渚が一高の天幕についたとき、既に中はパニック一歩手前の状態だった。
選手たちは数分前に病院に搬送されたばかりだ。
「――では、俺は行ってくる」
「お願いね、十文字くん」
渚が入り口に立っていると克人は少しだけ渚を横目に見てから、横を通り抜けて何処かへと向かっていった。
「あ、潮田くん。どうしてここに?」
そこで、克人を見送っていた真由美が、渚の存在に気がついた。
渚は声をかけられるまで克人の方を見ていたが、真由美の問いかけにここにハッとして用件をかなり強い口調で話した。
「はが……十三束 鋼の搬送先を教えてくれませんか!?」
「……私も今から行くところだから、一緒に行きましょう」
生徒会長として、生徒の事故は見逃せないのだろう。
真由美はもう車を手配しているらしく、二人は天幕を出て既に待機していた車に乗り込み、鋼たちが搬送された病院へと向かった。
◆◆◆
病院へとつき、病室へ入ると、三人は既に治療中だった。
どうみても、重傷だ。
「……ッ」
真由美は一瞬だけ目を逸らしたが、顔を振って三人の治療を見守る。
そこで、渚は気がついた。
三人の中でも、鋼の傷はまだ浅いということに。
その証拠に、他の二人は意識を失っているのに対して、鋼は意識があるようだった。
「……渚か?」
「大丈夫、鋼!?」
鋼は誰が来たのか確認するために顔を少し横に向けて、渚の顔を見ると驚いた様に目を見開いた。
それに対して、渚は鋼の容態を確認するために一気にベッドへと駆け寄った。
「君!今彼は治療中だ。気持ちはわかるが、もう少し離れてくれ」
「あ……ごめんなさい」
だが、その位置だと明らかに治療の邪魔だ。
医師の男性に怒られて自分が何をしたのか理解した渚は、すぐさまベッドから離れる。
「ははは……そんなに慌てるなんて渚らしくないね」
「僕だって大切な友人が重傷になったら焦るよ」
怪我人とは思えないような笑顔で話しかける鋼に、渚も少しずつ気持ちが落ち着いていく。
そこで、真由美が唯一起きていた鋼にあの場で何が起きたのかを聞くために話しかけた。
「十三束くん。試合開始直後、『
「……間違いありません」
『破城槌』は、対象物の一点に強い加重が掛かった状態に対象物全体のエイドスを書き換える魔法。
建物に使用される場合は、壁の一面、天井の一面といった、少なくとも柱で限られた『一つの面』として認識できる広さに干渉しなければならず、強い干渉力が必要となる。
その性質上、建物の中に人がいる状態で使用された場合、『破城槌』は殺傷性がAランクとなる。
いくら軍用の防護服を着ていたとしても、分厚いコンクリートの塊が落ちてきたのでは、気休めにしかならない。
「では、試合開始前に何か不自然な点はありませんでしたか?」
「不自然な点ですか?」
「ええ。例えば、近くで人影があったとか、魔法の気配があったとか」
「いえ、全くありませんでした」
そこまで答えると、真由美はそうですか、と黙り込んだ。
恐らくだが、四高のフライングを予想していたのだろう。
「……会長。『モノリス・コード』はどうなるんでしょうか」
「そうね。今は一時中断になってるのだけれど、恐らく競技は再開されるわ。うちと四高を除く形でね」
「それでは、一高の『モノリス・コード』は……」
「本来なら予選二回戦で棄権なのだけれど、今十文字くんが大会委員会本部で
九校戦では、予選開始後の選手の入れ換えは認められていないが、相手の不正行為を理由に特例を認めさせる、ということなのだろうか。
とりあえず、何かしらの不備があることに間違いはないのだから、もし出場となった場合、一高は代理を立てて出場しなければならない。
そして、鋼には選手として代理を選ぶ権利がある。
「会長……もしよろしければなのですが、代理で選手を立てて出場することになった場合、渚を選んではくれないでしょうか」
「えぇ!?僕!?」
「……念のため、理由を聞かせてもらってもいいかしら」
その代理に渚を選んだ鋼。
選ばれた渚は驚きで声を上げたが、真由美はもしそうなった場合渚を選ぶつもりでいたらしく、特に驚いた様子もなく理由だけを訪ねた。
「渚には実力があります。魔法も威力や使用数、速度は一科生には劣りますが、使い方の上手さは一科生の比ではありません。特に、実戦に近い形式で行われる『モノリス・コード』なら尚更です」
