いつも頑張るお前の傍に。いつも支えてくれる君と一緒に。   作:小鴉丸

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実は昨日熱を出して寝込んでましたw
つぐに看病されたら興奮で熱が上がりそうですよね。

とまぁそれは置いといて、今回はサブタイ通りの話になります。


第九話 看病

〜総士side〜

 

 

「ゲホッ、ゲホッ! ……っあ〜、俺の無遅刻無欠席が……」

 

「馬鹿みたいに濡れて帰ってくるからよ」

 

「それと無遅刻は何かの幻想だ。病人は黙って寝てろ、先生には俺から伝えておくから」

 

母さんと奏が口を揃えて言った。

 

俺の身に何があったのか──。

それは単純、昨日の雨で風邪を引いたのだ。熱は三十七度六分、正直頭が痛くてこうやって話すのが精一杯だ。

 

「料理は作り置きしておくから温めて食べなさいね、それと安静にしておく事」

 

「ゴホッ……あー、あーたりめーだろ。寝る事しか出来ねぇよ」

 

「そ。それならいいわ。何かあったら電話しなさいね」

 

そう言って母さんは部屋を出ていく。その後に奏も出て行こうとしたが、一旦止まり俺に話し掛けてきた。

 

「……つぐみに連絡しとこうか?」

 

「いらんお世話だ。風邪でもうつったら悪いだろ……」

 

「ふーん、そっか。ま、お大事に」

 

そして奏も部屋を出ていった。

 

一人になった部屋には時計の音と、外から登校している学生の楽しそうな声が聞こえる。

 

「(あー、うるせぇ……)」

 

カーテンを閉め、電気を落とす。カーテン越しに少し光が入ってくるが毛布をかぶり真っ暗になるようにする。

 

今は寝よう。起きていても頭が痛くなるだけなんだ。

 

そうして俺は再び眠りについた。

 

 

 

 

〜モカside〜

 

 

「つーぐー! お昼だよー!!」

 

「…………」

 

午前の授業が終わりお昼になった。あたし達は中庭でご飯を食うことになったのだが……。

 

「……つぐ?」

 

「朝からずっと考え事してるよな。何かあったのか?」

 

と言ってもつぐは黙り込んだままだった。

あの真面目なつぐが人の、それもあたし達(幼馴染み)の話を無視するなんて明日世界が滅ぶんじゃないか、というくらい珍しい。

 

「つぐみ……どうしたの? 熱でも──」

 

そう蘭が言い近寄った途端につぐは勢いよく立ち上がった。勿論、突然の事だったからみんな驚く。

 

「私、今日用事あったから! 先生に帰るって言ってて!」

 

「え? お、おい! つぐ!?」

 

言うや否や校舎に走っていく。そんな姿をあたし達は眺めることしか出来なかった。

 

見えなくなったところで、再びあたしは誰に向けてでもなく質問をした。

 

「どうしたんだろつぐ。朝からぼーっとしてたけど」

 

「だよな……。モカ、蘭思い当たる節あるか?」

 

ともちんから聞かれるが、あたしや蘭は何も聞いてない。当然分からないと答えるしかなかった。

 

「でも隠し事があるのは確かだね。つぐみこういうの隠すの下手だし」

 

「それにしても〜、みんなに隠して学校抜け出してまでする事って何かな〜」

 

「家で……何かあったとかか?」

 

「それならあたし達に言うはずだよ」

 

蘭の言う通り、家庭の事情ならあたし達に一言言うはずだ。言わないという事はそれ以外の何か……もっと個人的な……。

 

「なら何だろね? そんなつぐが熱心になる事って」

 

「総士の事しか思い浮かばないな」

 

「あははっ。そだねー、つぐ総士の事大好きだもんね〜」

 

「「「「…………」」」」

 

四人の間に変な空気が生まれる。そうじゃない、そうではない事を思っていた。

だけどその結論にたどり着いてしまって──。

 

「総士……?」

 

