艦娘『が』救済物語   作:konpeitou

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ブラ鎮モノで、提督が開幕攻撃されたりするじゃないですか。
で、提督がチート能力とか持ってなかったら、どうなるのか。
そういう考えから生まれたのが、このお話です。

ちょっと暴力描写注意。



ブラック鎮守府

本人主観の映像。

 

 記憶の映像化とは、その人の視界を映す物であった。

 

 提督の視界が映像として、そして思考が音声として流れる。

 

 皮肉なことに、このとき初めて提督の声を聴いたという艦娘が殆どだった。

 

 その声は、優し気で、親しみやすく。

 

 あの怯え切った声とは、全く異なる物だった。

 

 そして……。

 

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「此処が今日から僕の働く場所かぁ」

 

 

 鎮守府の前で佇む、提督。

 

 彼の、初めての着任場所。

 

 

 そして、彼にとっての悲劇の舞台。

 

 

「よし! 気を引き締めて、まずは……」

 

 

 正門をくぐろうと、提督が歩を進める。

 

 その瞬間。

 

 

「え……?」

 

 

 耳を劈く爆音。

 

 視界が明るく光り、暗転する。

 

 凄まじい衝撃とともに、提督は吹き飛ばされた。

 

 ……そこで、一度彼の記憶は途切れる。

 

 

「……え?」

 

 

 映像を見ていた艦娘の中から、声が漏れた。

 

 誰も、何も理解できていない。

 

 衝撃を飲み込めないまま、映像は続く。

 

 

 提督の視界が復活する。

 

 意識を取り戻し、記憶が再び映し出される。

 

 そこには……。

 

 

「……ちっ、やっと目が覚めたか、このグズが」

 

 

「……? あ、あの?」

 

 

「汚い口を開くな、人間」

 

 

 バキ、と、鈍い音が響く

 提督の視界が歪み、それは彼が殴られた事を示していた。

 

 彼を殴った者、その正体は。

 

 

「ぐっ!? はぐっ!?」

 

 

「……ふん」

 

 

 一人の、艦娘だった。

 

 

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 映像を見ていた艦娘達は、混乱の境地にいた。

 

 何故艦娘が、提督に暴力を振るう?

 

 

 冗談や悪ふざけなどではない、本気の暴行。

 

 彼女たちには、何が起きているのか、理解が出来なかった。

 

 それでも、理解不能の事態は粛々と進行していく。

 

 

 別段、難しい事は無かった。

 

 ただ、理不尽で、不条理で、最悪な事態だった。

 

 

 提督が着任した鎮守府には、かつて前任の提督が居た。

 

 その前任は、艦娘に対して悪虐の限りを尽くした。

 

 所謂ブラック鎮守府と言われる物で、艦娘達は虐げられ続けた。

 

 そしてある日、それは発覚した。

 

 前任は更迭され、艦娘は救われた。

 

 否、救われた様に思えた。

 

 

 新たな出発ということで、一人の提督がこの鎮守府に送られた。

 

 何も知らない提督を、何も理解できていない大本営が。

 

 それは、狂った獣の群れに、力なき餌を放り込む行いだというのに。

 

 

 元ブラック鎮守府の艦娘は、人間を恨んでいた。

 

 そして、極限まで傷つけられた彼女たちは、狂ってしまった。

 

 提督が、人間が憎い。

 

 誰でもいい、この憎しみ、恨みを、人間にぶつけたい。

 

 そして、その願いは叶ったのだ。

 

 新任の提督、彼の着任によって。

 

 

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 地獄、としか形容しようがない。

 

 提督にとって、其処はそんな場所だった。

 

 

 狂った艦娘達による、虐待。

 

 普通の人間である提督には、抵抗の仕様が無かった。

 

 

 外部に助けを求めようとも、常に監視されている為不可能。

 

 電話に取り付けば指を圧し折られ、しこたま殴られた。

 

 ……砕かれた骨が皮膚を突き破った痛みに、提督の抵抗心は完全にそがれた。

 