「なるほど……潮田くん、もしそうなった場合、受けてくれますか?」
何故かわからないが、既に代理を立てて試合が行われる事が決定しているかのような流れになっている。
だが、今はそれは関係ない。
鋼からここまで信頼されて、出ないわけにはいかないだろう。
「……わかりました。もしそうなった場合は引き受けます」
その申し出を渚が承諾すると、鋼は何処かホッとしたかのようにふぅ、と息を吐いた。
そこで、ふと渚に一つの疑問が沸く。
「そういえば、鋼はどうやって岩をかわしたの?」
あの場は、作戦を練っていたために三人の距離はほぼない。
つまり、他の二人が重傷で鋼の怪我がしゃべれる程度には軽減している、ということはありえないのだ。
「僕は前にも言った通り、遠隔魔法が苦手だけど、近接距離、特にゼロ距離は得意なんだ。それで、なんとか瓦礫を壊そうとしたんだけど、量が多くてね……自分だけで精一杯。しかもこのざまだよ」
つまり、鋼はあの一瞬で対抗魔法を使用し、岩を破壊して身を守ったのだ。
鋼は自嘲気味に笑った後、真剣な顔で渚を見つめた。
「渚。僕たちの代わりに『モノリス・コード』を優勝してきてくれ」
「任せて鋼。君に指名されたからには、負けるわけにはいかない」
拳と拳を前に出して重なる二人。
それからは、治療に集中するため退出してほしい、ということで真由美と病室から出ていき、飲み物を買って待機していた車に乗り込む。
「鋼くんは自分でなんとかなったから良かったけど、後の二人は重傷ね……不謹慎だけど、治療を見てて気持ち悪くなっちゃった」
「あはは……外でも見て気を紛らわしたらどうでしょうか」
真由美の言うとおり怪我人に対して問題発言だが、それも仕方のないことだろう。
それだけ真由美も動揺しているということなのだから。
「そうね……気を紛らわすか……」
真由美が何か呟いているのを横目に、喉が渇いた渚はペットボトルのキャップを外した。
「……ねぇ、渚くん。それなら、少しお願いがあるのだけれど」
そのまま飲み口に口をつけて水分補給するが、いきなり名前呼びに変わり、さらに若干の笑みに渚は嫌な予感がした。
「業くんに貰ったメイド服があるんだけど、帰ったら着てくれないかな?」
「ブフッ!?」
そして、口に含んだ飲み物を盛大に吹き出した。
「今は写真で我慢しておくわ」
「何を!?」
◆◆◆
それから九校戦会場に戻った渚は、真由美と別れて風間に連絡し、再び屋外格闘戦用訓練場へと足を運んでいた。
「一応、俺もそこまで暇ではないのだがな……」
「すみません、先生。でも、一度くらいは体験しておいた方がいいかと思いまして」
「まぁ、事情は分かった。たまたま時間も空いているから別に構わないが……」
そう、渚は『モノリス・コード』の練習をしにきたのだ。
そして、そこにいたのは風間だけではなかった。
「今回相手をするのは彼だ」
「陸軍一◯一旅団・独立魔装大隊・幹部の柳
「よろしくお願いします。柳さん」
「それでは、早速始めよう」
風間の指示である程度の距離を取り、CADを構え、柳と対峙する渚。
一対一なのは仕方ないが、ルールは勿論『モノリス・コード』のルールで行う。
つまり、ゼロ距離で頭に魔法を打ち込むナイフ型のCADは使えない。
だが、それを柳は知らないため、使えないことはないのだ。
ナイフ型CADを腰につけ、拳銃型CADを構える。
「それでは、始め!!」
◆◆◆
「大丈夫か?」
訓練場には、二つの人影があった。
一つは倒れている人を気にする、風間の声。
そしてもう一つは、
「……え、ええ……なんとか大丈夫です」
柳だった。
そう、渚は勝ったのだ。
「まさか、あのナイフ型のCADであんなことをするとは思っても見なかったな。彼の才能は相変わらずだ」
「さすがは烏間大佐から指導を受けた生徒ですね……自分より強い人との戦い方を知っている……」
現在の時間はもう夕方の六時。
渚は友人たちと夕食を取るために一足先に帰ったのだ。
「初見なら確実に倒す暗殺技術か……あれは、確かに避けられんな。特に、戦闘に慣れた者は」
「ええ……まだ平衡感覚が麻痺しているようです……」
柳はフラフラとしながら起き上がり、体についた草を払って風間の肩を借りながら共にホテルへと戻った。
そんな評価の仕方があるんだ!
という面白い評価の付け方をする人もいるようですね。