皆さん後書きを気に入りすぎです(;・ω・)
「……なにが起きたの?試合には勝ったの?」
真由美の独り言のような声が、張っているわけでもないのに一高天幕に響いた。
「……勝ちました、ね」
鈴音がそれに答えたのが、合図となった。
誰かが歓声を上げた。
一人の歓声に二人の歓声が呼応し、四人、八人と連鎖的に拡散、歓声が爆発した。
一高生の無秩序な叫び声が、渾然一体となり地響きと化してスタンドを揺るがす。
それに答えるかのように、渚、幹比古、達也は立ち上がって一高応援スタンド席へと向かう。
だが、その中でも真由美だけは状況についていけてない。
「……達也くんは、何故起きていられるの?」
その声は、盛り上がっていたはずの一高天幕内によく響いた。
それと同時に、徐々に天幕内だけが静まっていく。
「達也くんは一条選手の攻撃で倒されたはずよ……迎撃は、『グラム・デモリッション』は間に合ってなかった……!少なくとも、二発は直撃を受けたはずよ!?ルール違反のオーバーアタックで大怪我したはずの達也くんが、何故立ち上がって戦い続けたの!?」
「七草、落ち着け」
最初はまだ理解しきれていなかったのだが、疑問点を口に出したら理解が追い付いてきたのか、真由美はだんだんとヒステリックになっていき、それを、どっしりとした声で克人が宥めた。
達也が倒されてからの流れがあまりにも早かったため、勝った喜びの方が先にきた一高天幕内だったが、達也は間違いなく直撃を受けて大怪我をしているのを思い出し、少しずつ場の空気が重くなっていく。
確かに、どう考えても達也は立てるはずのない重傷を負っていたはずなのだ。
「俺にもそう見えたが、現実に司波は立ち上がり、怪我人には不可能な動きで敵を倒した。こうして見る限り、自分が放った音響攻撃にダメージを受けているだけで、それ以上の怪我はない」
「でも……」
「司波は古流の武術に長けているとか。古流には肉体そのものの強度を高める技や、衝撃を体内で受け流す技もあると聞く。おそらくは、その類だろう」
「…………」
克人の言葉に納得した様子ではないが、真由美はとりあえず落ち着きを取り戻したようだ。
「俺たちが知っている知識だけが、世界の全てではない。魔法だけが『奇跡』ではないのだ。それよりも、今は彼らの勝利を称えるべきだろう」
「……そうね。ごめんなさい、十文字くん」
気がつけば、一高応援スタンドを越え、会場全てから暖かい拍手が彼らに対して送られていた。
◆◆◆
思いがけない拍手のシャワーに、達也たちは照れ臭さを禁じ得なかった、
ヘルメットを脱いで二人の元へ歩み寄る達也も、彼を待っていた渚と幹比古も、あえて客席を見ようとはしない。
「耳は大丈夫?達也」
一番の強敵をたった一人で相対し、倒した、そして、唯一怪我をした達也を労うように渚が声をかける。
「ああ……鼓膜が片方破れててな。今、耳が良く聞こえないんだ。今も唇を読んでようやく理解できているんだ」
その問いには、達也は右耳を差しながら、やれやれと言いたそうなしぐさとともに答えた。
「でも、二人ともすごいよ!まさか本当に『クリムゾン・プリンス』と『カーディナル・ジョージ』を倒しちゃうなんて!」
「僕は隙を上手くつけただけだよ」
「俺も全く同じだ」
今回、一高の勝因は将輝と真紅郎の隙を上手くつけたところが一番大きいだろう。
二人とも謙遜気味に答えた。
「だけど、よくあれを使えたな、渚。あれはサイオンの精密なコントロールが必要な技術なんだが」
「かなり危なかったけどね。隙をついた攻撃なら、吉祥寺くんが『インビジブル・ブリット』で反撃してくるって分かってたから、なんとかできたよ」
達也が言っているのは、擬似的なキャストジャミングについてだった。
今回、渚がそれを使えたのは、真紅郎の使う魔法で一つだけ、『インビジブル・ブリット』の存在を知っていたからだ。
達也とは違い、その場で即刻魔法の起動式を理解することはできない。
