魔法科高校の暗殺者   作:型破 優位

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赤バー……嬉しすぎて泣きそう。
評価をくださった皆様、本当にありがとうございました。

今回の話で、ここ数話で分からなかったことが分かるかと思います。

⚠暗殺教室を読もうとして読んでいない方、まだ途中の方は、許容されないレベルのネタバレが含まれますので、駄目だという方はブラウザバックをお願いします。


過去の時間

「ハァ……ハァ……」

 

「お兄様、お疲れ様です」

 

「ハァ……ありがとう、深雪」

 

 翌日、達也と深雪はとある場所に来ていた。

 

「お疲れー達也くん。まだまだ甘いねぇー」

 

 トレーナー姿の達也は早朝、師匠にして由緒正しき『忍び』――『忍術使い』ともいう――の家系にして寺の住職、九重(ここのえ) 八雲(やくも)に稽古をつけてもらっていた。

 これは達也が中学一年生の時から、正確にはその十月から続いている毎朝恒例のことで、今日もまた、達也は八雲との組手に大敗を喫して現在は地に背中を預けている。

 

 ある程度息を整えてから達也は立ち上がると、深雪がポケットから薄型携帯端末のCADを取り出した。

 

「お兄様、少しだけお待ちください」

 

 短い番号を入力すると、どこからともなく出現した実体の雲が達也の全身を覆い、トレーナーについた汚れを落としていく。

 その雲が晴れたころには、達也のトレーナーには汚れ一つなくなっていた。

 

「それではお兄様、朝ご飯にしませんか?先生もよろしければご一緒に」

 

 CADをポケットへ入れた深雪は、手に持っているバスケットを軽く掲げてそう言った。

 

◆◆◆

 

 朝食のサンドイッチを食べ終わった三人は、縁側にていつものように談笑している。

 

「もう、体術だけなら達也くんには敵わないかもしれないねぇ」

 

 それは、八雲からの紛れもない賞賛。

 だが、達也にはこの賞賛が素直に喜べなかった。

 

「体術が互角なのに、あれだけ一方的にボコボコにされるのも喜べることではありませんが……」

 

「それは当然というものだよ、達也くん。僕は君の師匠で、さっきは僕の土俵で組手をしていたんだから。君はまだ十五歳。半人前の君に遅れをとるようでは、弟子に逃げられてしまいそうだ」

 

 達也の愚痴とも取れる言葉に、八雲は呆れ気味にそう小さく笑う。

 

「そういえば、一高の二科生に一般の中学校から入学した子がいると思うんだけど、達也くん、その子どうしてるかわかる?」

 

「……ッ!」

 

 ふと、何がきっかけなのかは分からないが八雲が思い出したように言ったその言葉は、達也、深雪にとっては聞き逃せないものだった。

 

「……潮田 渚のことですか?」

 

「そう、その子。達也くんのお友だちかい?」

 

「はい。実は、その彼について少し調べてほしいことがあるのですが」

 

 八雲は、達也の師匠で寺の住職である前に、忍びだ。

 つまり、情報収集は彼の得意分野でもある。

 だが、達也の依頼を聞いた八雲は、やっぱり、といった顔をしていた。

 

「まぁ、彼を知ったらそうなるだろうね」

 

「渚のことで何か知っているんですか?」

 

 若干食い気味に八雲に問う達也。

 その反応に、八雲が苦笑する。

 

「まぁ、去年からちょっと調べていたんだが……達也くんは去年のこの時期の事件についてどれくらい知ってるかい?」

 

「柳沢 誇太郎(こたろう)、旧姓、八朔(はっさく) 誇太郎が作り出した超生物が月を破壊した事件、ということぐらいです」

 

「まぁ、合格点と言ったところだね。月を壊したのはその超生物の細胞を持ったマウスが爆発を起こしたからなんだ」

 

 達也は素直に驚いた。

 マウス一匹で月を三日月に、約七割を破壊するほどの威力があるというのは、現在の兵器の中でも――魔法を含めて――最大火力とも言えるからだ。

 

「その超生物は『死神』と呼ばれる世界最強の殺し屋。そんな彼にはその超生物になるまでの過程で、好きな人が出来てしまってね。彼女はある中学校の教師をしていたんだけど、その事件で死んでしまったんだ。そして彼女が勤めていた学校が、椚ヶ丘中学校の三年E組。渚くんの出身校にして、彼女は渚くんの担任だったのだよ」

 

「なるほど……入学式の反応はそのためか」

 

 達也は、入学式でE組とわかったときの渚の反応を思い出していた。

 あのときの渚は、人生で最高の日と言いたいほどの嬉しそうな表情をしていたからだ。

 

「彼女の死に際に、E組を託されてそれを承諾したその超生物は政府に持ちかけて、『生徒に一切危害を加えない』という条件で三年E組の担任となった。当然政府はその生徒に暗殺の協力を持ち掛けるも、やはり超生物は超生物。殺せる気配が全くなく、そこで生徒に付けられた名前が殺せない先生ということで、『殺せんせー』。殺せんせーが担任を持ったE組は『エンドのE組』と呼ばれていて、椚ヶ丘中学校で成績があまりよくない生徒のクラスで本校とは隔離された場所にあって、殺せんせーが担任した当時のE組生徒は既に将来の希望を捨てていた」

 

「蔑まされた視線を向けられても笑っていたのはそれだからか」

 

 今度は入学式で深雪と別れた後、ベンチで会った渚を思い出していた。

 ウィードと蔑まれたのにも関わらず、彼は懐かしむように笑っていたのだ。

 その達也の言葉に微笑みながら、八雲は続けた。

 

