らず燃やしてやる!」
少尉「仮にも上官相手にとんでもねぇ事言ってるわこの人。」
提督「ああーーー!ほんっとごめん扶桑!俺が連れてきたせいで!マジでごめん!」
扶桑「あ、そ、そんな、提督。」
提督「ふー………。」
少尉「スッキリしました?」
提督「………おう。車を出してくれ。」
少尉「うっす。鎮守府まででいいですか?」
提督「いや、基地に向かってくれ。」
少尉「基地ですか?分かりました。」
提督「扶桑、悪いがこのまま俺が前居た基地に寄ってもいいか?」
扶桑「はい、もちろん!楽しみです。」
提督「じゃ、妖精さんに連絡しといてくれ。」
扶桑「分かりました。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
基地のゲートにて
時刻はもうヒトキューマルマルを過ぎていた。
少尉「うーっす、お願いしまーす。」
IDカードを兵士に呈示する。
兵士「お疲れ様です、少尉。………って、中尉!?おかえりなさい!」
提督「おう。ちょっと邪魔するぞ。」
兵士「はい!どうぞ!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
スタスタ
とりあえず、食堂へ向かう。
ここに来た目的は准将と話すためだが、腹も減っていたし、みんなにも顔を見せておきたかった。
ザワザワ
提督「おーうお前ら!今戻ったぞ!」
兵士「ん?」
兵士「え?」
兵士達「「「「中尉ー!!」」」」
少尉「うわ、うるせ。」
兵士「お久しぶりです中尉!」
兵士「おかえりなさい!中尉!」
兵士「中尉、また飲み勝負しましょうよ!」
中尉!
中尉?
提督「あー………。」
帰ってきた、という感じがする。
やっぱり、この賑やかさが好きだ。
大佐「よう、提督。」
提督「あ、大佐。おひさ。」
大佐「おう。今日はどうした?来るとは聞いてなかったが。」
提督「ちょっと野暮用があって。准将は?」
大佐「あー、この時間なら部屋だろう。今はコレクションを堪能してるだろうから、行くなら後にしてやれ。」
提督「ならちょうどいいや。飯でも食いながら話しますか。」
ーーー ーーー ーーー
大佐「へぇ、じゃあそいつが?」
提督「ええ、艦娘です。」
扶桑「超弩級戦艦、扶桑です。よろしくお願いします。」
大佐「えらい美人だな。お前手ぇ出したりしないよな?」
提督「しねぇわハゲ。」
大佐「もっと年齢の低い子はいないのか?」
提督「いますよ。大佐のドストライクくらいの子が。」
大佐「なんで連れてこないんだ!」
提督「そういう反応するからでしょうが!」
少尉&扶桑「「あはははは!」」
ーーー ーーー ーーー
兵士「扶桑さん、で合ってます?」
扶桑「はい、そうです。」
兵士「扶桑さんが、噂の艦娘なんですか?」
扶桑「はい。」
兵士「海に出て敵と戦ってるんですか?」
扶桑「そうです。」
兵士「マジか………。」
少尉「こんな美人なのにな。」
兵士「少尉もしかして狙ってます?」
少尉「いや、俺じゃ無理だよ。」
少尉「あ、そうだ。扶桑さん、一つ聞いてもいいですか?」
扶桑「はい、なんでしょう?」
少尉「中尉の事って、どう思ってます?」
扶桑「提督、ですか………?」
扶桑「素晴らしいお人だと思います。私達艦娘にも人と変わらず接してくれますし、作戦立案や執務の能力も高い。最高の提督です。」
兵士「なるほど………。」
少尉「うんうん、それもあるんですけど、異性としてはどう思ってます?」
兵士「またこいつはデリカシーのない事を………少尉もう酔ってます?」
扶桑「提督を、異性として………。」
少尉「酔ってないよ。」
扶桑「お、お慕いしています………。」
少尉「つまり?」
扶桑「す、好きです………///」
少尉「よし、あの野郎バラしてやる。」
兵士「あんたじゃ無理だから!やめろ!」
ーーー ーーー ーーー
フタフタマルマル
提督「おお、そのままとっといてくれたのか。」
俺はここにいた時に使っていた部屋にいた。
少尉「はい。今も空き部屋ですし、掃除はちゃんとしてるので使ってもらって大丈夫です。」
中尉「さんきゅ。じゃ、准将のとこに行ってくるから扶桑はちょっと待っててくれ。」
少尉「行ってらっす。」
ーーー ーーー ーーー
提督「准将、入っていいですか?」コンコン
准将「おお、提督。久しぶりだな。」
提督「ご無沙汰っす。」
准将「で、頼みたいことってのは?」
提督「大分面倒なんですけど………。」
今日あった事と趣旨を伝える。
准将「なるほど………お前も苦労してるな。」
提督「まあ、そうですね。」
准将「よし分かった。あいつらは何とか黙らせておこう。そのうち許可書類が届くはずだ。」
提督「助かります。」
准将「よし、今日はゆっくりして行け。あいつらも喜んでただろ?」
提督「そうですね………。」
准将「………。」
提督「…………。」
提督「………ちゃんと新作は金庫の中に入れときましたよ。」
准将「ありがとうございます!!!!!!!!」
提督「はははは、それじゃ、おやすみっす。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
部屋に戻る。
提督「ただいま。」
少尉「おかえりっす。それじゃ、俺もそろそろ行きますね。」
提督「おう。朝からありがとな。助かった。」
少尉「うっす!おやすみっす!」
提督「おう、おやすみ。」
夜になっても元気な少尉を見送る。
提督「さて、俺らもそろそろ寝るか。」
扶桑「そうですね。」
提督「悪いな、見ての通り一つしかベッドがないから、ちょいと狭いかもしれんが。」
扶桑「だ、大丈夫です。」
ベッドに潜り込む。
提督「ふう………今日は疲れたな………。」
扶桑「そうですね………。」
提督「どうだ?ここの連中は、好きになれそうか?」
扶桑「はい………。とてもいい人達です。話していて、心があったまる感じがして………。」
扶桑「なんだか、提督が皆さんに人気なのを見てると誇らしく思えたりもしました。」
提督「そうか………。」
扶桑「あの、提督………?」ギュッ
提督「どうした?」
扶桑「本当に………無理だけはしないでくださいね………?」
提督「それは………昼間のことか?」
扶桑「はい………。提督が、私達を大切に思ってくれてる事は分かります。」
扶桑「でも、もし提督が居なくなったりしたら、私達は………私は………。」
提督「………大丈夫だ。」
提督「もう二度と辛い思いはさせない。」
提督「俺が居なくなる事がお前達を、扶桑を悲しませるのなら、俺はずっと扶桑の傍にいるさ。」
提督「何があっても、守ってやる。」ギュッ
扶桑「提督………。」ギュッ
絶対に守る。
何があっても、守ってみせる。
あんな連中の好き勝手にさせてたまるか。
扶桑「スー……スー……。」
提督「絶対、一人にはしないからな………。」ギュッ
そうして夜は更けていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
次の日。
マルナナマルマル
提督「うっ………うーん。」ムクリ
ん?
天井が違う………あ、基地に戻ってきてるのか。
扶桑「あ、提督。おはようございます。」
横には満足気な顔をした扶桑がいた。
提督「おはよう。今、何時だ?」
扶桑「ちょうど午前七時です。このくらいの時間に起きられると気持ちいいですね。」
提督「だな。さて、トレーニング行くか。」
ーーー ーーー ーーー
第二演習場
いーちっ!
いーちっ!
にーっ!
にーっ!
屈強な男達の声が響いている。
提督「スー、ハー………。」
提督「やっぱここの空気は落ち着くな………。」
少尉「あ、お二人ともおはようございます。」
提督「はよっす。」
扶桑「おはようございます。」
少尉「中尉もトレーニングするんですか?」
提督「おう、久々にな。」
教官「ほーう………?久々に帰ってきた癖に挨拶もしない無礼者はお前か?」
提督「げっ、教官!おはようございます!」
教官「全く、少し見ない間にすっかり顔つきを変えよって。まあいい、この時間だけでも久しぶりにしごいてやる。」
教官「貴様らもだ!恨むのなら中尉を恨むんだな!」
兵士「ええー!」
兵士「中尉ー!何してくれるんすかー!」
提督「俺のせいなのか!?」
教官「はははははははは!さあ、まずはダッシュだ!いけ、貴様ら!」
少尉「教官、楽しそうですね。」
大佐「ま、何だかんだ一番提督の事を気にかけてたからな。すっかり大人の顔つきになって、安心したんだろう。」
少尉「親心みたいなものですかねぇ。」
大佐「実際そうだろうな。孤児だった提督を育てたのは教官だからな。」
扶桑「あの、提督は、孤児だったんですか?」
大佐「ああ。戦争孤児ってやつだ。だから親の顔も知らない。それでもあんな風に明るく育ってくれたのは、ここの連中のお陰だな。」
扶桑「そうだったんですか………。」
大佐「扶桑よ。提督は、あいつはああ見えて寂しがり屋なんだ。どうか、傍に居てやってくれ。」
扶桑「はい、もちろんです!」
ーーー ーーー ーーー
ヒトヒトマルマル
提督「じゃ、じゃあそろそろ帰ります。」ゼハーゼハー
教官「やれやれ、もう帰るのか。」
大佐「そうだ。提督、准将からの伝言だ。任務完了、だそうだ。」
提督「………マジかあの人。」
教官「どういう事だ?」
提督「昨日した頼み事をもう解決したって事です。」
大佐「じゃ、また来いよ。」
提督「はは、気が向けば。」
教官「あ?」
提督「必ず来ます。」
少尉「じゃ、行きますよー。」
提督「それじゃ、また。」
教官「ああ。」
大佐「おう。扶桑、提督を、頼むぞ。」
扶桑「………はい!お任せ下さい!」
ガロロロロロロ
大佐「………あいつも、立派に育ったな。」
教官「ああ。」
大佐「どうだ?息子が親離れする時はやっぱ寂しいのか?」
教官「バカを言え。血が繋がってるわけでもないだろう?」
大佐「へぇ、あんたがそんな事言うとはな。提督はそんな事気にしてないと思うぞ?」
教官「………そんな事は分かっている。」
教官「だが、私も軍人の端くれだ。いちいち寂しがってたまるか。」
大佐「……そうか。」
大佐「………ふっ。」
教官「ははははは。」
大佐「ははははは!」
明るい空に、二人の軍人の笑いが響いて消えていった。
新しい炎を育て、見送りながら。
吹き荒れる風の中でも自分を見失わぬようにと、願いながら。
ーーーーーーーーーーーーーーー
少尉「よし、着きましたよ。」
提督「おう、さんきゅ。扶桑、着いたぞ、って………。」
扶桑「スー……スー……。」
少尉「あらら。」
提督「寝ちまったか。」
提督「しゃあねえ、よっと。」オヒメサマダッコ
少尉「おお………。羨ましい。」
提督「お前のその正直なとこホント好きだわ。」
少尉「それじゃ、また。」
提督「おう、さんきゅーな。」
ガロロロロロロ
提督「さて、戻るか。」
スタスタ
執務室前
提督「ただいま。」ガチャリ
五月雨「あ、提督!おかえりなさい!」
五月雨「って、扶桑さん?どうしたんですか?」
提督「ああ、ちょっと疲れたんだろう。部屋で寝かせておくよ。」
ーーー ーーー ーーー
五月雨「それで、どこに行ってたんですか?」
提督「ん、本営と、前の職場。」
五月雨「もー、私も行きたかったー!」
提督「はは、また今度な。」
グラーフ「五月雨、何やらまた新しい書類が………って、admiral。帰ったのか。」
提督「ああ、ただいま。グラーフ、その書類見せてくれ。」
グラーフ「ああ。」つ□
ーーーーーーーーーーーーーーー
東鎮守府〇〇提督
貴殿及ビ貴殿ノ上官カラノ強イ要望ノ為、貴殿ノ鎮守府ノ艦娘着任人数制限ヲ排除スル物トスル
コノ案件ハ貴殿ノ鎮守府ノミ例外トスル物デアル為気ヲ付ケラレタシ
大本営
ーーーーーーーーーーーーーーー
提督「さすがだなあいつ……。」
グラーフ「これは………。」
五月雨「提督、もしかしてこの為に?」
提督「ああ。まあ結局知り合いに助けてもらったんだけどな。」
提督「よし、何にせよこれで人数制限はない。グラーフ達と一緒に着任許可願を出していた奴ら全員に連絡の書類を出してくれ。」
五月雨「わかりました!」
提督「グラーフも、手助けを頼む。」
グラーフ「承った。」
そうして、最初に許可願を受理出来なかった六人にすぐに連絡をして、彼女らの到着を待った。
ーーーーーーーーーーーーーー
その日は扶桑と一緒にゆったりと過ごした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
次の日。
ヒトマルマルマル
提督「………。」カリカリ
電「………。」カリカリ
執務中
提督「………。」カリカリ
電「………。」カリカリ
ピンポーン
電「あ。」
提督「………。」カリカリ
電「司令官さん!」
提督「………。」カリカリ
電「司令官さん!!!!!!!!」ガバッ
提督「うぉぉおおぉおお!どうした!?」
電「お客さんなのです。インターホンが鳴ったから、早く行くのです!」
提督「おお、悪いな。行くか。」
ーーー ーーー ーーー
提督「はいーっす。お待ちどうさん。」ガチャリ
金剛「中尉サーン!!!会いたかったデース!」ダキッ
提督「ぬおっと!!金剛?」
金剛「モー!着任許可願の返事が遅いネ!スゴく心配だったんだヨ?」
提督「ああ、悪かったな。色々とトラブっててな。」
提督「あ、大淀さんも。こんちゃ。」
大淀「こんにちは。着任許可願を受理して頂き、ありがとうございます。」(´˘`*)
提督「いえいえ。」(良かった。笑顔が戻ってる。)
提督「それと、君は?名前を教えてくれ。」
不知火「駆逐艦、不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです。」
提督「おう、よろしくな。」つ
不知火「………。つ」ギュッ
大淀「あと三人いるのですが、まだ到着は少しかかるそうです。」
提督「ん、分かった。じゃ、とりあえず中入るか。」
提督「金剛、そろそろ離れてくれ。あと、不知火ももう離していいぞ?」
金剛「嫌ネ。」
不知火「私もお断りします。」
提督「………。」
ーーー ーーー ーーー
執務室にて
提督「よし、じゃあそれぞれ、書類にサインしてくれ。」
ハーイ
艦娘記入中
提督「よし、じゃあお前らにもまず聞く事がある。」
提督「なんで、ここに来たんだ?」
金剛「え?」
提督「これだけは答えてくれ。大事な事なんだ。」
金剛「分かったネ。うーん………中尉サンが好きだから、じゃ駄目デスカ?」
提督「お、おお、そうなのか。でも、本当にいいのか?」
金剛「もちろんネ!ワタシは中尉サンの為なら何だって出来るヨ!命も惜しくないネ!」
提督「おお、そうか。まあ轟沈なんか絶対させないけどな。」
提督「じゃ、大淀さん。」
大淀「理由、ですか………。そう、ですね。私が、そうするべきだと思ったから、ではないでしょうか。」
提督「と、言うと?」
大淀「私達は艦娘です。戦うことからは逃げられないし、逃げるつもりもない。」
大淀「だったら、ここで、あなたの為に戦いたい。そう思ったから、ですね。」
提督「そう、か。不知火はどうだ?」
不知火「私も、おおかた金剛さんと同じ理由です。ハッキリとは言い難いですが、司令の為に、です。」