「いやいや、まさか……」

 

蘭の言葉にその場が凍った気がした。

 

言い方は悪いが、総士の事になるとつぐは何をしでかすか分からない。

例を挙げるなら小学生の頃の喧嘩だろう。上級生にさえ立ち向かう、それくらい総士を想っているから……。

 

「──っ。取り敢えずあたしが龍斗に電話してみるよー、向こうもお昼だと思うしー」

 

考えを振り切るように携帯を取り出して龍斗に電話をかけた。すると三回目のコールで通話が繋がった。

 

「りゅー?」

 

『──いえ何かモカから電話来たんで……。って、何だお前からなんて珍しい』

 

「やぁやぁりゅーくん、今時間いいかな〜?」

 

『りゅーくんはやめろ。で、要件は?』

 

相変わらずの恥ずかしがり屋のようだ。向こうが不機嫌になる前にあたしは手短に言った。

 

「ごめんごめん。今日さー、総士学校来てるー?」

 

『いや風邪引いたらしくて休んでるけど……。それがどうかしたのか?』

 

「つぐに色々とあってね〜。ま、それが聞けてよかったよ。それじゃあね〜」

 

『えっ、おいま──』

 

プツッと通話を切る。

 

龍斗には悪いが十分すぎる情報を聞けた。

風邪で学校に来ていない、それだけで十分つぐが行動を起こす理由になる。

 

あたしはみんなに総士が来ていない事を話す。するとみんなはそれぞれを見合って頷き合った。全員同じ事を考えたのだ、逆にそれしか思い付かないわけでもあり……。

 

「総士だね」

 

「総士だな」

 

「総士だね〜」

 

「総士か〜」

 

全員が総士の名前を口にした。

 

理由が分かったともちんとひーちゃんは話をする。それはつぐを応援する為の会話で……。

 

「総士が絡んでるならあたし達にはどうする事も出来ないな。何とかして先生に説明しないと……ひまり、手伝ってくれよ」

 

「まっかせてよ巴! つぐの為なら頑張るよ! ね? モカ、蘭!」

 

ひーちゃんはあたしと蘭にも手伝うように言ってくる。

 

「……まぁね」

 

それに蘭は間を置いて答える。

きっとあたしを思っての事だろう、こういう所は蘭素直だもんな〜。モカちゃんは嬉しいよ〜うんうん。

 

「そだねー。周りに気付かれないように、あたし達がどうにかしないとねー」

 

その言葉は自分に言ってるように思えて、少し……胸が締め付けられた。

 

 

 

 

 

〜つぐみside〜

 

 

「はあっ……はぁっ! ──っ! つ、着いた……」

 

こんな全力で走ったのはいつ以来だろう。息は切れて、汗もかいている。けどそんなのが気にならないくらい、私は焦っていた。

 

「そ、総士くん! 私! つぐみだよ!」

 

インターホンを押しながら声を上げる。

 

焦りの原因は今朝の草薙さんからのLINEのメッセージだった。

 

『今日のバイト、風邪引いたから総士来ないからな。それと学校終わった後に見舞行ってくれ、あいつ家で一人だからさ』

 

それが授業中にずっと頭にあって全く集中出来なかったし、みんなの話もあまり聞いてなかった気がする。こんなにも、もやもやするくらいなら──、と私は思い切って学校をサボって総士くんの家に来た訳だ。

 

「ど、どうしよう……。総士くん、出てくれない……」

 

鍵なんて持ってないし、やっぱり無駄なのかな……。総士くんのお母さんは仕事で居ないし、お父さんも……。

 

と思っていた時だった。

 

「おや、君は……つぐみちゃんじゃないか?」

 

「え……? 駿二(しゅんじ)さん?」

 

扉の前で立ち尽くしていると後ろから声を掛けられた。その声は今、考えていた人の声で……。

 

「やっぱり、つぐみちゃんじゃないか。どうしたんだいこんな時間に」

 

「あ、あの……えっと──」

 

