いつも頑張るお前の傍に。いつも支えてくれる君と一緒に。   作:小鴉丸

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評価してくださった方、ありがとうございます! これからも頑張りますんでよろしくお願いします!


第八話 雨宿り

〜総士side〜

 

 

「じゃーな。補習頑張れよ」

 

「総士先輩、ファイトです!」

 

くそっ、あいつら。他人事みたいに……。

 

問題の小テストも終わり放課後、俺は現代文の補習を受けていた。理由は単純で点数が悪かったからだ。

 

……例え今日のテストが悪くなくとも補習は確定していた、と先生は言っているが気にしないでおこう。

 

「うるせー! 帰れ帰れ!」

 

「おっとお怒りだ、雨が降る前に帰るぞ龍斗」

 

そう言うと奏は龍斗を連れて帰っていった。

二人が帰った後、俺は先生に注意され再び補習に戻る。

 

「どうして白羽は現文だけ無理なんだろうなぁ……。それ以外だとどれを取っても優秀なのに」

 

今日だけで何回目のセリフか分からない。クラスの奴にも言われ先生にも言われ、挙句に龍斗にさえ言われてしまう。

 

「さぁ……、長い文章が無理なんじゃないんですかね」

 

机をシャーペンでトントンと叩きながら答える。

 

「それなら俺は英語の方が長いと思うんだが」

 

「英語はスラスラ読めるじゃないすか、そして簡単に書ける。現文は文とか漢字は読めますけど、書くの全般が無理なんですよ」

 

先生は分からん……、と言ったふうに首をかしげる。

 

「でもやれば出来る奴だろ白羽は。現文も頑張って覚えてみろ」

 

「はいはい、できる限りは頑張りますよ」

 

補習課題をちまちまと書き始める。

 

何気なく奏の言葉が気になり外を見てみると、空は曇り始めていた。

 

 

 

 

〜つぐみside〜

 

 

「遅くまでお疲れ様、羽沢さん。後は私がするから帰っていいわよ」

 

「で、でも……」

 

「外も真っ暗になるし危ないわ。それにいつも頑張ってるんだから、たまには体を休ませないとね」

 

「ぁ──」

 

生徒会長と二人で作業をしていると突然そんな事を言われる。外を見ると暗く、時間は十八時を回ろうとしていた。

 

「えっと……そ、それじゃあ……」

 

目を通していた書類を一箇所に集めて机の上に置く。その後に自分の鞄を持って会長に挨拶をして生徒会室を出る事にした。

 

「お疲れ様でした会長。お先に失礼します」

 

ぺこりと頭を下げて会長に挨拶をする。すると会長は優しく微笑んで手を振りながら「また明日」と言ってくれた。

 

廊下に出ると生徒は誰一人見当たらなかった、だが外には部活帰りの生徒と思われる人達が見える。因みに蘭ちゃん達には遅くなるから先に帰っててと言っている。

 

「(それにしても……)」

 

校舎を出てから空を見ると曇り空だった。

雨が降ると心配になったが、朝に折りたたみ傘を鞄に入れていたので安心して家へ帰る。

 

生徒会の仕事が長引く時はこんな風に私だけで帰る事が多い。多い、というのは稀に遅くまで練習しているひまりちゃんと帰る事があるからだ。

 

今は一人で帰ってるからぼーっと考え事をしながら歩く。

 

考える内容はさっきの会長の言葉だ。

 

『それにいつも頑張ってるんだから、たまには体を休ませないとね』

 

この言葉は前に総士くんに言われたのに似ていて、思わず声が漏れた。

 

『つぐはいつも頑張ってるんだから無理だけはするなよ』

 

「〜〜っ!」

 

頭に手を乗せ優しい声で言ってくれた総士くんを思い出す。あの時の表情を思い出すだけで胸がドキドキと早まってしまう。

 

「(う〜〜っ! ダメだよつぐみ!)」

 

頭をぶんぶんと振って考えを振り払う。

 

総士くんは私の事なんか意識すらしてないんだから。ただの幼馴染み、ただの後輩なだけ。それ以上の関係なんて夢なだけだよ……。でも、期待なんかしていない……なんて言ったら嘘になる。

それは昔言われた言葉がずっと心に残ってるから。

 

『頑張るお前の姿が好きだから一緒に居るんだ』

 

あの時の言葉はどういう意味だったんだろう。確認しようと思うが、今だと恥ずかしくて聞くに聞けない。

 

「(何気ない一言だよね……)」

 

ため息をして道を歩き続けているとぽつ──、と肌に何かが落ちてきた。

 

「あ。雨……」

 

