放課後、渚は何故か部活連本部の入り口に設置された椅子に座っていた。
部活連本部では、現在九校戦準備会合が行われようとしているのだが、当然渚は九校戦に出るわけでもなく、エンジニアでもなく、ましてや生徒会や部活連のメンバーでもない。
九校戦の出場選手は、エンジニアに選ばれた選手も含めて長期休暇課題免除、一律A評価の特典が与えられる。
それだけ学校側にとっても九校戦は重要な行事であり、生徒にとっても九校戦メンバーに選ばれる事は大きなステータスとなる。
ということは、メンバーの最終調整を目的とする会合が現在のように刺々しくなっても致し方ないということなのだろう。
達也はエンジニアに内定している状態なため、他の内定を受けている上級生と共に座っている。
それがさらにこの場の空気を重くしており、完全な風評被害だが、渚にもその視線が向けられる。
少し意外だったのが、そこまで批判的な視線はなかったということだろう。
渚と達也がこの席についたときは空席が目立っていたが、現在では着々と空席が埋まっていき、空席が全部埋まったところで、真由美が議長席に腰を下ろした。
「それでは、九校戦メンバー選定会議を開始します」
真由美の宣言と共に始まった選定会議は、一年生の二科生が何故内定している席に座っているのか、という所から議論された。
予想外だったのは、案外達也に対して好意的な意見が多かったということだろう。
同級生とは違い上級生の間には、風紀委員としての実績がある達也は二科生と言っても別格という認識が多く、それを上回る数の反対派の意見は、主に感情的なものなために開幕からいつまでも結論がでないという状態に陥っていた。
「要するに」
不意に、重々しい声が議場を圧した。
さほど大きい声では無かったが、その場の誰もが無秩序な言い争いを止めて、発言者へと目を向けた。
発言者は、今まで沈黙を守っていた部活連会頭の十文字 克人だ。
克人は自分に向けられる視線を端から一通り見返して、言葉を継いだ。
「司波の技能がどの程度のものか分からない点が問題になっていると理解したが、もしそうであるならば、実際に確かめてみるのが一番だろう」
広い室内が静まり返った。
それは単純で効果的で、誰も文句のつけようがない結果が明らかになる反面、少なからずリスクが伴う故に誰も言い出さなかった解決策だ。
「それなら、丁度今からCADの調整をやるところらしいから、それで確かめればいい」
摩利の言葉に、一斉に渚に視線が向く。
一人だけ入り口の近くに、全くの無名の二科生がいるとなれば、その人が確実に依頼人だからだ。
「なるほど。では、場所を移動しよう」
◆◆◆
「わぁ……すごい」
渚の目の前で、キーボードオンリーでとてつもないスピードで行われる調整は、正しく非常識を体現しているものだった。
九校戦の選定という名目があるため、九校戦で実際に使用される車載型の調整機を実験棟の会議場に持ち込んでテストが行われている。
本来、CADは汎用型でも九十九種類、特化型でも九種類の起動式をインストールすることが出来るのだが、渚のCADには一種類しか起動式がインストール出来ない。
そして、ナイフ型のCADは特化型でもみかけない形のため、完全なオーダーメイドのCADということになり、エンジニアにとってかなり難易度の高い調整となる。
今回の課題は、起動式には手を加えず、即時使用可能な状態に調整すること。
調整機の立ち上げを済ませ、渚の
完全マニュアル調整。
自動調整機能に一切頼らず、グラフ化されたものではなく生データから直接理解をし、そのまま調整を行っていく達也の調整は、分かる人には分かる高度なテクニックだった。
起動式に手を加えない、という条件だったため、調整はすぐ終わり、すぐにテストが行われた。
渚がサイオンを送ると、今までにない程スムーズに魔法を発動することができた。
「すごい……新品のときよりも魔法が発動しやすいよ、達也!」
オーダーメイドの特化型を、完全マニュアル調整で、新品よりも使いやすいと言わしめたその実力は、誰もが認めるしかない。
完全マニュアル調整に文句を付ける輩もいたが、達也とは仲が良いとは言えない関係である副会長の服部が達也をエンジニアチームに推薦したことにより、達也のメンバー入りは正式に決定となった。
◆◆◆
その夜、渚の携帯に、誰とでもチャットが出来るアプリからメッセージが何通か届いた。
差出人は『赤羽
渚の同級生、元E組にして、成績優秀。
中学一年生のときから付き合いのある渚の親友だ。
一年前までは暴力事件をよく起こしていたためにE組に落とされたのだが、今はそれも身を潜めている。
『渚。今年茅野と中村、磯貝、前原、岡島で九校戦を見に行くんだけど、渚も一緒に回れそう?』
業からのメッセージ。
それは九校戦観戦のお誘いだった。
去年はE組で旅行に行っていたため、九校戦の観戦は出来なかったのだ。
『うん!僕も久し振りに皆と会いたいからね!』
『確かに、高校に入ってから一度も渚の顔を見てないね。魔法科高校は楽しいかい?』
『すごく面白いところだよ。少し個性が強すぎる気がしなくもないけどね』
『もしかして、渚は九校戦に出る?』
『さすがに無理だよ。みんなすごい人ばかりなんだ』
『そういう渚も負けてないとは思うけどな』
久しぶりの親友とのやり取り。
これは渚にとって至福とも言える時間だった。
『それなら、もう今からホテルとかの予約しておかないといけないね』
九校戦は、日本各地から観客が集まる行事で、当然その周辺の宿はあっという間に埋まってしまう。
この時期でも遅いかもしれないが、今のうちに取っておかないと野宿、ということになりかねない。
しかし、そんな心配は必要なかった。
『実はもうしてあるんだよね。約
三ヶ月前ということは、まだ入学して間もない頃だ。
つまり、その時期から既に計画されていたことになる。
『さすが業。九校戦のときをすごく楽しみにしてるよ!』
『俺もだ渚。じゃあ近いうちに』
そこでチャットを終了した渚はベッドに寝転がる。
思い出すのは、約五ヶ月前のこと。
業と殺せんせーをこの場で暗殺するかしないかを決める闘いで、正面から本気で殴りあったときのこと。
マジック・アーツの時に思い出していたことだ。
それまではお互いに『くん』を名前につけて、お互いに自分達の距離を保ちつつ、様子見をするような友達付き合いをしていた。
しかし、その時にお互いの想いをぶつけ合い、殴りあって、自分の全てをさらけ出した。
業との衝突は、それが最初で最後。
今では、渚の中でも一番といえる、最高の親友だ。
――九校戦が楽しみだ。
早くみんなに会える日を楽しみにしながら、渚はそのまま眠りについた。
◆◆◆
「どうやったらあの本を見れるのだろうか」
同時刻、達也は思い悩んでいた。
本当なら、CADを調整する代わりに少しだけ本を見せてもらうとしていたのだが、そんなことできる雰囲気ではなかったため、断念した。
「渚のあの反応。間違いなく飛行魔法についての理論を知っている様子だった。ということは、他の三大難問もあの本に書いてある可能性が高い」
どうやってあの本を見せてもらおうか、達也は
やっとクロスオーバーらしくなってきました。
原作が魔法科高校の劣等生なので、暗殺教室を出しにくいのは仕方の無いことかもしれませんけどね……
後二話程でいよいよ九校戦開幕までいけそうですが、ここらへんはあえて内容を薄くしています。
少しだけお待ちください。