スーツ姿の男の人、白羽駿二さん。総士くんのお父さんで私の親とは昔から仲がいいらしく、よく珈琲店に足を運んでくれている。

 

私は急に言い寄られて戸惑ってしまう。

それもそうだ、学校をサボって看病しに来ました、だなんて平気で言えるものじゃなくて……。

 

「そ、そう! が、学校……が早く終わって、総士くん……熱って聞いたので、その──あのぉ……」

 

必死に苦し紛れの言い訳をする。取り敢えず思い付いた事を口に出しているが、これだと挙動不審の人みたいだ。

 

追い返される。

 

そう思っていた私は、駿二さんの反応を見てますます戸惑う事になった。

 

「ん? あぁ、そうか。あいつ熱だったな。へぇ──ほう……。これは……」

 

顎に指を当て、何かを一人で納得したように頷く駿二さん。そして持っていた鞄から鍵を取り出して、私に渡した。

 

当然、私は更に戸惑い始めてしまい。

 

「え? え?」

 

「俺は仕事の忘れ物を取りに来ただけなんだよね。まぁそれだけ。つぐみちゃんがあいつの看病してくれるなら、家に居ても大丈夫だろ。きっと母さんもそう言うだろうし」

 

それは家に入っていいという事だろうか?

 

私はゆっくりと鍵穴に鍵を指して回す。カチッと音が鳴り、駿二さんはすぐさま家に入った。

 

それからしばらくして駿二さんは戻ってくる。その手には紙袋を持っていて、それが忘れ物という事はすぐに分かった。

 

「えっ……あ、あの! わた、私──っ!」

 

「バカ息子の事頼んだよ。家にあるのは好きに使っていいから、じゃ後はよろしく」

 

「え、あ──」

 

そう言い残すと車に乗りこんですぐに行ってしまった。つまり、その場には私一人という事で……。

 

「(ま、任された? そ、それならちゃんとしないと?)」

 

実感の無いまま私は家に上がる。

 

靴を脱いで、取り敢えず総士くんが寝ているであろう、二階の部屋に行く。

その前にリビングを除くと作り置きされているお粥があった。きっと総士くんのお母さんが仕事前に作っていったのだろう。

 

「そ、総士くん? 入るね……?」

 

部屋の前に着いた私は恐る恐る扉を開ける。扉を開けた先には、総士くんがベットの上で寝ていた。

 

一目見た時に気付いたのは、額の汗が凄い事だ。それと息も荒い。

 

「汗拭かないと……っ、タオルは確か一階に……!」

 

慌てて一階に降りて、洗面台の近くにあったタオルを手に取る。そして風呂場にあった桶に水を注いでそれを二階へと持っていく。

 

再び総士くんの部屋に来た私は、水でタオルを濡らして総士くんの汗を拭き取る作業を開始した。

 

「は──ぁ、……っ」

 

「(凄い汗……ちゃんと拭かないとっ!)」

 

額だけでなく、服が張り付いているのが分かる事から相当なものだと分かる。額を拭いて、顔も軽く拭く。そして首も拭いて──。

 

「(ど、どうしよう。体も拭いた方がいいのかな……でもそれだと、服、捲らないとだし……)」

 

自分で顔が赤くなるのが分かる。

 

つまりそれは、総士くんの裸を見るという事で……いや、やましい事は何も考えてはないが……。

 

「(看病、看病だから! うん。大丈夫……だよね?)」

 

意味もなく周りをキョロキョロと見てから、総士くんの服を捲る。普段は見れない場所に私の視線は奪われて、つい声を漏らしてしまった。

 

「(鍛えてるのかな……筋肉凄い……。昔とは大違いで……、男の子って感じが更にして──)」

 

目に焼き付けるように所々拭いていく。

そうして上半身を拭き終わった私は一階に降りる事にした。

 

時間は十三時を過ぎていて、もう十四時になる前だ。それなのにお粥が置かれているという事は、まだ食べてないという事で。

 

