とりあえず、エタリやすいと言われる九校戦という山場はクリアですかね。
「あのローブは何に使うのかしら?」
「古式の術式媒体で、刻印魔法と同じ原理で作動し、魔法が掛かりやすくなる効果を付与していると聞いています」
「補助効果……今着てるってことは、大会委員からの許可は降りたのね」
「ええ」
天幕では、真由美と鈴音が渚と幹比古のローブ姿について話していた。
「司波くんは、吉祥寺くんの『インビジブル・ブリット』対策だと言っていましたが」
「『インビジブル・ブリット』対策ね……古式魔法だから幻術とかで視線を目標とするという利点を逆手に取るとか?」
「恐らく、会長の推察通りです」
「そう……もう、新人戦優勝は二位になった時点で決まっているんだから、無理だけはしないで……」
試合開始前独特の緊張感が辺りを支配するなか、真由美は胸に手を当てて祈った。
◆◆◆
試合開始の合図と共に、両陣営の間で砲撃が交わされた。
魔法による遠距離攻撃。
それを観客は大喜びで迎え、第一高校の応援席は意外感に言葉を失っていた。
両陣地の距離はおよそ六百メートル。
『森林ステージ』や『渓谷ステージ』に比べれば短い距離だが、実弾銃の有効射程で測れば、突撃銃では厳しい間合いであり、狙撃銃の間合いだ。
それをお互い、外見上は自動拳銃そのもののCADを突きつけ合い撃ち合いながら、相互に歩み寄っている。
達也は予選、準決勝と同じ二丁拳銃スタイル。
それに対して将輝は、特化型だ。
右手のCADで相手の攻撃を撃ち落とし、左手のCADで攻撃を仕掛ける達也に対して、将輝は意識的な防御を捨てて攻撃に専念している。
その結果、ただでさえ大きな攻撃力の差が、ますます広がっていた。
将輝の魔法が一発一発に決定的な打撃力を秘めているのに対し、達也のは牽制程度、単に攻撃が届いているだけで、特に防御を意識しなくても魔法師が無意識に展開している『情報強化』の防壁で防がれる程度の振動魔法だ。
さらに、一歩進むごとに、達也の牽制すらも数が減っていき、防御に回っている。
知っているものが見れば、達也の劣勢は明らかだった。
そして、渚は三高陣地では真紅郎が将輝の背中を迂回し、一高陣地へと駆け出しているのを確認した。
「いくよ、幹比古」
「おーけー、渚」
真紅郎が動き出したことにより、試合は新たな段階へと突入した。
真紅郎が迂回しながら突っ込んでくるのを迎え撃つ為に走り出す渚と幹比古。
途中で達也が将輝の攻撃を捌ききれなくなり圧縮空気弾が襲っていたのを見て肝を冷やしたが、それを体術でかわしたのを見てホッと一息、意識を再び真紅郎へと向ける。
そして、一高モノリスから百メートル地点で、彼らはぶつかった。
真紅郎は迷わず渚に向けて『インビジブル・ブリット』を放った。
否、放とうとした。
「なっ?」
だが、放とうとした瞬間に渚のローブに焦点を会わせた瞬間、遠近感が定まらなくなり、渚の姿がユラユラと揺れる。
(幻術!?)
そこへ渚が拳銃型のCADを真紅郎に向け魔法を放つも、移動魔法で後方へ大きくジャンプすることで真紅郎はそれを避けた。
そこへ、突風が襲い掛かる。
真紅郎は加重系魔法で自分の身体にかかる慣性を減らし、風に逆らわず飛ばされることで風撃のダメージを緩和した。
(厄介な!)
