魔法科高校の暗殺者   作:型破 優位

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感触的に後三十五話ほどで完結。
つまり、約一ヶ月ですね。

競技名はわかるように『』で括っております。
こちらの勝手な判断ですが、九校戦が終わるまではこれで通しますのでご理解のほどをお願いします。


取引の時間

『バトル・ボード』の競技場も『スピード・シューティング』の競技場と同じように前列が既に埋まっていた。

 

 だが、真由美のときは男子の割合が多かったのに対し、今回は圧倒的に女子の数の方が多かった。

 

 『バトル・ボード』は全長約三キロの直線有り、急カーブ有り、上り坂有り、滝状の段差も有りというかなりハードな人工水路を長さ百六十五センチ、幅五十一センチの動力なしのボードに乗って、魔法の加速のみで三周するというもの。

 コースは男女別に一本ずつ作られているが、男女で難易度に差はない。

 

 予選を1レース四人を六レース、準決勝を1レース三人で二レース、三位決定戦を四人で、決勝レースを一対一で競う。

 

 平均所要時間は十五分。

 最大速度は時速五十五~六十キロに達するが、一枚のボードに乗っているだけの選手に、風避けは全く無い。

 つまり、生身で風圧を受けながら三キロというコースを三周するという魔法だけでなく、肉体的なトレーニングも必要となる競技だ。

 

「ねえ渚……この前の観客も全員渚の高校のファンなの?」

 

「うん……名前聞いた感じはそうだね」

 

 先程と似た光景に、茅野が呆れ半分に渚に聞いたが、渚の耳に聞こえてくる歓声の対象となっている名前の主は明らかに顔見知りの、しかもここ最近かなりの頻度で絡んでくる人の名前だった。

 

 四人が横一列に並ぶ水路に、他の選手が膝立ち、または片膝立ちで構えるなか、摩利だけは真っ直ぐ立っていた。

 

「うわっ、相変わらず偉そうな女……」

 

 エリカはそんな摩利の姿を見て、相変わらずの敵意剥き出しの呟きを溢す。

 だが、それが聞こえた者にそれがどういうことなのか聞く無粋な者はいないため、皆聞かなかったことにして一様に空中の飛行船に吊るされている大型ディスプレイを見た。

 

 ちなみに、前列は女子ばかりなのだが、あまりの熱狂具合にさすがの前原や岡島も声をかけることができないで大人しく席についている。

 

 選手紹介アナウンスにより、摩利の名が呼ばれた瞬間、黄色い歓声が前列を揺るがした。

 それに摩利は手を挙げて歓声に応えたため、ますます歓声の音量が増す。

 

 熱狂度では、真由美のファンよりも数段上だ。

 

「こりゃすごいわ。さっきの会長さんといい、そこらへんの女優よりは人気あるんじゃない?」

 

「ここで委員長や会長と女優を比べるのは違うと思うよ中村さん……」

 

「でも、渚の先輩格好良いからね。集まるのも分かるよ」

 

「あれぇ?茅野ちゃん浮気?」

 

「ち、違うよ!」

 

「はいはい、そこまでだ業。中村も参加しようとするんじゃない。もう競技は始まるぞ」

 

「へーい。ここは委員長さんに従っておきますかね」

 

 格好良い、というのは茅野から見た摩利に対しての本心だったのだが、それを逃さずに捉えた業によって茅野は手を首をブンブン振りながら否定。

 中村も参加しようとしていたのを磯貝が間に入ることによってなんとか止めることができた。

 

『用意』

 

 スピーカーから合図が流れる。

 空砲が鳴らされ、競技が始まった。

 

 その瞬間、スタート後方の水面が爆発した。

 どうやら大波を作ってサーフィンの要領で推進力利用し、同時に他の選手を撹乱するつもりで四高の選手が仕掛けたものなのだが、発生した荒波に自分もバランスを崩していた。

 

 レースはスタートダッシュを決めた摩利が、四高の選手の作り出した混乱にも巻き込まれず、早くも独走態勢に入っていた。

 

