天邪鬼、鬼人正邪は、再び幻想郷の転覆を目指し、稀神サグメの能力に目を付けた。
 サグメに出会い、関わることで、少しずつ変わっていく、正邪の話。
(東方project14.3弾、弾幕アマノジャクの続編になっています。知らなくても楽しめます(多分))
 

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 オリキャラ無しで、割と真面目に書きました。
出来るだけ原作の雰囲気に近付け、東方の世界らしさが出るように書きました。ちょっと短めですが、じっくり読んで下さい。


東方逆天邪~rebirth is fantasy land.

 [壱:嘘吐きの鬼~Lia Ogre]

 

 ここは幻想郷。まあ、言わずとも分かるだろう。

 幻想郷では最近、天邪鬼の起こした事件により、幻想郷の人間や妖怪、妖精達が総力を上げ、一人の天邪鬼を追いかけるという大騒動があった。

 結局、事件の張本人である天邪鬼、鬼人正邪は、摩訶不思議なアイテムと、何でもひっくり返すという奇抜な能力で、まんまと逃げ切ったのだった。

 ただ、そんなことは皆すっかり忘れていた。今となっては過去の事。

 しかし、正邪本人は違った。通常の数倍は捻くれている天邪鬼は忘れることなど無かった。再び幻想郷をひっくり返してやろうと、次の作戦を練り直していたのだった。

 

 「幻想郷には慣れましたか?」

 「ええ」

 「なら良かったです。で、さっきの話ですが・・・」

 今正邪は、竹林にある永遠亭という所で聞き耳を立てていた。その目的は、最近此処に出入りしている、稀神サグメという奴の情報を掴む為だった。

 しかし頻繁に聞こえてくる、月だの兎などについての会話は、正邪にとって意味が分からない。ましてや地獄がどうした女神がどうしたなんて、別次元の会話だ。

 更に言えば、正邪の目的は稀神サグメの能力だ。彼女が何者であっても関係ない。そう、噂で聞いたのだが、彼女は何らかの逆転の力を持つらしいのだ。

その逆転の力を借りてしまえば、幻想郷の転覆に向けて大きな力となる。

もっとも、具体的な所は全く掴めていないのだが。

 

 「それじゃあ私は」

 「ええ、帰りは気をつけて下さいね。」

 短いやりとりをすると、サグメは外に出て来た。

 すると、出るや否や、正邪の隠れている茂みに目を留めた。そして、真っ直ぐに正邪の方へ歩いて来たのだった。

まさか、と正邪がサグメを見ると、その目は間違いなくサグメを見ている。

 「くっ、気づかれたか」

 何時も通り、その場から鮮やかに逃げ切るつもりだった正邪に、サグメが鋭く声を発した。

 「待ちなさい」

 逃げるのに手慣れている正邪に、その場から逃げることは容易かったが、何故か否応無く足が止まった。

それだけサグメの言葉は、強い力を持っていた。

 「・・・何だ」

 得体の知れない力に逃げるタイミングを狂わされ、不機嫌に顔をしかめる正邪に、サグメは問いた。

 「貴女は?」

 「・・・知らないのか?」

 サグメは返事の代わりに首を縦に振った。

 「・・・私は鬼人正邪。天邪鬼だ。・・・これで分かったか?」

 しかし、今度も首を横に振った。

 「知らない?私を知らない幻想郷の人間がいたのか・・・」

 何とも有名人的な思考だが、確かにそうだ。ここ近年で起こった事件では、かなり大規模の内だ。

 「・・・」

 「・・・」

 「喋れないのか?お前」

 「喋れる」

 そこで、気になった正邪は、あまり喋らない理由を聞き出してみることにした。

 「何で全然喋らない?」

 「・・・理由がある」

 その理由を聞いてるんだよ!と内心で思いながらも押し問答を繰り返し、それがサグメの能力による力だと分かったのは、随分日も落ちたころだった。

 「そうか・・・逆転の力は口に出すことだったのか・・・なら話は簡単・・・」

 「あと」

 そこへ唐突にサグメが口を挟んだ。

 「私は幻想郷の人じゃない」

 「・・・じゃあ何処だ」

 「月」

 正邪は無意識に空に浮かぶ月を見上げた。空はいつの間にか、星があちこちに見えるくらいまで暗くなっている。

 「月・・・?あ、それより、お前の能力について詳しく聞かせろ」

 強く言い寄る正邪に、サグメはたっぷり悩んでから答えた。

 「もう遅いから。」

 「は?」

 「また明日。聞きたいなら里に来て」

 サグメはさっさと里に歩いていってしまった。

 「・・・」

 後にぽつりと残された正邪は、もう一度月を見上げて、ニヤリと笑った。

 

