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短めです。
業は何喰わぬ顔で競技場へと戻ってきた。
だが、何処かいつもと雰囲気が違うことに気がついたE組一同はあえて何も触れずに今始まろうとしている真由美の試合へ意識を向けた。
『スピード・シューティング』は準決勝からは一対一、空中に次々と撃ち出される紅白それぞれの百個の標的から、自分の色の標的を選び出し、破壊した数を競う対戦型となっている。
対戦型『スピード・シューティング』は元々魔法の発動速度と共に、魔法力の集中を要求する競技なのだが、真由美は対戦相手の魔法行使領域外から狙撃することにより、魔法がお互いに干渉せず、純粋なスピード照準の精確さの勝負に持ち込むという戦法を取っている。
そして、スピード、照準の精確性において、真由美の魔法力は世界的に見ても卓越した水準にある。
高校生レベルでは、勝負にすらなってなかった。
そして、その夜、皆が寝静まったころ、達也は業に連絡を入れて返信を待っていた。
返信はすぐに来た。
『ホテルのロビーで』
それを見て、端末を置いて部屋を出た達也。
ロビーに着くと、既に業がいた。
「来たね。それじゃあ続きいこうか」
◆◆◆
九校戦二日目。
今日は『クラウド・ボール』の男女予選から決勝、『アイス・ピラーズ・ブレイク』の男女予選が予定されている。
昨日『スピード・シューティング』で優勝した真由美が、今日の『クラウド・ボール』にも出るということで、昨日のような圧倒的な実力を見るためにE組一同は『クラウド・ボール』の会場に来ていた。
『クラウド・ボール』は、通称『クラウド』と略されることがある競技で、シューターから射出された直径六センチの低反発ボールを、ラケット、または魔法を使って制限時間内に相手コートへ落とした回数を競うテニスのサーブがないような競技だ。
一セット三分の試合時間で、透明な箱にすっぽりと覆われたコートの中へ二十秒ごとにボールが追加射出され、最終的には九個のボールを選手は休みなく追いかける。
女子は三セットマッチ、男子は五セットマッチで行われる。
渚たちが席について数分後、一高メンバーも姿を現した。
「皆、オハヨー」
「おはよう、エリカ」
「よっ、相変わらず女子目当てか?あんたら」
「レオか。俺的には会長目当てだな」
「同じく。そのために一眼レフ持ってきたからな!」
エリカが代表したような形で挨拶し、レオは前原と岡島の元へ、深雪とほのかと雫も一礼しながら席についた。
そこで、渚はふと一人いないことに気がついた。
「あれ?司波さん、今日達也は?」
「今日お兄様はエンジニアとして一高の天幕にいますよ」
「へぇー。司波くんエンジニアだったんだ」
深雪の言葉に感想を溢したのは業。
中村と茅野は女子トークに花を咲かせ、磯貝はレオ、前原、岡島の三人のトークを苦笑いしながら聞いていた。
「業、達也は本当にすごいエンジニアだよ!僕のCADはオーダーメイドなんだけど、すごく使いやすく調整してくれたんだ!」
「つまり無敵なわけね」
渚からの達也の腕前に、少し口を吊り上げてコートを見ながら言う業。
そこには、真由美とその対戦相手がコートを挟んで既に対峙していた。
◆◆◆
真由美がコートへ行ったのを見届けた達也は、昨日の夜のことを思い出していた。
業と達也は、ロビー備え付けのソファーに腰をついて、業は達也と深雪の関係性に迫ったのだ。
『司波くんが妹ちゃんを庇ったとき、いきなり雰囲気が変わった。それが重度なブラコンだとしても、あそこまでの反応、雰囲気は間違いなく別の理由があると思っている。例えば
全て、業の予想でしかない。
だが、あまりにも的確すぎるものだった。
業の言うとおり、達也は深雪の『ガーディアン』である。
二人の名字は『司波』
司波
四葉家出身である達也の実技の成績が良くない理由は、生まれつき脳内の魔法領域が狭いために工程の複雑な魔法が使えず、無理矢理使ったとしても速度が遅くなってしまうため。
これは、発動速度と威力が重視される魔法師の世界では致命的な欠陥とされる。
だが実際にはある部分、『分解』と『再成』という今までの魔法の根底を覆すような魔法に特化しすぎている為に、通常の魔法を使うことができないだけであるのだ。
さらに、業の予想通り、三年前の沖縄海戦で日本国防軍特務大尉『大黒 竜也』という偽名を持っている。
所属部隊は、陸軍一◯一旅団・独立魔装大隊。
風間の部隊だ。
そして、達也はある一件により、『最低限の情緒』しか持てず、唯一持っているのが、『家族である深雪への愛情』のみ。
これも、業の言った通りだった。
『今までの俺の予想を全て肯定したとして、普通の家庭でそんな関係が生まれることは有り得ない。司波くんに何かあった、または妹ちゃんが次期当主候補とかの位置、またはそれに準ずる位置にいるか、またはその両方なのか』
最早、業は達也たちにとって危険因子でしかなかった。
次話す内容によっては、手荒い行為も辞さないつもりでいた。
『まぁ、今のは全部俺の予想でしかない。だけど、司波くんの家が普通じゃないのはわかる。……前置きが長くなったけど、ここからが俺の本題だよ』
だが、その後の話は、達也にとっても悪くないと思えるものだった。
『俺は将来、官僚に
達也にとっても、官僚とのパイプは持っておきたいところではある。
業は確実に官僚になるという、よくわからない根拠が信用に値したというのもあるかもしれない。
――変なことさえしなければ、俺は普通に接する。
その言葉が、二人の関係の全てとなった。
そこで、一セット目終了のブザーがなった。
昨日の夜のことを思い出しているうちに、三分経過したようだ。
真由美の失点は、ゼロだった。
相手は両ひざをついてコートにへたり込んでいる。
真由美の初戦は、一セットという最短決着で勝利を飾った。
これが今回の業の意図でした。
次からはまた九校戦主体に、一気に進むと思います。