提督「………分かった。三人とも、歓迎する。これからよろしくな。」
金剛「よろしくネー!」
大淀「よろしくお願いします。」
不知火「よろしくです。」
ーーー ーーー ーーー
ヒトフタマルマル
提督「だああ!だからくっつくなって!」
金剛「ヤダー!離さないネ!」ダキッ
提督「なんでだよ!」
金剛「提督がワタシを見てくれないからヨ!」
提督「そんな事ないから!」
不知火「金剛さん、そろそろ司令の迷惑になる行動は慎んだ方がいいかと。」手ニギリ
提督「し、不知火?なんで手繋いでるんだ?」
不知火「不知火に落ち度でも?」
提督「い、いや、特にないけど………。」
夕張「あー!提督やっと来た………って、金剛さん!何やってんの!」
金剛「夕張ー!久しぶりネー!」
夕張「久しぶりです!提督から離れてー!」
提督「ぬおおお。」
大淀「あらあら。大変ですね。」
提督「大淀さん、見てないで助けてくれ………。」
大淀「私には難易度が高いですね………。それと、もうさんは付けなくていいですよ?」
提督「ん、そうか?分かった。」
夕張「だから!提督は独り占めしちゃダメなの!」
金剛「嫌ヨ!提督はワタシが一番愛してるネ!」
提督「ケンカしてないで、昼飯を出せえええぇ!」
物凄く賑やかになった食堂に、叫び声がこだましていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヒトゴーマルマル
ピンポーン
提督「ん、残りの奴らかな。」
扶桑「賑やかになる前に行きましょうか。」
提督「だな。また金剛達が来ると面倒だ。」
ーーー ーーー ーーー
提督「お待たせーっす。」ガチャリ
???「こんにちは。中尉さん。」
???「こんにちは!」
???「ども〜。」
提督「あ、蒼龍と北上、で合ってるか?それと、確か食堂の?」
鳳翔「鳳翔です。あの時はお世話になりました。」
提督「いえいえ。来てくれて嬉しいです。」
蒼龍「他の皆はもう着いてますか?」
提督「おう、今日の午前中にな。」
北上「あはは、金剛さんとか大変じゃなかった?」
提督「わ、分かってくれるか。」
北上「だってなんか顔が疲れてるし。予想はつくよ〜。」
提督「本当は執務室に行くべきなんだろうが、また騒がしくなると大変だから、とりあえずここで一つ聞かせてくれ。」
提督「ここに来た理由を。」
鳳翔「理由、ですか?」
提督「ああ。それだけは知っておきたい。」
北上「そんなの単純だよ〜。あたし、提督に惚れちゃったからね〜。」
提督「そ、それはネタで言ってるのか?」
北上「な訳ないでしょ?本気だよ?提督が好きになっちゃったからここで戦いに来たんだよ〜。」
提督「そ、そうか。」
蒼龍「私は、提督の近くに居れば楽しいそうだなって思って。何事も、笑ってなきゃ損じゃない?」
提督「まあ、それはそうかも知れないが。」
蒼龍「それに、提督の元でなら今までよりもっと上手く戦えると思って。」
提督「そうか、分かった。鳳翔さんは?」
鳳翔「私は………、提督に、あの時かけて頂いた言葉に本当に救われたんです。辛い、ただ辛いだけだった毎日を、変えてくれたのは、提督だったから………。」
鳳翔「だから、何とかして提督の力になりたいと思って。性能じゃ役に立てないかも知れませんが、それでも何とか提督の役に立ちたくて………。」
鳳翔「そうすれば、私自身も変われるんじゃないか、なんて思って、それで………。」
提督「………分かりました。」
提督「それじゃ、中に行こう。みんな、歓迎するよ。」
ーーー ーーー ーーー
グラーフ「………あ、蒼龍に鳳翔。それに北上も。やっと来たか。」
鳳翔「こんにちは、グラーフさん。」
蒼龍「もう、グラーフさんが早すぎるんだよ!」
北上「書類見て周りに目もくれず行っちゃったからね〜。」
提督「まじかい。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヒトキューマルマル
食堂にて
提督「よし、じゃあこれで全員揃ったわけだ。」
提督「という訳で、今日は宴じゃ!思いっ切り飲め!食え!」
五月雨&夕張&金剛「「「おー!」」」
提督「よし、これからみんなで頑張るぞ!カンパーイ!!!!!!!!」
「「「「「「カンパーイ!!!」」」」」」
ーーー ーーー ーーー
提督「んぐっ……んぐっ………ぶはぁー、美味え!!」
足柄「ぷはぁ、やっぱり一日の終わりに飲むビールは最高ね!」
提督「お、分かるか!さすがだな、足柄!」
足柄「もちろんよ!今日は潰れるまで飲むわよ〜!」
ーーー ーーー ーーー
提督「ここで、砂糖をちょびっと入れるんです。」
鳳翔「なるほど、いいアイデアですね。」
提督「よし………出来た!扶桑、食ってみ!」
扶桑「頂きます!………しょっぱい。」
北上「アタシも食べる~………うわっしょっぱっ!」
提督「え?」
鳳翔「え?」
提督「」パクッ もぐもぐ
提督「………塩と砂糖間違えちゃった(´>ω∂`)」
鳳翔「……酔ってる時に料理はやめた方がいいですね………。」
扶桑「ですね………うぅ、しょっぱい………。」
北上「どんだけ入れてんのさ提督………。」
ーーー ーーー ーーー
蒼龍「飛龍〜………艦載機にソースは合わないよ………マスタードにしなって〜………おぇ。」
金剛「提督ゥ〜……ひっく……まだ夜戦は始まったばかりネ〜……ひっく。」
提督「べろんべろんだな。」
足柄「情けないわねぇ。この程度で潰れるなんて。」
提督「お前は飲み過ぎだ。」
グラーフ「そうだぞ足柄。もっと味わって飲むべきだ。」
扶桑「そろそろ片付けますか?」
提督「だな。あいつらも寝てるし。」
五月雨&不知火&夕張&電&大淀「「「スー、スー………。」」」
ーーーーーーーーーーーーーーー
提督「よし、片付け完了っと。ありがとな、手伝ってくれて。」
扶桑「いえいえ。」
グラーフ「構わないぞ。」
足柄「あーあ、もっと飲みたいな〜。」
提督「やめとけ………。鳳翔さん、そろそろ寝ませんか?」
鳳翔「はい………出来ました。明日の分の仕込みです。」
提督「うん、安定して作れる人がいると助かるなぁ。」
扶桑「私達ではどうしてもメニューが偏ってしまいますからね。」
提督「さーてと、俺もそろそろ寝るかな。」
足柄「じゃあ私も。」
グラーフ「私も。」
提督「………部屋には来るなよ。」
足柄「なんでよ!」
提督「いや逆になんでだよ!」
足柄「いいじゃない!今日くらい優しくしてよ!」
提督「別にいつも優しくしてない訳じゃ無いだろ?」
足柄「いいから!」グイッ
扶桑「じゃ、じゃあ私も!」
グラーフ「鳳翔も、行くぞ。」グイッ
鳳翔「えっ、わ、私は、ま、待ってくださ〜い!」
ーーー ーーー ーーー
結局、ベッドを二つくっ付けて五人で並んで寝ている。
扶桑、足柄、俺、鳳翔、グラーフの順だ。
グラーフ「何故私が外側に………。」
提督「いや、ジャンケン負けたからしゃあないだろ。」
足柄「いいわねぇ、提督ったら両手に花よ?しかも四人も。」
提督「まあ確かに豪華だけども。狭くないのか?」
足柄「全然?提督にくっつけるし。」ギュッ
提督「ぬ。」
鳳翔「あ、あの、私も、失礼しますね……。」ギュゥッ
提督「おお………。」
両サイドから強烈な誘惑が来ている。
提督「寝るか。」
おやすみなさーい。
こりゃ長くは持ちそうにないな………。
そう思いながら意識は沈んでいった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
三日後
カムラン半島に出撃
完全勝利
ーーーーーーーーーーーーーーー
そこから四日後
バシー島沖に出撃
不知火が中破
S勝利
ーーーーーーーーーーーーーーー
そこからまた四日後
マルナナマルマル
提督「ふわぁ………。」
鳳翔「あら、提督、おはようございます。」
提督「ん………鳳翔さん?」
鳳翔「すみません、提督の服を持ってきたのですが、起こしてしまいましたか?」
提督「いや、いつもこの時間に起きるから大丈夫です。ありがとうございます。」
提督「さーて、今日もトレーニングを………って、今日は雨か………。」
鳳翔「そうですね。予報だと、今日一日は雨みたいですよ。」
提督「マジか………。室内でトレーニングすると臭いが籠るんだよな………。今日はやめとくか。」
鳳翔「じゃあ、私は行きますね。朝食が出来たらお呼びしますので。」
提督「はーい………あ、待ってください。」
鳳翔「はい?」
提督「俺も手伝いますよ。どうせ暇ですし。」
鳳翔「いいんですか?」
提督「もちろん。この前はアレでしたけど、それなりに料理は出来るんですよ?」
鳳翔「いえ、その、私なんかよりは他の子達に構ってあげた方が………。」
提督「………。」
提督「」ギュッ
鳳翔「えっ、て、提督!?ど、どうしたんですか?///」
提督「俺がやりたいから、じゃダメですか?」
鳳翔「わ、分かりました………。」
ーーー ーーー ーーー
共同料理中
ーーー ーーー ーーー
提督「よーし、完成!」
鳳翔「手伝って頂いて、ありがとうございます。」
提督「いえいえ。俺、ちゃんと役に立ててました?」
鳳翔「はい……。とても、とても嬉しかったですよ?」(*´ω`)
提督「そ、そうですか、良かった。じゃ、みんなを起こしてきますね。」(やばい可愛すぎるだろ!)
ーーー ーーー ーーー
金剛「ンー!さすが提督と鳳翔サンネ!very delicious!」
北上「ん〜。今回は上手く出来てるね〜。」
提督「いや、前回は本当にすまんかった。」
電「すごく美味しいのです!」
提督「良かった。な、鳳翔さん。」
鳳翔「はい♪」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヒトマルマルマル
執務室にて
提督「………。」カリカリ
大淀「………。」カリカリ
蒼龍「提督〜?お届け物ですよ〜っと。」コンコン
提督「ん、蒼龍か。ありがとう。大淀も、ちょいと休憩にしようか。」ガチャリ
大淀「分かりました。じゃあ、コーヒーでも持ってきますね。」
提督「おう、ありがとう。で、これは………げ。」
蒼龍「どうしたの?」
提督「送り主が大本営ってだけで嫌な予感しかしないんだが………。」
蒼龍「え、提督なんかやばい事でもしたの?」
提督「存在そのものがやばいようなもんだな。」
提督「陸軍出身だし、お前らんとこの少佐も潰したし、人数制限解けーって本営に殴り込みしたし………。」
蒼龍「ああ〜………大変だね。悪い事してる訳じゃないのに。」
提督「ま、軍隊なんてそんなもんだ。上の連中が好き勝手やってるのが普通なんだよ。」
提督「で、問題の中身は………?」ガサガサ
ーーーーーーーーーーーーーーー
東鎮守府〇〇中尉
貴殿及ビ東鎮守府ノ艦娘達ニ〇〇半島北鎮守府トノ演習ニ参加スル事ヲ命ズル。
尚、貴殿ニ拒否権ハ無イ。
〇月〇〇日、北鎮守府ニ向カワレタシ。
大本営
ーーーーーーーーーーーーーーー
提督「………はぁ。」
蒼龍「うわぁ………なにこれ。」
提督「ふざっけんなあのクソハゲじじぃ共が!」
蒼龍「わっ、ちょ、提督!?落ち着いて!」
大淀「大丈夫ですよ。今は切り替え中なので、少し待てば収まります。」
提督「意味わかんねぇんだよあのハゲ!なんで強制するクセにこっちが出向かなきゃいけねぇんだよ!」
提督「何が演習だ!味方内で戦ってる場合じゃねぇだろうが!どうせまたなんか仕組んでんだろ!」
提督「………はぁ。」
大淀「お疲れ様です。どうぞ、コーヒーです。」
提督「………。」ゴクゴク
提督「はあ、さんきゅ。全く、面倒な事に………。」
蒼龍「なんか、大変だね。しかもこれ、一週間後だよね?」
提督「ああ。時間はありそうで無いな。」
蒼龍「皆には言っておく?」
提督「ああ。いずれ集めて話すが、言っておいていいぞ。」
提督「あれも急がなきゃな………。」
大淀「だいぶ進んでいるはずです。改良もあらかた済んだと、昨日言っていましたから。」
提督「そうか、じゃあそろそろ行ってみるか。」
ーーー ーーー ーーー
工廠にて
提督「夕張、どうだ?」
夕張「あ、提督。どうですか?こんな感じで。」
提督「ん、いい感じだな。もうテストは出来るのか?」
夕張「はい。大丈夫ですよ。」
そこには、黒光りする脚部の艤装があった。
これは俺用だ。
やはり、座って待ってるのは性に合わない。
色々と助けを借りて作ってもらった。
デザインは、俺が愛用している軍用ブーツを基盤にしてもらった。(イメージとしては川内型の脚部艤装に近い感じ)
提督「よし、じゃあテストしてみるか。」
ーーー ーーー ーーー
提督爆走中
ーーー ーーー ーーー
一時間後
提督「さっぶい!風呂!早く!」
夕張「あーあー、あんなに転ぶから………。」
大淀「私達は普段から使いこなしていますから分からないかも知れませんが、普通の人にはなかなか制御は難しいんですね………。」
提督「後半はちょいちょいコツを掴んできたんだがな………。感覚としては難易度の高い自動のローラースケートってところか。」
大淀「執務なら進めておきますので、提督はゆっくり温まってください。あれだけ転びましたし、雨も降っていたんですから風邪を引いてしまってはいけないですからね。」
提督「ああ、悪いな。」
ーーー ーーー ーーー
カポーン
提督「やれやれ、面倒な事になっちまったなぁ……。」チャプン
北上「ほんとだねぇ………。」
提督「………何やってるんだ?」
北上「いやぁ、ずぶ濡れでうんうん唸りながらお風呂に入る人見たら気になっちゃうでしょ?」
提督「まあそうだな。演習の事は聞いたのか?」
北上「聞いたよ〜。蒼龍さんが言ってたし。」
北上「結局行くの?演習。」
提督「ああ。拒否権は無いとか書いてあったしな。もし断ってお前らに何かあったら大変だ。」
北上「相変わらず優しいねぇ。アタシ達みたいな兵器相手に。」
提督「俺はそうは思ってないんだけどなぁ。やっぱ北上達はそれが大事なのか?」
北上「え〜っとね………ごめんね、ちょっと意地悪した。」
北上「もちろん、アタシ達は自分が艦娘である事に誇りを持ってるよ。昔も、今も。」
北上「それでも、提督みたいに人と変わらず、優しく接してくれれば嬉しいんだよ〜。」
北上「だから、アタシは提督に惚れたんだよね〜。」
提督「そうか………。」
提督「ありがとな………。」
北上「いいよ〜。これからも、提督が頑張ってるのをゆる〜く見守って助けるからさ〜。」
提督「そりゃ心強いな。」
北上「あはは。」
提督「ははは。」
二人で使うにはいささか広い浴場に、緩やかな優しい笑い声が響いていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
提督「ふー、温まったな。」
北上「だねー。でもアタシはやっぱり冬は嫌いだなぁ。こたつは好きだけど。」
提督「鍋は?」
北上「好き。」
提督「おせちにお雑煮。」
北上「好き。」
提督「恵方巻きにチョコレート。」
北上「全部好き。」
提督「冬は?」
北上「嫌い。」
提督「はは、根拠ねぇなぁ。」
北上「ま、提督と一緒に居られるならいつでも好きだけどね〜。」
提督「そうか。」
北上「あれ?反応薄くない?」
提督「そんなことは無い。」
