魔法科高校の暗殺者   作:型破 優位

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日間 一位

日間(加点式) 一位

週間 六位

月間 三十九位

この成績はすべて皆様のおかげです!
本当にありがとうございます!


種明かしの時間

 ペダルスイッチでCADを支える脚の高さを調節し、パネルに掌を当てる達也は、台車を動かしながらさっきの渚を思い出していた。

 

――サイオンの使い方に無駄がなさすぎる。

 

――何よりも、静かだ。

 

 渚のサイオンの流れ、それを視た(・・)達也には分かった。

 

――渚は、この授業の本質を理解している。

 

 横に目を向ける。

 クラスメイトの男子が台車を動かそうと張り切っており、初速度十分に、台車を往復させていた。

 

 確かに初速が早いのは、それだけ魔法が上手くいったということなのだから、良いことなのだ。

 しかし、それは魔法が上手くいっただけ(・・)である。

 

 二科生は魔法の実技が乏しい人が多く、いきなり魔法を上手く使おうとしても、上手く使えないことの方が多い。

 

 渚がやったのは、必要最低限のサイオンをコントロール(・・・・・・)して、余分な力を使わずに台車を動かすということ。

 

 CADの使い方を覚えたら、次はサイオンのコントロールを覚えなければ安定して魔法を成功させることができない。

 

 コントロール出来れば、その分力を集中しやすい。

 初歩的なことだが、とても重要なことだ。

 

 しかし……と、自分の台車のスピードをみながら思う。

 

――遅すぎる。

 

 サイオンを正確にコントロール出来ている自分が、E組二十五人の中でも後ろから数えた方が早いぐらいには遅いスピードで動かしているのは、どうなのだろうか。

 

 今更だ、と割りきってはいる。

 だが、結果を投げているわけではない。

 達也自身、ため息をつきたくなる結果をしっかりと自覚していた。

 

◆◆◆

 

 放課後、生徒会室に呼ばれているが全く乗り気ではない達也を「頑張れ~」と無慈悲に見送ったレオとエリカ、それを苦笑しながら見ていた渚と美月は帰路についた。

 

「ねぇ!今から駅前のカフェにいかない?」

 

「いいですね。私も行きます」

 

「俺も良いぜ」

 

「え、あんたカフェとか行くんだ」

 

「ほっとけ」

 

 とはいっても、まだ家へと直行するのには惜しい時間帯だった。

 エリカの誘いに美月とレオは即答するも――レオに茶々をいれるのはご愛嬌――渚は顎に手を当てて考え事をしている。

 

「渚くんはどうする?家のお手伝いとかある?」

 

「いや、大丈夫だよ。ちょっと連絡だけいれるね」

 

「やた!」

 

 繰り返すが、まだ家へ直行するのには惜しい時間帯で、寄り道をしても問題ないくらいには時間がある。

 それにより、問題なし、と結論付けた渚は念のため家に電話をかけた。

 数回のコール音がなった後、ガチャリと音がなる。

 

『もしもし、潮田です』

 

「もしもし、お母さん?」

 

『あら、渚?どうかしたの?』

 

 そこで、若干渚の顔が強張る。

 会話が聞こえていない三人は頭にハテナを思い浮かべるが、「どうした?」などと無粋なことを聞くような彼らでもなかった。

 

「あの……今から友達とカフェに寄っていくから遅くなるんだけど……」

 

 用件を伝えた瞬間、さらに顔が強張る。

 しかし、それもすぐほぐれることとなった。

 

『そんなこと、わざわざ連絡してこなくてもいいのに。家のことは気にせず、ゆっくりしてきなさい』

 

 快く、了承してくれたのだ。

 

「ありがとう!お母さん!」

 

『こちらこそ、いつもありがとうね。楽しんでおいで』

 

「うん!」

 

 そこで、通話は切れた。

 渚の顔には笑顔が溢れている。

 

「どうだった?」

 

 渚の態度的に愚問ではあるが、エリカは社交辞令的な意味でそう聞く。

 

「許可貰えたよ!」

 

「よし、そうと決まればいこうぜ!」

 

 レオの一言を合図に駅前のカフェまで向かう渚たち。

 入学式のときにも達也たちで寄ったらしいのだが、渚はそのとき家の用事で断ったため、来るのは初めてとなる。

 

 ちなみに、レオはその時には出会っていないため、勿論初めてだ。

 

 エリカたちに連れてこられたカフェは、外見は綺麗なオレンジ色で統一、中は清潔感漂う清々しい雰囲気で、装飾は女性受けの良さそうなものが多いが、中に男性客がいることから分かるように、男性でも気軽に入ることが出来るカフェだ。

 店員や店内の明かり、装飾などに細心の注意を払った結果だろう。

 

 窓際の席に案内され、窓際のソファーをエリカと美月が、内側の椅子にレオと渚が座った。

 

「いいところだね、ここ」

 

「でしょでしょ!さっそく注文しよ!」

 

 活気溢れる元気なエリカも、甘いものには目がないご様子で嬉々としてメニューを見ている。

 

「私この二つにする!美月は?」

 

「んー、じゃあ私はこれにします」

 

 エリカが選んだのはショートケーキとチョコケーキ。

 美月が選んだのはオレンジケーキだ。

 

「俺はこれだな」

 

 レオはアップルパイを選んだ。

 

「んー、僕はこれにするよ」

 

 渚が選んだのは、プリン。

 

「へぇー、プリン好きなの?」

 

「う、うん……まぁね」

 

 エリカが興味本位でそう聞いてきたのだが、渚がこれを選んだ意味はない。

 目に入った瞬間、衝動に近い何かで選んでしまった。

 

