魔法科高校の暗殺者   作:型破 優位

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九校戦は今回のを含め後三話になります。

私にとっての山場は、意外と夏休み編、過去編になるかも知れません。(三大加重魔法とか知りません)


驚愕の時間

 渚が病院から戻って何が起きたのかを聞くために天幕へ寄ったのだが、そこはまた別の件で騒然としていた。

 

 渚は自分が一番喋りかけやすい人である生徒会長の真由美の元へ向かい、先の件を含めて何が起きたのかを聞いた。

 

「会長、二つの件について聞きます。何が起きたのですか?」

 

「あ、渚くん……んーと、まず最初に、第一試合の『ミラージ・バット』は途中棄権になったわ。これは皆には言わないでほしいのだけれど、また第三者の介入があったのだと思うの。そして今こうなってるのは、達也くんがさっき、CADの検査中に大会役員に手を出したっていう報告があって、途中棄権の件もあったから皆混乱しちゃって……」

 

「達也が?」

 

 達也がそういう行動にでるということは、間違いなく深雪に害が及びそうな時、または及んだ時だ。

 深雪が俯いているところも見ると、それは大会役員の過失なのだろう、と渚は結論付けた。

 

 渚がこの結論に至るまで、特別な思考はしていないし、何か引っ掛かることもなかった。

 だが、それも分からないほどに真由美は混乱している。

 

 真由美から感じられる感情は『不安』、そして『悲しみ』だ。

 

『不安』は、当然のことながらこの問題全般についての感情。

 主に、一高生徒会長として、生徒を心配するときに持っている感情。

 

 だが、『悲しみ』は、真由美本人と関わっている人に対する感情だった。

 この件で、真由美個人の関連で悲しいと思えることは、基本的に二つの可能性が考えられる。

 

 一つは、一高の九校戦失格。

 真由美たち三年生は、今回が最後の九校戦。

 その九校戦が失格で終わってしまうのなら、悲しいという感情が生まれるも納得できる。

 

 だが、これはまず有り得ない。

 競技自体が失格になることはあっても、それぐらいのことで一高自体が失格するなんてことは絶対にない。

 

 つまり、二つ目の可能性。

 それは、

 

「……事故に合った先輩が魔法師として復活することはできるのでしょうか」

 

 魔法師としての才能を、奪われた可能性。

 

「……残念だけど無理ね。魔法を信用できなくなったその時から、魔法を行使することはできなくなるわ」

 

 その事故にあった一高の選手は、上空から着地しようとしたときに発動しようとした魔法が発動せず、そのまま自由落下してしまった。

 つまり、魔法によって避けられたはずの危険に直面してしまったのだ。

 

 魔法師にとって、イメージは現実となる。

 渚も、魔法を使う前によくイメージをするのはそのためだ。

 

 そのイメージは、魔法があるという前提のもとに成り立っているものだ。

 それが、無くなってしまった場合。

 

 魔法など無いのだと一度でも思ってしまえば、そのイメージが一生付いて回り、魔法は使えなくなってしまう。

 

 真由美の感情は、一人の魔法師としての貴重な才能が失われてしまったことによるものだったのだ。

 

 そこへ、問題の男が天幕に姿を表した。

 天幕内の視線が、一斉に達也に集まる。

 

 渚でなくてもはっきりと分かるのではないか、と思うほどの、恐れと忌避(きひ)が混じった視線だ。

 

「お兄様……」

 

 だが、渚を除いてその中でただ一人だけ、達也を忌避しない少女が声を曇らせながら達也に近づいた。

 

「すまんな、心配かけて」

 

「そんなこと!だってお兄様は、わたしの為に怒ってくださったんでしょう?」

 

「早いな。もう事情を聞いたのか?」

 

「いいえ、ですが、お兄様が本気でお怒りになるのは、いつも……わたしの為、ですから……」

 

 しっかりと答えながらも、徐々に涙声に変わっていく深雪の頬に手を添えて、達也はそっと、上を向かせた。

 場の空気が、さっきとは打って変わって、主に渚の隣を発信源に生温くなっていく。

 

「……そうだな。俺は、お前の為にだけ、本当に怒ることができる。でもね、深雪。兄貴が妹の為に怒るのは当たり前なんだ。そしてそれは、俺の心に唯一残された『当たり前』だ。だから深雪、お前は哀しまなくても良いんだ」

 

 達也は空いている右手でハンカチを取り出して、深雪の涙をそっとふいた。

 先程までのシリアスな雰囲気も一緒に拭き拐われてしまっているのは、誰もあえて口にはしない。

 

「それに……せっかく綺麗にメイクしたのに、涙で汚してしまっては勿体無いよ?今日はお前の為の、晴れ舞台になるんだから」

 

「もう……お兄様ったら。試合に出るのはわたしだけではありませんのに。それは身贔屓というものですよ」

 

 場の空気が、水気を帯びているかのように湿った生温いものへとなっている。

 達也もようやく気がついたのか、深雪から天幕内へと目線を移して。

 

「あら、達也くん」

 

 こんな時でも、生徒会長は生徒の代弁者、と言わんばかりに、真由美が一際生温い視線で達也を迎えた。

 

