お疲れ様です、ダイノ島上陸局受付ですこんにちは。こちらに上陸許可書を提出して下さい。
お名前はデニス・エクシグウス様。グローサー新聞記者兼カメラマン。報道の方ですね。
確認しました。御承知とは思いますが、現在この島は緊急事態です。くれぐれも身の安全を第一に慎重な行動をお願いします。どうかお怪我など無いように。
グローサー新聞のデニスさんですね。すみません、報道の腕章をしている方が多くて。お待たせして申し訳ありませんでした。道が塞がってしまったもので。
奴ら不規則に集団移動をするので、幹線道路が突然通行止めになるのはよくあることなんですよ。
申し遅れました。島でゾイドの契約パイロットをしていますアンドリューです。島のグローサー新聞支社より頼まれました。軍務経験はありますが、結局演習だけで。おかげで操縦技術が習得できました。
大変ですね、来て早々に撮影とレポートをするなんて。
本社命令ですか。まずは現場状況の把握からですか。駐機場はこちらです、どうぞ。
デニスさんはまだお若いんでしょ?
姉の息子と同じ歳だ。まだふらふらとしているのに、あなたみたいになればいいのですが。すみませんねえ、こっちの話で。
御心配なく、複座です。
アロザウラーは初めてですか。
よく懐いているでしょう。おとなしいので心配ありません。ですが、いくら頭部コクピットを下げても高さがあるので足を踏み外さないように注意して下さい。あ、カメラ持ちますよ。撮影機材の準備は……大丈夫ですね。キャノピーに細工してあります。望遠レンズも外に出せますので。
シートベルトは緩くありませんか。いえ、昨日はやたら恰幅のいい記者さんを乗せたものでね。おたく取材予定はいつまで?
ほお、期限は切っていないのですか。でも簡単に決着はつきませんよ。なにせ騒動が始まってからもう3か月がたつのに、軍も政府も決定的な打開策を打ち出せないでいるのですから。
背の高い二足歩行ゾイドなので結構揺れます。気分が悪くなったら遠慮なく言ってください。
そろそろ見えてくる頃だと思います。さっきまで道路を塞いでいたから。まだ初めてなので、充分な距離を取って展望しますからね。
ああ、あそこだ。見えますか、あの岩の向こう側。動いているでしょ、ものすごい数の群れが。
山肌一杯に……樹木の緑じゃありませんよ。黄緑色でしょ。それにガサガサという足音も聞こえてくる。風に揺られているのではなくて、群れごと移動しているのです、波が寄せるように。
赤い目が光ってるの、昼間だと見えないかな。
わかりましたか。そう、驚くでしょう。私だってそうです。何度見ても気分の悪くなる光景です。
本当ですよ。触覚が動いている。木の枝ではありません。
この島は、奴らに乗っ取られたも同然なんです。どこもかしこもあのゾイドばかり。家も、畑も、道路も、町も。駆除しても駆除しても増えてくる。なまじ駆除すると、間引きしたようにもっと増えてくる。
これを中央大陸にしっかり伝えてくれるようお願いします。あのカマキリ型のゾイド、ディマンティス。いつまでこの島で我が物のまま居座るつもりなでしょうか。いつまで我々は、この島で縮こまっていなければならないのでしょうか。
※
本社のデニスさんですね。ダイノ島支社の代表をしておりますウォルターです。名刺の交換を……ありがとうございます。
お疲れ様でした。アンドリュー君にはなるべく丁寧に操縦するよう伝えておきましたが、アロザウラーの乗り心地はいかがでしたか。
あれを見れば大抵驚きますよ。早速写真を撮りましたか。再生と送信の準備をさせます。ルイ君、モニターを頼む。タブレットでいい。
さっそく打ち合わせに入りましょう。本社からの連絡書類があれば受け取りたいのですが。
ありがとうございます。と、モニター映像出ましたね。
……さすがだ、画質も荒れずに撮れている。静止画にすると奴らの個体の特徴がよくわかります。
念のため確認しておきますか。ディマンティス、公称データでは全長6.48m、全高7.2m、重量10.0t。鉄竜騎兵団が開発したSSゾイドで、共和国首都進攻作戦を始め、生産性の高さから短期間で大量の製造が行われた。その後ブロックスゾイドが普及しても、ネオゼネバス帝国軍の中核となり活躍していたそうです。
コーヒーでよろしいですか。
ありがとう。あ、彼女は新入社員のルイ・バラデューク君です。デニスさんも飲みものをどうぞ。