 「あいつ、騙されるなんて気付いてないんだろうなぁ」

 

 

 [弐:正と邪の裏表]

 

 翌日、頭巾を被り、体に布を巻いた正邪はサグメを探すべく、こそこそと里を歩いていた。

 「ここに長居は無理だな。博麗の巫女に出くわすかもだし・・・」

 そう言って何気なく宿の方に目をやると、一瞬声を上げそうになった。

 

 「あんた里に来んのね」

 「ええ、時々」

 「その翼じゃ、里では浮くと思うけど」

 サグメを陰で見ていた正邪は、隠れながら、ぷるぷる震えていた。

 「何やってんだあいつは!博麗の巫女に近寄るなって先に言っておけば・・・」

 そうやって物陰で悶絶していると、不意にサグメが言い出した。

 「約束があるので・・・」

 「へぇ、珍しいわね。あ、永琳?」

 「いいえ、天邪鬼のせい」

 サグメが正邪の名前を言いかけたとき、後ろで大きな物音が。正邪がギリギリで物を倒したのだ。

 「何かしらね」

 「きっと物が倒れたんですよ」

 「朝からうるさいわねぇ」

 機転を利かせ、ギリギリでサグメの発言を防いだ正邪は、ぜいぜい言いながら思った。

 「考えが甘かった・・・」

 

 結局サグメは、一応里の外に出た正邪の元にやってきた。

 すると正邪は、大きく息を吸うと、さっきまでの不安を叩きつけるように、サグメに向かって怒鳴った。

 「お前!もう今更だがな、私の名前を出すな!あとむやみに人に近寄るな!」

 「?」

 いきなり出会い頭に怒られ、訳の分からないといった様子のサグメに、正邪は一旦言葉を沈めた。そして、もう一度ゆっくり言い直した。

 「いいか、私は訳ありで里に顔見せ出来ないんだ。だから絶っ対に、私の名前を出すなよ?」

 妙にやつれている正邪の訴えにこくこく頷いたサグメ。どうやら馬鹿なわけでは無いらしい。

 しばらくの沈黙の後、突然サグメは正邪に問いかけた。

 「・・・何故知りたい?」

 「ん?」

 「知ってどうするの?」

 まさか疑われたか、と思ってちらっとサグメを見るが、疑うというより、素直に気になっているようだった。

 「・・・そりゃあ、知りたいことは聞くだけだからな」

 素っ気なく返す正邪に、サグメはふっと笑いをもらした。

 「・・・何だよ」

 「正邪は知りたがりなのね」

 「なにっ!」

 「だってそうじゃない?」

 「む、」

 するとサグメは、正邪の反応を楽しむように口元を隠して笑った。

 正邪は悔しかったが、何故か反論しづらかった。

 結局、なんやかんやで、本題の能力について聞き始めるのは、昼くらいからになってしまった。

 

