それでは行きましょう!
「……ジョージ、何したかわかったか?」
「正直に言って、わからない。ただ、ナイフ型のCADみたいなものを使って何かしたのは間違いない。ディスプレイにはしばらく振動系統魔法で使われたサイオンがキラキラ光ってしばらくそこにあったのはわかったけど……」
今二人が見たものは、まさに異常だった。
挟まれた二人を、範囲ではなく単発の魔法で、ナイフに当てた一発と、選手を仕留めるのに使った二発、合計三発だけで倒したのだ。
そして何より、抜かりがない。
選手を一人倒した後、意識が朦朧としている選手の頭にも魔法を一発撃ったのだ。
しかも、その時の表情が笑顔なのだから、その中性的に整った顔立ちとのギャップもあって、それは将輝をして背筋に寒気が走るものだった。
それに、まだ底が見えていない。
彼らの渚に対する評価は、達也と同格以上にまで上がっていた。
◆◆◆
三人全員を倒して二高に勝利した代理チームだが、ディフェンスを倒した時点で鳴った自陣勝利の知らせに、達也と幹比古は戸惑いを隠せないでいた。
「まさか……渚が一人でオフェンス二人を?」
「僕たちがディフェンスを倒した時点で鳴ったんだから、そうなんだろうね。でも、渚なら二人倒すくらいやりかねないよ」
「だが、それは近接戦闘があったらの話だ。『モノリス・コード』において、いくら渚とはいえ苦戦を強いられるはずだ。それなのに、俺らが二高のモノリスについた時点で、もう渚はオフェンス二人を倒しきったことになる」
「それは……確かにそうだね」
幹比古と話ながら、達也は自身の特異魔法、『
終わったら一高モノリス集合にしているが、そこでは渚が気絶している二高の選手をモノリスにもたれかけているところだった。
ふと、一帯を見回してみると、モノリスの部屋とその四つある扉の内の一つの扉周辺に魔法の痕跡を見つけた。
(この魔法の痕跡は、振動系か。渚の魔法だな)
達也のこの『エレメンタル・サイト』は、狙われて逃れることが出来るものは存在しないモノだけとされるほどの探索能力があるもので、人は勿論、魔法の感知、魔法の種類、魔法式まで理解するものだ。
「渚は今一高モノリスにいる。いくぞ、幹比古」
「わかった」
一高モノリスと二高モノリスはそれなりの距離があるが、何も気にしなくていい状況下ならあまり時間もかからない。
ものの数分でついた達也と幹比古は、目の前で二高の最低限の世話をしている渚を見つける。
「お疲れ、渚」
「あ、達也に幹比古!二回戦も無事勝ててよかったね!」
達也と幹比古の姿を見つけた渚は、二人に駆け寄って屈託のない笑顔で勝利を喜んでいる。
だが、達也の目は既に、例の扉に向いていた。
「……渚、あの扉で何の魔法を使ったんだ?」
「え?あ、あれか。振動系の魔法だよ」
「だが、渚のCADにはどちらもあんな拡散するような魔法はなかったはずだ」
CADを二度、ナイフ型二回と拳銃型一回の合計三回も調整している達也は、勿論渚の魔法を本人の知らないところで知っている。
だからこそ、空中に広範囲に漂っていた魔法の痕跡が気になるのだ。
「あ、それならこの二つを使ったんだ」
「ナイフ型と拳銃型のCAD?」
「そう、ナイフの側面に魔法を当てることによって、拳銃型から撃った魔法を弾けさせて、周囲にその魔法をバラまいたんだ。ナイフ型ではできなかった振動系のサイオン波を飛ばすっていうのが、拳銃型でできるようになったからできたことだよ」
つまり、擬似的に拡散弾を作ったということだ。
渚の魔法の本質は、実はもっと奥が深かったのだ。
「……効果は見たところ同じのようだが、そうなのか?」
「僕もよくわからないんだけど、その漂っている魔法の残骸?みたいなものの中にいると、意識がはっきりしなくなるみたいなんだ」
「ごめん、渚……僕もうついていけないや」
渚本人もあまり分かっていないのだから、この話題に幹比古がついていけるわけもない。
だが、唯一達也だけは違ったようだ。
「渚の魔法は、脳から発せられている電波、つまり人間の電気信号に干渉することができるんだったな」
「え、うん。相手の脳からの電波を振動して乱すから、脳を直接狙えば確実に意識を奪えるよ」
「たぶんだが、その扉周辺を漂っている、電気信号を揺らす魔法の残骸の中で、それを知覚する部分、つまり、視覚、聴覚からの情報を伝えるための電気信号がその漂ってる魔法の残骸に影響されたんだと思う」
空気中に漂ってるだけで相手の視覚や聴覚を奪う。
しかも、知覚した瞬間である。
それはまさしく、速効性の神経毒だ。
――やはり、暗殺の才能か。
達也は渚の世話のおかげか、起き上がった二高の選手を見る。
