無能アニキ憑依録   作:にわにわか

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ママ役登場


第11話

 ■

 

 

 

 

 

 早朝。朝食の用意をするべく冷蔵庫からハムと卵、きゅうりを取り出しサンドイッチでも作ろうかと準備をしていたところにインターホンが鳴り響いた。こんな時間に誰だと思いつつ覗き穴から外を確認する。そこには宅配業者と思わしき細身の人物が帽子を目深に被り、ダンボール箱を抱えていた。

 

「(なんだ、宅配業者か。)今、出る」

 

 鍵を開け、応対するべく扉を開くとその人物はずかずかと部屋に入り込んでくる。どういうつもりだと胸ぐらを掴んで壁に押し当てると柔らかな感触が手の甲に伝わった。壁に押し付けられたソイツは何が面白いのか高笑いをし始める。

 

 何処かで聞いたことのある女の声だ。女は帽子とマスクを剥ぎ取ると愉快そうに「久しぶりね、ジン?」と俺の名を呼ぶのであった。

 

(ベルモットだとっ!? 何故コイツがここに? ……いや、ジンと意味深な関係があると(ほの)めかされていた気もしないでもない)

 

 長い金髪をかき揚げる仕草は彼女の美貌と合わさり実に扇情(せんじょう)的だ。初見であればとても五〇以上年を食っているとは思うまい。若作りもいい加減にしろ。

 

「あなた、今失礼なこと考えなかったかしら?」

 

「フン、さてな。それより一体何の用だベルモット。俺は今忙しいんだ。さっさと用件を言って帰れ(伊吹のことがバレてはかなわん。早々にお帰り願いたい)」

 

「あらつれないわね。まぁ良いわ。しばらくここでお世話になるから、よろしくね?」

 

「(!?)聞き間違いか? お前がここで暮らすと言った気がしたが?」

 

 冗談じゃない。何故ベルモットを泊めなければならないのか。クリス・ヴィンヤードとしてホテルにでも宿泊していればいいじゃないか。

 

「聞き間違いなんかじゃないわよ。今日からここで暮らすって言ってるのよ、ジン。それじゃあ前使ってた部屋使わせてもらうわよ」

 

 そう言ってするりと俺の拘束を抜け出し、いつの間にか持たされていた荷物を運んできてと先行く彼女が言う。 呆気にとられ静止する間もなく廊下の奥へと消えた彼女の後を急いで追う。やたらと重い荷物を運びながら一番奥の部屋にたどり着くと起き抜けでパジャマ姿の少女と彼女が鉢合わせしていた。

 

「誰?」

 

 と伊吹はベルモットを指指して俺に問うてくる。ベルモットの方はといえば能面のような表情を浮かべながら(さげす)んだ目でこちらを見つめてくる。

 

「ジン……まさかあなたが小児愛者(ペドフィリア)だったとは思わなかったわ。しかも誘拐監禁するだなんて見損なったわ」

 

「待て、ベルモット。お前は勘違いをしている。そいつ、伊吹は拾っただけだ」

 

 視線を少女に向け、話を合わせろとアイコンタクトを交わす。わざわざ彼女を組織のコードネームで呼んだことで伊吹の顔も神妙なものへと変わり、こくこくと頭を上下させて同意を示した。

 

「拾ったって、あなた犬猫じゃあるまいし……本人から直接聞いたほうが早いわね。ええと、伊吹ちゃん? この(こわぁ)いお兄さんに酷いことされなかった?」

 

「おい、俺のことを何だと思って」

 

「あなたは黙ってて」

 

 舌打ちをして成り行きを見守る。一応、組織の人間に伊吹沙羅の存在が知られる(こういう)ことがあった時のためにカバーストーリーは用意済みである。抜かりはない。

 

 伊吹沙羅としての設定は基本的に人見知りであること。俺と似たように自身のことだけが思い出せない記憶喪失の様な状態となっていること。倒れていた所を俺に拾われたこと。帰る場所が見つかるまでここに居候していること。今の名前が俺から付けられたものであることなど本当と嘘を織り交ぜた見抜きにくい嘘を煮詰めたものをぽつぽつと語り始めた。

 

 初めは怪訝そうにしていたベルモットも伊吹の幼い容姿と見事な演技力に(ほだ)されたのか話が終わった頃には少女を胸に抱き、あやしていた。

 

 茶番だなと鼻で笑ってキッチンに戻り調理を再開する。そう難しいものでもないので、ほどなくしてサンドイッチが完成した。皿を手に彼女らの下へと戻るとベルモットがまるで信じられないものを見たかのように両の眼を丸くし、驚いた表情でぽつりと似合わないわねと呟き伊吹とともに吹き出し笑いだした。

 

「(言われなくてもわかってるさ。この無愛想な面で料理してるんだ。さぞ傍から見れば面白いだろうよ)そら、飯だ。文句があるなら俺が全部食うが?」

 

 伊吹は笑いを引っ込めてごめんなさいと謝罪してサンドイッチに手を伸ばす。しかし、その横から伸びてきた腕は容赦なくはたき落とした。

 

 何するのよと叩かれた手を抑えながらこちらを見る女にお前にはやらん。と別の皿に乗せてきたサンドイッチ作成時に出たのパンの耳でも食ってろと招かざる客に対して相応しいであろう朝食を渡してやった。

 

「ちょっと! 扱いの差が酷いんじゃないの。ジン」

 

「アポなしでやってくるお前が悪い」

 

 その後余りにもうるさいのでジャムをくれてやったら何とも言えない表情を浮かべるもそれを無視。取り付く島もないと諦めたのか渋々とパンの耳を食べ始める組織の女幹部の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

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