 「口に出せば事態が逆転っていうと・・・」

 突拍子も無いか、と思ったが、正邪は言葉を続けた。

 「・・・死にそうな奴に、“あなたは死なない”って言ったら生きれるのか?」

 「・・・どこまで左右するかは試してないけど、多分そうなる。」

 「ほほう・・・」

 正邪がやりたいのは、“あなたは幻想郷をひっくり返せる”とか言われたら、それが出来るようになるのか、ということだった。

 そう、前回は小槌の魔力だったが、今回はサグメの魔力を使おう、という考えだ。

 「じゃあ、」

 早速本題に入ろう、という正邪が身を乗り出すと、サグメがストップをかけた。

 「先にお昼にしましょう。」

 「嘘だろ・・・」

 良いところで打ち切られた正邪は、げんなりしてサグメを見た。

 サグメはよっぽど空腹なのか、目がそう訴えているように見える。

 「・・・分かったよ」

 「じゃあ里に・・・」

 「行かないぞ、私は」

 思い出した、というように額に手を当てるサグメ。

 「じゃあ持ってくる」

 と言うと、サグメは里に向かっていった。

 「利用されるっていうのに呑気だな。まるでどっかの小人みたい・・・」

 自分でそう言いかけて、正邪は微かにやるせない気分になった。

 前の事件の時、正邪を追って来た針妙丸は、微かにだが、正邪に戻って来て欲しいという素振りを見せた。

 道化の得意な正邪だからこそ分かった。あれはきっと本心だったのだろう。もしくは、自分がそう思いたいだけなのかも知れないが。

 

 すると、そこへサグメが戻って来た。その手には鮮やかな団子が握られている。

 「昼ご飯は団子かよ」

 「変かしら?」

 不思議そうに首を傾げるサグメの手から、鮮やかな団子が一本、正邪に渡された。

 正邪は受け取った団子を口に含みながら、サグメを横目で見た。サグメは、感情の薄い顔を微かに和らげながら、団子を口に入れていた。

 正邪は、自分が捻くれ者の天邪鬼であることを忘れるくらいに人と関わった。もっとも、彼女は人ではないと思うが。

 「で、本題は?」

 不意にかけられた言葉に、正邪は軽く萎縮した。すっかり忘れていた。

 正邪は自分の脳内をいつもの悪知恵で満たし、サグメに向き直ると言った。

 

 「・・・お前が私に“幻想郷を転覆させられる”って言ったら、それが出来るようになるか?」

 そう聞く正邪の表情は、紛れもなく天邪鬼のそれだった。 

 

 [参:センチメンタル逃飛行]

 