喉が渇いていましたか。ルイ君、冷たいものを別に頼む。この島は乾燥していますからね。だからこそ果樹栽培が盛んだったのです。島の主な作物はオレンジやレモンなどの柑橘類、それにオリーブと葡萄。
私は入植移民の二世なのですが、ここは何もなかった事を父親から何度も聞かされましたよ。それを一から開拓して美しい島になった。年寄りは自慢したがりますからね。
しかし、ディマンティスの大発生なんてことさえ起こらなければ、本当に綺麗な島だった。島の斜面を一斉にオレンジやレモンの原色が彩り、それが強い陽射しに照り返して、まるで絵画のようでした。
今現在は観光客を受け入れることはできませんが、たった3か月前までは、“西エウロペのエメラルド”と呼ばれていたのです。宿泊施設の紹介は任せて下さい。もともと観光施設は整っている島ですから。
事前に打ち合わせをしておりました、駆除を担当していた研究所職員の方には連絡を付けて待っていてもらいました。駆除の経過など、詳しい説明はそちらから。
君、ナイルズさんをこちらへ。コーヒーも追加して。
こちらの部屋ですね。初めまして、ニューヘリックシティーでエウロペの生物研究をしているナイルズと言います。いえいえ立ち上がらなくて結構。こちらが本社報道の方? デニス記者。宜しく。
説明を始める前に、首都ではどの程度この事態を把握しているか聞きたい。
そんなものですか。惑星の裏側の事では関心も湧かないのだろう。
では一通り経過と状況を説明していきたい……コーヒーありがとう……と思う。こちらが資料。
ダイノ島は西エウロペの更に西岸、南緯15度線のほぼ真下に位置している。大陸から陸繋島を形成する半島が伸び、大陸との行き来は自由に行われていた。
西方大陸戦争時には、北エウロペにはヘリック共和国のロブ基地とガイロス帝国のニクシー基地があり、南エウロペには入植地ニューヘリックシティーとガイガロス、そしてガリル遺跡に代表される古代ゾイド文明の遺構により、激しい攻防戦が行われた。
だが、西エウロペは戦闘の進路から外れていたこともあり、激戦と呼べる戦闘もなかった。中でも極西とも言えるダイノ島は戦闘による被害は皆無で、逆に戦争中両軍に食料として農作物を供給し、戦事経済によって島が潤っていたくらいだった。
この島で栽培されるようになった果樹は、本来地球からの移民船がもたらした植物の種子だ。無数の種を遺伝子データの形で保存しておいて、入植地の気候に合わせて適宜再生するのが方式で、最初の島への入植者がここに再生された果樹の種と苗を植えたのが最初となる。栽培は成功し、宝石のような果実は見事に実った。誤算は遺伝情報が一部書き換えられていたことだった。
この島に上陸して何か気付いたことは。
ええ、ディマンティス以外で。
そう、果樹の高さがかなり高い。それに住宅を取り巻く石垣。あれは戦闘防御用ではなく、この地域特有の熱帯低気圧――この辺では〝ウィリーウィリー〟と呼ぶが――対策に積み上げられたものなのだ。
古代の化石木からブロック状に切りだされ積まれていて、中には中型ゾイドの背丈ほどもある石垣もある。太陽はほぼ真上から射すので、日陰は気にせず積める。
激しい暴風に晒された地球産の樹木は、再生プログラムのミスなのか、それとも独自に進化を遂げたのか判らないが、本来の樹高を遥かに越える大木になってしまった。低木であれば、農場では簡単に収穫ができるのだが、あの高さでは。
高所作業をする上で、せめて小型の作業用ゾイドが必要になった。
戦場には、遺棄されたゾイドは沢山あった。でも、野良ゾイドになって凶暴化したり、寿命が尽きかけていて、長持ちしなかったり。場合によっては、あまりの大きさに作業に向かないものも。そんな中、中古ゾイドの回収業者が、見慣れない緑色の昆虫型小型ゾイドを持ってきたのです。
このメモリーディスクに、最初にその回収業者から買い取った農場主の聞き取りが入っている。少し方言がきついのだが、参考資料として見てもらいたい。
このタブレットをお借りする。起動に少々かかる。
〝農作業用にゾイドを探していたんだ。前の奴が死んでしまって。スパイカーっていう小型ゾイドだったが、両手の鎌の使い勝手が良くて重宝した。同じ機種を探したんだが、古い機体だから古物屋でも見つからなくてね。
代わりに、中古屋のシェイラーが少し小振りで似たようなカマキリ型ゾイドを持ってきたんだ。何しろ3匹もいて、それぞれコアも生きが良かったんだ。その時たまたま纏まった金もあって――出荷した果物が高値で取引できたもんだから――思わず3匹揃って買ってしまった。畑も広げる予定だったし。
