魔法科高校の暗殺者   作:型破 優位

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優劣の時間

「お兄様……」

 

「謝ったりするなよ深雪。一厘一毛たりともお前の所為じゃないんだから」

 

 達也は妹を力付けるために強い口調でそう言った。

 その近くにいた渚は状況判断を行いながらも、事が起きてもいいように準備をしている。

 

(達也と深雪はいたって冷静……ただ、レオとエリカ、美月は少し不味いかな)

 

 校門の前、その三人の視線の先には二手に分かれて一触即発の雰囲気で睨みあう新入生の一団がいた。

 片方は深雪のクラスメイト、もう片方は言うまでもなく、美月、レオ、エリカだ。

 

 ことの発端は昼食時の食堂だった。

 

 授業の見学を早めに切り上げて食堂にきた渚達五人は、それほど苦労することもなく六人がけのテーブルを確保した。

 それで半分ほど食べ終わった後、食堂に到着した深雪が達也を見つけて急ぎ足で寄ってきた。

 

 そこで一悶着あった。

 

 達也と一緒に食べたい深雪だが、深雪のクラスメイト、特に男子生徒は深雪との相席を狙っていた。

 最初は狭いとか邪魔しちゃ悪いとかそれなりにオブラートに包んだ表現を使っていたが、深雪の執着が意外に強いと見ると二科生と相席するのは相応しくないとか、一科と二科のけじめだの、果てには食べ終わっていたレオに席を空けろと言い出す者がいる始末。

 

 身勝手な言い種の一科生にレオとエリカが爆発しかけるも、達也が急いで食べ終わり、レオに声をかけてまだ食べ終わっていない美月とエリカ、渚――渚は弁当だった――に断りを入れてテーブルを立った。

 

 それにより、深雪は五人に目で謝罪して達也と逆方向に歩き去ることにより、事なきを得た。

 

 さらに、午後の授業見学中にも悪目立ちすることがあった。

 

 通称『射撃場』と呼ばれる遠隔魔法用実習室では、生徒会長、七草 真由美が所属する三年A組の実技が行われていた。

 

 彼女は遠隔精密魔法の分野で十年に一人の英才と呼ばれ、その実技を見ようと大勢の新入生が射撃場に詰め掛けたが、見学できる人数は限られており、一科生に遠慮する二科生が多い中で渚達は堂々と最前列に陣取ったのだ。

 

 そして、三回目は今まさに進行中だ。

 

「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挟むことじゃないでしょう。別に、深雪さんはあなたたちを邪魔者扱いなんかしていないじゃないですか。一緒に帰りたかったら、ついてくればいいんです。何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか」

 

 美月が容赦ない正論を叩きつけるも、一科生は「彼女に相談することがある」とか「少し時間を貸してもらうだけ」など子供みたいなことを言うだけである。

 

「ハン!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間がとってあるだろうが」

 

「相談だったら予め本人の同意をとってからにしたら?深雪の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの。高校生になってそんなことも知らないの?」

 

 その一科生の言い分に対し、レオは威勢良く笑い飛ばし、エリカは皮肉たっぷりの笑顔と口調で再び正論を叩きつけた。

 ただ、相手を怒らせることが目的のようなエリカのセリフと態度に、注文通り、男子生徒が切れた。

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

 差別的ニュアンスがある、という理由で『ウィード』という単語の使用は校則で禁止されている。

 半ば以上有名無実化しているルールだが、それでも、野次馬がいるこの場で使用される言葉ではない。

 この暴言に真っ正面から反応したのは、美月だった。

 

「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというのですかっ?」

 

 決して張り上げていたわけではない。

 だが、その言葉は不思議と辺りに響いた。

 

「……あらら」

 

(言っちゃったか……仕方ないね)

 

 これに対して達也も不味いことになったという意味で言葉を漏らし、渚は次に起きることを予測して行動に移す。

 

「……どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」

 

「ハッ、おもしれぇ!是非とも教えてもらおうじゃねぇか」

 

 まさに、売り言葉に買い言葉だった。

 

「だったら教えてやる!」

 

 学校内でCADの携帯が認められているのは生徒会の役員と一部の委員会のみ。

 だが、校外でCADの所持が制限されることはない。

 

 意味がないからだ。

 

 故に、CADを所持している生徒は、授業開始前に事務室へ預け、下校時に返却される手続きとなっている。

 つまり、下校途中である生徒がCADを持っているのは、別におかしなことではない。

 

「特化型!?」

 

 だが、それが同じ生徒に向けられるとなれば、非常事態だ。

 向けられたCADが、攻撃力重視の特化型なら尚のことだ。

 

