魔法科高校の暗殺者   作:型破 優位

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ギリギリ一週間……
先ほどの誤投稿申し訳ありませんでした。


横浜争乱編
生徒会長選挙の時間 一時間目


 色濃い夏休みも終わった新学期初日。

 久しぶりの学校ではあるが部活動は定期的にやっていたため学校そのものに新鮮味はない。そしてやることも変わらない。聞いた話によると大会はあるにはあるのだが、基本一年生は一科生二科生に関わらず出場しないことになっているとのこと。恐らく出場人数も関係があるであろうそれは、まあ渚の士気を落とすほどの情報でもなかった。

 

 そして今、例のごとく鋼と組手の最中である。実力が近いもの同士でこの組手は行われているのだが、一年生では鋼と渚が飛び抜けているため基本固定となってしまっている。今回の組手もまた約束組手ではあるが、外傷内傷のどちらかをさせない程度なら魔法の使用許可、というほぼ実戦に近い形式となっている。魔法の使用可となれば、二人の強さは大きく変化する。

 

 加速魔法を使って高速で組手を行う二人だが、渚は防戦一方。一撃喰らえば意識を持っていかれる可能性もある。体術では渚の方が上でも、鋼は一科生で渚は二科生。魔法込みのこの競技では体術の差などあって無いようなもの。だがそれでも、今までの対戦成績は渚の全勝だ。マジック・アーツの世界では別名共に有名な鋼。同年代の近接においては無類の強さを誇る彼相手にこの成績は、渚の素性を知らないものであれば目を疑うしかない。

 

 今も渚の防戦一方とはいえ、まだ機を伺っている余裕はある。そしてこれは、()()()()()()()()でもあった。今までと違うのは、今回初めて意識を刈り取っても良い魔法の使用許可が出たことにある。しかし、渚にそれを使う術は無い。十三束は接触型術式解体の使い手。通常の術式解体とは違って常にその状態を保てるため、常に干渉装甲を展開しているのと同義だ。意識を刈り取るということで渚も九校戦で使った魔法を使用可能になるわけだが、干渉力が弱い――近接に対しての鋼の干渉力が強すぎる――というのもあり、防御に徹するしかないといった具合だ。

 

 そして鋼は渚との対戦経験により、実力を大きく伸ばしている。渚の戦い方は多岐に渡り、その場で弱点を修正する力があるが、勝てたのは鋼がかなり制限を受けているのが等しい。鋼のリミットが段々と外されていることもあり、勝負は激戦となることが常となってきている。

 

 その理由として一番に挙げられるのが、鋼の戦い方にある。渚の戦い方がいくつものナイフを所持して適材適所に使って弱点を無くすのだとしたら、鋼は十徳ナイフのようなもの。自らが様々な機能をもたらすことにより弱点を減らしているのだ。そしてさらに、()()()()()()()()()動きで渚を翻弄する。

 

 ――セルフ・マリオネット。

 

 移動系の系統魔法で、術者の肉体を移動系魔法のみで動かす術式。人体の構造、また力学上、不可能な攻撃を繰り出すことができることが特徴としているこの魔法は、精密なサイオンコントロールがあってこそ行われるもの。それを込みで予想して動けば対処はできないこともないのだが――

 

 

「ここだっ!」

 

「――ッ!」

 

 

 ――少しの読み間違えが命取りになりかねない。まさに間一髪のところで鋼の手を逃れ真横を突いた渚だが、鋼は空中で急に方向を変えて渚を捕まえんと勢いそのままに飛来する。決まった――()()()()()()()他の部員の誰もがそう思った。()()()()()()()()が。

 渚は真横に移動したときの低くした重心をそのまま一気に真下まで落とし、地面と上半身を水平にしてその真上を通過する鋼の手を、顔を目視。下へ落ちる力と鋼の推進力を利用して足をそのまま鋼の腹部へと当て、蹴り上げる用量で前方へと蹴り飛ばした。

 

 それにより渚は背中を地面に打ちつけ肺の空気を一気に出す程のダメージを負ったが力という力を使って行われた受け流し技にセルフ・マリオネットでも動きを止めるだけに留まり、素早く立ち上がって体勢を整えた渚と再び向き合う形となる。

 鋼もカウンターにより渚と同等のダメージを負っているため、未だ拮抗した状態。それを見た部長は、組み替えを行って三戦目開始の合図をした。

 

 

◆◆◆

 

 

 結局、勝負はつかなかった。

 初めての引き分けである。

 

 

「やっぱり鋼は強いよ……全力だったら本当に負けそう……」

 

「よく言うよ……さっきのだって……倒そうと思えば何回かチャンスはあったはずなのに……吉祥寺を倒したみたいに……」

 

「あはは、でもあれは練習で使っていいようなものじゃないよ……まず、あまり人に使わない方が良い」

 

「まぁお互いまだ力を隠してたということで……決着つけようか……」

 

「そうだね……」

 

 

 二人とも息も絶え絶えと言ったところだ。結局他の部員が五戦目を終わらせたところでも決着がついてなかった二人は、一度も組み替えをせず――元から替えることはないのだが――本日の部活動を終えた。