 「幻想郷を転覆?」

 正邪の突然の言葉に、サグメが問いかけた。

 「まあ例えだよ。ほら、何処まで出来るか、みたいな」

 正邪の取り繕いに、まだ分からない、といったサグメに、正邪は仕方なくある程度の身柄を話すことにした。

 「私の能力は、“何でもひっくり返す程度の能力”だ。だから・・・」

 「本当に何でもなのかって確かめるってこと?」

 「ああ、そうだな」

 正邪は素っ気なく返したが、サグメの的を射た指摘に、結局、直接的に本題を話すことにした。

 「私の力だけじゃ無理だ。だからお前の力で、いわゆるブーストを掛けて欲しい」

 サグメは突然好戦的に変わった正邪の態度に戸惑いながらも悩んだ。

 何せ今、月と幻想郷の関係は危ういと聞いている。

そんな中、月の住民が幻想郷の転覆に力を貸せば、一大事のなるだろう。しかし、サグメはすぐに断り辛かった。この一日で正邪にも馴染みが生まれたのだろう。

 ただ、故意に捕らわれて、幻想郷と月の均衡を乱す訳にはいかなかった。

 「私は出来ない」

 「出来ない?」

 「ええ、協力は出来ないわ」

 「な・・・」

 実際、許可が降りると思っていた正邪は少し衝撃を受けた。

 しかしここで押し切らなければ、と思い、身を乗り出して再び交渉しようとしたその時だった。不意に、後ろから御札が正邪に襲いかかった。

 「くっ、まさか!」

 正邪は咄嗟に飛び退くと、あの時の癖でポケットを探ったが、もうそこにアイテムは無いのだった。

 正邪の予想通り、御札を投げたのは博麗の巫女、博麗霊夢。更に、魔法使いの霧雨魔理沙もその後ろにいる。

 「まだ幻想郷にいたのね、天邪鬼!あ、サグメ、あんたじゃないわよ」

 ぽかんとしているサグメは、恐らく現状が理解出来ていない。

 「今はアイテム持ってないっぽいから楽勝だぜ!」

 魔理沙も、勝ったも同然というように、箒を振り上げた。

 「舐めるなよ、人間如きが・・・」

 逃げることを諦めた正邪は、いつもの好戦的な態度で、霊夢と魔理沙に対峙した。

 すると霊夢は、正邪の後ろで訳の分からない顔をしているサグメに気づき、声をかけた。

 「さては知らなかったんでしょ、こいつのこと。」

 サグメの返事はないが、霊夢は続ける。

 「そいつは幻想郷中の敵よ。幻想郷をひっくり返すだのなんのって言って。あんたも騙されたのよ、サグメ」

 「・・・・・・そう」

 正邪は自分の本性がサグメにバレても、さほど大した感情はもう生まれなかった。

 それは、これから逃げなければならないからか、それともサグメの反応が薄かったからか。

 未だ感情の分からないサグメから視線を外すと、霊夢達と正邪は向き合った。

 「逃げる準備はいい?天邪鬼」

 「・・・慣れっこだ」

 そう言うと、正邪は改めてサグメに向き直ると言った。

 「・・・私は卑劣な天邪鬼だからな、お前とは違う。悪く思うなよ。」

 サグメは俯いたまま何か考え込んでいるようだった。しかし、いずれにせよ霊夢達がもう待たなかった。

 「魔理沙、あんたのお宝で出来るだけ釣ってきなさい」

 「え~。・・・あ、お前んとこ何も無いもんな」

 「む、さっさと行きなさいよ!」

 そんな霊夢達のやり取りを、のんびり眺めてはいない正邪は、その内に逃亡を始めた。踵を返すと、あっと言う間に空へ飛び出したが、霊夢もそう簡単には逃がさなかった。

 「ノーアイテムで逃げ切れるかしらね、天邪鬼!」

 「楽勝だ、間抜け巫女!」

 こうして、情け無用の追いかけっこが、始まったのだった。

 

 そこに一人取り残されたサグメは、何か考え込んでいた。

 「反逆者・・・」

 

 

 [肆:天涯孤独のレジスタンス]

 

 魔理沙が助っ人を探している一方、霊夢は、巧みに攻撃を避け続ける正邪に手を焼いていた。

 「この・・・とっとと捕まんなさい!」

 「誰がお前何かに捕まるか!アイテムなんて無くても楽勝だ!」

 有言実行というように、正邪は霊夢の攻撃を見事に避けていく。

 「く、なかなかやるわね・・・それなら、これが避けられるかしらね!」

 そう言うや否や、霊夢が御札を持つ手を掲げると、空を覆うような無数の御札が周りに広がった。そして、霊夢は大きく息を吸うと、強く、そして静かに宣言した。

 

 「神籤『反則結界』」

 

 ゆっくりと広がり始めた無数の御札は、徐々に速度を上げて正邪へと襲いかかった。

 「こいつは・・・」

 これは前にも受けたスペルカードだったが、今は訳が違う。ノーアイテムでこの弾幕を抜けるのは至難の技だ。だが正邪は、考えるより先に体を動かしていた。細かく間を抜け、次の弾を回避。信じられない程の集中力で、正邪はなんとこの弾幕を避けきったのだった。

 「どうだ・・・私を舐めるからだ・・・」

 勝ち誇った様子で息を落ち着ける正邪に、霊夢は大したことない、というような表情で冷や汗を垂らしていた。

 しかし霊夢は、後ろから聞こえてきた声に気づき、勝ち誇った笑みを浮かべた。

 「霊夢~、連れてきたぜ~!」

 飛んで来る魔理沙の横には、魔理沙の掲げたお宝に誘われてか、妖怪などがこぞって正邪へ向かって来ていた。

 「さて」

 あっという間に優勢になった霊夢は、顔をしかめている正邪に向き直って言った。

 「観念しなさい、どうせもう逃げ切れないわ。」

 正邪は今回ばかりは逃げ切れる自信がなかった。でも、諦める気は一切なかった。今度こそ幻想郷をひっくり返し、下克上を成し遂げるのだ。

 正邪は霊夢と距離を取ると、到着した妖怪や妖精達にも聞こえる声で叫んだ。

 「捕まえられるものならやってみろ!貴様らなんぞに捕まるものか!」 

 そう言うや否や、正邪は一気に速度を上げて、逃亡を開始した。

 「天邪鬼を捕まえたら褒美が出るぞー!」

 誰かがそう叫ぶと、

 「あたいと勝負だ~!天邪鬼!」

 「逃がすか~!」「まて~!」

 と、妖怪や妖精達は口々に声を上げ、正邪の後を追っていった。

 こうして、天涯孤独の天邪鬼、鬼人正邪は、再び幻想郷中を相手に逃避行を続けるのだった。

 

