艦娘『が』救済物語   作:konpeitou

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パニックさえ起こさなければ提督は結構普通です。
心中は穏やかでないですけど。


吹雪と白い信頼

医務室での出来事があった、その翌日。

 

 提督は執務室に一人座っていた。

 

 忙しなく室内を見回し、落ち着き無さそうにしている。

 

 

(……一体誰がくるんだろう)

 

 

 提督は、明石と大淀から、秘書艦を付ける事を勧められた。

 

 実際、提督自身も、任務に関して詳しくないため秘書がいるべきだとも考えている。

 

 しかし、そのうえで気がかりだったのは自分の持つ『トラウマ』である。

 

 提督は、己の過去と、そのトラウマをはっきりと理解している。

 

 理解した上で、艦娘に恐怖してしまっている。

 

 

 もし、また暴力を振るわれたら。

 

 もし、また裏切られたら。

 

 

 頭では違うと解っていながら、心と身体は艦娘を恐怖してしまう。

 

 パニックを起こしてしまう自分を、提督は情けないと思っていた。

 

 

 そして、提督は板挟みにあっている。

 

 艦娘達が、本当に自分を心配してくれているならば。

 

 艦娘に対して申し訳なく、罪悪感を感じる。

 

 

 過去を恐れて、艦娘にへりくだる。

 

 そんな自分を、提督は嫌っていた。

 

 

 彼は、過去の恐怖のせいで今の優しさに応える事が出来ないのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ほ、本日秘書艦を務めます吹雪です! 宜しくお願いしますっ!」

 

 

「こ、こちらこそ宜しく……ふ、吹雪」

 

 

 秘書艦としてやってきたのは、駆逐艦吹雪だった。

 

 提督は鈴谷の件から、艦娘の名前を呼び、なるべく普通の態度で接するように。

 

 吹雪は、提督の過去を知り、極度の緊張状態になっており。

 

 

 即ち、お互いにどうしようもなくぎこちない状況になってしまったのだ。

 

 

(怖いけど……少しずつでも……!!)

 

 

(な、なるべく優しく、丁寧に接さないと!!)

 

 

 この空間において、悪意を持つものは存在しなかった。

 

 提督と吹雪、お互いが自身の成すべき事を必死に考えていた。

 

 

「え、と。あ、し、司令官の業務についてお話しますね!」

 

 

「……よ、よろしくおねが……よろしく頼む」

 

 

 ……よそよそしい態度になってしまうのは、仕方のない事だった。

 

 それでも、提督は吹雪に対してへりくだらないように努めた。

 

 

 艦娘に対して敬語を使い、自身を卑下するのは、自己防衛の為だった。

 

 それは過去、以前の鎮守府で提督が身に着けた術だ。

 

 無意識に出ようとするソレを、提督はどうにか押し込んでいる。

 

 そしてそのたびに、艦娘に何かされるのではと心がざわつくのだ。

 

 

「出撃指示が……」

 

 

「演習、遠征を……」

 

 

「入渠、工廠についてですが……」

 

 

 吹雪は予定通りに執務内容を伝えていく。

 

 提督を助けると意気込んでいたものの、いざ実践となるとどうすればいいのか解らなくなるのだ。

 

 そして、無理にアクションを起こさないように、当たり障りのない態度をとってしまう。

 

 

 鈴谷の様に、艦娘だれもが上手くやれるわけではないのだった。

 

 

 提督は、その吹雪の言葉を真剣に聞いていた。

 

 彼自身真面目な性格であったし、少しでも自分の過去を乗り越えたいという思いがある。

 

 吹雪の話を聞き、自分に出来る事を考える。

 

 

「い、以上です司令官」

 

 

「あ、う、うん……」

 

 

 大まかな執務内容を伝え終え、執務室に静寂が響く。

 

 お互いに踏み出せない、気まずい空気が流れる。

 

 

 その時であった。

 

 

「あの、司令官!!」

 

 

「っ!? な、なに……?」

 

 

 吹雪にいきなり呼ばれ、提督は分かりやすく驚いた。

 

