〝203号室デニス・エクシグウス様、おはようございます。早朝に大変申し訳ございませんが、グローサー新聞社の支社長ウォルター様より緊急のお電話です。お繋ぎして宜しいでしょうか。
お願いします〟
〝デニスさんおはようございます。朝早くからすみません。お目覚めでしたか、失礼します。さっき社の者が夜勤明けで駐屯地の近くを通って帰宅しようとして、とんでもないものを見たんです。ゼネバスの紋章の入ったホエールキングが着陸したのですよ。今朝私の個人宅に連絡を受けて。それで今自家用を使って駐屯地前のフェンスに来ているのですが、ここからとんでもないものが見えるのです。
ゾイド、それもネオゼネバス帝国製の。ダークスパイナー、それも4機。信じられないでしょう、でも、ホエールキングの格納庫スロープの周りに黒服のネオゼネバス帝国兵が降りて作業をしている。簡易ハンガーに駐機しているのがダークスパイナーで、その後方にライガーが4機。それとゴルヘックスがいます。ゴルヘックスは昨日の会見では姿を見せなかったのに。おそらくタートルシップに搭載されたままだったのでしょう。ネオゼネバスの連中が、何やら軍と話していますね。
そうですね、本社への報告をして下さい。今支社には若い者が詰めています。必要でしたら社の方に連絡をして社用を回してもらっても結構です。ホテルから行っても経費申請すれば大丈夫ですよ。
打ち合わせにだいぶかかってるなあ。どうも帝国と意見が合わないのだな。
連絡手段は携帯していますよね。まずは一回切ります。本社への連絡、今首都は時差で夕刻だから夜の放送には間に合うでしょう。私は引き続きここで様子を見ます。駐屯地、正面入り口前駐機場。待ってます。切りますね、それでは〟
〝こちら首都グローサー社、社会部ホーソンです。
ああ、デニス。例の件だが、俺も自分なりに調べてみたんだ。『ゴルディオス』って聞いたことあるか。オルディオスじゃないぞ、ペガサスには似ても似つかない代物だ。ゴーディアン・ワームの由来となった、地球の古代の王の名前だ。奴らはゾイドコアに寄生する生物なんだが……。
ちょっと待った、そんなことがあるのか。
ウォルター支社長が確認。判った、直ぐにフィニアス部長に伝える。いまミーティング中だから電話口には出られないけど、詳細はメールで送付してくれ。画像は添付できるな。機材は望遠があるか。
よし、頼んだ。俺もすぐ報道に掛け合う。
動くんだな。現場、わかった。それじゃあ例の資料はそっちにデータを送っておく。なるべく詳細に、頼む、部長は任せておけ〟
承りました。丁度向かわれるお客様がいらっしゃったので、ホテルの車で駐屯地までお送りします。同じ報道の方が御同席となりますが、宜しいでしょうか。間もなくエントランス前に着きますので、お待ちください。
おはようございます。はじめまして、キャリントンフレアのアーサーです。グローサー新聞の、デニスさん。昨日の会見には御参加でしたか。私もどうも気になって質問したのですが、まさかネオゼネバス絡みとはね。
来ましたね。乗りましょう。
この車、結構いいですね。そうそう、ネオゼネバス軍の話でしたね。
私は同業で基地前に詰めている友人から早朝にメールをもらいまして。徹夜で編集作業をしていたから気が付きました。
まただ、あの林の奥。ディマンティスはどこにでもいるな。それでどう思います、ダークスパイナーのこと。もともと鉄竜騎兵団が開発したSSゾイドだから、ネオゼネバスが再進攻を掛けて来たのかとも思いましたが、どうも違いますね。