北上「嘘ばっか。顔真っ赤だよ?」
提督「赤くない。」
北上「あはは、アタシに照れてくれるなんて嬉しいね。」
提督「からかわないでくれ、全く………。」
北上「あはは、ごめんごめん。それじゃ、また後でね〜。」
提督「おう。」
ーーー ーーー ーーー
提督「上がったぞ。」
大淀「おかえりなさい。温まりましたか?」
提督「おう。お陰様で。執務は?」
大淀「本日の分は完了しました。」
提督「マジか。流石だな、助かるよ。」
夕張「私も手伝ったよー!」
提督「おう、さんきゅ。艤装だが、性能面は十分だな。あとは、軽量化と持ち運び用に小型変形出来たりすると便利だな。」
提督「そんなに無理はしなくていいから、演習までに出来るだけ仕上げてくれ。」
夕張「ラジャー!任せて!」
提督「ありがとう、頼む。」
工廠に走っていく夕張を見送る。
提督「で、どうだ?その鎮守府は。」
大淀「はい、調べたんですが………。」
大淀「悪い噂は一切見つかっていません。それどころか、そこの提督は島民からも慕われていて、艦娘との絆も強いそうです。」
提督「妙だな。なんか仕組まれてると思ったんだが。」
大淀「まだ深くまでは掘り下げていませんし、演習までに出来るだけ調べてみます。」
提督「頼む。まあ、無理だけはするなよ。」
大淀「はい。」
ーーー ーーー ーーー
そこから演習までは、出撃や遠征は控え、装備や体調を整える方針で行く、と皆に伝えた。
ーーー ーーー ーーー
演習まで残り三日。
マルキューマルマル
提督「よし、ちょっと出掛けてくる。」
不知火「分かりました。どちらまで?」
提督「ちょいと前の職場までな。来るか?」
不知火「司令の以前の職場、ですか。ぜひ行かせていただきます。」
提督「よし。じゃ、行くか。扶桑、蒼龍、ちょっと頼むわ。」
扶桑「分かりました。」
蒼龍「行ってらっしゃーい。」
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提督&不知火移動中
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提督「よっす。」
少尉「あれ、中尉?今日は来るって聞いてませんでしたけど。」
提督「おう。また揉め事があってな。ちょいとおやっさんに頼み事してたんだ。」
少尉「ああ、あんまり穏やかじゃなさそうですね。」
提督「残念ながらな。」
少尉「それで、この子は?」
不知火「不知火です。以後お見知りおきを。」
少尉「おお、ご丁寧にどうも。第二支部東基地〇〇少尉です。よろしく。」
提督「ま、今日来たのはそれだけだからあんまり騒がないでくれ。不知火もいるし、また帰れなくなると今日は困る。」
少尉「はは、了解です。おやっさんなら、工房にいると思います。」
提督「さんきゅ。それじゃ、また。」
ーーー ーーー ーーー
工房にて
提督「おやっさん!はよざっす!」
鍛治夫「よう、提督じゃねえか。なんだ、女連れなんてお前もそんな歳か。」
提督「いや、そういうのじゃなくて仲間なんですけどね。」
不知火「不知火は司令とならその様な間柄でも構いませんが。」
提督「不知火さん?」
鍛治夫「ほら、嬢ちゃんも言ってるじゃねえか。」
提督「いやいや、ほんとに違いますから。お願いした物、出来てますか?」
鍛治夫「あったりめぇよ!ほれ、持ってきな。刀身は研ぎ直しておいた。鞘もズレを直したから、出し入れもしやすいだろ?」
提督「………バッチリですね。流石です。」
おやっさんに頼んでいた物とは、教官と大佐に貰った、日本刀である。
だが、今までは一度も使った事は無かった。
現代戦の基本は射撃だ。
やむを得ず近接戦闘になったとしても、ナイフと近接格闘技術で凌ぐのが普通なのだ。
だが、俺は不知火や扶桑達のような主砲や副砲は使えない。
妖精さんがいないのもあるが、そもそもあんなに重いものはいくらなんでも持てない。
だから、刀を使う事にした。
夕張と大淀のアドバイスで、索敵装置は背中のバックパックに収納するつもりだ。
この刀を渡された時に、一つの約束をした。
この刀を使うのは、大切なものを守る為に使う事。
復讐やただの戦闘じゃない。
心に決めた、守るべきものの為に使う。
そして俺は、鎮守府を、俺の仲間を、この国を守る為にこの刀を振る。
提督「………。」スーッ
鞘から刀を引き抜く。
提督「………待たせたな、相棒。」
ヒュッ
軽くひと振りする。
提督「軽い………。やっぱり良いな。これから、よろしく頼むぜ。」
鍛治夫「………よく武器は持ち主を選ぶっていうがな。」
鍛治夫「そいつぁお前に合ってる。刀が喜んでるぜ。」
提督「………ふっ、そうですか。………ありがとな。」
スーッ
パチン
本来ならば、使わないのが最善だ。
望んで戦う人間など居ないはず。
そして艦娘も同じだ。
だから、俺はこいつを殺すためじゃなく守る為に振る。
そう決めた。
提督「よし。おやっさん、ありがとうございます。」
鍛治夫「おう。頑張れよ!」
提督「うっす!それじゃ、また!」
ーーー ーーー ーーー
提督「よし、帰るか。」
不知火「分かりました。」
提督「なんか、悪かったな。つまらなかっただろ?」
不知火「いえ、そんな事はありません。少尉さんや、鍛治夫さん。時々すれ違って言葉を交わした方々。」
不知火「皆さんの顔を見て、言葉を聞いて、提督がどれだけ素敵なお人か、そしてここがとても暖かい場所だと言うことが分かりました。」
不知火「不知火にとっては素晴らしい時間でした。」
提督「ここの事をよく言ってもらえると、俺も嬉しいよ。」
提督「よし、行くか、って……。」
兵士「中尉ー!来たなら一言くらい声かけてくださいよー!」
兵士「中尉!?その隣の可愛い子誰っすか!?」
兵士「中尉ー!これ、この酒!美味いから持ってってください!」
少尉「すんません、吐かされましたー!」
中尉ー!
中尉ー?
提督「ははは。」
提督「悪いなお前ら!次来た時はまたゆっくり飲んでやるよ!」
提督「じゃあな!」
車を出す。
不知火「………やっぱり、素敵な場所ですね。」
提督「ああ、本当にな………。俺があいつらに、どれだけ救われたか………。」
頼もしい仲間達の声援を受け、新たな武器も手にして帰路についた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
演習前夜
食堂にて
提督「よし、全員いるな?明日のメンバーを発表する。」
提督「旗艦、扶桑。並びに金剛、グラーフ、蒼龍、北上、不知火。サポートに大淀と夕張。」
提督「鳳翔さんと足柄、五月雨、電は留守番を頼む。」
足柄「ちょっと!なんで私が留守番なのよ!?」
提督「いや、これでもめっちゃ悩んだんだって。十分な戦力を整えつつここの守りも疎かには出来ない。」
提督「だから、お前に任せるんだ。信頼してるから、俺のいない間を任せたい。」
足柄「な、なんだ!そういう事ね!だったら任せておきなさい!」
提督&一同(ちょろい………。)
提督「よし、明日の出発はマルハチマルマルだ。各自、準備を整えるように。」
提督「夕張、艤装はどうだ?」
夕張「うん、かなり小型化出来たよ。折りたたんでケースに収納すれば、持ち運びもしやすい。」
夕張「でも、例の装置はまだ試作段階なの。ごめんなさい。」
提督「いや、十分だ。助かるよ。大淀も、明日はサポートを頼む。」
大淀「了解しました。」
ーーー ーーー ーーー
自信と、不安と、疑問とが入り混じりながら、とりあえず眠りについた。
ーーー ーーー ーーー
マルナナマルマル
提督「………ふわぁ、ふぅ。」ムクリ
鳳翔「おはようございます、提督。」
提督「ああ、はよざっす。」
心做しか、いつもよりも鎮守府が賑やかしい。
が、正直不本意な賑やかさだ。
まあ、泣き言も言っていられない。
提督「ありがとうございます。」
鳳翔さんから提督服を受け取り、腕と体を通し、刀を腰に差す。
軽く体をほぐす。
刀を抜く。
ヒュッ
軽くひと振りする。
提督「………よし。」
いい手触りだ。
ーーー ーーー ーーー
マルハチマルマル
鎮守府前
提督「よし、準備は出来てるか?」
扶桑「はい。完了しています。」
夕張「提督の艤装と、バケツに資材、その他必要な物は全部積んでおいたよ!」
提督「ありがとう。じゃ、悪いがまた頼む。」
少尉「了解っす。はは、何だか運送業者みたいっすね。」
提督「ほんとに済まないな。皆、紹介する。俺の元同僚の、〇〇少尉だ。」
少尉「第二支部東基地の〇〇少尉です。よろしくお願いします。」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
提督「さーて、行くか。」
提督「じゃ、留守は頼みます。」
鳳翔「はい。行ってらっしゃいませ。」
足柄「勝報を、待ってるわよ!」
提督「ああ。任せろ。」
五月雨「提督、どうか、お怪我の無いように!」
電「行ってらっしゃいなのです!」
提督「よし、出発だ!」
ガロロロロロロ
心配ではあるが、縮こまっても居られない。
俺は、俺らしく。
そう強く心に言い聞かせ、北鎮守府へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
出発から五時間
本島と繋がる橋を渡り、途中に休憩を挟み車を走らせ、ようやく到着した。
提督「よし。行くぞ。」
車を降り、歩く。
???「いい。お前は下がっていろ。」ガチャリ
憲兵を中に入らせ、誰かが出て来る。
隣には艦娘と思わしき女性も一緒だ。
………あいつか?
北上「………あれ?」
???「北上さぁーーーん!!!!!!!!」ダキッ
北上「ゴッフゥ!」ドテェ
提督「うおっ、危ねぇ!」
突如、北上に向かって突っ込んできた。
知り合いのようだが。
北上「お、大井っち?」
大井「ああ、北上さん、北上さんなのね。あああああああ、会いたかったああぁ。」
北上「ちょ、分かったから、どいてよ〜。苦しいよ〜。」
大井「」ギロッ
北上に突撃してやばい声(理性が飛んでる的な)を上げて、次の瞬間には俺を睨み付けてきた。
こいつマジでやばいやつなのか?
大井「アンタね、北上さんや他の皆に好き勝手やってるって奴は。」
提督「………はい?」
北上「………え?」
???「そいつの言う通り、お前の噂は聞き及んでいる。よく逃げずに来たな。」
大井「大丈夫よ北上さん、提督がきっと助けてくれるから。」
北上「い、いや、大井っち?なんか勘違いしてない?」
提督「な、なあ、たぶんそれ人違いじゃないのか?」
北提督「いいや、噂通りだ。上官にもタメ口、そして本当に規則を捻じ曲げているようだな。」
基地じゃそんな事気にする奴居なかったしなぁ。
あと規則って人数制限の事か。
提督「いや、あんただってあんな規則クソ喰らえだと思わないのか?」
北提督「そんな物はお前の我が儘だろうが。自分の理想の状況でしか戦果を上げられない人間などクズだ。」
うわぁ、ボロクソ言ってるよ本人の目の前で。
北提督「行くぞ、大井。それと、お前らには部屋を用意してある。演習は明日だ。今日はせいぜい休んでおけ。」
北提督「まあ、休んだ所でお前らの負けは変わらないがな。」
そう言い残して北提督と大井は鎮守府に入っていった。
提督「………。」
少尉「あーあー、凄く素敵な挨拶をされましたね。」
あの言い方、まーた本営のジジィ共がなんか言いふらしやがったな。
やれやれ、正義感が強すぎるのも考えものだな。利用されたい放題だ、あんなんじゃ。
提督「あぁ、すっげぇ入りたくねぇ。」
大淀「ここでゴネていても仕方ありません。行きましょう?」
夕張「あんなの気にすることないって!」
不知火「あの木偶の坊、司令によくもあんな口を………。」
提督&少尉「「………。」」
提督「ほんと、逞しいな、お前ら。」
全く動じない仲間達を頼もしく思いつつ、とりあえずその日は北鎮守府の部屋で過ごした。
ーーー ーーー ーーー
その日の夜
フタフタマルマル
提督「じゃあ、明日が本番だ。お前らもそろそろ寝とけよー。」
「「「「はーい。」」」」
グラーフ「だったらadmiral、私の隣に来い。」
提督「え?」
金剛「NO!提督、ワタシの隣に来るデース!」
扶桑「あの、でしたら私の隣に………。」
不知火「不知火に落ち度などありません。私の隣に。」
大淀「あらあら、大人気ですね。」
蒼龍「ひゅー、モテる男は違うねぇ。」
提督「からかってないで助けてくれ。」
夕張「ちぇっ。」
皆でワイワイ話していた時。
北提督「失礼。提督、話がある。少し来てもらおう。」
提督「………へいへい。」ヨッコラセ
断ったら余計に面倒な事になりそうだ。
提督「お前ら、今日はもう寝とけ。すぐ戻る。」
「「「はーい。」」」
北提督「………。」
ーーー ーーー ーーー
執務室にて
提督「で、話ってのは?」
北提督「………。」
北提督「まず、明日の演習についてだ。」
北提督「俺の鎮守府の艦娘と、お前の鎮守府の艦娘は戦わない。」
提督「………はぁ?」
何言ってるんだコイツは。同人誌で滑ってコケて頭でも打ったのか。
大佐じゃあるまいし。
提督「頭打ったのか?」
北提督「戦うのは俺とお前、だけだ。」
提督「はいはいガンスルーですか………はぁ?」
二度目の意味不明な発言。
提督「………や、やっぱ病院行くか?」
北提督「お前も、俺と同じく艤装を着けて戦うつもりらしいな。だからだ。」
提督「いや、なんで知ってるんだよ。ストーキングでもしてるのか?」
北提督「そんな事するはずないだろう。本営からそう言われている。」
提督「………。」
本営、っておい………。
本営にも言ってないっての……。
やれやれ、帰ったら鎮守府を綺麗にしないとな………。
北提督「細かい事はまた明日に説明する。」
提督「はぁ。」
北提督「二つ目。これが本題だ。」
北提督「提督、もしお前が明日の演習で俺に負けたら、お前の鎮守府の艦娘は全て俺の元に異動してもらう。」
提督「………は?」
三度目の衝撃。
マジで大丈夫かコイツ。
提督「お前………もう手遅れか?」
北提督「本営の許可は取ってある。人数制限の規則を破っているお前に文句を言う権利はないぞ。」
提督「いや、そこじゃねぇだろ……。」
北提督「お前、艦娘をモノ扱いしてるそうだな。」
提督「してねぇよ。」
北提督「艦娘を性欲発散の道具として辱めただろう。」
提督「してねぇって。」
北提督「下らない嘘も大概にしろ。お前の鎮守府の扶桑、彼女の胸を元帥の目の前で揉んで見せたんだろう。」
提督「………は?」
北提督「そんな下郎に艦娘の指揮権など持たせるつもりは無い。だからだ。」
あんのクソ中将が………。
ほんとにぶった切られてぇのか……?
提督「いや、そんな事してねぇって。なんなら扶桑呼んで聞いてみるか?」
北提督「お前が彼女を脅して真実を言わせない可能性が無い証拠はあるのか?」
提督「お前なぁ………。」
大井「いい加減にして!」
初めて大井が口を開く。
大井「アンタみたいなクソ野郎に北上さんを傷付けさせない!」
大井「早く自分のした事を白状しなさいよ!」
提督「えぇ………。」
こいつら、人の話聞く気皆無だよな………。
不知火「失礼します。」ガチャリ
提督「え?」
不知火?不知火なんで?
