魔法科高校の暗殺者   作:型破 優位

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入学編ラスト。
私のいままでの小説に何が足りないのかこれを書く前に考えていました。
結果、出来る限りわかりやすい描写にしよう、となったわけです。


感情の時間

 事は、想像を遥に越えるほどに大きいものとなっていた。

 講堂は風紀委員の素早い対応によって事なきを得たが、校門前は乱戦模様、死者は幸いにも出ていないものの、怪我人は何人も出ている状態だった。

 

 しかし、摩利は自分の立場上、真由美の護衛をしなければいけないため、講堂からは動けない。

 講堂の入り口には副会長の服部が立ち塞がり、講堂に近付くテロリストを撃退している。

 

 何もできないことで苛立ちが募るなか、摩利に一つの無線が入った。

 

『委員長。そちらに一人援軍を送るので、後学のためにもしっかりと見ておいてください』

 

 それは、達也からだった。

 一人の援軍、そして、それをしっかり見ておくように。

 

 この無線は、摩利には理解できないものであり、見に行こうにも真由美から離れることはできない。

 これは、風紀委員全員が知っていることで、達也も例外ではない。

 

 それを忘れる達也ではないため、自分が動かずにその様子を観察できる者を探そうとするも、その必要はなかった。

 摩利の知る限りでは、一人しかいない。

 

 つまり、達也はこう言ったのだ。

 

『委員長。そちらに一人援軍を送るので、後学のためにも会長を通じて(・・・・・・)見ておいてください』

 

 この場合の見ておいてくださいは、真由美にとってはそのまま『視る』ことであり、摩利にとっては真由美から『聞く』ことである。

 

 何故真由美がそんなことできるのか。

 

 真由美は、遠隔精密魔法の分野で十年に一人の英才と言われているが、その実力には彼女の一つの魔法が関係していた。

 

 マルチスコープ。

 知覚系魔法で、非物質体や情報体を見るものではなく、実体物を様々な方向で知覚する視覚的な多元レーダーの様なもの。

 かなりレアな先天性スキルで周囲の状況把握にも使えるものだ。

 

 現在も真由美はそれを使って一高の様子を確認している。

 

「真由美、実技棟から一人援軍が校門前に向かっているらしいが、それらしき生徒は見つけたか?」

 

「ええ。実技棟から校門前に一人きたわ」

 

「達也くんが、その生徒をしっかりと見ておいてほしい、とのことだ」

 

 達也に言われていなくても、真由美はそれを見ているつもりだった。

 

 あの中学校出身の彼、渚の実力は資料と噂でしか聞いたことがなく、真由美自身も渚には興味があった。

 しかし、渚が戦いに参戦した瞬間、真由美は目を見開いて固まる。

 

「真由美?いったいどうしたんだ?」

 

 摩利の言葉も聞こえていないのか、はたまた驚きすぎて返答する余裕がないのか定かではないが、真由美はただただ固まっているだけ。

 

「なにこれ……渚くんがテロリストの横を通りすぎただけで(・・・・・・・・)、次々と倒れていく……」

 

「……何だって?というか、誰だその生徒は。一科生か?」

 

「いいえ、二科生よ」

 

 真由美が『視た』のは、テロリストに加速魔法無しで、自己加速術式を使っているのではないかと思うほどのスピードで肉薄し、その横を渚が通りすぎたらテロリストが倒れていくというもの。

 

 手にある緑色のナイフはCADなのか。

 振ったとき、その動作があまりにも早すぎて行方は残像でしか見えていないが、テロリストの身体に何処も切り傷がないこと、振る瞬間に微量な想子(サイオン)光が見えることから、やはりCADなのだろう、と結論付ける真由美。

 

 一人につき、一振り。

 相手に反撃を許さず、その姿を悟らせず、一方的に蹂躙していくその行為は、まさしく『暗殺(・・)

 

 その場で戦っていた生徒たちは、いきなり倒れていくテロリストたちに一瞬硬直するも、さすがは魔法科高校の生徒というべきか、倒れてくテロリストを次々と拘束していく。

 

