引き続き、ディマンティス大量発生についての経過を説明する。先ほど渡した資料の3ページ目から。
これがダイノ島の概略図。ひしゃげた二等辺三角形を逆向きにした――北を上と見て――形とする。大まかに言って地域は三つに分けられる。陸繋島に近い東側地区には平地が多く、最初に入植した港がある。中央のダイノ山地で分けられた北地区は北向きで陽当たりが良く、果樹栽培には最適の地域。その反対側の南地区は、どちらかと言えば漁業が盛んだが、果樹栽培も行っている。海蝕台があり、早くから漁港が開けていた。
まず、シェイラーによってディマンティスが搬入されたのが、この――カーソルはどこだ――東の港。先ほどの報告にあった農場主ウェイクフィールドの果樹園がこの、北の真ん中あたり。
拡大する。耕作地は緑色に、市街地は赤に、山林および未開地は黄色。最初のディマンティスの稼働状況がこの図。黒い丸が1台のディマンティスを示し、当然農場主たちの管理下にある。ここが先程の農場で丸が3つ。そしてその周辺でも、丸の数が、いち、にい、さん……全部で13個。当時かなりディマンティスを出荷して、中古屋は儲けていたようで、一斉に数が増えている。いらないものまで買ったのかもしれない。時々田舎の人はこんなことをするものだ。
そしてこれがその半年後。丸の数はほとんど増えていない。だがこれは登録数だ。それまでに数台、下手をしたら数十台のディマンティスが逃げ出していたらしい。その度毎に捕獲して農場に連れ戻したのだが、その逃げている間に、こいつらは山地にコアを産み付けていたらしい。でなければ、自然発生なんて考えられない。
これはその一月後。黒丸の他に二重丸がある。これが当時確認された未登録の野良ゾイド。例外はない。全てディマンティスだ。農業被害が出て、管理局でも放置できないので調べたのだ。
こんな辺鄙な島で野良ゾイド騒動など、最初は何事だと考えたものだ。野生ゾイドの生態系と呼べるほどのものは無く、増え放題になる可能性はあった。発見した野生の個体数十台に調査用にビーコン撃ちこんで、追跡調査した。軍からプテラスを借りたが、データ収集には苦労した。予想以上に逃げ足が速く、その上世代交代まで早いから、ビーコンの長期追跡ができなかった。だいたい半年で寿命が尽きる。そして新しい世代を産み落とす。そしてその度、奴ら進化したのだ。
前を失礼します。どうぞ。
ありがとう。話し続けるのも疲れるものだ。一息入れなくても構わないかな。
そう。ではもう少し。この世代交代の速さというのが曲者だった。ゾイドは金属生命体だが、機獣化され戦闘ゾイドになった場合生殖機能は失われる。ところが、奴らは真オーガノイドシステムを取り込んでいるから、自然増殖を始めてしまった。デススティンガーのような成長に時間のかかる大型ゾイドであれば、ここまでの数には至らなかったかもしれない。SSゾイドという小型種ゆえに増殖も可能だったと推測される。
燃料の摂取はどうしたか。奴らは摂食用の口吻を既に古代遺跡で器官を分化させ獲得していたようだが、移送されてきたときには気付いた者は誰もいなかった。コクピットが狭くなってしまった理由であったのに。これが進化の過程で意図的に変化させたことか、それとも偶然かはわかないが。
農場から逃げ出した後、2台以上のディマンティスが互いのコア情報を交換することで、独自に、より環境に適応した次世代のコアを産み落とすようになった。それまでの生存情報を共有する為に。まあ、端的に言えば交尾したわけだ。
女性がいる? いちいち気にしている場合ではないだろう。
それでだ、コアからF1(交雑第一世代)が発生し成長する。問題はここ。餌はどうしたか。この島は軍事施設などないので燃料倉庫なんて存在しない。各農家だってまとまった燃料など保管していない。そこで奴らは信じ難い方法で、食物の摂取を始めたのだ。
コアを産み落とした親は、コアを庇うように抱卵したあと、孵化直前に自分のコアを休眠状態にしてしまう。休眠状態だから死んではいないのだが、ゾイドとしての一切の機能を停止する。当然石化はしないままで。
やがて次世代のコアが孵化。ほぼ成体と同じ形でF1が発生する。孵化した幼体の目の前には、休眠状態の親の身体がある。
地球のカマキリという昆虫は、交尾中にオスがメスに喰われて、卵を産むための栄養になるのだ。女は怖いのだ。何だ君、その眼は。別に私には経験などない。これは以前〝とんぼ〟という昆虫を再生させたヘルマン・ハーメルンバッハという学者の本に書いてあっただけだ。それ以上でもそれ以下でも意味はない。
横道にそれた。この先が嫌な話なのだよ。
発生したF1は、休眠状態の石化していない親の身体を喰い始めるのだ。喰ってすぐに最初の脱皮を行い、更に食い尽くすのだ。野良ゾイド化したディマンティスの残骸がなかった理由だ。
若い個体は成長速度が早く、半日でたちまち親の7割程度の大きさになる。でもそれだけでは食い足りない。奴らが目を付けたのは、豊富な金属成分を含む化石木だったのだ。
この島は本来大陸と地続きだった。惑星大異変で地殻変動が起き、山脈が水没して出来た島だ。太古から蓄積された化石木は露頭に豊富に産出する。でもそれを直接摂食して栄養にするゾイドはいままで現れなかった。