北提督「………。」
不知火「申し訳ありません。お手洗いを探していた所、たまたま通りかかり、話を聞いてしまいました。」
不知火「北提督、演習のお話ですが、ぜひお引き受け致します。」
提督「え?不知火さん?」
北提督「………そうか。」
北提督「どうだ?部下に見捨てられた気分は?」
不知火「あなたなど司令の足元にも及ばないゴミクズだと言う事を身を持って分かると思うので。」
提督「………え?」
し、不知火さん?
なんか、いつもと目が違うよ?
顔は笑ってるけど顔が歪んで見えるよ?
北提督「何だと?」
不知火「耳までイカれているのですか?あなたなどただの自己満足野郎だと言ったのです。」
北提督「お前………すぐに目を覚ましてやるからな。」
不知火「へぇーやれるものならやってみてください。」
不知火「まああなたがお得意の調教をしたところで私がここの雌豚達のように尻尾を降ることなど有り得ませんがそもそも司令以外の人間に恋心及び性的欲求を抱く事など絶対に有り得ませんので無駄だと分かっていてもやると言うのならどうぞやってみてください。」
北提督「お前………。」
大井「何よアンタ!提督をバカにする気!?」
不知火「先に司令を貶したのはどちらですか?それとも本当に脳まで腐っているというのなら今すぐ九三式酸素魚雷で海の底に沈めて差し上げますが!?」
提督「不知火、も、もういいから!北提督、演習の件はそれでいいよ!じゃあな!」グイッ
不知火「司令、まだ言いたいことがーーー」
バタン
何とか不知火を連れ出す。
提督「はぁ、はぁ………。」
提督「お、お前なぁ………。」
不知火「不知火に落ち度でも?」
提督「いや、落ち度っつーか……ぶっ込んだな………。」
不知火「申し訳ありません。不愉快でしたか?」
提督「………いや。」
言い方はどうであれ、否定してくれた事は嬉しかった。
提督「むしろスッキリした。言い方はアレだったけどな。」
提督「あーいう奴は一回リセットしてやらないと埒が明かないな。」
不知火「一回どころか永遠に停止させてやればいいんです。あんなヤツ。」
提督「ま、まあまあ。」
色々と波乱はあったが、とりあえず部屋に戻り、眠る事にした。
説明は明日するつもりだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
次の日。
マルハチマルマル
金剛「エー!?どういう事デスカ!?」
提督「だから、戦うのはお前らじゃなくて、俺とあいつだってさ。」
扶桑「戦うと言うと、艤装を使って、ですか?」
提督「ああ。何故か知ってた。本営から言われたんだとよ。」
大淀「おかしいですね。本営にその様な報告はしていませんが。」
提督「おおかたジジィ共が盗聴器でも仕込んだんだろうよ。夕張、悪いが帰ったら掃除手伝ってくれ。」
夕張「はーい、了解。」
北上「じゃあ、アタシ達はどうするの?」
北提督「お前らには、戦闘海域の警護をしてもらう。」ガチャリ
勝手に入ってくるんじゃねえよ……。
提督「警護?戦闘海域?」
北提督「お前に逃げ続けられたら困るからな。ある程度の区域制限は設けさせてもらう。」
提督「いるかそんなもん。逃げやしねぇよ。」
北提督「………。」
提督「戦闘開始は?」
北提督「………十時だ。それまでに準備を完了しろ。」
提督「はいはい、分かったから、早く出てけ。」
北提督「チッ、下郎が………。」パタン
………。
金剛「な、」
扶桑「な、」
蒼龍「な、」
「「「何よアイツ!」」」
金剛「提督をゲロウ扱いなんて、信じられないデス!ていうかゲロウって何デスカ!?」
扶桑「なんでありもしない噂であんな事を………。」
蒼龍「よくあんなので提督が務まるわね!」
三人のとてつもない怒りっぷりに、こっちが冷静にさせられる。
今はまだ、喚いていても仕方が無い。
提督「落ち着けお前ら。たぶんあいつなりの正義があるんだろ。」
提督「それをたまたま上のヤツらに利用されてるだけだ。許してやれ。」
提督「俺が勝てばいい、それだけだろ?」
金剛「さ、さすが提督デース!ますます惚れちゃいマース!」ギュッ
提督「おい!俺これから戦闘なんですが!?」
金剛「提督なら大丈夫デース!」
蒼龍「ま、確かに文句言ったってしょうがないか。」
北上「提督らしいね〜。」
提督「夕張、それじゃ、艤装の準備を頼む………って、金剛!マジで退いてくれ!時間が!」
金剛「ああああああ、嫌デーーース!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
マルキューヨンゴー
海岸にて
提督「よし、これでいいんだよな。」
夕張「待ってね………よし、装着完了!」
バシュゥゥゥ
艤装から煙が出て、動き始めるのを感じる。
改良されただけあって、試走した時よりも装備自体が軽い。
夕張「出力はこっちで制御するね。あとは、提督の意識で好きなように動くはずだよ。」
提督「頼む。」
膝から下の脚部全体を覆うようになっている艤装には、微電流による特別な神経伝達装置が組み込まれている。
その為、頭で動きを命令すればその通りに動くようになっている。
艦娘が艤装を使う時と同じような感覚に出来たそうだ。
ただ、人間は力を百パーセント出そうとすると肉体が崩壊してしまう為、この艤装は外部から出力制御を行わなければならない。
その為に大淀と夕張の助けが欠かせない。
改善の必要な場所のひとつだ。
ザアアァァァア
提督「よし、いい感じだ。大淀、聞こえるか?」
大淀「はい。通信状況、良好です。」
提督「時間は?」
大淀「マルキューゴーゴー。北提督も艤装の装着を完了して出撃したようです。」
提督「分かった。あれを使おう。装着の準備を頼む。」
大淀「分かりました。」
ガチャン
ジャキン
俺はバックパックから拳銃を取り出した。
だが、弾は入っていない。
これは空砲だ。
エコーロケーション。
日本語で、反響定位。
ある音を発して、それの反響で物体の位置、状況を把握する。
訓練を重ねれば、視界不良でも舌打ちで交通状況が分かる程にまでなれるらしいが、その様な能力までは無い。
だから、バックパックに組み込まれている装着で反響音を大淀達のいるオペレーションルームにある装置本体に送り、分析してもらう。
大淀「準備出来ました。」
提督「よし。」
ダァァ………ンン………。
晴天の海に、銃声がこだましていく。
大淀「………解析完了。周囲には深海棲艦の反応は無し。」
大淀「南東七百メートルに反応。おそらく北提督かと。」
提督「ああ。うっすら見える。とりあえず、装置はちゃんと動くみたいだな。」
大淀「はい。」
提督「じゃ、通信を切るぞ。」
大淀「はい、ご武運を。」
プツッ
通信が切れる。
そして視界に映る人が北提督だと、明確に視認出来る。
ーーー ーーー ーーー
提督「………。」
北提督「………。」
提督「………よう。」
お互いを睨み合っている。
正直な話、特にコイツに恨みがあるわけでも無いのだが、本営の話を鵜呑みにして扶桑達を連れていこうとしているのだ。
止めない訳には行かない。
北提督「………やはり解せない。」
北提督「お前の鎮守府の艦娘達………。どう考えても本営の言うような状況には見えない。」
提督「だから俺は何もやってないんだって。」
北提督「だったら本営がガセを言ってるとでも?」
提督「そうじゃないのか?」
北提督「俺は軍人だ。そう簡単に上官に意見できる訳じゃない。そのくらい、お前も分かるだろう。」
提督「………。」
俺、この前思いっきり中将に楯突いて来ちゃったんだよなぁ………。
北提督「昨日の晩の不知火など特に顕著な例だ。あんな事、言えと言っても言わないだろうし、言わせようなどとも思わない。」
提督「ああ、アレに関しては言い過ぎだと思う。悪いな。」
北提督「だが、俺も部下を守る為に戦わねばならない。」
北提督「お前と同じようにな。」
提督「………はぁ。」
軽くため息をつく。
戦わずとも、いくらでもやりようはある。
だが、コイツはそれじゃ納得出来ないのだろう。
不器用なのだ。
こういう奴は、意外と少ない。
そして、理解し合えれば良き友にもなれる。
提督「………ふーっ。」
シュイン
刀を抜き、構える。
提督「来いよ。」
北提督「………ふっ。」
スーッ
相手も同じように、白刃を向ける。
北提督「行くぞ!お前の覚悟、見せてみろ!」
北提督の艤装が煙を吐き、刃が目の前に迫る。
提督「オラァ!」
正面から受け止め、弾き返す。
ギィィン!!
軽い。
あの見た目(ゴリマッチョ)でこの程度の力な訳が無い。
提督「………おい。」
提督「小手調べなんて要らねぇ。最初から全力で来いよ。」
北提督「………ふっ。いいだろう。行くぞ!」
再び艤装が煙を吐き、迫ってくる。
が、ギリギリで急ブレーキをかけた。
その衝撃で海水が弾け、俺の視界を塞ぐ。
北提督はその隙を見逃さず、俺の背後に周り、刀を振るう。
とっさに刀の腹で受ける。
が、衝撃は体を通り抜け脳に痛みを伝え、脇腹に軽い切り傷がつく。
提督「………チッ。」
当然だ。
艤装を使って戦っているのは、向こうの方がずっと長い。
軍人としての素質や、刀を含む武器の扱いで勝っていても、艤装、つまり機動力で劣っているとなると、そう簡単な戦いではない。
それどころか、勝てる確証は無かった。
無理な戦いは引け。
自分の肩に乗っている命は自分の物だけではない。
軍での教えだ。
任務は達成しましたが、俺以外は全滅しました、なんてジョークにすらならない。
だが、今回は違う。
戦うのは俺だけで、話の通じる相手でもない。
何としても勝たなければならない。
仲間のために。
だから、引かない。
ギュイイィン!!
再び北提督の刃が迫ってくる。
正面から右斜め後方に受け流し、負けじと刀を振るう。
北提督「くっ!」
ギイン!
受け止められた。
ーーー ーーー ーーー
提督「はあぁっ!」
遠心力から生み出される力をフルに使って、刀を振る。
北提督「ぐおおっ!」
ガギィン!
北提督「はぁ、はぁ、クソッ………。」
艤装の扱いにもかなり慣れてきた。
実戦の中で成長する。
戦場で生き残るのに必要なスキルのひとつだ。
状況を把握し、自分に足りないものを何とかして補う。
見様見真似で、北提督の艤装の扱いを真似する。
それに慣れ始めたとき、形成は五分五分程までになっていた。
ーーー ーーー ーーー
北提督(やはり、コイツに勝つのは厳しいか………。)
北提督(分かっていた………いや、分かっているつもりだった。)
軍人としての才能も、こいつが聞いていたような人間じゃないことも………。
それでも、俺は、皆を守らなければならない………。
本営に逆らったりしたら、俺だけじゃなく皆にまで被害が及ぶ。
それだけは耐えられない。
俺のエゴかも知れない。
自惚れかもしれないが、俺の為ならばどんな苦痛も耐えると言ってくれるかもしれない。
が、それだけは我慢出来ない。
絶対に、俺が守らなければ。
北提督「なかなかやるな………。だが、まだまだこれからだ………!」
全身に力を込め直す。
そして、艤装部分を主として体の制限を緩める。
戦いが終わった後、どうなるかは分からない。
ただ、今はとにかくここで全力を尽くす。
こいつなら、きっと受け止めてくれる。
だから、本気でぶつかるのだ。
北提督「おおおおおおおおっ!」
突進して体ごとぶち当たる。
提督「ぬあっ!」
反動で大きく仰け反る。
まだ、まだ俺は戦える。
提督「………上等だ。来いよ………!」
ーーー ーーー ーーー
提督「はぁ、はぁ………。」
北提督の動きが止まった。
身体の限界が来たようにも見えるし、何か深く考えているようにも見える。
間違いなく後者だろう。
これほどの覚悟で戦いに臨んでくる男が、身体の限界など考慮するはずがない。
俺だってそうする。
不知火達みんなはこいつの事を心底嫌っているようだったが、俺はあまりそうでは無かった。
出会い方が悪いだけであって、艦娘と共に艤装を着けて戦う、こいつの信念は尊敬すべきものだと、俺は思う。
艦娘は物だ。
戦う為の兵器であり、人間の為に死ぬ。
それが一般に広がる考え方だ。
そして提督など、本来は戦場に出たりしない。
演習だって、艦娘同士を戦わせる。
それが当たり前なのだ。
だが、今は違う。
ここにいるのは、艦娘か人間かなど関係ない、ただ仲間を守りたいと想い戦う男のみ。
だからこそ、思い切り戦う。
相手が自分と同じような状況でも。
同じような状況だからこそ。
全身全霊を持って戦う。
北提督「なかなかやるな………。だが、まだまだこれからだ………!」
様子が変わる。
先程よりも力が入っているように見える。
北提督「おおおおおおおおっ!」
艤装の出力を上げ、突っ込んでくる。
反応が間に合わず、吹っ飛ばされそうになる。
提督「ぬあっ!」
とっさに出力を上げ、態勢を整える。
まだ、戦える。
最後まで、戦う。
提督「上等だ。来いよ………!」
再び刀と刀が、お互いの想いが、強くぶつかって火花を散らした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
提督『おおおおおおおおっ!』
北提督『ぬおらああああっ!』
お互いに身体中傷だらけだった。
限界が近いのも見て取れる。
大淀「………ッ!」
堪らず大淀が目を背ける。
赤城と加賀は涙を流していた。
大井は、もはや提督を蔑むような目で見ることは無かった。
不知火「司令………!」
普段から冷静寡黙な不知火でさえ、目を潤わせ、体は震えていた。
北上と夕張は、お互いに肩を擦りあっていた。
扶桑とグラーフは、ただ、じっと二人を見つめていた。
その目は一体何を思っていたのか。
分かるのは本人達だけだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーー
戦闘が始まってから、どれだけ経っただろうか。
艤装の扱いのコツを掴み始めてから、戦況はこっちに傾いたと言っていいはずだった。
が、北提督が倒れることはなかった。
クソ、体が重い………。
既にかなりの量の血が流れている。
北提督も同じだ。
だが、お互いに引くことは無かった。
北提督「おらあっ!」
北提督の刀が迫る。
提督「ぐっ!」
弾き返す。
提督「はー、はー………。」
北提督「はっ、はっ………。」
息はもう絶え絶えだった。
だが。
それでも。
提督「どうした。その程度か?」
必死に自分を鼓舞する。
倒れる訳にはいかない。
提督「効かねぇなあ、そんなんじゃあよ!」
強がりでもなんでも、出来ることはやる。
勝つために。
北提督「まだまだ!ここからだ!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
お互いに引くことを知らない戦いは、思わぬ形で中断された。
ーーー ーーー ーーー
大淀「………えっ!?」
レーダーに、無数の赤い点滅。
敵、つまり深海棲艦の表示だ。
大淀「敵!?なぜ、こんな所に!」
急いで提督との通信を復旧させる。
大淀「皆さん、敵襲です!すぐに出撃準備を!」
大淀「提督、大変です!すぐに戦闘を中断してください!敵襲です!」
提督『ああ、分かってる。だが、その前にこいつを止めないと………。』
ーーー ーーー ーーー
提督「………ッ。」
北提督「ぐおあああああぁ!」
目の前の北提督に、もはや意識は無かった。
ただ、思いだけで立っている、という感じだ。
そして、刀を振ることをやめない。
言葉が通じない事は分かっていたが、既に残り時間は無いに等しかった。
敵はすぐそこまで来ている。
仲間の到着の方が遅いだろう。
斥候隊かも知れないが、手負いの人間二人を殺すには十分だろう。
提督「やれやれ、こんな死地は久々だなぁ………。」
敵はもう視認できる距離にまで来ていた。
魚雷が発射された。
狙いは北提督だ。
提督「………クソ、死ぬかもなこれ………。」
北提督に意識が無く戦えない以上、扶桑達が到着するまでやる事はひとつだった。
提督「北提督、お前は死ぬなよ………。死んだらぶっ殺すかんな………。」
艤装の出力を最大限。
北提督を体当たりで吹き飛ばす。
何とか魚雷の爆発範囲外まで出すことが出来た。
俺に、魚雷を回避出来る術は無かった。
必死に体を捻る。
魚雷が爆発する。
視界が真っ黒に染まり、耳が甲高い音しか聞こえなくなる。
提督「ゲホッ………。」
左の腹部が大きくえぐれている。
血も止まらない。
体は震え、立っているのが自分でも信じられなかった。
敵はそんな事など介せず、迫ってくる。
提督「ゴホッ………やれやれ。」
ニヤッ、と笑う。
戦場で、一番苦しい時に密かに浮かべる苦笑だ。
傷だらけの体を引き摺り、敵に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
大井「………く!………とく!」
大井「提督!起きてください!提督!」
北提督「はっ!」
目が覚めた。
俺は、確か提督と戦って………。
周りには北鎮守府の仲間と、東鎮守府の艦娘達と………。
俺を囲み守る者、敵に向かい戦う者。
演習中に敵襲を受けたのだと、使えない頭でもすぐに分かった。
が、周りの敵を一時退けても、提督の姿が無い。
重い体に鞭を打ち、必死に探す。
煙の中に人影。
近づく。
提督「………。」
提督「………な、んだ。無事、だったのか。運が、いいな………。」
不知火「司令!」
扶桑「ああ、そんな!提督!」
グラーフ「おい!admiral!しっかりしろ!」
提督の左腹部には大きな裂傷があり、全身も傷だらけだった。
北提督「あ、ああ、そんな、済まない、俺のせいで………。」
北提督「クソ、クソ、済まない、提督………。」ボロボロ
俺はなんて事をしてしまったんだ?