「レンジ、レンジ……あった」

 

置かれていたお粥を温めている間に、私はリンゴが詰まっていた袋から一つ取り出して剥き始めた。食べやすいように切って、皿に並べる。

 

そうしてる間にお粥は温められていて、お盆にその二つを載せてから二階へと上がった。

 

部屋にある机にお盆を置いてから私は総士くんに声を掛ける。

 

「総士くん? ご飯だよ?」

 

「……う。つぐ……か?」

 

すると総士くんはゆっくりと体を起こした。

 

 

 

 

〜総士side〜

 

 

「(どうして、つぐが……。夢、か……?)」

 

ズキズキと頭痛がする中で俺はその声を聞いた。

聞き間違えるはずはない、俺が一番大切に思う人物の声。でも、だからこそ夢だと思ってしまい──。

 

「お口、開けれる?」

 

お粥……だろうか。それらしきものを混ぜているように見える。

 

「ふーっ、ふー……はい、お粥だよ?」

 

「(夢。夢だよな……。それなら、少しくらい、甘えても……)」

 

朦朧とする意識の中で口を開けると、そこにスプーンで掬われたお粥が入れられる。

 

朝は食べてないから不思議ととても美味しく感じてしまう。夢の中といっても、好きな人にこうしてもらえるというのもあるのだろうか?

 

それからつぐは俺にお粥を与える度に、息を吹きかけ少し冷ましてから食べやすいようにしてくれる。

 

「美味い……ありが、とな」

 

「えへへっ……。うん、どういたしまして」

 

いくらでも食べれるような気がした。つぐがしてくれるからだろうか。

だがそれは本当だったようで、俺はそこにあったお粥を全部食べてしまった。

 

その後はつぐが剥いてくれたのだろうリンゴを少し食べてから、薬を飲んで再びベットに横になった。

 

「ごほっ……ゲホッ、っ……」

 

額の汗に気付いたのか冷たいタオルで拭き取ってくれる。細かいところに気を使ってくれる、そんなつぐに俺は感謝していた。

 

「総士くん、何かしてほしい事ある?」

 

人を思いやる心。そして、その思いやりを実行するという事はそう簡単に出来ることではない。だけどつぐはそれが出来てしまう。

 

それを知っている俺は、勿論甘えたくなるわけで……。いや、こういう(風邪を引いた)状態だからいつもはしないお願いをしてしまう。

 

丁度腹も満たされて睡魔が襲ってきていたのだ。

 

たまには……甘えてもいいよな。これは、夢なんだから……。

 

「手──握って、くれるか……?」

 

弱々しく言う。するとつぐは否定する事なく俺の手を取って、握ってくれた。

 

「(つぐの手って、小さいんだな……。だけど、温かい。それに落ち着く、熱が、伝わって……)」

 

手を握られると急に安心して瞳が閉じていった。

最後に見えたのは握られた手と、優しく笑うつぐの顔だった。

 

 

 

 

〜奏side〜

 

 

学校が終わって総士の家に届け物をしに来たが、総士の母親である春香(はるか)さんが面白いものを見せるかのような仕草をして、家に上げてくれた。

 

流されるままに俺は朝と同じく二階の部屋へと行く。そして扉を開けると──まぁ、なかなか総士にとっては幸せそうな光景が広がっていた。

 

「つぐみ? どうして?」

 

そこにはベットで寝ている総士と、そのベットに体を預けて総士の手を握って寝ているつぐみの姿があった。

 

俺の呟きに春香さんが答えてくれる。

これは駿二さん情報らしいが、昼から総士の看病をしていたそうだ。

 

「それにしても、幸せそうに寝てるわねぇ〜。邪魔するのも悪いし降りましょうか」

 

「ですね」

 

俺は扉の近くにファイルを置いて一階に降りる事にした。

 

手を握りあって寝ている二人は、まるで常に隣合って生きているかのようにも思えた。

 




今回も読んでもらいありがとです!

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