 

 任務は、滞りなく進んでいる。

 

 艦娘達は、狂いつつも、冷静な頭を持っていた。

 

 自分たちの行いが露見しないように、大本営に見つからないように。

 

 少しでも、人間を嬲る時間が、増えるように。

 

 

 

 食事は最低限。

 

 死なない程度に、叫び声をあげる体力が残る様に。

 

 

 常に監視、気まぐれな暴力。

 

 廊下を歩いているだけで殴りかかられる。

 

 

 そして、精神への負担。

 

 悪口、影口、人格否定、存在否定。

 

 

 提督はいつの日からか、艦娘達にへりくだり始めた。

 

 殴られないように、蹴られないように。

 

 それを見た艦娘は、満足げに笑い、その後不快そうな目で、彼を嬲り続けた。

 

 提督は全身を襲う痛みに耐えながら、謝り続けていた。

 

 

 許してください、艦娘様、と。

 

 

 そんな日常が、ずっと続いた。

 

 

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 記憶の断片を、ところどころ映し出す機械……。

 

 

 生爪をペンチで剥され、その傷口に煙草を押し当てられる。

 

 激痛に泣き叫び、悶え苦しむ提督。

 

 周囲の艦娘はその様子を見て、心の底から楽しそうに笑う。

 

 痛みで意識を失いかける彼に、バケツで汚水をぶっかける。

 

 意識を引き戻され、気絶し楽になることさえ許されない。

 

 

 駆逐艦に髪の毛を抜かれて。

 

 軽巡に歯を折られて。

 

 重巡に火傷を負わされ。

 

 空母に全身に待ち針を突き立てられ。

 

 戦艦に骨を折られて。

 

 潜水艦に水責めをされる。

 

 

 艦娘は、思いつく限りの拷問を提督に加えていく。

 

 提督の口からは、叫びと、謝罪と、懇願だけだった……。 

 

 

 提督の眼前に真っ赤に焼けた鉄の棒が映った時、映像が止まった。

 

 明石が、止めたのだ。

 

 

「ひっ……ぐ、うっ、うううう……!」

 

 

「こんな……こんな事が……!」

 

 

 誰もが、絶望していた。

 

 明石は両手で顔を覆い、涙を流している。

 

 吹雪は茫然自失となり、その場に立ち尽くしている。

 

 長門は手から血が流れるほど握りこぶしを作り、怒りに肩を震わせている。

 鈴谷は、その場にへたり込んでしまった。

 

 

 皆、怒り、哀しんでいた。

 

 何の罪も無い提督が、何故こんな目にあわなくてはいけないんだろうか。

 

 人を守るべき艦娘が、何故このような事をするようになってしまったのか。

 

 

 過去の物は、誰にも触れられない。

 

 前任に虐待された艦娘達も、その艦娘達に虐待された提督も。

 

 それらが負った傷は、誰にも解らないのだ。

 

 

「ぐすっ…映像を……続けます……っ!」

 

 

 明石は震える手で、機械のボタンを押した。

 

 誰も、退出するものは居なかった。

 

 駆逐艦の中には、あまりのショックで嘔吐しそうな者までいたが、

 誰も、逃げなかった。

 

 

 皆、立ち向かわなければならないと思っていた。

 

 

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 地獄は終わった。

 

 視察にやってきた元帥は、目ざとい老人だった。

 

 艦娘達の偽装工作を見破り、その行いを明らかにした。 

 

 自棄になった艦娘が襲い掛かったが、元帥の秘書艦に何なく取り押さえられて行った。

 

 

 その鎮守府は解体された。

 

 艦娘達は、専用の精神病院に収容された。

 

 

 提督は、助け出されたのだ。

 

 長袖の下には、無数の刺し傷、切り傷。

 

 骨折の痕跡も多数、タバコの焼き跡も複数。

 

 

 爪は何枚も剥され、そこに待ち針を刺され。

 

 提督は顔以外、全身傷だらけだった。

 

 

 提督はその後、身体を治療され、精神を治療された。

 

