魔法科高校の暗殺者   作:型破 優位

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今回は説明の例に迷っていましたし、もしかしたら分かりにくいかも……分かりやすくあってほしい。



調整の時間

 達也は行く先々で魔法の攻撃を受けながらもなんとか風紀委員としての仕事をこなし、達也以外の渚たちE組のいつもの四人も部活動に専念しているうちに一週間が過ぎて新入部員勧誘(争奪)週間も終了し、入学関連のイベントは一段落して本格的に魔法実習が始まった。

 

 本格的な魔法の専門教育は高校課程からだが、入学試験に魔法実技が含まれていることからも分かる通り、生徒たちは入学時点である程度の基礎的な魔法スキルを身に付けている。

 

 授業もそれを踏まえて行われているため、いくら基礎から体系的に教え直すといっても、実技が苦手な生徒は入学早々ついて行けなくなってしまうということも起こる。

 

 一科、二科の区分けは、この格差を考慮して双方に悪影響が出ないようにする合理的にして不平等なものだった。

 

 実習の授業は二人一組、両者が課題をクリアしたら授業内容は終了となるが、一方が終わらなければもう一方も終われない。

 そういうこともあり、互いに迷惑をかけないように、また自分が居残らないよう気持ちを持って皆が取り組んでいる。

 

 達也は美月と、レオはエリカ、渚は吉田 幹比古(みきひこ)という男子生徒と一緒に組んでやっている。

 

「893MS。すごいね、吉田君。一発クリアだよ!」

 

「ありがとう、潮田君。それと、僕は幹比古でいいよ。苗字で呼ばれるのはあまり好きじゃない」

 

 幹比古は神経質そうな顔で細身の体格ではあるが、決して痩せているわけではなく、どちらかといえば引き締まったという表現が似合う身体付きで、喋ってみると予想以上にフランクな性格をしている。

 

「わかった!僕も渚でいいよ。よろしくね、幹比古」

 

「よろしく、渚。さぁ、次は渚の番だ」

 

「あ、ごめん!今やるね」

 

 幹比古に言われて慌ててCADの前に立つ。

 今日の実技は、基礎単一系魔法の魔法式を制限時間内にコンパイルして発動する、という課題を二人一組でクリアするもの。

 

 起動式を読み込み、それを元にして、魔法師の無意識領域内に在る魔法演算領域で魔法式を構築して、発動する。

 

 これが、現代魔法のシステム。

 

 このスキームの中で、機械に記録可能なデータである起動式を機械には再現不能な魔法式に変換するプロセスを、情報工学の用語を流用して、『コンパイル』と呼んでいる……らしいのだが、家でその本を読んでいた渚には全くの理解不能だった。

 

 そこで、アドバイスブックに何故かついている索引の欄からコンパイルを探し、ページを開いた。

 

 そこにはこう書いてあった。

 

『コンパイルとは、機械に記録可能な――『コンパイル』と呼んでいる……と、長々書いてありますが、ようは写真みたいなものです。カメラで撮った画像はその端末に保存されますが、それを実物には出来ません。実物にするにはプリンターが必要です。そのプリンターで行う、『プリント』というものが、この『コンパイル』と呼ばれるものです。機械(カメラ)に、記録可能なデータである起動式(カメラで撮った画像)機械(カメラ)には再現不能な魔法式(実物の写真)に変換するプロセス、これが『コンパイル(プリント)』というわけです。そうなると、『コンパイル』の高速化は、写真を限りなく速く現像する、ということになりますね』

 

 現代魔法は、魔法発動に必要な工程をデータ化して起動式に変換し、これを元に魔法式を構築するというスキームで正確性・安定性・多様性を実現した。

 

 その代償として、『超能力』の利点であった速度を犠牲にした。

 だからこそ生まれたのが、CADである。

 CADも元々は起動式の元データを記録する為だけのストレージ機器だったが、すぐに魔法発動高速化に力点が置かれるようになったのだ。

 

 今日の授業で使っているCADは、個人別の調整が不要である代わりに高速化支援の機能は全く組み込まれていない。

 ある意味原点なCADを使って、コンパイル(プリント)高速化(限りなく速く現像)を練習するのが今日の実習の目的だ。

 