命を懸けて自分を助けてくれた相手を、さんざん蔑んで………。
俺は………。
提督「バカ、野郎が………!」
不知火「このバカが!まだ分からないのか!?」
突然、不知火が怒号を上げた。
不知火「あなたが今やるべき事は、謝罪でも、懺悔でも無い!それくらい分かるだろう!」
ーーー ーーー ーーー
ああ〜………。
痛ってえ………。
よ〜く生きてんな俺………。
我ながらよくこの傷で、奴らを相手に生き残れたと思う。
素晴らしい運だ。
お、ありゃ、扶桑達か。
良かった、良かった………。
ん、北提督?何泣いてんだよ………。
泣いてる場合じゃねえだろ!
提督「………バカ、野郎が………!」
必死に声を出す。
不知火「このバカが!まだ分からないのか!?」
不知火が怒号を上げた。
不知火「あなたが今やるべき事は、謝罪でも、懺悔でも無い!それくらい分かるだろう!」
さすがは不知火だ。
言いたいこと全部言ってくれた。
提督「おい、北、提督………。」
北提督「な、なんだ!?」
提督「今から、一時的に、不知火達の指揮権を、ゲボォッ!」
クソ、口から血が………。
北提督「わかった!とりあえずもう喋るな!」
うるせえな………最後まで言わせろ………。
提督「お前が、こいつらを指揮して、この場を何としても乗り切れ………。分かったな………。」
提督「ああ、お前ら、ごめんなぁ………。」
皆の泣きそうな顔を見ているだけで辛い。
提督「俺、死ぬかも知んねぇわ………。」
夕張「ばか!そんな事言わないで!金剛さん、急いで鎮守府へ!」
金剛「わ、分かってるデース!」ボロボロ
提督「金剛………そんなに、泣くな………。きっと、大丈夫だか、ら………。」
金剛「分かってるデース!」ザアアァァァア
意識朦朧となりながらも、なんとかやり切れた。
あとは、皆が何とかしてくれる。
俺は猛烈な眠気に、ようやく応えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
提督「ふむ………。」
俺は、なんでこんな所にいるんだ?
見渡す限りの草原。
そよ風に揺れる短い草。
ぽつぽつと咲く花。
夢でも見ているのだろうか。
それにしては、頬を撫でる風の感覚がリアルだ。
???「お目覚めですか?」
声の方に振り向くと、黒髪の綺麗な女性が立っていた。
何処かで見た事がある様な服装だが、霧がかかったように思い出せない。
提督「ああ。君は?それに、ここは何処なんだ?」
ニッコリと、彼女が微笑む。
なんだか、すごく安心する笑顔だ。
???「立ち話もなんですから、お茶にしませんか?時間はたっぷりとありますから。」
不思議と、その言葉に逆らえる気がしなかった。
どこからともなく現れる机と椅子。
紅茶に洋風のお茶菓子。
やっぱり、何処かで見た気が………。
???「どうぞ。私のお姉様も、この茶葉がすごく好きなんですよ。」
???「このクッキーも。午後三時のティータイムには、よく一緒にお茶をしたものです。」
言い方から察するに、今は会えないのか、それとも今は亡き人なのか。
話す彼女は、嬉しそうでもあり、寂しそうでもあった。
提督「君にはお姉さんがいるのか?」
???「はい。姉が二人に、妹が一人。私は三女です。」
昔話をする彼女は、とても楽しそうに見える。
彼女が構わないのなら、このまま聞いていたい。
提督「どんな人だったか、聞いてもいいかな?」
???「もちろんいいですよ。」
???「まず、妹は、何でも完璧にこなそうとする子でしたね。メガネがよく似合っています。」
???「末っ子なのに姉妹のお目付け役みたいになっていて、可笑しいね、ってよく笑いました。」
呆れ半分、楽しそう半分に笑ってみせる。
その目は遠くを見ているようでもあるし、遠くを見ているようにも見えた。
???「次女の姉様は、とにかく頑張り屋さんでしたね。」
???「よくお料理をしようと頑張っていたのですが、どうも上手くいかないようで。妹と私で必死に手伝っていました。」
???「そうしないと、食べた人が次から次へと倒れてしまって大変だったんですよ。」
やれやれ、と言ったふうに笑う。
苦労話のような物もあったが、それでも姉妹の話をする彼女はずっと嬉しそうに見えた。
提督「………良いものなんだな、兄弟姉妹ってのは。」
俺には縁のない話だ………。
信頼出来る仲間は沢山いる。
兄弟と呼んでもいいかも知れない。
ただ、血の繋がった兄弟がいない俺には、本当の兄弟というものは分からなかった。
???「大変な事もありますが、困った時はいつでも頼りになります。逆に頼ってもらえた時も、すごく嬉しいですね。」
???「一番上の姉様は………、今は貴方の方がよく知っているのでは無いでしょうか?」
提督「………え?」
彼女の姉を、俺が知っている?
分からない。
全然思い出せない。
俺は………。
俺は、ここで、いや、今まで何を………?
???「残念ですが、今日はもう時間みたいですね。」
彼女は手に持っている懐中時計を見て、寂しそうにそう言った。
提督「時間………?」
???「お別れの時間です。でも、きっとまた会えますよ。」
椅子から立ち上がる。
提督「待ってくれ、まだ聞きたいことが」
???「仲間のところに、戻ってあげてください。皆心配しています。」
仲間………?
俺の、仲間………。
………そうだ。
帰らなければ。
待ってくれている、仲間達がいる。
提督「そうだ。俺は、帰らなきゃならない。」
提督「その前に、君の名前を、教えてくれないか?」
???「………。」
背を向けたまま、応えてくれない。
???「」クルッ
身軽そうに、こっちを振り向く。
その顔は、穏やかな笑顔で、満足気に見えた。
???「では、次にあった時に教えます。」
???「大丈夫です。またきっと、会えますよ。」
根拠やら何やらを問いただす気になど、とてもなれなかった。
その笑顔が嘘をついているようには見えなかった。
提督「じゃあ、またあった時に。」
???「ええ。」
だんだんと、周りの景色が変わっていく。
草原は無くなり、真っ暗闇の中だ。
自分と彼女以外、何も見えない。
すぐにでも飲み込まれそうだ。
???「怖がらないで。ほら、上を見てください。」
???「仲間達の声が、光が、きっと見えてきます。」
暗闇の中に差す、一筋の光。
幾つもの光が重なって一つになっているようだ。
俺を照らすその光は、暖かく、心地いい。
提督「ああ、本当だ………。眩しいな………。」
???「それでは、また会う時まで、どうかお元気で。」
彼女の姿が、暗闇の中にゆっくりと消えてゆく。
きっと、また会える。
彼女も言った通り、そんな気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
提督「………うむぅ………。」
蛍光灯が眩しい………。
ここは、何処だ………?
少尉「………おはようございます、中尉。」
聞き覚えのある声が、すぐ隣から聞こえる。
蛍光灯の明るさに目を細めながらも、仲間の姿を目に映す。
提督「少尉………?ここは、何処だ?」
室内は明るいが、窓から見える外は真っ暗だった。
今はおそらく夜中だろう。
少尉「島の病院です。覚えてますか?」
提督「ああ………。全部覚えてる。あの後どうなった?」
少尉「中尉を金剛さんが運び込んできて、俺と大淀さんで救急の手配をしました。」
少尉「俺はそのまま中尉に付いていったから見てはいませんが、中尉の言葉通り、北提督が指揮を執って深海棲艦は撃滅したそうです。」
少尉「負傷者は誰も。」
提督「そうか、良かった………。」
信頼出来る仲間の言葉で、身体の力が抜けていく気がした。
………だが何故だろう。
何か、大切な事を忘れている気がした。
ここに来る前のことは、すべて覚えている。
だから余計に、変な感じがした。
少尉「まあ、とりあえずまだ休んでください。夜ですし、中尉が起きたってなれば明日は忙しくなりますよ。」
提督「そう、だな。色々悪い、な………。」
安心したせいか、再び眠気が襲ってきた。
少尉「ゆっくり休んでください。とにかく、無事で良かった。」
提督「スー、スー………。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
次の日の朝。
マルナナマルマル
少尉「ちょっと、中尉、本当に大丈夫ですか?」
提督「ああ。いつまでも寝てる訳には行かない。それに俺がタフな事くらい知ってるだろ?」
少尉「そりゃそうですけど、腹に穴空いたんですよ?」
提督「………本当に、よく生きてたな、俺。」
傷を擦りながら呟く。
提督「さーてと、じゃ、北鎮守府行くか。みんなそこにいるんだろ?」
少尉「そうですけど、本当に大丈夫ですか?」
提督「だぁから大丈夫だって。」
少尉「」包帯デコピン ベシッ
提督「ぬぐおあぁあああぁあああああぁぁあ!」
身体中に激痛が走る。
少尉「あーあー、言わんこっちゃない。」
提督「し、少尉、てめっ………。」ウズクマリ
少尉「全然大丈夫じゃ無いですよねそれ。」
提督「いいんだよ、あんまり心配かけたくねぇし………。」
少尉「それに関しては手遅れだと思うんですけど………やれやれ。」
少尉「じゃ、行きますか。」
提督「なんだかんだ言って行かせてくれるんだな。」
少尉「だって中尉どーせ折れないじゃないですか。」
提督「まあな。」
少尉「じゃあ、ちょっと待っててください。病院の人達に話つけてきますから。」
歩いていく少尉の後ろ姿を見送る。
ぐっ、ぱっ、と手を動かす。
軍刀の鞘を握る。
提督「………クソ。」
本来は、あの状況に陥る前に手を打つべきだった。
運が良かっただけなのだ。
本来なら、俺は死んでいた。
提督「………修行し直しだな。」
少尉「話つきましたよ。行きましょうか。」
提督「おう、さんきゅ。」
少尉の車で、北鎮守府へ、仲間達の待つ元へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
北鎮守府にて
提督「そ〜っと、静かにな………。」
少尉「分かってます………。」
北鎮守府に到着した。
仲間達に会いたいのは山々だったが、まず最初にやるべき事を、北提督と話をつけなければならない。
どんな形であれ、最後までやりきらなければならない。
ーーー ーーー ーーー
執務室前にて
提督「」コンコン
北提督「入れ………。」
明らかに声色が暗い。
やれやれ………。
提督「………。」ガチャリ
少尉「どもっす。」
北提督「て、提督………?」
提督「………よう。」
扶桑「………え?」
あ、扶桑も居たのか。
扶桑「提督………?お目覚めに、なったのですか………?」
提督「………ああ。心配かけて、ごめんな。」
扶桑「いえ………。ご無事で、良かった……。」ギュゥッ
提督「………。」ギュッ
抱き寄せた扶桑の体は、小刻みに震えていた。
提督「………本当に、ごめんなぁ………。」
自分がどれだけ心配をかけてしまっていたか、痛いほど伝わる。
提督「………なあ、北提督。」
北提督「あ、あぁ。」ビクッ
提督「ふっ、そんなにビビるなって。別にもう何もしやしねえよ。」
北提督「………俺は。」
提督「お前がこれからやるべき事は、俺が言うまでもないだろ?」
提督「とりあえず俺が言いたいことはただ一つ。」
北提督「ああ。何でも言ってくれ。」
提督「自分を曲げるな。自分を偽るな。仲間のためだろうがなんだろうが、それを言い訳にしちゃ駄目だ。」
提督「どんなにデカいもんが相手でも、自分の目で見たものを信じて、自分の心と、仲間が進めといった道を行け。」
北提督「………あぁ。分かった!」
北提督の目に、始めて会った日とも、戦っていた時とも違う光が宿るのが見えた。
もう、大丈夫だろう。
北提督「提督、今回は本当にすまなかった。心より非礼を詫びる。」
提督「いいさ。お互いに生きてんだし、何とかなったんだ。」
提督「これからもよろしくな、北提督。」
北提督「………!……あぁ、こちらこそ!」
硬い握手を交わす。
提督「あ、やっぱもう二つ頼みがあるわ。」
北提督「な、なんだ?」
提督「大した事じゃ無いんだけどな。今回の演習の報告書、書いといてくれね?」
少尉「おーっと、上手い具合に仕事すっぽかそうとするんじゃないよあんた。」
提督「いや、俺疲れたからさ?ちょっとくらいゆっくりしてもいいんじゃないの?」
少尉「二週間寝てた野郎が何を言うか………。」
北提督「………ふっ。」
北提督「構わない。むしろ、それくらいやらせてくれ。」
少尉「えー………。北提督、こいつ甘やかすと調子乗りますよ?」
提督「お前ほんとに俺の部下だよな?」
北提督「大丈夫だ。書類仕事なら慣れてる。提督、もう一つの頼みは何だ?」
提督「ああ、そうそう。飯奢ってくれ。今日の昼と夜の分。」
北提督「お易い御用だ。」
提督「あ、悪い、もう一つだけ。」
提督「皆を、呼んでくれ。帰ってきた、ってな。」
北提督「ああ、分かった。少尉殿、手伝って貰えるか?」
少尉「もちろん、喜んで。」
ーーー ーーー ーーー
しばらくして
グラーフ「admiral!」
提督「お、グラーフ。久しぶり。」
グラーフ「ああ、良かった、無事で………。」ギュッ
提督「悪いな、心配かけちまって。」
グラーフ「構わん………。その分、これからまたずっと傍にいてくれ………。」
提督「ああ。もちろんだ。」
ーーー ーーー ーーー
北上「提督〜、やっほ〜。」
提督「北上、と、大井か。おっすおっす。」
大井「………こ、こんにちは。」
北上「まったくもう………。あんな無茶しないでよ、提督。危うく死ぬとこだったんだよ?」
提督「ははは、悪い悪い。」
北上「ほんとに分かってるのかな?」
提督「分かってるって。北上は喜んでくれないのか?俺が無事で。」
北上「ん〜?内心はすごく嬉しいよ。でもそれを前面に出したら今すぐ提督の事襲っちゃいそうだから、抑えてる。」
提督「………。」
大井「あ、あの、提督………。」
提督「ん?」
