魔法科高校の暗殺者   作:型破 優位

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演習の時間

 達也の論文コンペ参加の噂は、瞬く間に広まった。本当に何処から情報が漏れているのか分からないが、この高校の情報伝搬率は異常だと渚は思っている。

 現在放課後のクラスでは誰一人として帰ることなく達也の論文コンペ参加の話題で持ちきりだが、それは渚にとっても他人事では無くなる。

 

 突如として開かれたドア。

 全員がその行為をした者を確認すると、すぐに達也へと視線が向いた。そこにいたのは、沢木だ。となれば、風紀委員関連と見るのが妥当だろう。いつもなら確かにそうだ。だが、この場に限っては間違いだった。

 

 沢木の足は皆の予想通り達也へ。そしてこれから論文コンペの準備へと向かう達也へ軽く労いの言葉をかけると、今度は渚の方へと歩みを進めた。それに気がついたクラスメイトが次々と視線を集めていく。

 

 

「沢木先輩、どうしたんですか?」

 

「十文字さんがお呼びだ、渚。今から部活連本部へ向かって欲しい。内容は十文字さんから聞いてくれ。ああ、悪い話ではないから安心しな」

 

 

 クラスが、ざわつく。

 克人直々の呼び出しなど滅多にあることではない。何かやらかした、ならあり得るかも知れないが、悪い話ではないということはその線も違う。

 クラスの話題が一斉に渚へと転移して盛り上がりを見せる中、達也たちへ軽く挨拶を入れて渚は教室を出た。

 

 道中は、沢木も一緒だ。

 迷うことがないように、というのが第一目的だろう。だが何処か、沢木の表情が堅いのを渚は感じていた。

 

 

(緊張? いや、どちらかと言えば()()かな)

 

 

 それはまるで、これから命を賭けた戦闘をするかのような表情。沢木から伝わる緊張感に、渚も真剣な表情となる。

 そして部活連本部の扉の前へ。

 

 

「渚……いや、なんでもない。行ってこい」

 

 

 すると、緊張した面持ちで沢木が一言。だが途中で言葉を切った。

 それに疑問を覚えながらも、頷いてコンコンコン、ノック。

 

 

「一年E組。潮田です」

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 

 中から威厳のある言葉と共に許可を貰ったため、ドアノブを回して中へ。チラっと沢木を見るが、沢木は来る気配が無い。つまり一人で入れと言うことだ。

 中には威圧感溢れる厳のような大男。見たことはあるが実際に対面すると、その強さが伺える。

 渚はどの位置まで近づけばいいのか迷い、とりあえず、中央へと向かった。それをじっと観察しているだけの克人。中央で止まったのを確認し、克人は魔法を使った。

 

 

「防音の魔法だ。少し聞かれたくない内容もあるからな」

 

 

 渚が思ってたよりも、かなり重大な話のようだった。

 

 

「まず呼び出した理由を単刀直入に言おう。いきなりだが潮田。お前には論文コンペの会場警備隊に加わって欲しい」

 

 

 本当にいきなりだった。それこそ、すぐに反応を返せない程度には。

 

 

「潮田はマーシャル・アーツ部の中でも特に優秀と沢木から聞いている。それに九校戦での活躍は見事だとしか言いようがない。そして、例の教室の首席。是非とも、力を貸して欲しい」

 

 

 ここは部活連本部。何故現会頭の服部ではなく十文字が呼び出したのか謎だったが、これで納得した。暗殺教室のことは国家機密。それは防音魔法も必要になるだろう。力を貸して欲しいと言うあたり、十師族として思うところもあるのだと推測できる。

 

 

「僕でよければ力になります。しかし――」

 

「ああ、分かっている。潮田の力は暗殺をするためのもの。だが論文コンぺを成功をさせるためには、それを狙う者に手加減の余地はない。それに潮田は殺さず無力化することも心得ているからな」

 

「――分かりました。ですが、本番以外は具体的に何をすればいいのでしょうか」

 

「そうだな。基本的にお前たち会場警備隊には()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そして、この言葉は渚にとっても意外感を隠せなかった。会場警備隊というのがあるのは聞いていた。沢木が選ばれていたのを知っていたからだ。そして、その総隊長が克人であることも、知っていた。だから克人がその勧誘に来たところで、不思議なことはない。これまでの話は全て既知の範囲内。だが克人と戦うことだけは、想定外だった。

 

 

「会場警備隊は現在俺を含めて十一名。二年が四人、三年が五人、一年が二人。もう一人の一年は潮田もよく知る人物だ」

 

「僕が良く知るですか。もしかして、はが――十三束ですか?」

 