「大会本部から『当校の生徒がいきなり暴れだした』と言われたときには一体全体何事かと思ったのだけど……とってもシスコンなお兄さんが、大事な大事な妹にちょっかいを掛けられそうになって怒り狂っていただけだったのね」

 

 皆が冷静になったと捉えれば、これはこれで良かったのかもしれない。

 達也がそそくさと作業室へ逃げ込むなか、渚は苦笑いしながらそう思った。

 

◆◆◆

 

 その後、達也から聞いた話によれば、大会役員が深雪のCADに細工をしようとしたため、取り押さえて尋問しようとした、ということ。

 第三者の介入があったということだった。

 

 現在、深雪が、『ミラージ・バット』のフィールドに立って開始の合図を待っている。

 渚は今回、業に連絡を入れて天幕でその様子をみている。

 

 競技場内のボルテージは、最高潮に達していた。

 渚も本当は競技場で見たいのだが、競技場で途中から見るか、天幕で終始ずっと見るかという選択を迫られ、この場で始まりから終わりまで全てを見ることにしたのだ。

 

 そこで、観客のボルテージに急かされたのか、予定時刻よりも数秒早く、試合開始のチャイムが鳴った。

 

 開始早々から、渚は『ミラージ・バット』が何故『フェアリー・ダンス』と呼ばれるのかを実際に見て実感した。

 

 鮮やかなコスチュームで飛び回るその姿は、確かに『フェアリー』と形容するに相応しく、その中でも深雪は特に目を奪われる存在となっていた。

 しかし、目を奪われるからといって、それが九校戦の結果に繋がるかといえば、否だ。

 

 第二ピリオドが終わった時点で深雪は二位と僅差でトップに立っているが、第一ピリオドでは二高の選手に続いて二位、その二高の選手は第三ピリオドで決着をつけるため、第二ピリオドでペース調整をしているようにも見える。

 

 簡単に言えば、深雪とその二高の選手は互角なのだ。

 

 達也の二高の選手の対策を気にしつつ、第三ピリオドのためにフィールドに出てきた深雪に、渚は違和感を感じる。

 

 深雪は第二ピリオドまで、携帯端末形態のCADを使っていたのだが、右腕につけているのは、ブレスレット形態のCAD。

 さらに、左手にもCADを持っているようだった。

 

 ここまで来ると、渚も達也のやろうとすることが全くわからない。

 だからこそ、奇想天外な試合展開を楽しめるというのだろう。

 

 第三ピリオドが始まり、渚は深雪の動きを注視する。

 動かしたのは、左の親指のみ。

 オン、オフで動くCADのようだ。

 

 展開される極小の起動式とともに、深雪の身体はフワリと浮き上がる。

 行く手を二高の選手が遮ろうとするも、それを飛翔スピードを上げることによって回避、そのまま光球を打ち消した。

 

 そこで、渚を含めた天幕内の全員が目を見張る。

 深雪が、空中で静止した後、着地をせずにそのまま次のターゲットへと向かって飛翔していったのだ。

 

「……飛行魔法」

 

 これは、間違いなく先月発表されたばかりの飛行魔法以外にありえなかった。

 出場している選手すら呆然とするなか、深雪は次々と得点を重ねていく。

 

 先月発表されたということは、その起動式を知っているのは、それを作った人しかありえないだろう。

 そして、飛行魔法を完成させたのは、天才技巧士と呼ばれる『トーラス・シルバー』だ。

 

 つまりは、そういうことなのだろう。

 深雪が二位に大差で決勝へと勝ち進んだのを見て、渚は自らの仮説が正しかったことを確信した。

 

◆◆◆

 

「今、連絡が入った。第二試合のターゲットが予選を通過した」

 

 男の言葉に、その場が恐怖によって支配される。

 

「……こちらの罠を見抜く相手だ。順当な結果なのだろうが……まずいな」

 

「それだけではない。ターゲットは飛行魔法を使ったらしい」

 

「バカな!?」

 

「これで力を使い果たしてくれたのなら万々歳だが……虫が良すぎるか」

 

「最早手段を選んでいる場合ではないと思うが、どうだろうか」

 

 彼らの目には、最早他人のことなど移ってなどいない。

 ただただ自分の生にしがみつき、他を蹴り落としてでも生きようとする目だ。

 

「賛成だ。百人死ねば十分だろう。大会自体が中止になる」

 

「中止になれば払い戻しは当初の賭け金のみだ。損失ゼロとは行かないが、まだ許容範囲内だ」

 

「そうだな……実行は十七号だけで大丈夫か?」

 

 十七号とは、彼らが競技場へ送ってある連絡要員にして、最後の手段を実行する『ジェネレーター』だ。

 

「多少腕が立つ程度ならば『ジェネレーター』の敵ではない。残念ながら武器は持ち込めなかったが、十七号は高速型だ。リミッターを外して暴れさせれば、百や二百、素手で(ほふ)れる」

 

「異議はないな……?では、リミッターを解除する」

 

 それと同時に、競技場で一人の大柄な男がのっそりと立ち上がった。




某小説家になりたい系サイトに投稿するオリジナル小説とともに、ハーメルンに既存の小説、SAOと暗殺教室の神崎さん主人公のクロスオーバーも考えております。

お楽しみに。
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