 全員の注文が決まったところで、エリカが店員を呼んで各々の注文したスイーツと紅茶を四つ手早く頼んだ。

 

「さてと……渚くん、一つだけいいかな?」

 

「どうしたの?エリカさん」

 

 店員がオーダーを取った後、エリカが少し改まった感じで渚に問うも、渚に『さん』づけされたのが違和感しかなかったのか、ありゃ、と気の抜けた声を出した。

 

「渚くん。『さん』づけは呼ばれ慣れてなくて違和感しかないから、呼び捨てでお願いしてもいいかな」

 

「え、あ、うん。それでどうしたの、エリカ?」

 

 いまいち締まらない空気の中、エリカが渚にあることについての真実(・・)を問う。

 

「森崎の後ろに回ったやつ、差し支えなければ本当はどうやったのか教えてもらっても良い?どうしても気になっちゃって」

 

「あ、それ俺も聞きたかったぜ、渚」

 

 それはレオも気になっていたようだ。

 美月は何のことかわからず、あたふたしている。

 

「……そうだね。うん、確かに説明不足だったよ」

 

 渚も見せたからには隠すつもりはない。

 説明を求められるのはわかっていたし、あの時に説明を省いたのは時間がなかったからだ。

 

「視線誘導に近いものを使ったのは本当だよ。ただ、一ヶ所に視線が集まるとき(・・・・・・・・・・・・)に少しずつ動いていただけだよ」

 

「え、視界に渚くん入れてたけど動いてなかったじゃん」

 

 渚の説明に、エリカが待ったをかける。

 だが、渚はエリカの言葉を聞いて微笑みながら言った。

 

「確かに、何もないときなら違和感を感じるかもしれないね。でも、あの時は一科生と言い合っているとき。つまり、相手に意識を常に向けないといけないときなんだ」

 

「緊張するときや、一点に集中するときに視界が狭くなるのを利用したということでしょうか」

 

「それが一番近いかもね」

 

 美月の要約により、エリカとレオが理解する。

 

「お待たせしました。ご注文の品をお持ちいたしました」

 

「ありがとうございます」

 

 そこでレオの隣から店員が注文した品を運んできた。

 近くにいるレオから、その向かい側にいる美月、エリカと配膳していくが、そこでその三人は異変に気づく。

 

 渚がいないのだ。

 

「あれ、渚くんは?」

 

「横だよ。エリカ」

 

「うわぁ!!」

 

 いきなり横から声をかけられて美月に飛び付くエリカ。

 かなり驚いたようだ。

 

「い、いつの間に?」

 

「これがあの時使った全てだよ」

 

 そこで三人はハッとする。

 店員が品を持ってきてくれたとき、当然だが意識は店員、または注文した品に向いている。

 つまり、これがあの場でいう、言い合いをしているときであり、CADを向けられたときであると。

 

「視線が集まったら、後は気配を消して近づくだけ……じゃあ、食べようか!」

 

 ニッコリしながら席につく渚。

 三人は唖然としている。

 

「……すっげ」

 

「あはは、こりゃ気づけないわ」

 

「すごいですね……」

 

 レオ、エリカ、美月から上がるのは賞賛の声。

 実際に見せられてしまっては、信じるしかないだろう。

 

 渚たちはそのカフェで小一時間ほど談笑して、その日は解散となった。

 

◆◆◆

 

 時を少し遡って、下校時の第一高校の生徒会室。

 生徒会室に一人でいた真由美のもとに、ある来客がきていた。

 

「俺だ、七草」

 

「いらっしゃい、十文字君。どうしたの?」

 

 十文字、という名から分かる通り『数字付き(ナンバーズ)』で、その中でも十師族に数えられる十文字家の代表代理にして、課外活動連合会――通称、部活連――の会頭、十文字 克人(かつと)だ。

 

「いや、例の彼(・・・)についてだが」

 

「達也くんのこと?」

 

 克人が『例の彼』と名前を出さない相手。

 真由美も誰か分からずに首を捻る。

 

「潮田 渚だ」

 

「ああ、渚くんね。渚くんがどうしたの?」

 

 固有名詞が出されてようやく理解した真由美。

 だが、いまいち用件を掴めていない。

 

「彼は風紀委員にするつもりか?」

 

「……いいえ、しないわ。彼の技量は公に使って良いものではないと思うの」

 

「つまり、部活連に勧誘するのも反対というわけか」

 

「会長として、それは好ましくないわ」

 

 真由美と克人は十師族。

 当然、渚たちの中学校のことを知っている。

 

 渚が暗殺者として優秀であると知っている克人は、風紀委員に勧誘されていなければ部活連に入れようと考えていたのだ。

 

「彼の技術は、簡単にいえば人を殺めるものよ。取り締まるときとはいえ、その技術を使われた相手がさすがに可哀想よ」

 

 そこで、ドアが開く。

 

「お、十文字か。珍しいな」

 

「渡辺か。まぁ、別のやつを勧誘するとしよう。時間を取らせたな」

 

「ううん、気にしないで」

 

 軽く一礼して生徒会室を出る克人。

 

(潮田 渚くん……ねぇ)

 

 真由美は昨日、一昨日と会った自分ほどの身長の彼を思い出す。

 あれで暗殺教室の首席というのだから、顔に似合わず、という言葉がピッタリだろう。

 

「どうした?真由美」

 

「ううん、なんでもない。摩利、達也くんはなんとしても風紀委員に入れるわよ!」

 

「任せとけって」

 

 そして、達也にとっては迷惑でしかない意気込みを入れる彼女らだった。

 




最後のが渚が風紀委員に入らないすべてです。

渚は軽々しく「気配を消すだけ」と言っていますが、その気配の消し方が尋常じゃないんですよね……
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