しかし、一人は何事もなかったかのように起き上がったが、一人はとても気持ちが悪そうにしていた。
恐らく、この神経毒を喰らってから魔法を喰らったため、回復しきれていないのだろう。
二高が復活したのを確認した一高代理チームは、『市街地ステージ』を後にした。
◆◆◆
「全く……今年の一年は一体どうなってるんだ」
摩利がため息を付きそうな勢いでそう呟いた。
「それには同感よ、摩利。特に、あの二人は特別だからね」
「それもそうなんだが……あの二人を見てると老師の言ってた『工夫』をマジマジと見せられているような気がして、腹が立ってくるんだよな……」
摩利の呟きに真由美は苦笑。
真由美とは違い、魔法テクニックで勝負している摩利にとって、彼らの『工夫』しかない戦い方は、どこか悔しい部分があるのだろう。
「とはいっても、次は決勝リーグよ。一高は二位だから三位の八高とまた当たることになるんだけど……恐らく調整されるわね」
「だが、順位的に三高とは当たらないだろうな」
「ということは四位の九高ね……達也くんたちなら大丈夫なのだろうけど、やっぱり心配ね」
「いや、でも達也くんは――」
一高天幕で次の試合についての二人の議論が始まろうとしているなか、観客席で見てたE組はかなり盛り上がっていた。
「さっすが渚だ!」
「当たり前だろ!渚は唯一このカメラで撮ってもいい男なんだから!後で皆に写真の焼き増ししておくよ!」
「今回だけはナイスだ、岡島!」
「やるねー、渚。なんか、前よりも一層暗殺者っぽくなった?」
「だねー。ところで茅野ちゃん、どうしたの?そんなに渚をジッと見て。王子さまの姿でも目に焼き付けているとか?」
「そ、そんなわけないよ!!カッコいいなあとは思ってたけど……て、私何言ってるんだろ!あわわ――ッ!」
前原と岡島、磯貝が肩を組ながら喜び、中村と業は冷静なコメントをして、茅野は渚に見惚れていた。
そこを指摘されて顔を真っ赤にしながら弁解するというのは、最早定番にすらなっているのである。
トーナメントの開始は正午。
第一試合は三高対八高で行われ、一高は九高と第二試合で行うことになっている。
つまり、一高は連続して試合することになるため、昼食はこの時間にとる必要があるのだ。
「んじゃ、今のうちに昼食取りますか」
「りょーかい」
業の提案に全員が乗っかり、ホテルに一端戻る。
ロビーではエリカが男性と言い合いしているのを見掛けたが、『兄上』という単語が常に聞こえていることから、その男性はエリカの兄だということがわかる。
しかし、彼らは最近、兄妹に変に触れてはいけないことを司波兄妹で学んだため、今回はその現場はスルー。
昼食を部屋で取った。
◆◆◆
三高と八高の試合は『岩場ステージ』で行われているのだが、その試合は一方的な試合展開、いや、独り舞台となっていた。
岩と岩の間を三高陣地から悠然と歩いて進む一人の選手。
一条 将輝は堂々とした姿で『進軍』をしていた。
八高も黙って見ているわけではない。
将輝に向けて、次々と魔法を繰り出す。
岩陰を伝って三高陣地に向かおうとしていたオフェンスまで、その攻撃に参加していた。
だが、将輝の歩みは止まらない。
移動魔法で投げつけられる石や岩の欠片は、より強力な魔法で撃ち落とし、彼に直接干渉する魔法は、身体の周囲1メートルに張り巡らされた、『領域干渉』という対抗魔法で無効化する。
渚には、この試合が自分たちに対する『挑発』であることを理解した。
圧倒的なまでの力の差。
確かに、将輝一人いる時点で三高の優勝はもう決まっているようなものだったのだろう。
だが、ここにいる達也だけは、その将輝に届く力を持っている唯一の存在。
つまり、一高は三高が唯一負ける可能性を持っている学校なのだ。
結局、三高と八高の試合において、三高は将輝以外を一歩も動かすことなく勝利を納めた。
「参ったね、これは……」
「達也も大変だね」
それを控え室のディスプレイで見ていた代理チームは、しっかりとその宣戦布告ともとれる『挑発』を受け取った。
「結局、一条選手以外の手の内が全く見られなかったのは痛いね。これじゃあ、対策の立てようがない」
だが、幹比古は将輝の強さに呑まれているようだ。
実際は渚もそうなのだが。
「そうだね……でも達也なら、『カーディナル・ジョージ』の使う魔法は知っているんじゃない?」
「知っているわけではないが、大体予想はできる」
渚の問い掛けに、達也ははっきりとではないが、肯定を示した。
それを聞き、渚は少し表情を固くして達也に一つ申し出をした。
「なら達也、九高との試合があったら、一つお願いしてもいいかな」
これ、勘違いタグいりますかね……