「その通りだ。それと急だが、演習はこの後すぐ行うことになっている。CADを持ってすぐ野外演習場に来い。そして――やるからには()()()()()()()()。話は以上だ」

 

 

 言うことだけ言って部活連本部から出ていった克人。渚もその後に続くように出ると、外には沢木が待っていた。

 

 

「よぉ。何言われたかは分からんが、これから野外演習場だ。これは十文字さんの訓練相手という名目だが、同時に俺らの訓練でもある。叩きのめされることを覚悟しろよ」

 

「は、はい!」

 

 

 殺すつもりでこい。克人は確かにそう言った。渚に、暗殺教室の生徒に対してその言葉の意味を理解していない人ではない。文字通り、暗殺しにくるように言ったのだ。

 相手は十師族で絶対的防御を誇る十文字家の事実上当主。間違いなく、過去最大の強敵。

 渚の顔は、隠しきれない闘志にみなぎっていた。

 

 実践形式ということもあり、CADを取りに行ってから沢木と共に更衣室で支給されたプロテクターを身に包んでから野外演習場へ。

 そこにはモノリスの時と同じようにプロテクターに身を包んだ生徒が既に九人揃っていた。そこには現会頭の服部、桐原、モノリスメンバーの辰巳、鋼などそれなりに顔を知っている者たちがいる。どうやら渚と沢木が最後のようだ。

 克人とは服部が連絡を取り合っているらしく、演習の円滑化を図っていた。

 

 渚は顔を合わせた者に軽く会釈をしながら鋼の元へと向かう。

 

 

「やぁ渚。やっぱり選ばれてたんだね」

 

「鋼もさすがだよ。よく考えたら、一緒に戦うのは初めてだね」

 

「……言われてみれば確かに。相手は十文字さんだけど、渚と一緒ならもしかしたら――なんて、さすがに夢を――」

 

「そのことなんだけど、鋼。話があるんだ。僕は必ず十文字さんをあんさ……倒したいんだ」

 

「――へぇ、何か策がありって感じ?」

 

 

◆◆◆

 

 

(……ヤバい)

 

 

 木の上に身を隠しながら、渚は冷や汗を流していた。

 敵は間違いなく克人ただ一人。こちら側も全員が実力者揃い。なのに開始三十分ほどで既に半数がリタイアしていた。

 現在残っているのは渚、鋼、服部、沢木、辰巳の五人だけ。彼らは連携していないわけではない。むしろ、即席にしてはよく出来ている方だ。なのに、今のところ克人に有効打を与えた者はいない。

 

 こちら側も直接的な会話以外では交信する手段はない。よって渚はまず一人で動くことに決めた。勿論渚の実力を見込んで勧誘してくる二年生、三年生――予想外だったのは、その中に服部が含まれていること――はいたが、それら全て断ってのことだ。

 

 渚が残っている人数を知っているのは、実際に見ていたからだ。絶対に向こうにバレないよう、完全に殺気を消して隙を待つ。時に木陰から、時に木の上から狙っていた。しかし克人に隙など無く、その間に一人、また一人とやられていったのが現状だ。

 こちらとしても、これ以上人員を減らすわけにもいかない。常に克人に付きっきりの渚だが、克人の警戒はそれこそ並のものではなく、少しでも物音を立てようものなら即刻ゲームオーバーだ。実際、それで二人ほどやられている。

 

 現在は木の上。しかも真上に位置している。今はまだバレてはいないが、克人とずっと一緒にいるのと遜色ない渚には、その克人の威圧感が直に伝わり続けている。それが渚の精神をじわじわと削りとっていく。時間はない。恐らく次は四人全員で攻めてくることが予想できる。それが正真正銘、この試合のラストアタック。

 

 その決戦の時は、刻一刻と近づく。

 不意に、何かに勘づいたように一点を見つめる克人。精神を削り感覚を研ぎ澄ましている渚にも分かった、視線の先の木陰にいる人の気配。

 

 克人はゆっくりとCADを操作し始めた――瞬間、一斉に魔法式が克人を覆う。

 明らかに克人の罠だった。その罠に引っ掛かったことに、口許を少し吊り上げる。だが、それが()()だった。

 

 克人はその瞬間、自分が()()()()()()()()ことを直感する。克人の背後に気配無く舞い降りる、青い死神。

 克人はおろか、その場にいた他の四人ですら、真上にいた渚の存在を認知していなかった。それほどまでの、恐ろしい隠密。

 

 驚いたように目を見開きながら振り向く克人。だがもう遅い。

 渚のナイフが、克人の頭に目掛けて正確に振り下ろされ、その瞬間に加重系統で統一された魔法が克人を襲った。




原作の幹比古以上の活躍をしている渚。
論文コンペにもしっかりと関わっていきます。
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