「でも、E組の担任が超生物というのはさすがに不味くてね。表向きの担任に、防衛省の特務部所属の大佐が副担任としてついた。そこで、彼からは中学校の授業とともに、暗殺技術を。殺せんせーからは中学校の授業とともに、人の時の暗殺技術を活かした常識に囚われない教育によって、彼らは学力、身体能力、そして、精神面でも成長していった」

 

 そこで、達也と深雪はハッとする。

 暗殺技術を学んでいるのなら、人に感知されずに背後を取ることも確かに可能だ。

 

「そして、潮田 渚は『暗殺教室』の首席にして、殺せんせーを暗殺した本人。彼の目標である『殺せんせーみたいな教師』を目指して、高校の合格を取り消してまで一高へと入学したんだ」

 

 そして、さらにはその教室での首席にして、超生物を暗殺した本人となれば、達也を欺いたことも納得できる。

 さらに、森崎のことについても、その暗殺技術を応用した何かを使ったとしたら、あの反応もわかる。

 

 殺されると森崎が本能で知覚してしまったと考えることは、容易だった。

 

「ちなみにだけど、彼はプロの殺し屋、軍人の魔法師を倒すほどの実力を持っている。不意打ちならもしかしたら僕でも危ないかもね」

 

「……なるほど。そういうわけでしたか。相変わらず素晴らしい情報収集能力ですね」

 

 どうやったらここまで調べられるのか知りたいところだが、森崎の件はこれですべて納得がいった。

 

「でもね、実は僕、殺せんせーに見つかっちゃったんだ」

 

「先生がですか?」

 

 これには素直に驚いた。

 いや、話された内容も驚くものばかりなのだったのだが、八雲の情報収集能力を知っている人ならば、それすら越えるかもしれない。

 八雲でも情報を取れないとされる場所は、日本でも片手で数える程度しかない。

 その八雲を見つけたというのだ。

 

「しかも、見に行った初日にだよ。あれはさすがに参ったね。気がついたら後ろから声を掛けられていたんだ」

 

 しかも、八雲に気づかれずに、初日で。

 これだけで、この殺せんせーがどんな化け物なのか容易に想像つく。

 

「そして、一回力試しも含めて勝負を挑んだんだけど……頭をピカピカに拭かれただけで手も足も出なかったよ」

 

「先生ですら敵わない相手を……」

 

 達也の中で渚に対する警戒心を強める。

 それほどの実力、警戒しないわけがない。

 しかし、そんな達也を見た八雲は笑いながら言う。

 

「大丈夫だよ。彼は一回も人を殺めたことはないし、君たちに危害を加えるつもりはない。彼は目的に向かって一途なだけの純粋な高校生だ」

 

「……そうですね。どうやら自分は疑い深くなりすぎていたようです」

 

 八雲が言った通り、彼は純粋に高校生活を楽しんでいた。

 それは渚の様子を見ればわかる。

 

――裏に関わりすぎたか。

 

 達也は、純粋に高校生活を楽しんでいる渚を警戒するのはおかしなことだし、また、羨ましいとも思った。

 それに、警戒をしたとしてもあの笑顔をみるとそれも少しずつ緩んでいく。

 

 彼の純粋な心に触れてしまったからだろう。

 

「さて、そろそろ学校に向かった方がいい時間だよ」

 

「そうですね。本日はありがとうございました」

 

 確かに、時間もいい感じになっていた。

 達也も深雪も八雲に一礼して、門をくぐる。

 だが、そこで達也は歩みを止めた。

 

「最後に一つ、いいでしょうか」

 

「ん?なんだね?」

 

 そう、達也は一つ、どうしても気になることを聞きそびれていたのだ。

 

「渚が感情を読めるのも、やっぱり暗殺技術でしょうか?」

 

「……あれは家の事情だよ。あまり深く踏み込まないであげなさい」

 

「そうですね。ありがとうございました」

 

 生きる術。

 達也にはそれが理解できた。

 柄にもないことをした、と頭を切り替えて、今度こそ学校へと向かった。

 

◆◆◆

 

 一高最寄りの駅でキャビネットから降り、二人並んで登校する。

 

「お兄様、どうやら杞憂だったようですね」

 

「ああ。反省しているよ」

 

 高校生活を素直に楽しんでいる渚に対して、かなり失礼なことをしているのは明白だった。

 自分も高校生らしく、渚と接しよう、そう決意した達也。

 

やぁ

 

 悪寒が走った。

 バッ!と振り返ると、本日の話題筆頭の男がいた。

 

「どうしたの?」

 

 達也に一筋の汗が流れる。

 声をかけられた瞬間、蛇に睨まれたような感覚が、首に毒牙を当てられているような感覚が彼を襲った。

 達也が、ほぼ衝動的(・・・)に反応したのだ。

 

「いや、何でもない……一緒に行くか」

 

「うん!」

 

 達也は認識を間違えていた。

 いくら警戒をしても、渚の笑顔を見ると警戒が緩んでしまうと思っていた。

 

 だが、それは違った。

 

 緩んでいたとしても、警戒はしていることに間違いはない。

 でも、実際にはそれは警戒していたのではなく、そう思い込んでいただけ。

 

 達也は、実際には渚を警戒することができていなかった(・・・・・・・・)のだ。

 

 そして、警戒していたという思い込みすらもなくなった瞬間、これである。

 

 どんなに警戒しても、気が付いたら解けている。

 

 達也が、渚の暗殺者としての実力を直に感じた瞬間だった。




渚の過去、わかりましたか?
暗殺教室首席は伊達ではないということですね。
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