 「正邪・・・」

 舌禍をもたらす女神、稀神サグメはまだ考え込んでいた。

 「彼女は下級妖怪の味方なの?なら何故その妖怪が追いかけるのかしら・・・」

 幻想郷の過去の異変についてあまり知識が無いサグメは、正邪のしようとしていたことが悪いのかは分からなかった。そしてそれ以前に、鬼人正邪という天邪鬼自体、完全な悪には思えなかった。

 なんというか、やんちゃでひねくれ者なだけで、里の人間を襲ったり、妖怪を虐げている訳でもない。

 サグメが、正邪に騙されていたのは事実。しかし、強制的に協力させようとせず、説得に持ち込んだのだから、きっと他人の身を気にしない悪人とは違う。 

 そう考えを巡らせていると、突然、空に鮮やかな弾幕の華が咲いた。

 「あれは・・・」

 すると、弾幕をかいくぐり、息を荒げている正邪の姿と、微笑を浮かべながら弾を打ち続ける、八雲紫の姿が、黒煙の隙間から見えた。

 「まさか妖怪の賢者まで参加するなんて・・・流石にやり過ぎじゃ・・・」

 「そうでもないわよ?」

 ふと後ろから声が掛かった。見ると、いつの間にか霊夢がサグメの背後で、弾幕をまるで花火を見るように眺めていた。

 「弾幕結界は綺麗ね~、受ける側じゃなきゃ。」

 そう言う呑気な霊夢に、サグメは思わず呆れてしまった。

 「綺麗って・・・それより正邪は、」

 「あんたの心配なら」

 不意に霊夢が振り向き、遮るように言った。

 「幻想郷はいつもそうよ」

 「いつも?」

 「ええ、いつもよ。異変の度に、やり過ぎなくらい皆暴れるのよ。まあ、あれは遊びみたいなものよ。」

 当たり前、と言うような霊夢の言葉を聞き、サグメは今更ながら気づいた。

 幻想郷は元から危ういバランスの上に成り立っているのだ。自分が正邪に手を貸さなかったのは、正邪の為にもなったのかもしれない。

 ともかく、霊夢は遊びのようなものと言っているが、正邪の疲労、そしてダメージは本物だ。サグメの本音は、助けてあげたい、という思いだった。

 そこでサグメは、霊夢なら言わんとすることを理解してくれるかもしれない、と思い、自分の本心を打ち明けた。

 霊夢はやっぱり、といった様子でサグメを横目で見て、呆れたように言った。

 「出来るじゃない、あんたなら。」

 「・・・え?」

 

 今も、正邪への追跡の手は、刻一刻と強まっている。

 

 

 

 [伍:正しき邪道~Hater Road]

 

   「私なら出来る?」

 「口に出すのよ、あの時みたいに。」

 そう、あの時(紺珠伝四面参照)サグメは、“貴女は破壊者になる” と霊夢に言ったのだった。結果として、霊夢は破壊者、というかバーサーカーになり、あのヘカーティアまでも打ち負かした。

 「なる程、正邪に “貴女は逃げ切れる” と言うだけで・・・」

 「ま、そういうことね」

 サグメは、思いの外協力的だった霊夢にお礼を言うと、正邪の近くまで行く為、翼を広げた。その時、不意に後ろから声が掛かった。

 「私の入れ知恵って誰にも言わないでよね!」

 返事の代わりに、感情の薄い顔を緩め、微笑みを返すと、霊夢もにっこりと笑い返した。

 そしてサグメは、弾幕が埋め尽くす空に飛び出した。

 

 「当たるか、そんな遅い弾が!」

 「なんだと~!」

 「うてうて~!」

 サグメが近くまで来ると、正邪が妖精や妖怪を相手に戦っていた。

 特に手を焼く相手はいないようだが、正邪に疲労が溜まっているのは一目瞭然。直ぐにでも逆転の力を使おうと近くに寄って行こうとしたその時だった。不意に、横からレーザーが放たれた。

