艦娘『が』救済物語   作:konpeitou

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少しずつ、少しずつ暗くなっていきます。

なんか鈴谷が病んできてる気がする……。


第二部 忍び寄る不穏
到来する疑心と視察


「うーん……まだ頭が痛い……」

 

 

 祝賀会の翌日、提督は頭痛に苦しめられていた。

 

 吐き気と痛みをこらえて、彼は服を着替える。

 

 

(昨晩の記憶が殆ど無いなぁ……鈴谷達と飲んで、どうなったんだろう)

 

 

 提督は、酒に酔っていた時の記憶を無くしていた。

 

 あれ程意識が朦朧としていれば、無理も無い事だが。

 

 そして当然、最後に叫んだ事も、覚えてなどいなかった。

 

 

 制服を着終えた提督は、執務室へ向かう。

 

 まだ誰もいない廊下を通り、部屋へ入る。

 

 ちょうどその時、執務室に備え付けられている電話が鳴った。

 

 

 驚きながらも、提督は受話器を取る。

 

 

「は、はい。こちら巳波乃島鎮守府司令」

 

 

『……君か。久しいな』

 

 

「!! 元帥殿!?」

 

 

 声の主は、彼を此処へ送った大本営の元帥だった。

 

 予想もしていなかった相手に、提督は危うく受話器を落としかけた。

 

 

『どうだ? 上手くやっていけているか?』

 

 

「は、はい! 少しずつですが、慣れてきていると感じています」

 

 

 元帥は、提督に幾つかの質問をした後、近況報告を聞いた。

 

 出撃の件などは当然あとで書類を以って連絡されるのだが。

 

 

『……その様子なら、問題はなさそうだな』

 

 

「はい。……皆とてもいい娘達ですから」

 

 

 まだ短い間ではあったが、提督は艦娘達の優しさを十分体感していた。

 

 まだまだトラウマは残っているものの、少なくとも表面上は『取り繕う』ことが出来ている。

 

 それはひとえに彼女たちの人格のおかげだと、提督は思っている。

 

 

『……君に伝える事がある。明日、そちらに視察官が到着する』

 

 

「視察官、ですか?」

 

 

『ああ、前と同じ轍を踏まない様、優秀な者を送る』

 

 

 提督が虐待されていた鎮守府には、何回か視察官が来ていた。

 

 その時は艦娘達の巧みな偽装工作により、悲劇の露見が遅れてしまったのだ。

 

 元帥はその点を踏まえ、今回の視察を計画したのだろう。

 

 

『……君がまた酷い目にあっているとは思えないが、念のためだ』

 

 

「いえ、お心遣いいただきありがとうございます!」

 

 

 提督は、元帥のいう事は至極もっともだと思った。

 

 そもそもどんな鎮守府であれ、視察は来るものなのだ。

 

 

『では明日の正午に、港へ迎えをやってくれ』

 

 

「はい! 了解いたしました!」

 

 

 元帥とのやり取りを終え、提督は受話器を置いた。

 

 それとほぼ同時に、執務室の扉をノックする音がする。

 

 

「どうぞ」

 

 

「て、提督ー、鈴谷だよっ、おはよう!」

 

 

 入室してきたのは鈴谷だった。

 

 提督は椅子に座りながら彼女を迎えた。

 

 

「あ、ああ、今日の秘書艦は鈴谷だったっけ。おはよう」

 

 

「うん……あのさ、提督……」

 

 

 鈴谷は何かを言いかけて、途中で切った。

 

 提督の顔色が悪く、頭を押さえていたからだ。

 

 

「提督どうしたのっ!? 大丈夫!?」

 

 

「う、うん、ちょっと二日酔いで頭が痛くて……」

 

 

 提督がそう返すと、鈴谷の表情が一瞬こわばった。

 

 しかし、すぐにいつもの様に普通に振る舞う。

 

 

「あ、あー! 昨日提督凄く飲んでたからねー!」

 

 

「そうなんだ。記憶が全然なくて……も、もしかして迷惑かけちゃった?」

 

 

「! いや、全然大丈夫だったよ? 提督すぐ寝ちゃったから!」

 

 

 鈴谷は、提督が昨晩の事を覚えていない事を知った。

 

 その事にひとまず安心しつつ、彼女は嘘をついた。

 

 

『艦娘なんていなければよかったんだ!!』

 

 

「……っ!!」

 

 

「す、鈴谷? 鈴谷も二日酔い?」

 

 

 昨日のあの言葉を思い出し、鈴谷は無意識に下唇を噛んだ。

 

 提督に心配され、慌てる鈴谷。

 

 

「あ、うん! 鈴谷もちょっち頭痛いかも~。で、でも全然平気だから!」

 

 

「な、ならいいけど……」

 

 

 鈴谷は、絶対に昨日の事を提督に言わないように決めた。

 

 あの発言が、酒に酔って出た提督の本音なのか、それとも戯言なのか。

 

 それに関係なく、彼が己の言ってしまった事を認識してしまえば、傷ついてしまうと考えたのだ。

 