真オーガノイドは、周囲の環境に適した形で急速に進化する。世代を重ねるごとにその進化も加速する。世代交代の早いディマンティスは、F2、F3と世代を重ねるごとに、親の身体を喰うだけではなく、化石木を栄養にして成長できるように体組織を改変したのだ。信じられないだろう。私もニューヘリックシティーの研究者による報告を聞くまでは信じられなかった。
サンプル用に捕獲したFnの個体を飼育し、寿命が尽きた後ラボで解剖――解体――して見た。機構自体は通常のディマンティスに変わらないのだが、機獣化された時に撤去したはずの消化器官が再生されていた。これは予測されたことだが、更に詳しく調査してみて、その消化器系に嫌気性の共生原生生物が存在したことが判明したのだよ。いわゆる腸内細菌という奴だ。嫌気性で酸素を必要としない。ゾイドコア本来の機能が燃焼による脱酸素活性を行っているのだが、化石木に含まれている金属成分がそれによって還元され、更に共生細菌によってディマンティスの体組織を構成する金属物質、つまりゾイドの体を構成する栄養素を形成し、成長を促進させていたのです。
良く判らない? 簡単に言えば化石木を喰って成長できるように進化していたということだ。この種の細菌は、地中にごく微量存在することは確認されていたが、積極的に消化吸収、増殖させ、利用する金属生命体は初めてだったのだ。
奴らが親の身体を最初に喰う理由も、どうやらその腸内細菌を自分の身体に取り入れる目的でもあるようだ。
F1の頃は、ほとんど化石木は食べなかった。だが、生存競争に負けて親の身体を喰えなかった弱い個体が、止む無く化石木を喰い始めた。それを繰り返すことにより、Fn世代での共生細菌の生物濃縮が一層進み、よりよく化石木の金属成分を吸収できる個体に分化していった。
一方で力の強い個体は、力が強いが故に唯一の餌である親の身体と仲間の個体を襲って食っていたため、一種類の食糧に固着し過ぎた為に逆に次の世代を残せなかった。
弱いからこそ生き残れた、皮肉なものだ。結果的に、おとなしい性質の個体のみとなったのだ。
獰猛な性質でなかったのが幸いしたのか。いや、この場合我々にとっての災いとなったといえるだろう。島で石垣が崩される事件が相次いで発生していたが、直接人が襲われることはなかった。1台1台は臆病なのだ。だから、私たちの知らない内に個体数が増えていた。気付けば、野良ゾイド化したディマンティスが果樹畑に姿を現すのは2年目の頃となっていたのだ。
奴らが生涯に産み落とすコアの数は平均3つ。その内1機から2機は、成長途中で共食いされて死ぬこととなる。だがおおよそ1.5台のFn世代が残り増殖する。等比数列の計算式は覚えているか。公比1.5でF10になると約90機。そこまで来るのに僅か5年。現在把握している台数は、1平方㎞辺りのサンプリングから、凡そ27200台のディマンティスがこの島にひしめいている計算になる。そして奴らはまだ増える。この島が、島であったことと、最初の個体がイオンブースターの回路を切断された形だったのが、大陸への渡りを食い止めている。しかし、そんな脆い防波堤など、奴らは直ぐに突き破るかもしれない。その時が、いまも迫っているのかもしれないのだよ。
デニスさん、ナイルズさん、食事が届いたようですね。
食欲がわきませんか。まあ、そういわず一息入れましょう。ルイ君、準備をしてくれ。お二人は何をお飲みになりますか。
私は温かいコーヒーを頂こう。
デニスさんは?
同じもので宜しいですか。
どうした、フィルターが無いって? この前洗っておいた布フィルターがあるだろう。縁に押さえの針金を準備しておいたから、君でも溢さずに淹れられるよ。少々お待ちください。
話しを戻しますが、今後の我々報道の動きについてですが、既に他の報道機関も何社も島に入っています。本土からの軍の出動要請も出ている以上、本社報道を強化していきたいのです。
他のゾイドを使っての駆除ですか。デニスさんだったら最も有効なゾイドは何だと思います?
ステルスバイパー。考えることは同じですね。
実はもうやっているのだ。手っ取り早くPMC(民間軍事会社)のステルスバイパーを雇って駆除作業を。
最初は面白いように倒せたよ。奴らはまだ警戒というプログラムを会得していなかったから、小口径レーザーでばたばた倒せた。たちまち辺り一面ディマンティスの残骸だらけになった。けれど、その残骸の回収をどうするか考えていなかった。駆除に成功したと思っても、残骸が100台、200台となると回収どころではない。この島に巨大な処理施設もない。おとなしい性質だから、攻撃したステルスバイパーに逆襲することはなかったが、いつまでもそこに留まっている訳にもいかない。有機体ではないので腐らないはずだから、放っておいた。
翌日再び現場に戻って驚いた。残骸が一体もない。綺麗さっぱり無くなっている。奴ら放置しておいた残骸を、一晩のうちに食い尽くしてしまったのだ。
個体を闇雲に駆除すると、かえってその個体数を増殖させてしまう駆除圧という現象が起きる。我々はみすみす餌を増やして増殖の手助けをしてしまったのだ。仮に残骸を全て撤去していたとしても、大量発生は避けられなかったのだ。
海に投棄する? 冗談じゃない。我々管理局員が環境破壊をしていいわけがない。この島には漁民も沢山いる。漁場を荒らされれば批判されるのは明白だ。
出口が見えないのだ、この大発生をどうするか。
お待たせしました。
お二人とも、温かいコーヒーがはいったことですし、今は食事をとることとしましょう。
次話は明日20:00UP