艦娘『が』救済物語   作:konpeitou

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加賀さんの場合、です。
色んな娘がいる、ほんの一例。


加賀と揺るぎ無き夢

「気持ち悪い顔で泣いてんじゃねえよっ!」

 

 

 振り上げた脚に、提督は思わず目を瞑った。

 

 そして訪れる衝撃と痛みに、彼の意識は遠ざかる。

 

 

「ははっ、いい蹴り心地だな!」

 

 

「本当? 私もやってみよっと」

 

 

 蹴り上げられた脇腹を抑えて呻く提督。

 

 そんな彼に、無慈悲に追撃が加えられる。

 

 

「ぎっ、ゆ、許してくださいっ! かんむ、ごはっ!!」

 

 

「あー、うるさいです。黙って嬲られてくれませんかー?」

 

 

 寄ってたかって提督を蹴り続ける、艦娘達。

 

 成人男性並みか、それ以上のパワーで全身を蹴りまわされる。

 

 彼の身体はそこら中に青あざが出来、その上から新たな内出血が引き起こされた。

 

 

「ふぅ、面白かったです。それじゃあ」

 

 

「おいクズ、しっかり片付けとけよな」

 

 

 一頻り提督に暴行をして満足した艦娘達は、謝りもしなくなった提督を残して去っていく。

 

 涙や鼻水、涎でグチャグチャになった顔を廊下に擦り付けながら、提督は痛む身体を起こす。

 

 そして、投げつけられた雑巾で、体液で汚れた廊下を拭いていく。

 

 

 ああ、こうしている間に、またやってきたらどうしよう。

 

 また、リンチされるのだろうか。

 

 自分はいつ、解放されるのか。

 

 誰か、この地獄から、助けて下さい……。

 

 

 廊下を拭きながら、提督はまた涙を零した。

 

 歪む視界に、影が映るのを彼は見た。

 

 

 艦娘が、やってくる。

 

 殴られる、蹴られる、殺される。

 

 あの残酷な笑みを張り付けた顔が、自分を取り囲む。

 

 その手に持っているのは、ペンチ。

 

 それは提督の手に向けられて……。

 

 

 暴れる提督を、艦娘達が抑える。

 

 泣きながら許しを請う彼を無視し、ペンチは彼の爪を挟み……。

 

 

 べりっ。

 

 

『嫌だあああああああああああああああ!!!』

 

 

 そこで、彼の意識は途絶えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はッ……! ゆ、夢……!? はぁっ、はぁっ!!」

 

 

 深夜、提督はベッドの上で目を覚ました。

 

 彼が過去味わった、地獄の日々。

 

 

「ウッ……! おえっ……ハアッ! うう……!」

 

 

 彼は今でも、あの時の事を夢に見る。

 

 過去を夢で見る事に怯え、眠ること自体が怖くなったのはいつの頃からだろう。

 

 

「はぁっ……! 早く……早くしないと……!」

 

 

 提督はベッドから這う這うの体でずり落ちた。

 

 夢の中で味わった痛みが、現実にも影響を及ぼしているようだった。

 

 

 酷い頭痛と吐き気、そして思い通りに動かない身体。

 

 地獄から抜け出せた彼に、トラウマは無慈悲に襲い掛かる。

 

 それは彼が起きていようが眠っていようが、片時も傍から離れないのだ。

 

 

(……嫌だ……なんでこんな……誰か……誰か僕を……)

 

 

 ……提督の苦しみに、気付く者はいなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「き、今日の秘書艦は加賀だね。よ、よろしく……」

 

 

「……よろしくお願いします」

 

 

 提督が悪夢に苦しんだ翌日の、執務室。

 

 その日の秘書艦である加賀は、書類整理をしながら提督を横目で見た。

 

 

(……あの日以来、ほんの少しだけど、皆どこか浮足立っている)

 

 

 加賀は、あの祝賀会の日から、ずっと考えていた。

 

 提督の発言について、悩まない艦娘はこの鎮守府にいなかっただろう。

 

 艦娘といってもそれぞれ、思うところは違うようであったが。

 

 

 過去が過去だからしょうがないと、割り切る者。

 

 そもそも酔っての発言、あまり気にし過ぎるべきではないという者。

 

 提督は艦娘を憎んでいて、自分たちもその対象なんじゃないか思う者。

 

 艦娘によって様々な事を考え、それを態度に出してしまう娘がいるのも無理はなかった。

 

 

(……全員提督に気取られる事の無い様にしているけど、どうしても隠し切れない子がいる)

 

 

 艦娘達は鈴谷の様に、提督にあの事を伝えるのだけは避けるべきだと考えていた。

 

 しかし、不安になる娘、どうすればいいのか解らなくなる娘はいる。

 

 そういった艦娘は、提督と顔を合わせないようにしたりしていた。

 

 

「……提督、此方の書類に判をお願いします」

 

 

「あ、う、うん……」

 

 

 加賀は、再び提督の顔を見る。

 