心の中で舌打ちをしながら、『不可視の弾丸』の照準を幹比古へ合わせる真紅郎。
だが、ローブを見た瞬間に再び遠近感が定まらなくなる。
視線を目標に合わせなければならない『インビジブル・ブリット』は、『基本コード』を使って個体の全体に作用するのではなく、一点に直接力を及ぼすことが可能となっている。
つまり、無駄な行程を省いて魔法を発動することができるという大きなアドバンテージができるのだが、上手く視認できなければ魔法は発動しない。
後方へ飛んだときに風撃を受けたため、真紅郎の体勢は完全に崩れている。
さらに、幹比古へ視線を向けたその数秒で渚が接近しており、魔法を避けるのは不可能になっていた。
だが、その瞬間、渚は焦ったように横を見て、その場から緊急回避。
それと同時に圧縮空気弾が飛んでくる。
早めに回避行動をとったおかげか、渚は少し爆風を受けただけで済んだが、その間に真紅郎は体勢を立て直した。
「将輝!」
助かった、という謝辞を省略して、真紅郎は救いの手の名を呼んだ。
渚たちに押されていた真紅郎を、達也に攻撃を続ける傍らの援護射撃で将輝が助け出したのだ。
真紅郎の指がCADのコンソールを走り、加重の系統魔法が発動した。
得意魔法への拘りを捨てた真紅郎の加重増大魔法が幹比古に襲い掛かる。
「幹比古!」
地面に押し付けられた幹比古の口から、押し出された息が漏れた。
渚が幹比古に声をかけるも、その時に視界の端に映った光景に目を見開いた。
明らかにレギュレーションを越えた威力の圧縮空気弾が十六発、達也に向けて放たれていたのだ。
達也はそれを見事な身のこなしで『
だが、間に合わなかった。
迎撃は十四発までしか間に合わず、達也は最後の二発の直撃を受けた。
「達也!!」
将輝の足元まで吹き飛ばされる達也。
それを見た渚は叫ぶも、吹き飛ばされたはずの達也は平然と体勢を立て直し、右足を踏み込んで、レギュレーション違反をしたという意識に捕らわれて強ばった表情で硬直している将輝の顔面目掛けて、正確には、最初から当たらない軌道で右手を将輝の耳元を走り抜けた瞬間、音響手榴弾に匹敵する破裂音が、達也の右手から放たれた。
その轟音に、スタンドは静まり返り、真紅郎ですら振り返って動きを止めた。
達也の右手は、親指と人差し指の指先を付け、親指と中指を交差させた形で、突き出されている。
つまり、指パッチンだ。
選手、審判、観客、応援団、この場の全員が見つめる中で、将輝が地面に崩れ落ち、達也はガックリと膝をつく。
その姿を真紅郎は呆然と見つめていた。
それが、彼の大きな油断となる。
その隙を見逃さなかった渚が、突っ込んできていたのだ。
「――ッ!?」
それを見た真紅郎は、幹比古が倒れて幻術が使えないため、そして本能的に『インビジブル・ブリット』を発動しようとするも、その瞬間、訪れた不快な音に顔をしかめ、魔法が霧散する。
その音の発生源であろう渚の方を見ると、渚はいつの間にか特化型を腰にしまい、いつの間にか両腕につけていた汎用型CADをクロスさせて真紅郎に向けていた。
魔法がいきなりキャンセルされたことが、真紅郎をさらに混乱へと導く。
渚は両腕のCADとローブを脱ぎ捨て、腰からナイフ型と拳銃型のCADを取り出した。
体勢は崩していない真紅郎は、かなり接近している渚に対して魔法ではなく回避することを選択する。
渚の魔法は頭に直接受けなければ問題ないからだ。
銃口を突きつけ、魔法を発動しようとする渚。
その一挙手一投足を見逃さまいと意識を集中させる真紅郎。
心拍数が一気に上がっていく。
銃口を突きつけ、魔法を発動する準備に入っていた拳銃型のCADは、そのまま渚の手から離れて地面に落ちた。
その手から落ちていく渚のCADにつられていく視線。
ふと気がついたときには、渚は目の前におり、ナイフ型のCADに全殺気を込めて真紅郎に突き放たれようとしていた。
それを本能で察した真紅郎は、反射的に無理矢理重心を後ろに引っこ抜くことで、回避しようとする。
だが、そのナイフ型のCADは、先程までの殺気が嘘のように無くなり、渚の手から離れていた。
重心を引っこ抜いたため、体を仰け反らせて体勢を完全に崩している真紅郎に渚がさらに肉薄する。
パァァァァン!