 しかし、パニックを起こすことは無く、平静を装って彼女に向き合う。

 

 

「……すいません、いきなり大声だしちゃって」

 

 

「あ、いや、いいんだ、大丈夫」

 

 

 落ち込む吹雪に、提督は少なからず申し訳なく感じた。

 

 

 ……鈴谷や吹雪の態度から、提督は彼女たちが自分の過去を知って気遣っているのだと察していた。

 

 元帥が伝えたか、自分の様子で察したのか、それともほかの何かか。

 

 自分の過去を知った、そのうえでの態度だと、提督は考えていた。

 

 

 そうなると、提督の罪悪感はますます膨らんでいく。

 

 彼女たちは自分を提督と信頼し、そして自分から信頼してほしいと思っているだろう。

 

 そんな健気な、優しい艦娘に対して、自分は怯え、まともに目も合わせられない。

 

 今の吹雪の様に、落ち込んでしまうほど気を遣わせてしまっていることに、提督もまた落ち込むのだ。

 

 

「……私、艦娘になって初めての鎮守府なんです、此処」

 

 

 吹雪の言葉を、提督は黙って聞いていた。

 

 

「海の平和を守る為に、人の為に戦うって、そう思ってて……」

 

 

「うん……」

 

 

 吹雪の想いは、提督の志していたものでもあった。

 

 彼も、提督を志した理由はそれだった。

 

 悲劇に塗りつぶされてしまったが、それは彼にとって確かな意思だった。

 

 

「それで、初めての提督が来て、私、凄く嬉しくて、その……」

 

 

「……」

 

 

 初めての、提督。

 

 自分は、彼女たちにとっての、提督。

 

 提督は、当たり前の事をきわめて新鮮な事のように感じていた。

 

 

 提督にとって、艦娘は恐怖の対象でしかなかった。

 

 恐ろしい経験に上書きされ、『艦娘』の認識が何も無かったのだ。

 

 彼女らがどんな想いで、此処に立ち、そして暮らし、戦っているのか。

 

 

 提督は、知らなかったのだ。

 

 

「だ、だから、上手く言えないんですけど、わ、私……」

 

 

 吹雪の、純粋かつ真っ直ぐに進む想いは、彼女の口から不格好になって溢れ出す。

 

 そんな、真っ白な彼女を見て、提督は眩しい者を見ている感覚に陥った。

 

 

「司令官のこと、信じてます! これからも頑張って下さいっ!!」

 

 

 顔を真っ赤にして叫んだ吹雪に、提督は心打たれた。

 

 彼女は艦娘として、提督である自分を信じ、応援しているのだ。

 

 

 

 想いをそのまま叫んだ吹雪は、不安でしょうがなかった。

 

 無難な対応をすると心掛けたのに、熱くなってしまったのだ。

 

 提督が自分に怯えたらどうしようと、恐る恐る前にいる提督の顔を見た。

 

 

「……ありがとう。吹雪の期待に応えられるように、が、頑張る、よ」

 

 

「!! 司令官……」

 

 

 提督は、吹雪の目を見てそう言った。

 

 最後はどもってしまったが、確かにそう言ったのだ。

 

 

 責任感や、覚悟。

 

 そういった諸々を含めて、彼は吹雪に言葉を発したのだ。

 

 艦娘の吹雪、彼女の想いにこたえたかったのだ。

 

 

「……司令官、では明日もよろしくお願いしますっ!」

 

 

 敬礼して退室していく吹雪を見送り、提督は椅子に腰かけた。

 

 提督としての自分が、艦娘としての吹雪に、少し歩み寄れた気がしていた。

 

 

 そして、吹雪が言ってくれた言葉。

 

 

(「これからも頑張ってくださいっ!!」)

 

 

 これからも、ということは、彼女は過去の自分も肯定してくれたのだ。

 

 地獄を味わいながらも、今ここにいる自分を認められた気がして。

 

 提督は、これからの未来に、少し期待したのだった。




吹雪は艦娘として頑張っています。
次回は長門さん回になると思います。
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