大井「あの、前に、失礼な事を言って、すみませんでした………。」
提督「………。」
提督「………ニシシ。」デコピン
大井「あっ痛っ!?ちょっと何するんですか!?」
提督「似合わない顔すんな!俺はあんくらい気にしねえよ!」
大井「でも、私は………。」
提督「やれやれ、そんなに大切に思われてる北提督が羨ましいなぁおい。」
大井「なっ、なんでここで北提督の話をするんですか!」
提督「え、大切に思ってないのか?」
大井「いえ、その、お、想ってますけど………。」カアァァ
提督「ははは!やっぱ面白いわ、お前!」
北上「あはは、だから言ったでしょ?提督なら大丈夫だって。」
大井「うう、恥ずかしい………。」
ーーー ーーー ーーー
追伸、まともに喋れたのはこの三人くらいだった。
残りの奴らは号泣してたお陰で何言ってるかさっぱり分からなかった。
少尉から聞いたが、足柄達は演習から二日後にここに来たらしい。
今は基地の奴らが鎮守府を見ていてくれているそうだ。
いやぁ、大淀と鳳翔さんの泣き顔とは良いもん見れたぜ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
その後は北鎮守府、東鎮守府合同で宴会が開かれた。昼間から夜まで、皆で騒いだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
次の日の朝
提督「よーし、忘れもんはないな?」
「「「「「はーい。」」」」」
北提督「………提督。」
提督「よ。俺が言ったこと、忘れんなよ?」
北提督「もちろんだ。」
北提督「今回の事、本当に感謝している。」
提督「おう。」
北提督「これから先、何か困った時はすぐに連絡してくれ。北鎮守府総員、東鎮守府の助けになろう。」
提督「そりゃあ心強い。」
提督「北提督、頑張れよ。」
車を出す。
ーーー ーーー ーーー
長い長い戦いを終え、俺達は鎮守府への帰途に着いた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
鎮守府に帰り着いたのは、道が渋滞していたせいもあって夜だった。
みんなもようやく気が抜けたのか、疲れを顔に見せていたため、すぐに休むように言っておいた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
提督「ん?」
俺が立っていたのは、見覚えのある草原だった。
確かここは………。
???「あら?また来たのですか?」
声に振り向くと、先日会話した彼女がいた。
どうやら俺はまた、彼女の元へ来てしまったようだ。
提督「ああ、そうみたいだな。」
???「あらあら、そんなに私に構って頂かなくてもいいんですよ?」
嬉しそうに呟く。
提督「………。」
提督「約束、守って貰えるか?」
???「………。」
前にここに来た時に、名前を聞いた。
でも、教えてもらえなかった。
次に来た時に、教えると言われたのだ。
???「………覚えていたのですね。」
提督「まあ、な。」
名乗りあぐねている様にもみえるが、嫌そうな様子は無い。
???「仕方ありませんね。」
榛名「私は榛名。金剛型巡洋戦艦三番艦の、榛名です。」
提督「榛名、か。」
提督「やっと、名前を聞けたな。」
榛名「………そうですね。」
榛名「ふふふ、すみません。隠していた訳では無いんです。」
榛名と名乗った彼女は、先程より柔らかな物腰に見える。
榛名「ただ、あなたがもう一度ここに来れなければ、名乗る意味もないと思っただけなんです。」
榛名「実際、二度とここに来ることが無かった人もいますから。」
提督「そうか………。金剛の妹さん、なんだな。」
あまり楽しそうな内容では無かったので、話題を変えようとする。
榛名「はい。なんだかお姉様の大好きな方と二人きりでお話するのって、複雑ですね。」
提督「はは、それもそうだな。」
提督「こんな所を金剛に見られたりしたら、大騒ぎされそうだな。」
榛名「ふふふ、違いありませんね。」
姉妹の話を始めると、榛名はすぐに楽しそうになった。
提督「いつか、ほかの二人とも会いたいな。」
榛名「そうですね………。二人ともいい人ですから、きっとお気に召すと思いますよ。」
提督「榛名とは………ここでしか会えないのか?」
榛名「………。」
応えない。
提督「俺は、きっと目覚めたらまたここの事も、榛名の事も覚えてないんだろ?」
榛名「………。」
提督「それって、寂しいじゃんか。せっかく会えたのにさ。」
榛名「覚えていないか、ここでしか会えないかは、あなた次第ですよ。」
少しだけ曇っていた表情は、いつの間にか元に戻っていた。
榛名「これからもきっと、たくさん辛い事があります。」
榛名「でも、あなたなら、あなた達ならきっと乗り越えられる。そう信じています。」
提督「榛名………。」
だんだんと、周りの景色が変わっていく。
提督「もう、終わりなのか?」
榛名「そうみたいですね。」
提督「また会えるんだよな?」
榛名「………あなた次第です。」
提督「俺は………。」
提督「俺、絶対またここに来るよ!また、榛名に会いに来る!」
提督「どんな事があっても、絶対みんな守り抜く!」
提督「だからさ、また会ったら、一緒に話そうぜ!いっぱい話して、遊んで、仲良く………。」
どんどん意識が遠のいて行く。
結局最後まで声は出ていたのだろうか………。
ーーー ーーー ーーー
榛名「………。」
広い、広い草原に彼女は立っていた。
榛名「全く、困った人ですね………。」
困ったと言っているが、表情は嬉しそうな笑みで覆われていた。
榛名「あれだけお姉様に愛されているのに、榛名と仲良くなりたいだなんて。お姉様が聞いたら倒れてしまいます。」
榛名「でも、それでも嬉しくなってしまうのは、あの人だから………?」
口元に指をあて、考える仕草をとっている。
榛名「………また、来てくれるって、信じていますからね。」
榛名「もしも、もしもあなたがこの世界を変えてくれたら、私も一緒に………。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
演習から半年後。
季節は冬。
年が明けてからしばらくたった。
マルナナマルマル
提督「くあぁ〜。」ムクリ
提督「ふぅ………。」
軽く深呼吸をしてから、腹部を摩る。
傷は完治したが、傷痕は残っている。
提督「………ふっ。」
この笑いは何を意味していたのか。
分かるのは提督本人だけだ。
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マルハチマルマル
大淀「おはようございます、提督。」ガチャリ
提督「はよっす、今日の予定は?」
大淀「今日は、エンジニアの方々との会合です。時刻はヒトヒトマルマルから。秘書艦は夕張で来てくれ、と。」
提督「ああ、あいつらか。そういや今日だったな。」
結局俺の艤装は本営の連中にバレていた。
盗聴器やらは全部撤去したが、どうせバレているので艤装の事は報告済みだ。
エンジニアというのは本営付きの科学者たちの事だ。
専門分野ごとに分かれていて、俺は艤装担当の部しか知らないのだが、気のいい連中だった。
本営付きなだけあって技術力も高いので、夕張や大淀と共に艤装の改良を手伝ってもらっている。
ただ、一つ問題があった。
提督「ただあいつら、絶対夕張のこと狙ってんだよなぁ………。」
目つきがもうダメなのだ。
美人で、スタイルもよく、何より自分達の趣味、そして仕事に理解を示してくれる。
そりゃあ惚れるのも無理はない。
ただなぁ………。
顔に出過ぎだ。
流石にプロだから、仕事が始まればいいのだが、そこまでがめんどくさい。
ちなみに夕張本人は全く気付いていない。
大淀「まあ、提督がしっかり守っていればいいでしょう?本日の執務はやっておきますから。」
大淀「遅れる前に、ご出発なさってください。」
提督「はいよ。行ってくる。」
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同日同刻
某鎮守府
中将「………クソ、クソ、クソ、何なんだあいつはよぉ!」
中将「なんであんな野郎が!クソ、クソがぁ!」ガアン
???「ちょっと、提督。いい加減にして。みんな怯えてるわ。」
中将「うるせえな………。兵器が俺に口答えしてんじゃねえよ!」バシッ
???「っ!」
???「〇〇!大丈夫か!おい、提督!部下にすることじゃないだろ!」
中将「誰が部下だ。テメェら兵器に居場所と仕事やってるんだぞ俺は!ありがてえと思わねえのか!?ああ!?」バキッ
???「ぐっ!」
???「〇〇!提督、もうやめて!」
???「私はいい。それより提督。〇〇〇はどこへ行った。最近見ていないぞ。」
中将「ああ、あの役立たずのガキか?」
中将「ああ、確か本営の実験学部?だかに送っちまった。」
???「………は?」
中将「あの糞ガキ、演習でも出撃でもすぐ被弾しやがるし、穴の締りももう悪かったからな。本営に売りつけちまったわ。」
???「そ、そんな………。」
???「貴様ぁ………!」
中将「……だからよ、その目をやめろって言ってんだよ!」ドカッ
???「ぐぁっ!」
中将「はっ、ちょうどいい。お前らも捨てようと思ってたんだがな。最後にチャンスをやるよ。」
???「な、何よ、それ。」
中将「これはな、艦娘の性能を底上げする薬でな。薬学部の連中が作ったんだが、まだ試作段階だ。お前らが運良く生き残ってまだ使えるようなら、捨てねえでやるよ。」
???「ぐっ!」ブス
???「うっ!」ブス
???「うっ、ゲホッ、あ、あああああ、うああああ………。」バタリ
???「ぐっ、ゲボォッ、〇〇!おい、ゲホッ、〇〇!」
中将「ちっ、死んじまったか?」ゲシッ
???「あ、ああ、そ、そんな………。」
中将「はぁ、ほんとに使えねえなぁ………。」
???「よくも………クソ、よくモ………!」
???「ヨクモォ!!!」ズオオッ!
中将「おい!やめろ!止まれっつってんだろ!」
???「ダマレェ!クソヤロウガァ!!!」
ドオオオォォン!!
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヒトヨンマルマル
提督「じゃ、こんなもんだな。今回のデータ。」
科学者「うん、ありがとう。相変わらず、人並外れた能力だなぁ。」
提督「俺らんとこじゃ中の上くらいなんだけどな。」
科学者「夕張君も、ありがとね。」
夕張「いえいえ。とっても参考になりました!」
提督「いつもの事だがありがとな。本営にもお前みたいな奴がいてくれるとほんとに助かるよ。」
科学者「ふふ、そう言ってもらえて何よりだね。また何かあったら教えてくれ。」
提督「ああ、分かった。」
科学者「それとこれは独り言なんだけどね。」
科学者「最近薬学部の連中が妙な事をしてるようだ。中将を含む上の奴らの協力でね。」
科学者「僕が上に立ったらすぐに暴いてやめさせるけど、くれぐれも気を付けてくれ。」
提督「ああ。ほんとに助かる。ありがとう。」
科学者「どういたしまして。じゃ、またデータよろしくね。」
提督「おう。それじゃ。」
ーーー ーーー ーーー
夕張「薬学部って事は、薬品?」
提督「そうだな。………なぁんか嫌な予感すんだよなぁ………。」
提督「ま、とにかく帰るか。腹減ったろ?」
夕張「うん!もうお腹ぺこぺこ!」
若干の不安を覚えながらも、とりあえず鎮守府へ帰った。
ーーー ーーー ーーー
フタヒトマルマル
提督「くああ、眠い……。」
渋滞のせいで、思ったよりも時間がかかってしまった。
到着が遅くなりそうだったので、帰り道の途中で夕張とファストフードを食った。
鳳翔さんには連絡済みだ。
提督「夕張、着いたぞ………って。」
夕張「すー、すー………。」
提督「寝てるし………ま、仕方ないか。」
一日付き合ってもらったし、車の時間も長かった。疲れるのも無理はない。
提督「んしょ、っと………。」
部屋まで運ぶ事にした。
提督「軽いな………ま、女の子だもんな。」
艤装を着けていなければ本当に普通の女の子と何ら変わりはなかった。
夕張をおぶりながら、部屋に向かう。
ーーー ーーー ーーー
夕張の部屋
提督「よっ………と。」
そっとベッドに下ろす。
夕張「んぅ………?」
提督「あ、悪い。起こしちまったか?」
夕張「ここ、は?」
提督「鎮守府だ。予想以上に時間がかかっちまったな。疲れたろ?このまま寝ていいぞ。」
夕張「………うん。」
提督「じゃ、おやすみ、夕張。」
夕張「………提督、ちょっと待って。」
提督「ん、どした?」
いつもと、少しばかり夕張の様子が違う。
いつもの明るい様子とは打って変わって、恥ずかしがっているような、怯えているような、不思議な感じだった。
夕張「あの、さ。ちょっとこっち来て?」ポンポン
夕張に言われた通りにベッドの隣に腰掛ける。
夕張「………。」コテッ
俺の肩に頭を乗せてきた。
夕張の体温が伝わる。
提督「夕張………どうした?」
夕張「………少し、話したいことがあるんだ。聞いてくれる?」
提督「………おう。もちろんだ。」
夕張「私達が初めて、って言うよりは提督にとって私と初めて会った日、覚えてる?」
俺が、夕張と初めて会った日。
夕張にとっては研修の時だが、俺にとっては着任したあの日。
夕張の行為を、思い止まらせたあの日。
提督「ああ、覚えてる。」
夕張「提督はさ、ほんとに優しくて、カッコ良くて、ちょっとバカで………。」
夕張「今じゃ、皆の人気者になっちゃったよね。」
夕張「あの時、提督は私を止めてくれたでしょ?」
提督「………ああ。」
夕張「だから、私もこういう事はするべきじゃないのかな、って思ったの。」
夕張「でも、提督がここに居ない日とか、他の誰かと話してる時とかさ、なんだかここがモヤモヤするんだ。」
そう言いながら、夕張は自分の胸元を摩る。