 サグメは咄嗟の回避で避けられたが、それは相当な火力だった。

 レーザーの放たれた方向を見ると、魔理沙の姿が。いきなり撃ってくるとは。

 「お前、サグメだな。・・・どうやら正邪を倒しに来た、って訳じゃなさそうだな」

 「だからっていきなり撃つ?」

 肌を掠めたレーザーの熱を思い出し、腕をさすった。

 しかし、いきなりの攻撃は魔理沙の十八番。悪びれも無く、ミニ八卦炉を手の上でくるくる回している。

 そして、好戦的な表情でサグメを見た。魔理沙はもう完全に戦う気だ。

 サグメも戦闘体勢を取り、戦いが始まろうとしたその時、妖精が横を落ちていった。正邪が撃墜したのだろう。そして、その妖精を目で追っていた正邪が、今更ながらサグメに気付いた。

 「え?お前なんで・・・・・・いや、それより危ないぞ、近くにいたら!すぐ離れろ!」

 気付くや否や、慌てて心配する正邪。それを聞き、やっぱり正邪は良い心を持っている、と確信すると同時に、サグメは本来の目的を思い出した。

 さっき落ちてきた妖精をキャッチした魔理沙から、不意打ちをされないか心配だが、サグメは正邪に向き直り言った。

 「正邪。貴女は正しい道を歩いてる。だから、私は騙されても苦しくない。でも、幻想郷をひっくり返すなんて、もう止めましょう。・・・本当に殺されちゃうわよ。」

 「・・・そんなことを言いに来たのか?わざわざこんな所まで。」

 「いいえ。貴女を助けに来た。」

 やっぱりかというように、魔理沙が腕を組みながらこっちを睨んでいる。脇に妖精を抱きかかえているから、攻撃は出来ないようだが。

 それを確認すると、サグメは、正邪に向かって“宣言”した。

 「“貴女は誰からでも逃げ切れる”。」

 そう言った途端、魔理沙は今更ながらサグメの能力のことに気付き、慌ててさっきの妖精を放り出して言った。

 「お前、そういうことか!ズルいぜ!追いかけっこ反則だ!」

 慌てる魔理沙に呆れながら、サグメは強い口調で言った。

 「私は追いかけっこに参加してない部外者。それに、元々ルールなんて設けてないでしょ?」

 「う」

 サグメの珍しい屁理屈に、魔理沙は言葉を失った。 

 それを、正邪はきょとんとした顔で見ていた。すると、疲れた体に、段々と不思議な力が湧いてきた。しかし、正邪はまだ逃げなかった。

 「・・・サグメ、お前いいのか?お前も追われたりしたら・・・」

 「いいのよ。第一、私幻想郷の人間でも妖怪でもないし。それに・・・」

 もう待たないぜ、というように、ミニ八卦炉を構えた魔理沙を横目で見ると、にっこりと正邪に笑いかけた。

 「私が決めたことよ。」

 そう言うと同時に、正邪は背中を押された。サグメが、魔理沙の放った攻撃から、正邪を避けさせたのだ。

 前の正邪なら、ここでさっさと逃げているだろう。しかし、正邪は逃げなかった。サグメを助けようと、黒煙の中に飛び込んだ。

 「おい、サグメ!大丈夫か?」

 「ごほっ、正邪、何故逃げない・・・」

 「いいから!」

 煙で咳き込み、苦しそうなサグメを抱えると、正邪は途轍もない速さでその場から逃げ去った。

 結局、魔理沙は自分の起こした大爆発によって、二人を見つけることが出来なかったようだ。

 

 

 その後は、サグメの力か、もしくは正邪自身の力か、誰にも足止めを食らわず、深い森の中に逃げ切った。

 

 二人は息も絶え絶えに、顔を見合わせた。

 「正邪、有り難う」

 「いや、私も助かった、こっちこそだ」

 そう言うと、正邪とサグメは、揃って夜空を見上げた。正邪が居なくなり、疲れた妖精や妖怪が帰って行く。

 そうしてその夜、ほとぼりが冷めるまで、正邪とサグメは、会話に花を咲かせていたそうだ。

 

 

 

 [陸:月下の夢~Escape Dream...]