 CADには汎用型と特化型の二種類があり、汎用型は最大九十九種類の起動式を格納できる代わりに使用者に対する負担が大きく、特化型は起動式を九種類しか格納できない代わり使用者の負担を減らすサブシステムがついており、魔法をより高速に発動することを可能とする。

 

 その拳銃の形をした特化型CADの銃口は、レオに突きつけられていた。

 

 その生徒は口先だけではなかった。

 CADを抜き出す手際、照準を定めるスピード、どちらも明らかに魔法師同士の戦闘に慣れている者の動きだった。

 

 そして、その銃口を向けられたレオが体当たりを、エリカが警棒らしきものを身構えたと同時に、すぐにそれをやめてある一点に視線を集めた。

 いや、レオやエリカに限らず、美月や深雪、達也もCADを構えた男子生徒の後ろにいる人影(・・・・・・・)に視線を集め、また一科生もその男子生徒を除いて驚愕の眼差しでその人影を見ていた。

 

「これが二科生(ウィード)一科生(ブルーム)の……ッ!?」

 

 そして、その男子生徒が決め台詞みたいなものを言ってた中、いきなり言葉を止め、顔面が蒼白していった。

 

◆◆◆

 

「これが二科生(ウィード)一科生(ブルーム)の「本当にやっちゃうの?」ッ!?」

 

 「これが二科生と一科生の差だ」と言おうとしていたCADを構えていた男子生徒、森崎駿の背中に、悪寒が走った。

 突如として耳元に囁かれた優しい、だが、悪魔のような声。

 

「僕は別にやってもいいと思うよ?この距離なら魔法の発動より千葉さんとレオのスピードの方が早いからね」

 

 人間に残っていた本能が絶叫する。

 強者に捕食される恐怖、例えるなら、死神の鎌が首に宛がわれている感覚。

 

「差を見せつけるんでしょ?僕にも見せてよ」

 

 足がガクガクと震える。

 首を振り向くことさえ許されないほどの恐怖が耳元から囁いてくる。

 魔法の起動式は既に解体しており、森崎は全身汗だくになって震えている。

 

「……冗談だよ。魔法を使う前に思い止まってくれたようでよかった」

 

 耳元で囁くのをやめ、森崎に前に立って屈託のない笑顔で言うその人物は、青髪に中性的な顔立ち。

 さっきまで向こう側にいたはずの二科生だった。

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人――」

 

 誰か止めにきたようだが、森崎にその声の主を確認する余裕などなかった。

 

◆◆◆

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に……あれ?誰も魔法発動していないじゃない」

 

「騒ぎがあったことは確かだ。風紀委員長の渡辺 摩利(まり)だ。1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聞きます、ついてきなさい」

 

 騒ぎを聞き付けてやってきた真由美と摩利は通報に聞いていた状況と現在の状況が全く違ったことに困惑するも、騒ぎがあったのは間違いはない。

 風紀委員、ましてや、風紀委員長なら当然の行動だ。

 

 未だに何が起きたか理解していない人が多数存在するなか、達也が摩利の前へと歩みでた。

 

「すみません。悪ふざけが過ぎました」

 

「悪ふざけ?」

 

 唐突に思えるそのセリフに、摩利の眉が軽くひそめるられる。

 

「はい。森崎家のクイックドロウは有名ですから、後学の為に見せてもらうだけのつもりだったんですが、あまりにも真に迫っていたため身構えてしまっただけです。ただ、さすがは一科生ですね。起動式をキャンセルするスピードも含めて、無駄が全くありませんでした」

 

 少し腑に落ちない点もあるのだが、見ている限りでは確かに達也の言った通りだった。

 摩利もそれ以上言及出来ずに、真由美に目配せをする。

 真由美はその視線に頷き、全員から見える位置まで歩みでた。

 

「確かに、生徒同士で教え合うことが禁止されているわけではありませんが、魔法の行使には、起動するだけでも細かな制限があります。このことは一学期の内に授業で教わる内容です。魔法の発動を伴う自習活動は、それまで控えた方がいいでしょうね」

 

「……会長がこう仰られていることでもあるし、今回は不問にします。以後このようなことの無いように」

 

 真由美の言葉に、いまいち納得しないまま摩利がそう告げ、踵を返した。

 が、一歩踏み出したところで足を止めて、背中を向けたまま問いかけを発した。

 

「君の名前は?」

 

 首だけ振り向いたその視線の先には、達也がいる。

 

「一年E組、司波 達也です」

 

「覚えておこう」

 

 そして、今度こそその二人は歩き去っていった。




アンチ・ヘイト……必要でしょうか。

今回はあえてここで止めさせていただきます。

皆様、まだあれは使いませんよ?
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