夕張「それでも、よく分からないまましばらく経って………。そしてあの日。北鎮守府と演習の日、あったでしょ?」
夕張「あの時、提督が大怪我して金剛さんに運ばれて来て、病院で何時間も大手術して………。」
夕張「提督が起きるまでの間、ほんとに辛かったんだ………。」
夕張「朝起きて、どこを見ても提督の笑顔が無くて、身体に力がちゃんと入らなくて………。」
夕張「無事に帰って来てくれて、本当に嬉しかった。分かってても、涙が止まらないくらい………。」
夕張「そこで私、ようやく自分の気持ちが分かったんだ。」
夕張はいつの間にか俺の腕に抱き着いていた。
腕に心地よい温もりが伝わって来る。
夕張「私…………。」
夕張「私、提督が好き。」
夕張「言葉じゃ表し切れないくらい好き。」
夕張「ずっと一緒に居たい。ぎゅって抱きしめたいし、抱きしめて欲しい。」
夕張「提督の為ならどんな事でも出来るって思えるくらい、大好き!」ギュッ
自分の想いを出し切った夕張が、はち切れそうなほど明るい笑顔で抱き着いてくる。
着任したあの日。
夕張の行為を思い止まらせ、考え直すように言った。
それでも夕張は、俺を選んでくれた。
嬉しい。
たまらなく嬉しい。
でも、俺は、夕張の気持ちに答えてもいいのだろうか。
俺は、本当に夕張を守れるのだろうか。
俺は強くない。
俺は血にまみれた生き方をしてきた。
俺は提督だ。他の誰かともこうなるかも知れない。
断った方がいいんじゃないか、という想いもある。
だが、それ以上に、断りたくない。
夕張がここまで自分の想いを打ち明けてくれたのだから、受け止めてやりたい。
そうも思う。
俺も、自分を隠さずに言おう。
伝えよう。
提督「………ありがとう。」ギュッ
提督「夕張の気持ちを聞けて、本当に嬉しい。」
提督「マジで嬉しい。今すぐ叫んで走り回りたいくらいな。」
夕張「ふふっ、それじゃただの不審者でしょ?」
提督「はは、違いない。」
提督「俺も、夕張の気持ちに答えたい。」
提督「でも、俺は………。」
言葉が詰まる。
言え、と、大丈夫だと、自分に言い聞かせても、恐れてしまう。
夕張「提督、大丈夫。言って。」ギュッ
提督「夕張………。」
さっきまで俺を締め付けていた恐怖心が無くなる。
やれやれ、我ながら情けない………。
でも、これで、言える。
提督「俺は弱い。お前達を守る力はない。」
提督「俺は血塗れだ。ずっと、人を殺して生きてきた。」
提督「俺は提督だ。他の皆も見なきゃならないし、他の誰かともこういう事をするかも知れない。」
提督「そんな俺でも、許してくれるなら、俺は、夕張の気持ちに答えたい。」
提督「そう思ってる。」
思っている事を全て言った。
どんな答えが返って来ても、後悔はない。
夕張「………全くもう。」
夕張「やっぱり提督は優しいね。」
にっこりと、柔らかい笑みを浮かべる。
夕張「それでもいいよ。他のみんながいてこそ、この鎮守府でしょ?私もちゃんと見てくれるなら、それで私は十分。」
提督「………本当か?」
夕張「うん。むしろ振られること覚悟で言ったから、すっごく嬉しい。」
提督「………ふ、ははは。」
夕張「えっ、なんで笑うのさ?」
提督「いやぁ、俺も正直ビビってた。こんな事言ったらぶん殴られるんじゃないかと思って。」
夕張「そんな事しないよー!」
提督「ははは、すまんすまん。」ナデナデ
夕張「もう!もしかしてまだ子供扱いしてる?」プンプン
提督「はは、そんな事ないって。」
夕張「ほんとかなー?」
お互いの気持ちを打ち明け、心が軽くなった。
夕張「ま、いいや。」
夕張「提督………今なら、許してくれるよね?」
夕張がゆっくりと顔を近づけてくる。
提督「………本当にいいんだな?」
夕張「もう、だから良いってば。」
夕張「提督でもいい、んじゃなくて提督だから私は〜んっ………。」
夕張の唇を塞ぐ。
夕張「ん……ちゅ………んちゅ……。」
夕張「ん………。えへへ、提督、今のって初めて?」
提督「えっ、いや、まあ、そうだけど………。」
夕張「えへへ、やったぁ、提督の初めて貰っちゃった。」
提督「………。」グイッ
嬉しそうに笑う夕張を見て、我慢が効かなくなってくる。
夕張「きゃっ。て、提督?」
提督「ここで終わりってわけじゃないだろ?」
夕張「うっ、うん……。」
夕張「て、提督?あの、私、初めてだから、や、優しくしてね?」
さっきまで明るかった夕張が急に大人しくなり、ますます俺の理性を飛ばすのに一役買っていた。
夕張「んっ……あっ………。」
提督「夕張、痛くないか?」
夕張「大丈夫、だから、もっと………。」
提督「ッ………。夕張ッ………。」
夕張「あっ………ん、あ……。」
そこからしばらくの間、俺達は愛し合っていた。
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不知火「やれやれ、帰ってきていきなりこれとは………最初に気付いたのが私で良かったです。」
不知火「夕張さんは後でお説教しておくとして、私もなるべく早く提督に構ってもらうとしますか………。」
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次の日の朝。
提督「ぬ……ふあぁ……。」
夕張「あ、おはよう提督。」
提督「おう、おはよう。」
朝起きて一番最初に目に入るのが大好きな人で、すごく安心する。
本音を言うともう少し寝顔を眺めてたかったけど、起きて欲しいとも思ってたし、丁度いいかな。
提督「夕張、その、昨日はありがとな。」
顔が赤くなっている。
夕張「あはは、こちらこそ。提督、今更照れてる?」
提督「そんなことはない。」
夕張「あはは、嘘ばっかり。顔真っ赤なのわかってるよ〜。」
提督「いやいやこれ口の中のリンゴが透けてるだけだから。」
夕張「へぇ〜じゃあ口の中見せてもらおうかな〜?」
提督「えっちょっと待ってごめん嘘だから待って。」
夕張「ちゅっ。」
提督「ん………。」
夕張「えへへ〜、おはようのキスも〜らい。」
提督「………。」ボフッ
夕張「うわあっ!提督、顔から湯気出た!」
提督「オマエセメテヨコクシロ………。」
夕張「あははははは、ごめん〜!」
ようやく自分に素直になれた。
そして相手も応えてくれた。
本当に幸せだ。
あ〜、でも金剛さんか足柄さんあたりにバレたら大変そうだな〜。
夕張「ねえ提督、今日ってヒマ?」
提督「ああ、特に用事はないが。」
夕張「じゃ、デートしない?」
提督「デ、デート………あ。」
提督「悪い、夕張。嬉しいんだが、明日でもいいか?」
夕張「うん、いいけど。どうして?」
提督「昨日も大淀達に執務任せちまったし、今日くらい俺がやんねーとな。」
夕張「なるほど。じゃあ私も手伝う。」
提督「お、さんきゅ。じゃ、着替えて行くか。」
これからも、この場所を、大好きなこの人を、守る為に頑張ろう。
心にそう決意した。
ーーーーーーーーーーーーーーー
二日後
執務室にて
マルキューマルマル
提督「………。」カリカリ
五月雨「………。」カリカリ
〜♪〜〜♪〜〜♪
五月雨「ん?」
提督「あ、俺のケータイだ。それ、とってくれるか?」
五月雨「はい、どうぞ。」
提督「さんきゅ。えーと、誰からだ?ん、北提督か。」
何か急用でもあるのだろうか。
提督「はい、もしもし。」
北提督「もしもし。提督か。」
提督「おう。どうかしたか?」
北提督「ああ、少しな。まず、事実を言う。中将の鎮守府が壊滅したそうだ。」
提督「………壊滅?」
北提督「ああ。建物は原型を保たないほどに損傷し、中将は遺体で発見された。」
提督「………何だと?原因は分かってるのか?」
北提督「本営は事故だと言っているがな、信頼出来る線の情報によると、内部崩壊、だそうだ。」
提督「内部崩壊?反逆された、って事か?」
北提督「艦娘にな。中将を殺害し、鎮守府を大破させた艦娘は、大人しく捕まったそうだ。」
北提督「ただ、聞いた話によると、普通の状態じゃない、そうだ。それ以上の詳細は分からない。」
提督「普通の状態じゃない?どういう事だ………?」
北提督「おそらくこの事は公にはされない筈だ。何だか嫌な予感がしたから連絡しておいた。」
提督「ああ、助かるよ。俺も、何だか嫌な予感がする。」
提督「お互いに気を付けてな。」
北提督「ああ。また何か分かったら連絡する。」
提督「ああ。それじゃ。」
ピッ
電話を切る。
反逆、か………。
細かい事は全く分からないが、想像はつく。
結果的には反逆と見なされてしまうが、きっとその艦娘は周りの仲間を思ってその様な行動に出たのだろう。
ぜひともその艦娘と話をしたい。
言葉を、想いを、聞いてやりたい。
だが、本営からすれば俺が事情を知っている事自体がおかしい事となる。
今回ばかりは厳しいかも知れないな………。
そう思っていたその時。
五月雨「あの、提督、何のお話を」
〜♪〜〜♪〜〜♪
提督「………あ?」
またもや電話だ。
提督「なんだ、今度は誰だ?………もしもし。」
科学者「やあ。元気にやってるかな?」
科学者だった。
瞬間、この電話の目的が見えてきた。
提督「ああ、お陰様でな。例の反逆の事か?」
科学者「既に聞いてるか。話が早くて助かるよ。」
提督「細かい事は分からないがな。」
科学者「とにかくこっちに来れるかい?詳細は無闇に聞かれたくない。」
提督「分かった。今から行く。到着は午後になると思う。」
科学者「うん、待ってるよ。」
提督「ふー………。」
五月雨「提督、またお出かけですか?」
提督「ああ。下手すりゃ日またぎになるな。」
五月雨「そうですか………。」
提督「………出来るだけ早く帰ってくるから、そんな顔するなって。」ナデナデ
五月雨「提督………、大丈夫、ですよね?」
提督「ああ。もうあの時みたいな事はしないさ。何も殴り込みに行くわけじゃ無いしな。」
五月雨「………分かりました。待ってますね。」
提督「ありがとな。」ナデナデ
五月雨「えへへ………。」(*´ч`*)
ーーー ーーー ーーー
少尉「すんません、準備出来ました。」
提督「おう。悪いな、急に呼び出して。」
少尉「いえいえ。また面倒な事になってるみたいですね。」
提督「ん、そっちには情報は行ってるのか?」
少尉「そこそこですね。海軍の表面からは事故だって言われてますけど、諜報部が内部崩壊だって言ってたんで。」
提督「正直あの野郎の事だから自業自得だったんだと思うんだがな。どうも引っかかることがあるんだよな。」
少尉「って言うと?」
提督「こっちの信頼出来る線の情報によると、反逆した艦娘は普通の状態じゃ無かったんだと。」
少尉「普通の状態じゃない、って言うと、錯乱してた、とかそういう事ですか?」
提督「いや………何となくだが、そうじゃない気がする。」
少尉「中尉の勘って悪い事だととことん当たるからなぁ………。」
提督「嬉しいが嬉しくないな………。」
少尉「なるほど、だから皆を連れてこなかったんですね。」
提督「状況がまだハッキリしてないからな。あいつらに見せられない様な事が起きてるのも可能性としては十分あるしな。」
少尉「まったく、中将さんとことん面倒事作っていきますね………。」
提督「全くだ………。」
話しながら、出来るだけ早く車を走らせた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヒトロクマルマル
ようやく目的地である研究施設に到着した。
提督「よう。来たぞ。」
科学者「やあ、待ってたよ。」
少尉「ども。ご無沙汰っす。」
科学者「少尉君も、遠くまでわざわざありがとう。話は中でしよう。」
ーーー ーーー ーーー
案内される通りに会議室風の部屋に入る。
何だか施設の中の雰囲気が前に来た時と違う。
落ち着かないような、不安に覆われているような感じだ。
科学者「それで、二人はどこまで知ってるのかな?」
提督「中将の死と、艦娘による反逆が原因ってとこくらいか。」
少尉「同じく。」
科学者「うん。流れは掴めてるみたいだね。じゃあ要点を説明する。何があったのかをね。」
科学者「二人とも分かってると思うけど、ここから先は最高機密レベルの内容だ。くれぐれも、他言しないように頼むよ。」
提督「大丈夫だ。」
少尉「もちろんです。」
科学者「まず、今回の反逆を起こしたのは、戦艦〇〇。」
科学者「原因は中将の艦娘に対する接し方だと言ってる。まあ何かキッカケがあって箍が外れたんだと思う。」
科学者「それで、彼女が普通の状態じゃない、っていうのはこういう事なんだ。」
科学者は数枚の写真を見せた。
提督「これ、は………。」
少尉「………え?」
写真に映る〇〇らしい女性は、髪は真っ白で、青い目、黒い服装………。
誰がどう見ても深海棲艦の姫級の様な外見だった。
提督「こいつ、は、艦娘なのか?」
科学者「ああ。理性はある。人間への敵意は多少なりあっても、それは中将に対する憎悪から来ているもののようだ。」
提督「なんで、こんな事に?」
科学者「そこなんだよ。それが今回の事件の最大の問題だ。どうやら、彼女は中将に薬学部の連中が作った増強剤の実験台にされたみたいなんだ。」
少尉「実験台………?」
科学者「ああ。瓦礫の中から救助された彼女の妹さんからも、同じ成分が検出された。ただ、妹さんは薬が適応して無くて重度の拒否反応が出ていた。」
科学者「だから今は僕の施設で集中治療中だ。恐らく、それがキッカケで彼女は深海棲艦化して、鎮守府を破壊したんだろう。怒りのままに。」
提督「………。」
少尉「そんな………。」
科学者「今、彼女の身柄は本営のものになってる。きっと上の連中に物として扱われているだろう。」
科学者「僕の頼みは一つだ。提督、どうか彼女を助けてあげてくれ。」
提督「………。」
科学者「彼女の身柄なら僕がどんな手を使ってでも取り戻すよ。だから、どうか彼女の心を救ってあげてほしい。」
提督「………当たり前だ。」
………クソが。
中将………。
死んで当然だ、あんなクソ野郎………。
深海棲艦化させる薬、だと………?
