艦娘『が』救済物語   作:konpeitou

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長門さんは決める所は決めてくれる素敵なビッグセブンです。
あ、改二おめでとう長門さん。


長門と優しき力の抱擁

 艦隊演習。

 

 基本的には自己の鎮守府内の艦隊どうしで行う物である。

 

 他の鎮守府と合同で行うのは稀な例だった。

 

 

 巳波乃島鎮守府も、例に漏れず演習を行っている。

 

 出撃任務が無い場合、実践的な訓練を湾内で行うのだ。

 

 提督の着任により、日々の演習任務が開始されたのだが……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「本当に大丈夫か提督? 最初だからといって無理をしなくてもいいんだぞ」

 

 

「う、うん……大丈夫、最初だからこそ色々経験しておきたい、から……」

 

 

「そうか……解らない事があったらすぐに聞くんだぞ?」

 

 

 巳波乃島鎮守府、湾内演習場の一角にて。

 

 今日の秘書艦である長門は提督の脇に立ち、心配そうに彼の顔色を窺っていた。

 

 

 長門は、自分が不器用であることを自覚している。

 

 故に、提督への接し方は一つしか思いつかなかった。

 

 

「暑くないか? 日傘を持ってこようか……」

 

 

「立ちっぱなしは辛いか? 椅子を……」

 

 

「い、いや長門。ほんとに大丈夫だから」

 

 

 兎に角、優しくする。

 

 それだけだった。

 

 

(長門に気を遣わせちゃってるなぁ……頑張らないと)

 

 

 ……結果的に、提督のやる気を引き出してはいるのだが。

 

 

「では提督、午前に決めた編成で艦隊間演習を開始するぞ」

 

 

「う、うん。よろしく……じゃないか。わかったよ」

 

 

 提督は手元の小型無線機を作動させる。

 

 これにより艦娘への指令を送ることができるのだ。

 

 

『……え、えーと。それじゃあ、双方戦闘準備』

 

 

 海上の艦娘は無線の指示に従い艤装を展開させる。

 

 皆張り切っている理由は、推し量るべきだろう。

 

 

『あ、う、え、演習、開始っ!』

 

 

 若干詰まった指令ではあったが、その理由を知っている艦娘達は動き出す。

 

 提督の前で活躍しようと、全員奮起していた。

 

 

 今回の演習は、駆逐艦から戦艦までを含むものだ。

 

 それぞれの艦種が、それぞれの役割を行う総合的な物である。

 

 演習の様子は索敵機が随時映像を撮っており、提督はモニターでそれを確認できるのだ。

 

 演習中は艦娘の自由行動となり、提督から指示はない。

 

 

 これは初回ということもあり、まずは艦娘の動きを見てほしいという長門からの要望だった。

 

 

(ふむ……みな良い動きをしている。士気は高まっているな)

 

 

 長門の感想は、艦娘の動きを見れば当然の物だった。

 

 

 そもそも訓練を積んできた者が集められたこの鎮守府。

 

 艦娘どうしの連携も取れており、油断も無い。

 

 真剣に演習に取り組む姿からは、力強いものを感じるのだ。

 

 

「……提督、貴方から見て艦隊はどのように……提督?」

 

 

 長門は提督の意見を聞こうと、隣を見た。

 

 当然、そこには提督がいる。

 

 彼はモニターを凝視していた。

 

 ……それだけなら、よかったのだが。

 

 

「提督!? だ、大丈夫かっ!?」

 

 

 なんとか立ってはいるものの、その全身は小刻みに震え。

 

 顔面は蒼白、そして。

 

 その目は、とても恐ろしいものを見ているかのようであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 提督にとって、艦娘とは恐怖の象徴だった。

 

 少なくとも、以前の鎮守府では。

 

 その大きな理由に、艦娘の力が関係している。

 

 

 少女の姿なのに、その力は成人男性のそれを超える。

 

 海上を自由に進み、深海棲艦を斃すことが出来る。

 

 