華奢な4本の脚は港のゾイド整備工に言って直してもらった。コクピットは操縦者の両足先がはみ出すくらい酷く狭かったが、農作業には問題ない。赤く光る眼が不気味で、今にしてみればその時気付くべきだったのかもしれないが、兎に角使いやすかった。
あのハイパーファルクスという鎌は、スパイカーのハイパーサーベル以上に作物の刈り込み、土起しに便利だった。自律機能と言うらしいが、勝手に動いて作業をやるとかで。驚いたね、一週間で山一つ切り拓いた日には。イオンブースターという飛行機能は、空飛ぶのが恐ろしいものだから整備工に頼んで回路を切断してもらっておいたが、それでもジャンプ力はかなりのものだったな。
ただ最初は3匹とも元気よく働いていたんだが、1匹だけ急に言うことを聞かなくなって。何でもコアに問題があったらしく、数週間したら勝手に海辺に逃げ出して、そこで石化して死んでしまっていたんだ。始末が悪い事に、死に方がスパイカーと一緒だった。まあこちらにも責任が無かったわけではないが、まだ買ったばかりだったからシェイラーに言って残骸の引き取りと代金の返金はしてもらったよ。そうそう、背中にガトリング砲座という物騒なものがあったそうだが、そんなもの最初から取り外しておいたさ。戦争をするわけでもないし。
周りの畑を持っている連中も、俺のゾイドを見て羨ましがってな。シェイラーめ幾つ捕まえておいたのか。まず隣のスターリングの所が2匹。翌週には向かいのアルヴァレズ、そしてシニョールがそれぞれ1匹ずつ。翌々日にはクリグズマンが2匹。気付いたら、周り10件の農家がだいたい2匹のディマンティスを買い揃えていたんだ。
驚いたね。よくそんなにゾイドがいたってことにだよ。中古屋の話だと、北エウロペの古代遺跡の辺りに沢山いたのだとか。野良ゾイドにしては捕まえやすくて、結構な数を捕獲していたようだ。知っていれば、絶対買わなかったのに〟
今の農場主ウェイクフィールドという男性の証言で「北エウロペ遺跡」という部分。それの詳しい参考人として、今の証言にあったシェイラーという中古屋、つまり破棄ゾイド回収業者の事情聴取の様子がある。続いて映像を見て欲しい。
〝ニクシー基地の辺りには、結構帝国製の野良ゾイドが取れたんですよ。でも、戦争が終わって、殆どの野良ゾイドは取り尽くされて。中型になると業者の間でも危険度が上がるもので、当然小型ゾイドを取り扱うようになるのです。
レッドラストには、もとから野生化したガイザックなどはいましたが、体高の低いサソリ型ゾイドはあまり買い手がつかないもので、捕獲する業者もいませんでした。ただ、その筋の人間だったら有名だったのですが、あの赤い砂漠にある古代遺跡には、たくさんの野良ゾイドが棲み付いているのは知っていたのです。
薄気味悪い遺跡で、戦闘で破壊されたにしてはコアだけが抜き取られたような残骸が幾つも転がっていて。なにか、墓標のようなものも建っていたので余計に不気味だったんですが、背に腹は代えられないので行ってみたんです。
驚きましたよ。野生化したゾイドがウヨウヨしている。それもカマキリ型のが。昆虫型ゾイドは、自然環境と相性が合えば勝手に増えることがあるのは知っていましたが、あんなに増えるとは思いませんでした。
でも、小型――SSゾイドですね――は捕獲が楽なもので、沢山捕まえてきました。ダイノ島でカマキリ型ゾイドを欲しがっている客がいる話は聞いていましたから、喜んで西に戻りました。ウェイクフィールドさんに卸してから次々に注文を受けて。
とんでもない。悪気なんてありません。知っていればあんな物騒な遺跡から野良ゾイドを捕まえてきたりはしませんって。信じて下さいよ〟
以上だ。お判りかな、遺跡の事。あの勇敢な老レオマスターの話は知っているだろう。自己再生、自己増殖を繰り返す悪魔のゾイド。
そう、そのまさかだ。よりにもよって、その幼生コアの真オーガノイドシステムを取り込んだゾイドを捕まえてきたのだよ。理由は不明だが、第二次大陸間戦争の末期に、この遺跡にディマンティスが数機迷い込み、そこで独自に増殖を始めていたらしいのだ。
凶暴性? その形質は発現していなかったようだ。でなければ、簡単に捕獲などできない。そこにいたディマンティスにとって、凶暴な真オーガノイドの形質は真逆に発現していたとしか言えない。詳しい説明は後程する。
次話は明日20:00UP