 今回の戦いは全くと言って良い程の五分。確かに渚がクラップスタナーを使えば勝てたという瞬間は数回に止まらず、十数回はある。だがそれは鋼にも言えたことで、渚の負傷を厭わないのならその隙すら与えなかっただろう。そして負傷については渚も同じ。よって机上の空論でしかないそれは、話しているだけでは無駄。お互いに引き分けで納得した。

 

 

「ここまでやってやっと引き分けか……」

 

「僕なんて逃げるのがやっとだよ」

 

「よく言うよ。勝ちだけは譲らないくせに」

 

「簡単に負けたら鋼のためにも僕のためにもならないよ」

 

「そりゃそうだ」

 

 

 それから渚は鋼と別れて汗を拭き、着替えを済ませて校門へ向かいながら携帯を見ると、そこに一通のメールが入っていることに気がついた。達也からのメールで、『いつものメンバーで喫茶店に行くのだが、来るか? 来るなら校門前で待つ』とのことなので家へと連絡し母親に確認したところ快諾。『今すぐ行くね』と返信を送ってそのまま歩みを進めた。

 

 校門前。そこにいたのは達也、深雪、レオ、幹比古、エリカ、美月、雫、ほのか。本当にいつものメンバーだ。渚は軽い労いの言葉をかけつつ輪の中へと入り、駅までの道の途中にある喫茶店へと向かった。そしてテーブルを囲んで話題になったのは、生徒会長選挙について。ここ五年は総代が務めているらしく、次期会長に名前が上がっているのは副会長の服部と書記のあずさとのこと。しかし服部は十文字に部活連会頭を頼まれているらしく、消去法的にあずさ単独の選挙になりそうだということなのだが、あずさと言えば渚よりも小さいかもしれない身長で、見た目通りの気弱そうな子だ。

 

 

「ぅ~ん……正直言って、チョット頼りねえかなぁ」

 

 

 レオの厳しい意見も尤もだ。

 

 

「でも実力はピカイチ」

 

「生徒会長は、優しい人がいいような気がします」

 

 

 そして、雫と美月の意見も尤もなこと。しかし、本人はやりたくないと言っているらしく、また次期会頭の服部を引き抜くわけにもいかない。そうなるとやはりあずさが立候補しないといけない――という悪循環に見舞われているという。

 

 

「あ、ならさ、深雪が立候補したら!?」

 

「チョッとエリカ。何を言い出すの?」

 

 

 そこで突如放たれた、名案を思い付いたような表情のエリカのセリフに深雪は目を丸くする。しかしエリカはその思い付きが気に入ってるようだ。

 

 

「別に一年生が会長になっちゃダメ、って規則があるわけじゃないんでしょ? 深雪はこの前の九校戦でピラーズ・ブレイクの新人優勝に加えて、二年、三年入り交じってのミラージ・バット本戦でも優勝してるんだし、実力も知名度もバッチリだと思うけどな」

 

「無茶言わないで。大体、高校生の『実力』は魔法力だけで測られるものではないわよ? 潮田くんが良い例よ」

 

「それなら達也にも当てはまると思うよ」

 

「その良い例から指名されて、さらに学力もある達也くんがいるなら尚更やるべきじゃない? それに生徒会長になったら役員を自由に任命できるんだよ」

 

 

 エリカと深雪のやり取りに、美月がエリカを指示する形で参入した。

 

 

「そうですね。七草会長は、一科生縛りのルールを廃止すると仰ってましたし」

 

「美月まで……」

 

 

 表面的にはたしなめるセリフではあるが、深雪の声には揺らぎが感じられた。実際にその目は迷いが生じてきているものだ。

 

 

「そーそー。それにさ、生徒会長になったら達也くんを風紀委員会から引き抜くことだってできるんだよ……」

 

 

 エリカの囁くような声。

 深雪の動揺は目に見えて大きくなる。

 

 

「逆に達也が生徒会長になってもいいんじゃない?」

 

「おっ、そりゃ面白そうだな」

 

 

 さらに飛び火。今度は幹比古の突拍子もない言葉にレオが悪乗り気味に同調しだした。だが達也は呆れ顔でそれをきっぱりと否定する。

 

 

「それは無理だ。確かに深雪だったら一定の票を得られるかもしれんが、俺に票が集まるはずはない」

 

「いや、そうでもないよ達也」

 

 

 だがその否定を間髪入れず否定したのは、渚。

 そこに乗っかる形で雫が続く。

 

 

「うん。達也さんは九校戦優勝の立役者」

 

「いや、雫、それはな……百歩譲って優勝に貢献があったとしても、競技には一つしか出てないんだから。裏方の仕事なんて表からみても分からないって」

 

 

 それでも否定を続ける達也。だが今度は悪乗り気味であったレオ達とは違い、熱心な応援が返ってくる。

 

 

「でも私は達也さんが立候補したら絶対に投票します!」

 

「私もです、お兄様。お兄様が選挙に出られるなら、私は応援演説でもビラ配りでもなんでも致します」

 

 

 二人の熱気は今までの冗談な雰囲気をかき消すもので、達也は頭痛がするのか頭を抑えだした。だが声には出さないものの、達也が立候補するなら票を入れちゃうな、っと渚も思っていたことは、この場で言う必要の無いことなのかもしれない。

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