ふざけやがって………。
提督「そいつはどこにいる。今すぐ会いに行くぞ。」
科学者「分かった。付いてきてくれ。」
ーーー ーーー ーーー
科学者の後に続き地下室に入る。
???「はっ、はっ………。」
???「………。」
???「ふぅ〜………。ちっ、少しは反応しろよ。つまらねえな………。」
???「まあそう言うな。具合はいいだろ?」
???「ああ。ふへへっ、これから楽しませてもらうぜ、〇〇ちゃんよ。」
男が二人、例の艦娘に欲望を吐き散らしていた。
科学者「おい、悪いが今すぐ出て行ってくれ。こっちが優先だ。」
???「………あ?」
中佐「おい、俺らが誰か分かってんのか?本営付きの中佐だぞ?」
科学者「僕はここの最高責任者だ。今すぐ、出て行け。君達が上とどんな契約をしてるか知らないが、ぐっ!」
男はいきなり科学者を殴り倒した。
少佐「ごちゃごちゃうるせえよ。しばらく眠ってろ。」ヒュッ
もう一人の男が腕を振り上げる。
提督「三秒数える。出て行け。」
中佐「あ?何だと?誰だテメェら。」
提督「三。」
少佐「ふざけやがって、死にてえのか?おい。」
提督「二。」
中佐「いい加減にしろ。そんなに痛い目みたいのか?」
提督「一。」
少尉「あーあ………。」
提督「ゼロ。」
瞬間、右にいる中佐の股間に膝蹴りを喰らわせ、そのまま反対側にいる少佐の顎に勢い良く右ストレートを叩き込む。
中佐「ぐあっ………かっ………て、てめぇ………。」
中佐は痛みに悶絶しているが、少佐は一瞬で意識を失ったようだ。
提督「出て行け。まだやられ足りないドM野郎なら残れ。」
中佐「てめぇ……ただじゃ、済まさねえからな………。」
奴はそう言い残して少佐を引きずりながら部屋を出て行った。
提督「…………。おい、大丈夫か?」グイッ
科学者「ああ、済まない。いてて、これが現状だよ。彼女に課された罰だ。」
拘束台に縛られた艦娘を見つめる。
髪は真っ白で、目は青く澱んでいる。
提督「おい………。話せるのか?」
???「ふん………。バカにするな。会話くらい出来る。」
予想より普通に返事が来た。
提督「お前………名前は?」
???「私に名乗る名などもう無い。こんな………艦娘でも深海棲艦でも無い、半端な物に。」
提督「なんで中将を殺した?」
???「………あのクソ野郎の仲間か。」
???「ふざけるな!今すぐ消えろ!あんなヤツ、死んで当然だ!」
提督「勘違いするな。俺だってあんな奴殺してやりたいほど嫌いだ。」
???「アイツは……あのクソ野郎は、私達を……平然とモノ扱いして………そのせいで、妹は……。」
???「私だって、もう、おかしくなってしまった。こんな、敵なのか味方なのかも分からない身体にされて………。」
???「もう、何も感じない………。痛みも、味も、何もかも………。こんなに辛いはずなのに、涙も出ない………。」
???「なのに、ただ奴らに毎日身体を穢され、絶望だけが溜まっていく………。」
???「さっさと沈んでしまいたい………。深い深い海の底へ………。」
提督「………。」
胸が締め付けられる。
話を聞くだけで辛い。
俺が、助けなければならない。
なんとしても。
絶望の中から、助け出してやらねば。
提督「なあ。」
提督「お前さ、俺の鎮守府に来ないか?」
???「………何だと?」
提督「こんな口約束、信じられないかもしれないが、俺は、絶対に、艦娘を見捨てない。モノ扱いしたりしない。」
提督「必ずお前らを守る。」
提督「………せっかく生まれてきたのにさ、辛い思いのまま死ぬなんて、悲しいじゃんか。」
提督「俺は、そんな終わり方、誰にもして欲しくない。ましてや、妹達の為に戦ったお前には。」
提督「だから、俺の元に来い。」
提督「俺が、今までの絶望を全て忘れされるような、そんな生き方を教えてやる。」
???「………。」
彼女は不思議そうな目で俺を見ていた。
???「………ふっ、変わった男だ。」
???「………まあ、考えておいてやろう。」
提督「ああ、今はそれで十分だ。」
部屋を出る。
提督「科学者。俺はこいつを連れてく。いいか?」
科学者「もちろんだ。すぐに手配する。」
科学者「ただ、少しばかり時間はかかってしまうと思う。たぶん今日中は無理だ。」
科学者「それでもいいかい?」
提督「ああ。日またぎの仕事になりそうだとはもう言ってあるからな。」
少尉「同じく。」
科学者「済まないね。すぐに部屋の方も手配するよ。」
提督「ああ、助かる。」
ーーー ーーー ーーー
次の日の朝。
科学者「ふわぁ〜、おはよう。」
提督「おはよう。すんげえ眠そうだな。」
少尉「はよざっす。」
科学者「ああ。なんか書類が予想外に多くて。数時間しか寝てないんだ。」
提督「悪いな。今度なんか奢るよ。」
科学者「ありがと〜。期待しとく。」
提督「許可は出たんだよな?」
科学者「もちろん。すぐに連れて行ってけれて構わないよ。」
提督「よし、じゃあ行くか。」
彼女がいる地下に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
???「………。」
提督『俺が、今までの絶望を全て忘れされるような、そんな生き方を教えてやる。』
本当に変わった奴だ………。
また部屋に新しい男が来て、また穢されるのかと思ったら、突然あんな事を言い出して………。
信じても、良いのだろうか………。
人間の言葉など、信じられるのだろうか………。
あいつが嘘を言ってるようには思えない。
だが、そう簡単に信じることも出来ない。
当たり前だ。
あんな事があったのに………。
なんでアイツは、あんな事を言ってくれるのだろう。
頭で必死に否定しながら、どこか仕方が無いと思っている所があった。
私達は、兵器。
国の為に戦う道具。
だがアイツは、真っ直ぐな目で、それを否定した。
もう自分の存在が何なのかよく分からなくなってしまった、私のような奴にさえ、あんな事を………。
本当に、変わったヤツだ………。
アイツについて行けば、何か変わるだろうか。
私達が生まれてきた意味を、知ることが出来るだろうか………。
そう思っていたその時。
中佐「ふーっ、ふーっ………。」ガチャ
いつも来る男。
今日も必死に腰を振り、私の身体に欲望を吐き捨てる。
嫌悪感はあっても、もはや私の身体は何も感じなかった。
中佐「………クソが。」グッ
???「貴様、何をっ……。」
一段落したのかと思った次の瞬間、こいつは急に私の首を締め付けてきた。
中佐「クソが……あんな奴に取られるくらいなら、いっその事………。」
???「かっ、はっ………。」
苦しくなくても、息が吸えない。
目の前がどんどん暗くなってくる。
急に恐ろしくなってきた。
嫌だ!
こんな終わり方、したくない………。
必死に願う私に、彼はこう言った。
昨日見た男が、中佐を蹴り飛ばし、こう言った。
提督「よう、迎えに来たぜ!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
彼女がいる地下室前の階段に来た。
少佐「ま、またテメェらか!」
提督「………。」
昨日もいた、小太りの男。
既に分かる。
俺が一番嫌いなタイプの人間だ。
こいつがここにいるって事は………。
提督「退け。」
少佐「黙れ!好き勝手しやがって!」
いきなりハンドガンを取り出し、こっちに向けようとする。
少尉「よっと。」バシッ
少佐「ぐっ!」
少尉の蹴りが少佐の手からハンドガンを叩き落とす。
少尉「中尉、科学者さん、先どーぞ。」
提督「助かる。平気か?」
少尉「一分もかかりませんよ。」
少佐「ざっけんなぁぁぁぁ!」
ーーー ーーー ーーー
その場を少尉に任せ、急いで階段を降りる。
中佐「クソが………あんな奴に取られるくらいなら、いっその事………。」
中佐の呟きが聞こえる。
???「かっ、はっ………。」
丸裸の中佐が、彼女の首を両手で締め付けていた。
科学者「なっ!」
提督「」ドガッ!
走り寄って、そのまま中佐を蹴り飛ばす。
中佐「ぐぁっ!」
彼女に振り返る。
提督「よう、迎えに来たぜ!」
???「はっ、はっ、お前、なんで………。」
中佐「また………またテメェか………。」
中佐「邪魔ばっかしやがって………クソがあぁぁ!」
殴りかかってくる中佐の拳を、右手で止める。
提督「今すぐに消えろ。昨日のレベルじゃ済まねえぞ。」
中佐「ぐっ……テメェが消えろぉ!」
再び殴りかかってくる中佐の右腕を、両肘と左膝で思い切り挟み潰す。
中佐「ぐああぁあぁっ!」
提督「じゃあな。」ブンッ
そのまま右足の蹴りをみぞおちに喰らわせた。
中佐「ぐほぁっ!」ドガァァン!
吹っ飛んだ中佐は壁にぶち当たり、意識を失った。
提督「はあ、やれやれ………。」
???「ケホッ………。」
提督「大丈夫か?」
???「平気だ………。」
平気とは言っているが、表情は苦しそうだった。
提督「………昨日の話、考えてくれたか?」
???「………。」
返事がない。
やはりそう簡単に割り切る事は出来ないのだろうか。
???「………一つ、聞きたい事がある。」
提督「なんだ?言ってくれ。」
???「お前は………お前はどうして、私達を大切にしようと思うんだ?」
???「モノ扱いしようとは思わないのか?何故、私達を………。」
提督「………。」
辛そうに俯いている。
綺麗事や口文句は必要ない。
俺が思っている事を、伝えるべきだろう。
提督「確かに、世間じゃそういう考え方の方が多いかもな。」
提督「でもそれが何だ?」
???「………。」
提督「俺は、俺が決めた通りに動く。俺が決めた通りに生きる。信頼出来る仲間の意見は重んじて聞き入れるが、決めるのは俺だ。」
提督「周りなんて関係ない。」
???「だったら………お前は、私達の事を何だと思っている?」
提督「あー………また難しい質問だな。」
提督「ちょっとズレてるかも知れないが、俺は少なくともお前達艦娘がモノだなんて思うつもりはこれっぽちもない。」
提督「俺は、この世に意味の無い事は無いと思ってる。」
提督「あるとしたら、それは自分達の何らかの行動が原因でそうなってるだけだ。」
提督「お前たち艦娘も、俺たち人間も。」
提督「こうやって、体と心を持って生まれてきたって事に、必ず意味はあると思ってる。」
提督「だからこそ、俺は誰かを下に見たり、お前らをモノ扱いする奴らが大嫌いなんだ。」
提督「望む答えじゃないかも知れないが、これが俺の本心だ。」
???「………。」
話している内に、だんだんと辛そうな表情は和らいでいった。
???「………何故だ?」
提督「………どうした?」
???「何故、お前と言葉を交わすとこうも胸が苦しくなるんだ?私はもう、何も感じないはずなのに………。」
提督「………。」
科学者「それは、きっと話しているのが提督君だからだと思うよ。」
科学者「君は何も感じなくなった訳じゃない。言ってみれば、凍りついてしまっただけなんだ。」
科学者「そしてそれを溶かす事が出来るのが提督君だって言うことだね。」
科学者「それが何故提督君に出来るのかは、彼について行けば、いつか分かるんじゃないかな。」ガチャン
彼女が繋がれていた鎖と拘束具を外す。
提督「科学者………。」
???「………本当に、不思議な奴だ。」
???「いいだろう。もはや私の存在などよく分からないが、お前がそれでもいいと言うのなら、この力、お前の為に使う。」
???「そして私に見せてくれ。お前の進む、お前の選ぶ未来を。私達が生まれてきた意味を。」
提督「ああ、もちろんだ。」
???「それと、最初に名前を聞いたな。」
提督「ああ、そう言えばそうだな。」
驚くべき事に、彼女の白く傷んでいた髪が再び輝きを取り戻して行く。
あっという間に、美しい銀髪に変わった。
彼女の目は、淀んだ青から、澄んだ蒼に変わっていた。
ナガト「今となっては名乗れる名前かは分からないが、名が欲しいというのなら、ナガトと、そう呼べ。」
提督「………ああ。よろしく頼む、ナガト。」ギュッ
固く握手を交わす。
ナガト「やはり不思議だな。お前の体温ははっきりと感じられる。」
提督「ま、きっとそれにも意味があるんだろう。」
提督「とにかく、仲間になってくれて嬉しいよ。早速俺の鎮守府に行こう。皆にも紹介したい。」
ナガト「仲間………。」
急にナガトの足が止まる。
提督「ナガト………?」
ナガト「いや、何でもないんだ………。」
科学者「………。」
科学者「じゃあ、めでたくナガト君が提督君の仲間になった訳だし、僕からもいい知らせを。」
科学者「ナガト君の妹の陸奥君、今は僕の施設に入院中だが、昨日目を覚ましたそうだ。」
ナガト「………え?」
科学者「………ああ。君の妹は、死んでない。」
ナガト「それは、本当か………?」
科学者「ああ。まだ体調が万全になるまでにはだいぶ掛かるが、命に別条はないよ。」
ナガト「………。」ペタン
ナガト「良かった………。」
ナガトの表情に初めて力が抜けたような変化が見えた。
科学者「君のした事は消せる事では無いけど、少なくとも僕達は悪い事だとは思ってない。妹さんも無事だったんだしね。」
提督「ああ。誰かの為に戦う事が悪なんて、そんな事俺が言わせない。」
提督「ほら、立てるか?」
ナガト「ああ………これで、心の憂いもない。」グイッ
ナガト「陸奥に伝えておいて欲しい。いつかまた、この世界に納得したら会いに行く、と。」
科学者「………承った。」
階段を上る。
少尉「あ、よかった、なんとかなったんですね。」
階段の前では少尉が少佐の上に座って待っていた。
提督「あーあー、またお前これはやり過ぎじゃね?」
少尉「いやだってこいつ無駄にしつこいんですもん。」
ナガト「この人は………?」
提督「大丈夫だ。俺の仲間で、少尉ってんだ。信頼出来る。」
少尉「初めまして。君は………。」
ナガト「ナガトだ。そう呼んでくれ。」
少尉「第二支部東基地所属、〇〇少尉です。よろしく。」
提督「これ以上面倒事になるのもゴメンだ。さっさと帰ろう。」
少尉「そっすね。って、科学者さん?何やってるんですか?」
科学者「………。」プルプル
何やら一枚の書類を握りしめ凝視して、小刻みに震えている。
提督「どうしたんだ?」
科学者「僕………僕………。」
科学者「ここをクビになっちゃった………。」
提督&少尉「「え?」」
科学者「なんか、施設を個人の活動の為に利用してどーたらこーたらって………。」
科学者「明日から責任者は違う人だって………。」
提督「………う、うち来るか?」
科学者「ぜひ行かせていただきます………。」
車に乗り込む。
少尉「ま、まさか研究者一の地位からフリーターに落とされるとは………。」
科学者「理不尽にも程がある………。」
提督「なんか、ほんとにごめんな。」
科学者「まあ、提督君の所に行けるんならそれもありかと思うけどね………。」
四人で話しながら、日またぎの仕事はようやく終わり、鎮守府への道のりを走っていった。
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ヒトハチマルマル
提督「あー、体が痛ぇ………。」
科学者「Zzz………。」
ナガト「ここが、提督の鎮守府か。」
少尉「くあぁ〜………。」
ようやく鎮守府に帰ってきた。
提督「やれやれ、起きろ、二人とも。着いたぞ。」
科学者「う、う〜ん………。」
少尉「中尉、今日泊まっていきます………。」
提督「へいへい、分かったから降りろ。行くぞ。」
車を降りて鎮守府へ戻る。
提督「ただいま。」ガチャリ
大淀「提督。おかえりなさい。えっと、少尉さんに科学者さんと………?」
ナガト「ナガトだ。よろしく頼む。」
提督「事情は皆集めて後で話すよ。とりあえず、腹減ったし食堂行ってくるわ。」
大淀「わかりました。だったら、お風呂の準備もしておきましょうか?」
提督「ああ、助かるわ。」
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食堂にて
提督「ナガト、どうだ?」
ナガト「………。」パク
ナガト「………美味い。」
科学者「美味しっ!!」
提督「良かった、味覚は戻ったか。」
科学者「何これ美味しい!」
ナガト「ああ、ちゃんと感じる。心のこもった、とても暖かい味だ。」パクパク
科学者「おかわり貰ってこよっと!」
提督「そりゃあ良かった。腹いっぱい食えよ。」
科学者「おかわりどこ!?」
提督「さっきからうるっせえよお前!!!!!」
少尉「( ゚∀゚)・∵ブフッ!!」
ナガト「お、おい、少尉、大丈夫か?」
少尉「ごっ、ごめん、あの人、面白過ぎて………!」
科学者「だってこんなに美味しい物食べたことないよ!」
提督「分かったから黙って食え!動き回るな!」
科学者「おかわりどこー!」
少尉「あはははははは!」
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ヒトキューサンマル
執務室にて
提督「………て言う事があった。」
扶桑「そんな………。」
夕張「ひどい話ね………。」
足柄「だからってよく即決で連れてくるわね………。」
少尉「ま、中尉らしいですけどね。」
提督「んじゃ、自己紹介を。」
ナガト「元長門型戦艦一番艦、ナガトだ。もはや自分の事すらよく分からなくなってしまったが、提督の進む未来を見たいと思って来た。」
ナガト「皆の力になる事を誓う。よろしく頼む。」
グラーフ「よろしく頼む。ナガト。」
五月雨「よろしくお願いします!」
蒼龍「よろしくね!」
大淀「書類等はどうしますか?」
提督「ああ、俺がやっておくよ。最近留守にしてばっかだしな。」
科学者「あのー………。」
提督「ん?」
科学者「ぼ、僕は空気か何かなのかな?」
提督「食堂で騒ぎ散らした罰ゲ。」
科学者「そんなぁ!」
提督「ははは、冗談だ。お前も自己紹介しとけ。」
科学者「ええと、本営の技術部から来ました、科学者って言います。」
科学者「提督君のせいでクビになったので、これからここでお世話になります。よろしくね。」
電「司令官さんのせい、なのですか?」
科学者「そうなんだよ!提督君がどーしてもナガト君を連れて行きたいって言うから、それを手伝ってたら………。」
提督「」スッ
科学者「悪かった。僕が悪かったからそのナイフを納めてくれ。頼む。」
提督「ったく……。ま、仲良くしてやってくれ。」
「「「「「「はい!」」」」」」
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第二部へ続く