 身体はもとに戻ったが、その心は戻らない。

 

 艦娘に怯え、恐怖を抱くようになった提督。

 

 そんな彼を、元帥は何とかしようと考えた。

 

 

 元帥は、強かな軍人だった。

 

 強い適性を持つ彼を、このままにしておきたくなかった。

 

 トラウマを乗り越え、活躍してほしかった。

 

 そして、元帥は計画を実行した。

 

 

 南方の、新たな鎮守府。

 

 艦娘全員の性格、その徹底的な検査。

 

 二度と悲劇が起こらないために、入念な準備。

 

 そして、提督を、この島に送り出した。

 

 ……それは、軍のメンツもあっただろう。

 

 そして、悲劇の提督に対する、詫びでもあったのかもしれない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 映像は終了した。

 

 凡そ2時間程度、圧縮された彼の記憶は、終わりを迎えた。

 

 誰かが、食堂の電気をつけた。

 

 

「……以上です」

 

 

 明石が、消え入りそうな声で呟いた。

 

 誰もかれも、泣いている者は居なかった。

 

 否、もう、涙も出なかった。

 

 彼女たちの心にあるのは、深い悲しみだけだった。

 

 

「……これから、どうしましょう」

 

 

 吹雪が、不安そうに言った。

 

 提督の過去を知り、知ったうえで何を成すのか。

 

 それが誰にも解らなくなってしまったのである。

 

 

 慰めの言葉をかければいいのか。

 

 何も知らない風に装うのか。

 

 あえて厳しい言葉をかけて激励するのか。

 

 

 彼女たちは、何も解らなくなったのだ。

 

 

「……決めたっ!!」

 

 

 その時、鈴谷が叫んだ。

 

 静まり返った食堂に、大きく響く声。

 

 鈴屋の表情は決意に溢れている。

 

 

「提督を、助けてあげようよ!!」

 

「え?」

 

 

 鈴谷は、周囲を見渡して言う。

 

 

「提督は、まだ助かってないんだよ!?」

 

 

「まだトラウマに捕まって、だからあんなになって……」

 

 

「そんなの、可哀想じゃん!!」

 

 

 目を赤くした鈴谷は、問いかける様に話す。

 

 長門は鈴谷を諭すように言った。

 

 

「……しかし、そんな憐れむような……」

 

 

「憐れんで悪いの!? 同情しちゃダメなの!?」

 

 

 鈴谷は叫ぶ。

 

 

「誰かがあの人に手を差し伸べないと……駄目だよ」

 

 

 最後は消え入りそうな、鈴谷の嘆き。

 

 再び静かになった食堂に、新たな艦娘の声がした。

 

 

「……私、司令官を助けたいです」

 

 

「吹雪……」

 

 

 吹雪は立ち上がり、鈴谷の傍に寄っていく。

 

 そして、艦娘達に向かって宣言した。

 

 

「エゴでも、自分勝手でもいいから……司令官を助けます!」

 

 

「絶対助けます! 司令官を苦しめるモノは、全部私がやっつけちゃいます!!」

 

 

 吹雪は、確固たる覚悟があった。

 

 そして、その覚悟を、艦娘達は見た。

 

 

 長門は頷く。

 

 

「全く、ビッグセブンたるものが、少し及び腰だったようだな」

 

 

「長門さん……!」

 

 

「この長門、提督の過去と戦う事に決めた! ビッグセブンの名において!」

 

 

 その後は、もう、食堂が大歓声の渦に飲まれた。

 

 艦娘達全員が、一致団結した。

 

 提督を救おうと。

 

 

 

 かくして、彼女たちの任務は始まった。

 

 人間を救うという、本来の艦娘の役割を果たすため。

 

 自分たちの提督を、闇から引き上げるため。

 

 

 これは、艦娘『が』提督を救済する物語。

 

 

 




取り敢えずプロローグ終了です。
こんな可哀想な提督を前線に送るなんて、大本営は相当ブラックですね。
次回から優しい世界。
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