だから、渚はタイミングをずっと待っていた。
確実に『インビジブル・ブリット』を使い、確実に仕留められる、その時を。
ローブの役目は、それを隠すためでもあったのだ。
「でも、渚は『カーディナル・ジョージ』をどうやって倒したんだい?」
「それは俺も気になるな。見てはいたが、魔法は感知できなかったし、打撃をしたわけでもない」
そして、今度は渚の技についての注目が集まる。
恐らく、興味七割、拍手が鳴り終わるのを待っているのが三割といったところだろうか。
だが、この質問に対しての渚の表情は、困った、といった感じだ。
「んー……できればあんまり人に教えたくはないんだけど、達也たちにならいいかな。あの時使ったのは、『クラップスタナー』といって、簡単に言えば猫騙し。視線誘導を使ってその効果をあげたものだよ」
「なるほどな。つまり、拳銃型で攻撃すると見せかけてナイフ型で突撃、それに怯んだ相手は自然的にナイフ型に視線が行く。それを離すことで、そのまま視線が釣られていき、猫騙しの効果が大きくなるってことか」
「……今の説明でよくわかったね」
一を聞いて十を知るという実例を、渚は見た気がした。
本当に一番大切な部分以外は、達也の言った通りなのだ。
「……さて、そろそろ現実を向かないとね」
「やっぱり、反応しないとダメなのかなぁ……」
「まぁ、勝ったんだから胸張って行こうよ」
ある程度話題も尽きたところで、未だ鳴り止まない拍手に彼らはそろそろ現実と向き合うことにした。
全員が横並びになり、手を振って拍手に答える三人。
ふと、何かを思い出したかのように、渚は横で恥ずかしそうにしながら手を振る幹比古を見た。
幹比古は、照れながらも、屈託のない笑顔で手を振っている。
そう、文字通り、何にも縛られていない笑顔で。
「……おめでとう、幹比古」
「え、何か言った?渚」
「ううん、何もないよ」
「…………」
手を振っていた幹比古は渚の呟きを聞き取れなかったが、達也は唇を読んで意味を理解し、手を振りながらも優しく微笑んでいた。
◆◆◆
時は『モノリス・コード』優勝が決まったときへと遡って、観客席で観戦していた元E組メンバー。
「……勝ったんだよな?」
「……みたいだな」
前原と岡島が、お互いで確認するように顔を見合わせる。
「……あーあ、とうとうやっちゃったねぇ。うちの暗殺者さんは」
「……やっぱり、渚には敵わないな」
中村は、笑いながらも呆れたようなセリフを呟き、業も笑顔でそう呟いた。
何処からか、歓声が上がる。
一つの歓声が、連鎖的に拡散されていき、それは会場全体のものとなった。
それに便乗する形で持ち上がっている元E組メンバーだが、一人だけ、ずっと渚を見ている少女がいた。
「どうしたのー?茅野ちゃん」
「うぇ?あ、な、何もないよ!」
業にそれを見られ、ニヤニヤされて顔を真っ赤にしている黒髪の少女、茅野だ。
「茅野のことだから、王子様に見惚れていたんでしょ」
「ち、違うもん!」
渚がいないため、完全に包囲されている茅野は相変わらずの弄られ具合だった。
だが、それでも視線は渚を捉えている。
「……何もなくて、良かった」
「そうだね。無事終わってくれて良かったよ」
茅野は、最初に渚が『モノリス・コード』に出ると分かったとき、とてつもない不安に襲われた。
いくら渚とはいえ、魔法競技で魔法が苦手なのはあまりにも危ないことだ。
だが、結果としては、どうだろうか。
渚自身はどうかは知らないが、最終的に全く魔法を使わず、仕事人のごとき要領で優勝を果たしている。
それは、茅野に力を与えるものとなった。
迷っていたことを、「やろう」と後押ししてくれるものとなった。
茅野はおもむろに、一人の懐かしい人物に、連絡を入れたのだった。
本日の13時、しれっと累計入りを果たしました。
本当にありがとうございます!
あ、今日はネタはありませんからね??