 水面を滑らかに進む摩利は、まるで足とボードが一体となっているかのような安定感でコースを疾走している。

 

 ボードと足の接着面に硬化魔法で固定し移動魔法を使って推進、上り坂を登るときは加速魔法を、同時に波の揺れを押さえるために振動魔法と多種多彩に魔法を使いこなしていく摩利。

 

 寿司で例えるなら、真由美は芸術の域まで高められた包丁さばき、握りをして高精度な寿司で客を満足させるなら、摩利は他方向から取り入れた技術を駆使して客を驚かせ、魅了する。

 

 どちらも、高校生レベルではなかった。

 

 坂を昇りきって、ジャンプ。

 着水とともに水面が大きく波打ち、摩利の魔法によって大波となって彼女のボードの推進力へと、そして、二番手を飲み込む荒波へと変わった。

 

 一周目の、コースも半ばも過ぎないうちに、摩利の勝利は確実なものとなっていた。

 

◆◆◆

 

 今日の『バトル・ボード』は予選のみ。

 達也たちと午後からの『スピード・シューティング』の準決勝と決勝を観戦することを伝え、一高組と元E組は別れ、昼食をとった。

 

 真由美の競技は先程分かったようにかなり人気があるため、渚たちは何処に寄るでもなく競技場へと向かった。

 

 相変わらず前列は真由美のファンによって埋まっていたが、それなりに早い時間に来たおかげか、中間列はそれなりに空席があったため、一列になって座る。

 

「渚、少し聞きたいんだけど」

 

「どうしたの、業?」

 

 座ってまもなく、業が競技場を見ながら渚に問いかけた。

 

「司波 達也って、何者?」

 

「……何者って?」

 

「雰囲気がどうも普通の高校生じゃないだよねぇ。手を握ったとき、明らかに普通じゃない手をしていたし」

 

 渚には、業が何を言っているのかわからなかった、否、わかっていないフリをした。

 本当は、渚もある程度気がついていたのだ。

 

 具体的には、カフェで烏間の口から達也の名前が出たときから。

 

「渚、一学期中に一高がテロリストに襲われたという噂が俺の耳に入ってきたんだけど、それは本当?」

 

「ああ、うん。本当だよ」

 

「そのときに司波 達也は真っ先に動いたんじゃないか?」

 

「……うん。行動を起こすのはかなり早かった」

 

「テロにあっても素早く動けて、烏間のような手……渚、俺少しトイレ」

 

「あ、うん。競技までには戻ってきてね……」

 

「あいよー」

 

 渚から達也の一高にテロリストが襲ってきたときの話をしてからボソボソと一人で呟き、いきなり立ち上がってトイレに行くと言い出した業。

 

 渚にはそれがトイレではないと分かっていたのだが、それを止めることはできなかった。

 

◆◆◆

 

 達也がある人とのティータイムを済ませて競技場へ入ろうとすると、そこには赤髪の少年が立っていた。

 

「どうした?赤羽」

 

「司波くん。ちょっと時間あるかな」

 

「……手短に頼む」

 

 業のただならぬ雰囲気を悟ったのか、達也は警戒心を強めながら無言で歩いていく業についていく。

 競技場から少し離れた人気のないところで二人は立ち止まった。

 

「それで、こんなところまで呼び出して何の用だ?」

 

「司波くんは、渚についてどう思う?」

 

「……良いやつだと思う」

 

「違うだろ?」

 

 達也が少し考えて出した答えを、業はバッサリと切り捨てた。

 

「司波くんなら気がついているはずだよ。渚の本性(・・)がどういうものなのか」

 

「……何故そう思うんだ?」

 

 あえて否定はしなかった達也。

 達也の中で少しずつ、業に対する警戒心が高くなっていく。

 

「司波くん、軍人だろ?」

 

 そして、達也の頭は一気に冷めていった。

 警戒心は既にマックスとなり、動揺がピークを超え、逆に平常心を取り戻す。

 

 まさか、会って一日目で見破られるとは思っても見なかったのだ。

 