私は鞄から折りたたみ傘を取り出して広げる。雨は徐々に強くなっていき、傘を持ってない人がひどく濡れる前に帰ろうと走り始めるのが見えた。

 

雨が降り始めても傘を持ってる私は比較的のんびりと歩く。

前後に見える人もそれは同じだ。後ろにいる人はイヤホンで音楽を聴きながら歩いていて、前の人は所謂相合傘というのをしている。

 

「(いいなぁ。私も……)」

 

あぁ、やっぱり総士くんの事を考えてしまう。

 

「(今頃何してるんだろう、総士くん)」

 

 

 

 

〜総士side〜

 

 

「うぉぉぉおおおお!!!! な──っんで雨降るんだよぉぉぉおおおッ!!!!」

 

最悪の状況での嫌な予感というのは大抵当たるものだ。

傘を持ってきてない日に限って曇ってて雨が降る、補習から解放されてハイテンションだった俺は雨とともにテンションが落ちていった。

 

今は鞄で頭を覆いながら全力で家まで走っている最中だ。

 

「(あの時の言葉……まさかこんなひどい雨とはな!)」

 

奏の言葉で雨が降るのはほぼ確信していたが、ここまで強い雨とは思っていなかった。おまけに雷までなる始末だ。

 

学校から出て三分経ったくらいで既にびしょ濡れだ。自転車を適当に拝借してもよかったが、生徒会側が最近放置自転車を処分したので一つも無くてその考えは消え去った。

 

「うおっ!? ──わ、わりぃ!」

 

曲がり角で自転車の人と接触しそうになり謝る。

走るのはそこそこ早いので家までの中間地点である近くの学校──羽女をあまり時間がかからずに通り過ぎる事が出来た。

 

今の時間は……おおよそ六時半くらいか。つぐは流石に帰ってるだろ、というか帰ってないと色々とまずいぞ。

 

──ピシャアッ!!!

 

考え事をしていると、空が光り大きな音が鳴った。

 

「うひゃあ。今のは……どうだ? 結構な音だったぞ」

 

更に強くなった雨に打たれながらも帰路を走り続ける。取り敢えず一息つきたいから、誰も使ってない小屋が近くにあるのでそこまで走ることにした。

 

 

 

 

「っ、ふぅ……。あーくそ、びしょ濡れだよ」

 

小屋に着いた俺は制服を脱いで絞る。相当水を吸っていたらしく、数回捻ってようやく絞り取れたようだ。バサッ、バサッと広げて気持ちだけ軽くなった制服を再び着た。

 

──ピシャッ!!

 

「きゃあっ!!」

 

先程よりも大きくはないが雷が鳴る。

 

「あ?」

 

雷の音で消えそうになったが俺はその声を聞き逃さなかった。女の子の声が聞こえたのだ。

 

その声は小屋の奥にある部屋から聞こえてきた。確認のために誰が居るのかを見に行く事にした。

 

「おーい、誰かいるのか?」

 

携帯のライトで照らしながら暗い小屋の奥へと進むと、小さく屈んで震えてる影が見えた。

 

「おい、お前大丈夫か?」

 

「ぅえ?」

 

その少女はキョトンとした表情で俺を見上げてきた。そして涙ぐんだ声で俺の名前が呼ばれる。

 

「そ、総士くん……?」

 

「は? つ……つぐ? 何してんだ、こんなとこで」

 

どういう事かそこには小動物のように震えるつぐが居た。

 

髪は濡れていて、雨に打たれたのだろうか。でも折りたたみ傘のようなものが近くにあるから濡れるのはおかしい。

 

「か、雷が……」

 

指を指された方──雨が振り続ける外を見る。

 

「あー……、成程」

 

これが帰ってないとまずいと思った理由。つぐは雷が苦手なのだ、それは持っている傘を投げ出すほどに。

昔は鳴る度に泣いて俺や蘭達に抱きついてた記憶がある。

 

ピカッ! と再び光が走る。

 

「きゃあああああっ!!!!」

 

「おわっ!?」

 

雷に驚いたつぐが勢いよく俺に抱きついてきた。腰に腕を回されて尻餅をついてしまう。

 

「いやぁ、もう無理だよぉ……。総士くん……離れないでぇ」

 

怯えるように体を震わせながら強く抱きしめられる。上目遣いでお願いしてくるつぐに心が締め付けられる感じがした。

 

「お、おう……(や、やばい! 可愛すぎる……っ!)」

 

濡れた髪に微妙に透けて下着が見える制服、そして上目遣いという三連コンボに俺はクリティカルを受けてしまう。

 

濡れて体温が下がっているせいか、つぐの体温をダイレクトに感じる。思わず人ってこんなにも温かいんだな、と変な事を思ってしまった。

 