 他人の心の内というものは、誰にも知ることは出来ない。

 

 言葉や態度で、少しずつ理解していくしかないのだ。

 

 

(……私は、どうなのでしょうね)

 

 

 加賀は提督の過去を知った時、真っ先にこの事態を予想していた。

 

 提督が艦娘という存在そのものを嫌悪し、憎むことは自然な事。

 

 それが私達に向くこともあるだろうと、加賀はふんでいたのだ。

 

 

 しかし、加賀の予想に反して提督は艦娘に対して否定的ではなかった。

 

 むしろ歩み寄る、前に進むといった行動が多かったのだ。

 

 故に、ある意味で『油断』してしまった艦娘は多いだろう。

 

 

(……彼が、どう思っているか……私は……)

 

 

「か、加賀? ちょっといいかな」

 

 

 加賀は思慮にふけるのを中断した。

 

 提督を見ると、書類仕事をあらかた終えたようだった。

 

 

「何?」

 

 

「あ、えっと、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 

 

「……私に答えられる範囲なら、どうぞ」

 

 

「う、うん。最近、その、みんなの様子が何かおかしいような気がして……」

 

 

 加賀は、表情を全く動かさなかった自分を褒めてやりたいと思った。

 

 感情表現が苦手な自分に感謝しつつ、跳ねあがった胸を押さえつける。

 

 

「……何故、そう感じたのかしら?」

 

 

「えと、みんなと会話する機会が減ってる気が、したから……」

 

 

「……そう」

 

 

 提督は、艦娘にトラウマを持っている。

 

 それでも、そんな彼だからこそかもしれないが、艦娘の変化に気が付いてしまった。

 

 加賀は、今ばかりは提督の観察眼を恨んだ。

 

 

「……きっと、慣れきたのではないかしら」

 

 

「な、慣れる……?」

 

 

 加賀は、思いもしない事を言った。

 

 どうにか彼を納得させる事が出来る様な、そんな内容を脳内で創りながら。

 

 

「提督が来て一週間以上、みんな貴方という存在に慣れてきたのでは?」

 

 

「そ、そうかな……そうだよね」

 

 

 提督は、自分が無意識のうちに彼女たちを拒絶するような態度をとっていたのではと思っていたのだ。

 

 それはある意味、間違いではないのだが。

 

 しかし、提督は加賀の言ったことで一応納得する事にした。

 

 

(……本当は、逆。皆貴方の本心を知りたいのだけれどね)

 

 

 加賀は、何とか事態を切り抜けた事に安堵した。

 

 

 ……多くの艦娘が、彼の心の内側を知りたいと思っている。

 

 そして己も、あの日の言葉にしっかりと影響を受けているのだと感じた。

 

 しかし……。

 

 

(……たとえ本心がどうであれ、私は前に進む)

 

 

 加賀は、強い信念を持っていた。

 

 提督が自分たちを恨み、憎んでいようがなかろうが、関係はない。

 

 己の感情など、彼の心の傷を癒すことに何の関係もない。

 

 

 なにがなんでも、彼の艦娘としてあり続けようと、加賀は考えているのだ。

 

 

 これからどんなに辛く、苦しい事があっても、仲間たちと提督を支えよう。

 

 そういった、ぶれない強い想いを、加賀は持っていた。

 

 

 自分のやるべきことは変わらない。

 

 提督を信じる、自分を信じるのみ。

 

 

(……他の娘達は、どうなのかしら)

 

 

 自分は問題ない。

 

 では、心に不安を抱えて揺れている艦娘はどうなるのか。

 

 

 加賀には、それが気掛かりで仕方なかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……」

 

 

「鈴谷? 鈴谷!」

 

 

「あ? ああ、どうしたの熊野?」

 

 

 艤装を整備していた熊野は、ぼんやりしていた鈴谷に声をかけた。

 

 鈴谷の様子が、最近おかしい。

 

 どこか遠くを見つめては、黙って心ここにあらずといった風になる。

 

 

「……別になんでもありませんわ」

 

 

「? ……へんな熊野」

 

 

 変なのは鈴谷の方ですわ、とは、熊野は言えなかった。

 

 提督のあの言葉について、考えているのだろうと思っていた。

 

 

 ……それはそれで、間違いでは無かったのだが。

 

 

(……もし、提督が本心で話せる日が来たとして)

 

 

(もし、提督に鈴谷達の存在を否定されたら……)

 

 

(……私は、どうなっちゃうんだろうな)

 

 

 鈴谷は、ずっと考えている。

 

 一人で考え込み、その思考はどんどん深みへ沈んでいく。

 

 ただ一言でも、提督と話をすれば、何か変わるかもしれないのに。

 

 

 鈴谷は、臆病な自分に気付くのが怖くて、悩む事に逃げるのだった。

 




謎の超メンタル加賀さんと、豆腐鈴谷。
加賀さんみたいに強い心を持てれば、楽そうなんですけどね。

ちなみに、提督は2日に一回くらいの割合で悪夢を見ます。
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