 摩利は誰なのか分からないが、「そんな二科生がいるなら是非風紀委員に……」と呟いている。

 一番の乱戦だった校門前は、渚の参戦により一気に鎮圧へと向かっていき、達也が向かった図書館の鎮圧も無事終了したらしく、達也が一人の少女を抱えているのを確認した真由美は、服部に事態の収拾を任せ、摩利とともにこれから達也が運ぶ先であろう保健室へと向かった。

 

◆◆◆

 

 校門前の鎮圧に大きく貢献した渚は、達也たちのいる図書館へと向かった。

 だが、その必要はなく、向かう途中で女子生徒を抱えている達也と深雪、レオ、エリカと合流、抱えられている少女、二年生剣道部の 壬生(みぶ) 紗耶香(さやか)を保健室へ連れていくということで、渚も一緒に向かった。

 

 保健室でベッドに寝かせて少し経ってから目を覚ました紗耶香に事情聴取をするために、真由美、摩利、克人の生徒首脳陣が揃って保健室へと集まった。

 保険室の先生が止めようとするも、紗耶香本人の意志で全て話したい、ということもあり、そのまま事情聴取が始まった。

 

 まず、今回の首謀者は、剣道部主将の(つかさ) (きのえ)という三年生。

 この三年生は既に風紀委員によって捕らえられたという。

 

 そして、紗耶香から語られたのは、今日に至るまでの経緯。

 これは、真由美たち生徒首脳陣に驚きとともに迎えられた。

 

 紗耶香は、去年入学してすぐに司に声をかけられたこと。

 剣道部にはその時既に司の同調者が数人いたこと。

 剣道部だけでなく、生徒の自主的な魔法訓練サークルを装って思想教育が行われていたこと。

 

 彼らは、想像以上に一高に足場を築き上げていたのだ。

 

 そして、その後に続いて語られたのは、入学当時に摩利の技に見惚れた自分が、摩利に手合わせを願い出たとき、『お前では相手にならない』とすげなくあしらわれたということ。

 その時の悔しさを糧に、今日まで頑張ってきたことだった。

 

 だが、これには摩利から待ったがかかる。

 

「チョッと……チョッと待ってくれ、壬生。あたしはあの時、確かこう言ったはずだ。『すまないが、あたしの腕では到底、お前の相手は務まらないから、お前に無駄な時間を過ごさせてしまうことになる。それより、お前の腕に見合う相手と稽古してくれ』とな。違うか?」

 

「え、あの……そういえば……」

 

 紗耶香は中学時代、剣道の全国大会で二位を勝ち取ったほどの実力者だ。

 剣の腕なら、摩利を入学当時から越してたということなのだ。

 

 そこで、感情の揺れ動きが分かる渚には、分かってしまった。

 自分が思い込んでいた過去と、本当にあった過去が、全く違うものだったこと。

 それによる混乱、後悔、悲しみで激しく揺れていることが。

 

 この反応に近いものを、渚は一度だけ見たことがある。

 そして、こうなった時に相手を落ち着かせる方法も、その時に使った一つしか知らない。

 

「達也くん、お願いがあるんだけど、こっちにきてくれないかな」

 

「なんでしょう」

 

「もう一歩」

 

「はぁ」

 

「それじゃあ、お願い。そのまま動かないでね」

 

 達也に近寄るように言った紗耶香は、近くにきてくれた達也の服を握りしめて、胸に顔を埋めた。

 

 その方法は、人のぬくもりを感じることだった。

 

◆◆◆

 

 ようやく落ち着きを取り戻した紗耶香の口から、同盟の背後組織が反魔法国際政治団体である『ブランシュ』であることが語られた。

 

「予想通りですね、お兄様」

 

「本命すぎて面白味がないけどな」

 

「現実はそんなもんですよ、委員長」

 

 しかし、達也と深雪、生徒首脳陣は既に知っているようだ。

 

「さて、問題は、奴等が今、何処にいるのか、ということですか」

 

「……達也くん、まさか、彼らと一戦交えるつもりなの?」

 

「その表現は妥当ではありませんね。一戦交えるのではなく、叩き潰すんですよ」

 