その瞬間、真紅郎の視界が爆弾が破裂したかのような衝撃に襲われた。
「――ッ!?」
真紅郎の全感覚が、麻痺する。
平衡感覚も分からず、何も見えず、何も聞こえず、真紅郎の意識はそのまま闇へと沈んでいった。
◆◆◆
幹比古は、今の状況を理解することができなかった。
将輝は地面に倒れており、達也は膝をついている。
渚は真紅郎の顔の前でパンッ!と手を叩き、真紅郎は地面に倒れてそのままグッタリとしている。
幹比古には、何が起きたのか理解できなかった。
だが、どうなったかは理解できた。
将輝と真紅郎は達也と渚がそれぞれ倒し、達也は戦闘続行不能、渚はCADを持っていないがまだ戦える状態であるため、二対一と人数的には有利だ。
しかし、先述の通り渚はCADを持っておらず、幹比古は真紅郎の加重魔法によって身体の節々が悲鳴を上げている。
「このヤロウ!」
三高最後の選手が、渚に向かって魔法を放った。
意識は完全に真紅郎を倒した渚へと向いている。
(せめて最後だけでも!!)
幹比古は、荒い息でその場に立ち上がり、電撃魔法『
三高で立ち上がっているものは一人もおらず、一高は渚と幹比古の二人が生き残っている。
一高の『モノリス・コード』優勝が、決まった。
※後書きです。
突っ込みどころ満載の決勝戦
「それで、本当にやるんだな?」
二人とも、表情はかなり真剣だ。
「うん。僕の魔法では一条 将輝は倒せないけど、その方法なら倒せると思っているんだ。それを可能にするためには、これが必要なんだ」
渚の言葉は、全て本気だ。
だが、それでも達也は簡単に頷くことができない。
「正直言って、俺はそんなことをこんなに観客がいるなかでは使わない方がいいと思っている」
「知ってるよ。でも、これがあれば確実に大きな隙が出て、勝てると思うんだ」
「渚がそこまで言うのなら、もう俺は止めない」
渚は、大きく頷いた。
◆◆◆
『モノリス・コード』決勝戦、三高との試合が始まった。
開始早々、ローブ姿のままいきなり突っ込んでいく渚。
これには、三高も予想していなかったようで、慌てて将輝が魔法を撃とうとするも、達也の『グラム・デモリッション』で魔法式を破壊、さらに自己加速で敵陣目掛けて一直線の渚。
真紅郎が『インビジブル・ブリット』を撃とうとしても、幹比古の幻術によって回避、六百メートルという距離をあっという間に百メートルほどまで近づけた。
そこで、渚はローブに手をかける。
将輝と真紅郎は何が来てもいいように、CADを準備して渚の行動を注意深く観察した。
渚が、ローブを脱ぎ捨てる。
その瞬間、渚以外の時間が止まった。
「……メイド?」
「……まさか、女だったとか?」
ローブの下は、メイド服だった。
渚が突っ込んでいるのにも関わらず、彼らは目の前の光景を信じられずにいる。
モノリスに出ている以上、そんなわけないことは分かっているのだが、その着こなし具合を見ては最早女にしか見えない。
遠くの方で観客が沸いているのが聞こえるが、将輝と真紅郎が硬直しているうちに、渚はいつの間にか二人のすぐ目の前まで接近していた。
「え、えっと……潮田 渚です……」
三高の選手は全員、渚の声に耳を傾ける。
「……皆さんにご奉仕させてください!!」
「「「ブハァッ!?」」」
顔を真っ赤に染めながらいった渚に、三高全員が吐血。
そのまま渚は容赦なく三高全員の頭に魔法を撃ち込み、一高の『モノリス・コード』優勝が決まった。
「やっぱり渚くんは女の子だったのね!!家で雇われてくれないかしら!」
「落ち着いてください、会長。潮田さんは男だというデータが残っています。あくまでデータですが」
全国放送で流れたそれは、世の中に、『男の娘』という言葉が再発したきっかけとなったのだった。
終
なんじゃこれ……