 ――彼に簡単に嘘をついてはいけない。

 

 本能で察した。

 

「いつから分かっていた」

 

「強いていうなら握手した時だ。司波くんの手と知り合いの軍人の手が似ていたんだよねー。烏間って人なんだけど、司波くんは絶対に知ってるよね」

 

「一応知ってはいる」

 

 達也の応答は、かなり簡単なものとなっているが、雰囲気はさっきとは別人。

 殺気すら感じられるほどだった。

 

「なら、渚の暗殺の才能も直に感じたはずだ」

 

「……ああ」

 

 渚の暗殺の才能。

 それは、確かに実際に感じている。

 何しろ、達也ですら衝動的に動いてしまったのだから。

 

「ところで俺気になったんだけど、普通の一般人、しかも高校生がよく軍に入れたね」

 

 いきなり、全く話の路線がずれた。

 それは、達也にとっては嫌な予感しかしなかった。

 

「沖縄海戦」

 

 達也が目を細める。

 業はその反応を見て口を吊り上げて笑った。

 

「やっぱり。三年前に起きた事件に、二つ現在の高校生でも参加できるチャンスがあるのを思い出したんだよ。

一つは、新ソビエトによる佐渡侵攻事件のとき、当時若冠十三歳だった一条家の御曹司の活躍により撃退、『クリムゾンプリンス』という名前がつけられたというもの」

 

 業の凄まじい推理能力に、達也ですら戦慄する。

 少なくとも、情報は与えていない。

 それなのに、勘づかれたのだ。

 

「そして、沖縄海戦だ。その時に司波くんが沖縄にいて、成り行きで軍に参加して一緒に掃討したのなら、軍に入っているのも納得できる。少なくとも、一度は絶対にそういう場面を乗り越えているはずだよね。一高のテロリスト襲撃の時に素早く行動できた司波くんならさ」

 

 ――これ以上は危険だ。

 

 達也の脳内で警鐘が鳴り響く。

 目の前の人物は達也や深雪の今後の高校生活を揺るがしかねない存在。

 

 ここで消しておくべきか、という考えも、達也の中にはある。

 

「あれぇ?もしかして俺何か間違ってた?」

 

「……何を企んでいる。もし俺と深雪の日常を壊すつもりなら、いくら渚の友人といっても容赦はしない」

 

 最早、隠す気もない達也。

 殺気を業に向けて静かに、だがドスのきいた声で警告する。

 

「企んでいる?そんなわけないじゃーん」

 

 それを笑顔でさらりと受け流した業。

 瞬間、一気にどす黒いオーラを出す。

 

「渚にもし手を出したらこの情報は全て流すぞって言ってんだよ」

 

 業の目も、本気。

 達也を敵と認識して話している。

 

「脅しのつもりか?」

 

「脅し?まさか。取引だよ」

 

「取引だと?」

 

「司波くんが渚に手を出さなければ、俺はこの情報を一切漏らさない。だが、手を出せば俺はこの情報をばらまく」

 

「……赤羽。お前は一体何がしたい」

 

 達也には、全く分からなかった。

 業が何をしたいのかを。

 何故このようなことを持ちかけているのか。

 

「渚のため……と言いたいところだけど、俺自身の目的のためでもある。それはまだ言えないが、近いうちに分かる」

 

 達也は黙り込んだ。

 取引の内容的に、達也にとってリスクがかなり大きい。

 簡単に頷いては業の思惑にはまってしまうかもしれないと。

 

「まぁ、答えは司波くんの行動でわかるから答えなくてもいいよ……これは俺の連絡先だ。そろそろ競技も始まるからこの話の続きは今日の夜だ」

 

 達也の答えを聞かずに競技場へと歩き出す業。

 

 正直、これ以上はもう業と絡みたくないと達也は思っている。

 だが、達也は純粋に気になってもいた。

 

 赤羽 業という男を。




当たり前ですが、これからに繋がってきますからね。

一応最終話は既に考えているのですが、それを出す前に騒乱以後の話を書くとしたらどこまで書くのかの検討もつけておきます。
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