 

(……だけど……)

 

 

 鈴谷は書類に何か書き込んでいる提督を見る。

 

 きっと、いや間違いなく、昨晩のアレは私達に向けての発言ではない。

 

 前の鎮守府での経験が、無意識にあんな事を言わせたのだ、と鈴谷は思っている。

 

 

 しかし、どんなに頭で理解できていても、心にはしこりが残る。

 

 本当は、提督は艦娘そのものを恨んで、憎んでいるのではないか。

 

 少しずつ慣れてきた様な気がしていたけど、本当は全部嘘なんじゃないか。

 

 そんな疑念が、確実に鈴谷の中で膨らみつつあるのだ。

 

 

(っ!! こんなんじゃ駄目だ! 私が提督を信じないとっ!)

 

 

 鈴谷を含む艦娘達は、無償の友愛を提督に向けてきた。

 

 それは、彼女達に感情があり、心があったからだ。

 

 それはすなわち、提督からのマイナス感情を受けてしまうということでもある。

 

 

(私達が……提督を信頼しないと……助けてあげないと……!)

 

 

 今まで、彼が一度でも弱音を吐いたことがあっただろうか。

 

 鈴谷達が見たのは、あくまでも彼の記憶の映像。

 

 彼自身が、鈴谷達に過去を語った事は、一度としてないのだ。

 

 

 そんな彼の、初めての艦娘に対する否定的な言葉。

 

 それは鈴谷達艦娘の心を乱すのに、十分すぎる力があったのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翌日、正午、巳波乃島港にて。

 

 視察官を乗せた船が、島に到着した。

 

 港には提督と、護衛として長門が向かった。

 

 

 タラップから、男と女が一人ずつ降りてくる。

 

 片方は、筋肉質な中年男性。

 

 ニコニコと明るい笑顔で、背筋をピンとはっている。

 

 そしてもう片方は、小柄な若い女性だ。

 

 眼鏡を掛けており、どこか小動物的な印象を受ける。

 

 

 提督はその二人に敬礼した。

 

 

「ようこそ巳波乃島へ、視察官殿!」

 

 

「やあ提督君! 初めまして、これから宜しくね!」

 

 

 視察官は白い歯を見せつける様に爽やかな笑顔を作って見せた。

 

 そして、控えていた女性を紹介しだす。

 

 

「こちらは私の補佐、つまり助手君だね!」

 

 

「あ、あの、よろしくお願いしますっ!」

 

 

 小柄な女性は視察官助手の様だった。

 

 視察官とは対照的に、おどおどとしている。

 

 

 長門は彼女の様子を見て、ここにきたばかりの提督を思い出した。

 

 

「では行きましょうか!」

 

 

 そして、いやに明るい視察官を一瞥して、歩き出すのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 視察官達は、夜には帰るとのことだった。

 

 彼らはその間、鎮守府や艦娘、提督の様子を見ていく。

 

 

 提督は視察官の質問に丁寧に答えていった。

 

 

「よし、お疲れ! じゃあ執務に戻って構わないよ!」

 

 

「はい、ではまた後ほど」

 

 

 提督は視察官との話を終え、鎮守府の廊下を歩いていた。

 

 もうすぐ遠征部隊の娘が帰ってくるので、それを迎えようかと考えたのだ。

 

 

 そんな彼の目に、一つの影がとまった。

 

 それは、視察官助手の彼女だった。

 

 

「あ、こんにちは」

 

 

「て、提督殿、お疲れ様ですっ!」

 

 

 提督は、おどおどする彼女に、何となく過去の自分を重ねた。

 

 彼女がこうなのは恐らく新人だからだろうが。

 

 

「ねぇ、少し話を聞いてもいいかな?」

 

 

「は、はいっ! 私でよければっ!」

 

 

 提督は、艦娘以外の女性と話すことが久しぶりだった。

 

 トラウマに縛られず会話できる事を、少しの間、楽しむのだった。

 

 

 

(提督……)

 

 

 そんな提督らを影から見ている艦娘がいた。

 

 鈴谷は、悲し気な顔をしながら廊下の角に立っていた。

 

 

(やっぱり艦娘なんかより……人間の女の子の方が……)

 

 

 提督は、普通に視察助手と話していた。

 

 別段嬉しそうであったり、テンションが高いわけでもない。

 

 しかし、その『普通』こそ、鈴谷達が一番求めるものなのだ。

 

 慣れてきたと言っても、自分たちと話す時とは明確な差がある。

 

 

 鈴谷は、どうあがいても艦娘なのだ。

 

 

(あの言葉……やっぱり本心なのかな……)

 

 

 提督は酷いトラウマを抱えていて、ゆっくり慣れていけばいい。

 

 そうは解っていても、この気持ちを抑える事が出来ない。

 

 

 鈴谷は、自分の心が重く沈んでいくような感覚を覚えた。

 

 




鈴谷みたいにガッツリ引き摺る娘もいます。

他も子たちはどんな感じでしょうね?

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