 そこで、渚は深呼吸して、CADに手をかざした。

 最低限のサイオンで動かす。

 しかし、それだけではタイムに間に合わないのは、知っている。

 

 この課題は、成功するまで居残りではあるが、失敗していい回数の指定(・・・・・・・・・・・)はない。

 なら、一回目は完全な調整に使い、二回目でクリアする。

 

 ただでさえ魔法実技が出来ないのだ。

 調整もしないでいきなり全力で使ってもクリアできないのは明白。

 それならば、調整し終わったその一回に賭けるまでだ。

 

 先週やった台車のように、ゆっくりと起動式を展開、読み込み、起算して魔法の発動をする。

 

「1170MS……なんか、今のはわざとそうやったように見えたけど、どうしてだい?」

 

 幹比古にタイムを教えてもらうと、案の定課題クリアラインの1000MSには全く届いていない。

 幹比古が聞いてきたのは、ただ単に純粋な疑問。

 

「僕、実技は苦手だからね……一回どんな感じなのか試したんだ。次は合格するから、もう少しだけ待ってて!」

 

「え、あ、うん。わかった」

 

 もう一度、深呼吸。

 頭によぎるのは、先週開いたページの続きの部分。

 

『さて、それでは次の段階へと移りましょう。魔法の威力や速度を強く、速くする方法です。先程使った携帯の例えを使いましょう。アプリを起動できても、中々ゲームを始めることができない、という体験を渚くんもしたことがあると思います。電波が悪かったり、携帯の性能がそこまで良くなくて処理速度が遅かったり、いろいろあります。これを魔法に置き換えると、魔法を発動(アプリを起動)しても、術者やCAD(電波や携帯の性能)が良くなければ魔法は弱く、発動は遅く(アプリを始められない)なります。それなら、その原因をよくすればいいのですよ。例えば、CADを変えたり、サイオンの使う量を増やしてみたりです。今や少しのサイオンなら完璧にコントロールしている渚くんなら、少し量を増やしても問題有りません。携帯の例えで言うと、ネット環境をよくするのです。サイオンを使いやすくするために、一回は使っておくことをオススメしますよ』

 

 渚がサイオンをコントロールしてやっていたのは、これが理由だ。

 さっき一回使って、サイオンをしっかりとコントロールできているかの確認をし、サイオンの扱いの最終確認をする。

 

 そして、再び深呼吸をする渚。

 肺の息を全て吐き出して、CADに集中する。

 

――たくさんのサイオンを使うとはいえ、その中でも最低限しか使わないことには変わりがない。

 

 精神を統一させ、ここ最近では一番の量のサイオンを使って、魔法を発動する。

 

「……925MSだ」

 

「……なんとかギリギリってところだね」

 

 なんとかクリアできたことに安堵する渚。

 遅い方ではあるが、渚にとっては出来た方だ。

 

「渚くんって、不思議な人だよね」

 

「え、僕?」

 

 幹比古が、いきなりそんなことを言い出した。

 

「初対面の僕でも渚くんには警戒することなく喋ることができた。それに、さっきの二回目に挑んでいたときの渚くんの回りに、精霊(・・)が大量にまとわりついていたんだ」

 

「……そうなんだ。というか、幹比古は精霊が見えるんだ」

 

「僕は古式魔法の家系だか――」

 

 そこで、渚と幹比古はある場所を見た。

 

 視線の集まる場所には、達也と美月がおり、何やら美月がエキサイトしているようだった。

 

「本当に、渚の周りは面白そうな人ばかりだよ。渚も含めてね」

 

「それなら、幹比古もだね!……ちょっと、様子見てくる!また今度ゆっくりと話そう!」

 

「う、うん。またね」

 

 軽く言葉を交わしてから視線が集まっている達也のところへと向かう渚。

 

「渚か……――。」

 

 幹比古の呟きは、レオとエリカのバカみたいな騒ぎによってかきけされてしまっていた。




幹比古君、早めの登場。
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