魔法科高校の暗殺者   作:型破 優位

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いよいよあの人の登場です。
文は少なめですが、かなり恋……濃い内容です。


師匠の時間

 とても気持ちの良い匂いがする。

 部屋には冷房が効いているのか、少し肌寒い。

 

 布団を肩までかけて、近くにある温かい『ナニか』を手繰り寄せるようにするも、動く気配がないため自分から抱き付きに行く。

 

 ――温かい。

 

 その『ナニか』に抱きつくと、とても温かく、心が安らぐ効果を身体にもたらせてくれた。

 

 恐らくまだ朝日も昇っていないのだろう。

 脳がまだ起きるときではない、もう少し横になっていろとでも言っているかのように身体が重たい。

 

 そこで、ふと、明瞭としない頭で疑問を感じた。

 

 ――何故、自分のベッドに『ナニか』があるのか。

 

 ただ、その疑問は本当にふと思ったことで、些細なことに過ぎない。

 それに、その『ナニか』はとにかく自分を癒してくれるのだ。

 

 嫌悪感を覚えるものならまだしも、自分に幸福をもたらしてくれるものならむしろ隣にいてくれた方がありがたい。

 

 だが、『ナニか』が実際何なのかは気になる。

 眠気は強いが、一時的にその『ナニか』の正体に対する好奇心の方が勝ち、重たい瞼をうっすらと開ける。

 

 部屋のなかはカーテンが閉まっているが、隙間から見える明かるさからして、予想通りまだ日は昇ってはいないのだろう。

 

 そして、次に眠気に勝った好奇心の対象となるもの、現在自分が抱きついている『ナニか』へと視線は移る。

 

 目の前にいたのは、青い髪、中性的で整った顔立ちの、自分が想いを寄せている相手。

 

 ――なるほど、彼なら自分を癒してくれるのも納得だ。

 

 さらにギュッと抱き付くように寄る。

 何処からかパシャリ、という音が聞こえるも、今の自分は彼が隣にいることによる幸福感で全く気にならない。

 

 その幸福感を味わいながら、再びベッドに身体を預け、目を閉じて再び夢の中へ。

 

「じゃなくて!!渚がなんでここに!?」

 

 そんなわけもいかず、現在の状況の理解に至った茅野は、顔を真っ赤にしてバッ!と起き上がる。

 

「ん……あ、おはよう茅野……どうしたの?」

 

 茅野の叫びにも似た声に、渚も眼を擦りながら身体を起こす。

 挨拶をされるも、茅野にそれを返す余裕など無い。

 

「どうしたの?茅野……ん、茅野?……茅野!?」

 

 そんな茅野の様子に違和感を覚えた渚も、次第に脳がはっきりとしていき、状況を理解する。

 

「は……あわわわわ……ぅぅぅぅ」

 

 声にならない声が、茅野から漏れる。

 状況を理解していけば行くほど、羞恥心が込み上げてくる。

 

 つまり、自分が抱きついていたのは、渚だったのだ。

 渚も渚で顔を真っ赤にしてあたふたとしている。

 

 パシャリ。

 

 その時、近くから聞こえたシャッター音が再び部屋に鳴り響いた。

 冷たい汗が、渚と茅野に流れる。

 

 ゆっくりと、音が鳴った方を二人で見てみる。

 

「おはよう、渚、茅野ちゃん」

 

「いやー、朝からお熱いねー」

 

 そこにいたのは、今撮った写真をこちらに見せながらニヤニヤとしている業と中村がいた。

 

「業!?中村さん!?」

 

「にしても茅野ちゃん。かなり大胆だったねー」

 

「ストップ!お願いだからそれだけは言わないで!!」

 

 そして、茅野の顔はさらに真っ赤に染まっていく。

 渚に抱きついたときに鳴ったシャッター音。

 あれは間違いなく撮られているのだ。

 

「中村。二人を邪魔しちゃ悪いからそろそろ向こういこっか」

 

「そうだね。それじゃあ二人とも、御幸せにー」

 

 口調はゆっくりだが、それに全く似つかない逃げ足で部屋を出ていった二人。

 その場には、それを呆然と見ている渚とモジモジとしながら顔を伏せている茅野が取り残された。

 

 その場は静寂に包まれるも、ベッドの周辺では生暖かい、高校生特有の甘い空気が流れていた。

 

◆◆◆

 

 懇親会が九校戦の二日前に行われるのは、次の日、九校戦前日を休日に充てるためだ。

 

 そのため、渚たち観戦組はこの日は観光に最適な日となる。

 朝の一騒動が終わったあと、着替えてから朝食を取り、まずは皆で競技場を見て回り、その後昼食を取ってからは、各自自由行動となった。

 

 競技場を回っている間も茅野が顔を真っ赤にしながら下に向け、時折チラチラと渚の方を見ているのを再び業と中村に撮られて発狂しそうになっていたのはご愛嬌だろう。

 

 自由行動となっている午後。

 渚は今日の明け方にきていたメールの差出人の元へと向かった。

 

『今日、時間がある時に私の部屋にきてくれ』

 

 その一文を受け、ちょうど自由時間となったため渚の先生がいる高級士官用客室へと向かった。

 

 警備の兵士に名前を言って広い客室に案内された渚は、先生が来るのを待つ。

 

「久し振りだな、渚。よく来てくれた」

 

「お久し振りです。風間先生」

 

 風間 玄信(はるのぶ)

 烏間の部下で、陸軍一○一(いちまるいち)旅団、独立魔装大隊隊長。

 階級は少佐だが、その戦歴と率いる部隊の特殊性から、軍内では階級以上の待遇を受けており、現在使っている、本来は大佐クラスが使用する部屋にいることがそれを顕著に表している。

 

「噂はいろいろ聞いている。一高にブランシュが襲撃してきた時の活躍や、マジック・アーツでかなり優秀な成績を残しているらしいな」

 

「ありがとうございます。でも、それらは全て先生が魔法を教えてくれたからできたことですよ」

 

「それは渚が……と、懐かしい話はまた後で、君の話とともにゆっくりとしよう」

 

 久し振りに会ったということもあり、若干緊張している渚。

 主に、風間の日焼けや火薬焼けによってなめし皮の様になった顔を久し振りに見たのが原因だろう。

 

「まずは、すまなかった。勝手にホテルを変えてしまったな」

 

「先生が謝ることではないですよ。むしろラッキーでした」

 

「そう言って貰えるとこちらとしてもありがたいよ。それで、現在の状況だが、現時点でこの周辺に『無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)』の工作員が数名潜伏しているという情報を持っている。人が多い昼は大丈夫だと思うが、夜は必ず皆で部屋にいなさい。君の元クラスメイトにも念のため軍の者がついているが、恐らく狙われているのは九校戦に来ている君たちだけだ。観戦中も、気を付けなさい」

 

「わかりました。気を付けておきます」

 

 そこまで言い終えて、いままで真剣だった風間の表情が、親戚の叔父さんみたいに一気に優しくなる。

 

「さて、事務的な連絡はここまで。むしろ本題はここからだな。今からは軍の風間 玄信としてではなく、君の師匠、風間 玄信として話をしよう。まずは――」

 

 そこからは、本当にただの世間話だった。

 CADの使い心地や、魔法、現在のクラスメイトや、部活のことなど、師弟の会話は、日が暮れるまで続いたのだった。




いろいろな関係が次々と繋がっていきますね。

そして、次話から競技に入ります。
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