 

 

 

 

〜つぐみside〜

 

 

「ご、ごめんね総士くん。急にあんな事して……」

 

「あー、あんま気にしてない……から気にすんな。それより雨が弱いうちに帰ろうぜ」

 

お互いに顔を逸らしながら話す。

 

ううっ、どうしてあんな恥ずかしい事をしたんだろう……。いくら怖いからって、あれはないよ……私。

 

「そ、そうだね。じゃあ帰ろっか」

 

鞄を持って小屋の外に出ようとする。そこで私は総士くんのある事に気が付いた。

 

「あれ? 総士くん、傘は?」

 

「ねぇよ。だから濡れてんだがな」

 

笑いながら言われる。

 

「そのまま帰るつもりなの?」

 

「だな。このくらいならダッシュすれば十分くらいで着くと思うし」

 

走る準備をするかのように準備運動を始める。それを見ていたつもりだが、知らぬ間に私は総士くんに叫んでいた。

 

「だ、ダメだよ! 風邪ひいちゃうよ!?」

 

「大丈夫だって、男はそんなに弱くねぇって」

 

「ううん、昔そう言って風邪ひいたじゃん!」

 

「って言ってもなぁ。傘は持ってないんだぞ?」

 

その言葉で私は一瞬止まる。そして手に持っているある物に視線を落とした。

 

そしてそれを総士くんに突き出して。

 

「──か、傘ならあるよっ! ほら!」

 

 

 

 

 

「何か久々だな、こんな風に帰るの」

 

「っ──そ、そうだね」

 

雨が振り続ける中、私達は一つの傘(・・・・)を使って帰っていた。

 

「(また勢いだけで言っちゃったよ〜! ど、どうしよう……)」

 

内心、言った事に半分後悔しながらも相合傘をしていた。嬉しさもあるけどこんなに恥ずかしいなんて思ってもなかったのだ。

 

「あー、もうちょっとこっち寄れよ。濡れるだろ?」

 

「うぇっ!?」

 

そんな事を言われて変な声を出してしまう。

総士くんはいつもの表情で恥ずかしがってるのは私だけというのが見て取れた。

 

やっぱり……私はただの幼馴染みなのかな。

 

「う、うん……じゃあ──」

 

更に総士くんに近付く。

 

「(わぁ……)」

 

つい雨で体に張り付いた制服に目がいってしまう。ドキッと心臓がなった気がした。

 

「(私のドキドキ、聞こえてないかな? 聞こえてないよね?)」

 

ぽーっ、としながら眺めていると話を切り出される。

 

「こうしてると昔を思い出すよな。小学校の頃だけど」

 

「うぅ、今思うと恥ずかしいよ……」

 

恋愛感情でなく幼馴染み、仲のいいお兄ちゃんのような人と思ってたあの頃はよく雨の日に相合傘で帰っていたのだ。

 

『総士お兄ちゃん! 帰ろー!』

 

『ってつぐ、また傘持ってきてないのか』

 

『えへへ〜、お兄ちゃんと一緒に帰りたかったから〜!』

 

思い出すだけで顔が熱くなる。草薙さんやひまりちゃんにからかわれてた事も思い出して、なお恥ずかしくなった。

 

その話をきっかけに、いつものように自然と話が続くようになった。

 

「あの頃から私達あまり変わってないね~」

 

「俺の方は変わったけどな。花音が奏に積極的になったとか」

 

花音先輩はお店の常連さんで、総士くんの親友である草薙先輩に好意を寄せてる人だ。確か向こうも幼馴染みだったと思う。

 

「私ちょっと前まで付き合ってると思ってたんだよね。まだだなんて聞いた時はビックリしちゃったよ」

 

「確かにあれは知らない人から見たら付き合ってるようにしか見えないよな」

 

草薙先輩以外のエタハピメンバーは花音先輩の思いに気付いているらしい。何で草薙先輩に言わないのか理由を昔聞いた事がある、「奏自身がそのうち気付く」と全員が口を揃えて言ったのだ。

 

そんな事を話していると、商店街に入っていて私の家の前に着いていた。

 

「あ、送ってくれてありがとね総士くん。傘は借りてていいよ」

 

「マジか? それなら明日返しに来るわ。じゃまた明日な」

 

お礼を言われながら別れの挨拶をされる。私もお別れの挨拶をする。

 

「うん、また明日ね。ちゃんとお風呂に入るんだよ?」

 

「ははっ、親か何かかよ。安心しろって風邪だけはひかねぇからさ」

 

その日はそう言って私達は別れたのだった。

 




今回も読んでもらいありがとです!

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