 

 

 事件の翌朝、霊夢は、人里の鈴奈庵にて、文々。新聞を眺めていた。

 「“天邪鬼、鬼人正邪の逃亡。二度目の取り逃しに、博麗の巫女の信頼はだだ下がり。”・・・何書いてくれてんのよ、あの天狗は」

 更に続きを読む。

 「“鬼人正邪の協力者?しかし、目撃情報が薄く、博麗の巫女は『有り得ない』の一点張り。可能性は低いと思われる。”まあ、隠蔽ってやつね。本当、手間のかかる・・・」

 そして、

 「“今後の追跡だが、褒美の用意、捕まえた後の事が面倒くさい、といった理由から、しなくていい、との結論が出た。(博麗霊夢談)”・・・天邪鬼の被害が出たら私の責任なのね。はぁ・・・」

 そして、霊夢は今も幻想郷のどこかに隠れているのであろう正邪に対して、届かないであろうが、言った。

 「ここまでしてやったんだから、ちょっとは大人しくしてなさいよ。あと、サグメにしっかりお礼言いなさいよね。」

 

 

 月の都にて。

 サグメはあの後正邪に、散々注意をしたり、また何時間か話し込んだり、久々に幻想郷で羽根を伸ばしたのだった。

 しかし、事件後ということもあり、まともに別れの挨拶も出来ず、幻想郷から月へ帰って来たのだった。

 

 ここ数日間は、正直、本当に楽しかった。落ち着いた性格のサグメには騒がしいくらいだったが、珍しく笑うこともあった。

 今頃、幻想郷はどうなっているのか、正邪がまだ狙われていないのか、心配になることも有るくらいだ。実際、正邪はどうなったのだろう。

 

 

 正邪と言えば、サグメが帰った後、酷く憂鬱だった。久々に人と会話すると、また一人になった時になかなか暇になる。

 何やかんやで、仲間が必要なのだろうか。ここ数日そのことで悩んでいた。

 そして正邪が森を歩いていると、騒がしい声が。

 

 「ぎゃーーー!!」

 「てーーーー!!」

 物凄い盛り上がりと、訳の分からないシャウト。犬っぽい妖怪と、鳥の妖怪がライブのようなものを開いている。

 観客の中には、妖怪に妖精、更には幽霊なんかも。

 正邪は唖然としていた。すると、不意に後ろから声が。

 「賑やかじゃろう?天邪鬼。お主も混ざってみたらどうじゃ?」

 不意に後ろから掛けられた声に、正邪は身をすくめた。

後ろを振り向くと、煙管を持ち、妖怪達を楽しそうに眺める、狸の姿が。

 こいつは確か、二ッ岩マミゾウと言ったか。化け狸達の頭領で、あの時、変な形の弾幕に手を焼いた覚えがある。

 「何の用だ?捕まえる気なら望むところだが」

 強気で威嚇する正邪に、マミゾウはにやりと笑って言った。

 「興味無いのう。じゃが、ここで暴れるなら容赦せんぞ?」

 思わず身構える正邪に、マミゾウはからからと笑った。

 「そんな険しい顔するでないぞ。ちょっと前までは心が落ち着いておったのに」

 そう言うと、煙と共に、マミゾウがあのサグメの姿へと変化した。もちろん尻尾付きだが。

 「・・・なんでお前がそいつを知ってるんだよ」

 「見とったからじゃよ。」

 正邪は顔をしかめた。まさかこいつの視線に気付けなかったとは。

 マミゾウは、歓声の方に体の向きを戻しながら、愉快そうに言った。

 「月は遠いからのう。来た時は、しっかり相手してやらんとな?」

 正邪は何時もの癖で反論しそうになったが、言い留めた。そして、素直に返した。

 「そうだな。案内くらいしてやるか。」

 そう言って、これで何度目になるか、月を見上げた。耳に聞こえる楽しそうな声達に、自然と足が近づいた。そこでは、誰も正邪を捕まえようとせず、拒まなかった。

 

 鬼人正邪は、天邪鬼。それはただ、ちょっとひねくれただけの、やんちゃな妖怪。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
そもそも原作らしさっていうのが分かりづらいですが、少しでも原作らしさが感じて貰えたら嬉しいです。
感想、もしくは批評でもどんどん下さい。

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