 ……提督が艦娘に虐待されていなければ、この力も尊敬する存在になっただろう。

 

 しかし、哀しいことにその力は、本来振るわれるべきではない者へ向けられた。

 

 彼のトラウマには、『艦娘の力』というものが大きく居座っているのだ。

 

 

 そして、演習中の艦娘。

 

 艤装から砲撃し、魚雷を発射する。

 

 見た目と大きくかけ離れた、『軍艦』としての圧倒的な力。

 

 

 提督は、過去を思い出してしまっていた。

 

 

 自分よりも幼く、小柄な少女にいとも容易く殴り倒され。

 

 白く細い腕に、自分の腕を簡単に圧し折られ。

 

 可愛らしいその口で、自分をあざ笑い馬鹿にする。

 

 艦娘としての力を演習で振るう、その様子を見て、彼のトラウマは刺激されているのだ。

 

 

 ……これほど悲しいことがあるだろうか。

 

 艦娘達は、ただ提督に見てほしい一心で、演習に励んでいる。

 

 しかし、提督はトラウマにより、そんな彼女らを恐れてしまっているのだ。

 

 

(……駄目だ!! 彼女たちは違う! 違うんだ!!)

 

 

 提督は恐怖に支配されながらも、理性でそれと戦っていた。

 

 過去とは違う。彼女たちは自分に何もしない。

 

 そんな彼女たちを怖がってはいけない、そういう想いを持っていた。

 

 

 しかし、過去は残酷に彼を襲う。

 

 頭ではわかっていても、心は言う事を聞かない。

 

 人外の力を見せつける彼女達を、どうしようもなく恐れてしまい。

 

 提督の精神は、限界を迎えようとしていた、その時だった。

 

 

「提督っ!!」

 

 

 提督は、前後不覚の状態で、何か暖かいものに包まれているような気がした。

 

 柔らかく、優しく、安心できるような感覚。

 

 その正体は……。

 

 

「提督、しっかりするんだ!」

 

 

「な、なが、と……?」

 

 

 長門が、提督の身体をしっかりと抱き止めていた。

 

 彼の背後から腕を回している。

 

 

「……貴方の敵は此処にいない。私達は貴方の艦娘だ」

 

 

「……あっ」

 

 

 提督は自分を抱きしめる長門の腕を見る。

 

 女性にしては筋肉質だが、それでも白く柔らかな腕。

 

 ……自分なぞ、簡単に殺すことのできる、腕。

 

 

(……でも、あったかいなぁ……)

 

 

 過去、艦娘の力で虐げられてきた提督だから分かる。

 

 長門は、本当に優しく、自分を抱き止めてくれている。

 

 自分を怖がらせないように、傷つけないように。

 

 

(……そうだ、そうだよな)

 

 

 彼女達の力は、一方向ではない。

 

 他者を傷つけることもでき、そして、癒すこともできる。

 

 そして、提督は間違いなく、艦娘に癒されている。

 

 

「……ありがとう長門。落ち着いてきたよ」

 

 

「あっ、す、すまない。苦しかったか!?」

 

 

 長門は慌てて提督から離れた。

 

 そんな彼女の様子が可笑しくて、提督は少し笑ってしまう。

 

 

「苦しいわけないよ。……少し、安心したんだ」

 

 

「!! ……そ、そうか。なら、いいんだ」

 

 

 ビッグセブンと謳われた、戦艦長門。

 

 彼女の持つ力は、艦娘の中でも随一だろう。

 

 そんな長門の、優しさ。

 

 提督はそれを確かに受け取って、恐怖を振り払うことができたのだ。

 

 

「長門、演習の続きを見よう」

 

 

「……ああ! 提督の意見を聞かせてくれ」

 

 

 艦娘の力。

 

 長門は確かに、その力で敵を打ち倒せたようだ。

 

 提督のトラウマという、全艦娘の共通敵を。

 

 




少しずつ、前に進んでいます。
次回、提督と艦娘の初出撃。

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