 達也の言葉に対しておそるおそる訊ねた真由美に、達也はあっさりと、過激度を上乗せして頷いた。

 

「危険だ!学生の分を越えている!」

 

 真っ先に反対したのは、摩利。

 学内限定とはいえ、常にトラブル処理の最前線に立っている彼女が、危険性に対して敏感なのはある意味当然でだ。

 

「私も反対よ。学外の事は警察に任せるべきだわ」

 

 真由美も厳しい表情で首を横に振るも、達也は止まらない。

 

「そして、壬生先輩を、強盗未遂で家裁送りにするんですか?」

 

 達也の一言により、真由美は顔を強張らせて絶句する。

 克人も納得したような顔で達也の前に立った。

 

「なるほど、警察の介入は好ましくない。だからといって、このまま放置することもできない。同じような事件を起こさない為にはな。だがな、司波。相手はテロリストだ。下手をすれば命に関わる。俺も七草も渡辺も、当校の生徒に命を懸けろとは言えん」

 

「当然だと思います。最初から、委員会や部活連の力を借りるつもりは、ありません」

 

「……一人で行くつもりか」

 

「本来ならば、そうしたいところなのですが」

 

「お供します」

 

 すかさず飛び込んできたのは、深雪だった。

 

「あたしも行くわ」

 

「俺もだ」

 

「力になれるか分からないけど、僕も行くよ」

 

 そして、エリカ、レオ、渚と次々と表明される参戦の意思。

 達也はそれを苦笑しながら見て、克人と再び向き合う。

 

「自分の生活空間がテロに標的になったんです。俺はもう、当事者です。俺は、俺と深雪の日常(・・)を損なおうとするものを、全て駆除します。これは俺にとって、最優先事項です」

 

 深雪ほど彼を理解していないレオにも、エリカにも、真由美にも、摩利にも、達也が本音で語っていることが、何となく解った。

 氷刃の如き眼差しで、理解させられた。

 

 だが、渚はそれとは別にある違和感を抱いていた。

 普段は全く感情の凹凸がない達也が、深雪のことになると何故かここまで感情を露にすることに。

 入学式の翌日に一科生に絡まれたときも、感情にこれといった反応は無く、テロリスト侵入にも全く動じていなかった達也が、深雪のときに限っては、だ。

 

『俺と深雪の日常』

 この部分が、特に引っ掛かっている。

 達也と深雪の日常を損なおうとするものを排除するのが、最優先事項。

 達也は自分自身のことで、感情を露にしたりしないが、今みたいに深雪が関わると一気に冷酷になったり、怒りを露にしたりする。

 

「……さ。渚」

 

「え?あ、どうしたの?」

 

 深く考えているうちに話は決まったらしく、隣でレオがこちらを呼び掛けているところだった。

 

「いや、それはこっちのセリフなんだがな……ほら、十文字家の車が着いたらしいから、行くぞ」

 

「うん、わかった」

 

 今は別のことが待っているため、あまり他人の詮索はしないでおこう、と心の中で決めて克人が手配した車にレオとともに乗り込んだ。

 

◆◆◆

 

 その後、ブランシュの拠点はすぐ近くのバイオ燃料の廃工場で、閉鎖された門扉をレオの硬化魔法がかけられた車が突き破り、工場内へ正面突破、達也と深雪が正面から、克人と同行してきた剣術部二年の桐原が裏口から侵入、レオとエリカ、渚で退路を絶つという作戦で掃討作戦は始まった。

 

 しかし、達也と深雪、桐原、克人によってあっという間に工場内のブランシュメンバーを殲滅、リーダーで剣道部主将の司 甲の兄、司 (はじめ)は十文字家が引き受け、同盟を組んでいた生徒は司 一に洗脳されていたことが後で分かり無罪、この一件は解決へと向かった。




渚くんも少しずつ達也のことが分かっていきますね。
渚を正面突破組に入れなかったのは、達也の考えです。

これにて入学編は終了、九校戦編へと移ります。

皆さんが一番楽しみにしているであろう部分があるところなので、上手く書ききって見せます。

これからも応援よろしくお願いします。
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