協力態勢? 確かに今は停戦状態だし、事実上の終戦ですが、軍備は相変わらずだし。これは私見ですが、ゼネバスの連中、ディマンティスの大量発生の尻拭いを買って出たんではないでしょうかね。なんでもオーガノイドシステムも絡んでいるんでしょ。サンプルは既に共和国軍が持っている以上、協力を申し出ても、資料の回収を望むのではないでしょうかね。いくら休戦協定が結ばれていて、雪解けムードも高まっているとはいえ、帝国軍の動きは迅速過ぎる。どうしても下心があるんじゃないかと勘ぐってしまうわけで。
ゴルヘックスがいる? それじゃあ、ジャミングウェーブも機能しないでしょう。まるで天敵みたいなゾイドを並べて作戦行動するのであれば、さっきの話、増々現実味を帯びてくるとは思いませんか。
またいた、ディマンティス。
支社の方が先発しているのですね、羨ましいな。私などフリーの契約記者だから、全部自分でやらなければならないので。
見えてきた。ホエールキングだ。でかいな。空港が埋まっている。
それでは、各自取材と行きましょう。後ほど。
デニスさん、こっちです。意外と早く着きましたね。派手に動き出しました。ダークスパイナー、ゴルヘックス、そしてシールドライガーが揃って移動を始めています。3機でトリオになって。信じられませんね、帝国と合同で作戦行動をとるなんて。それと、さっ報道機関に連絡があって、両軍協力の下のブリーフィングを公開するそうです。開場は間もなくだそうで。
予備のバッテリー大丈夫ですか、送信の方も。
行きましょう、開門です。
拡声器使った方が宜しいですか。聞こえますね。
これより本作戦の遂行についての確認、及び説明を開始する。なお、今回このディマンティス掃討作戦に関し、ネオゼネバス帝国軍、ダークスパイナー中隊の協力を得られる事となった。先刻より承知と思うが、帝国軍より派遣されたホエールキングによって4機のダークスパイナーが到着した。こちらが中隊指揮官のサムエル・ハーネマン大尉である。今回の御協力をヘリック共和国軍代表として感謝の意を表明したい。
まず現時点を以て、本作戦の正式名をオペレーション・ハーメルンと呼称する。これは古代地球のハーメルンという町に大量発生したネズミを駆除する為に、笛吹き男がネズミを誘導し、一斉に駆除を成功させたという伝承に由来する。
それでは戦力配置図を準備する。
まず、各部隊はシールドライガー及びライガーゼロの各機に加え、それぞれゴルヘックス、及びダークスパイナーを同行させる。行動開始予定地点に到着次第、一斉に作戦を開始する。当初の予定通り、まずライガーが徹底的にディマンティスを山林から炙り出す。金属成分を含む樹林帯の中ではジャミングウェーブの効果も低いからだ。追い出されたディマンティスの群れをダークスパイナーがジャミングウェーブによって誘導、その時ライガータイプまでジャミングの影響を受けないよう、ゴルヘックスのクリスタルレーダーによって保護する。万が一ダークスパイナーへのディマンティスの攻撃が及ぶ場合には、ライガーがこれを排除、防衛することとする。東部に一斉に誘導されたディマンティスを、凱龍輝の集束荷電粒子砲にて随時破壊、これによりダイノ島に生息するディマンティスを九割まで漸減、本作戦の第一段階を終了させる。
第二段階では、改造エクスグランチュラによる捕獲を継続し、徹底した掃討を行い、この島からディマンティスを消滅させる、最後の一匹になるまで、徹底的に相当する。詳細な作戦行動については各部隊に計画書を配布済みである。確認は各部隊で行うように。以上だ。
ブリーフィングは質問の受け付けも無しか。一通り作戦経過はわかったが、露骨に帝国兵とギクシャクした関係が見えた。連携が不安です。
確かにジャミングウェーブならばゾイドを意のままに操る事も可能だから、今度の作戦に関しても有効だとは思います。
ただね、デニスさん。あなたのようなお若い方には判らないかもしれませんが、私達第二次大陸間戦争と、それに続くネオゼネバス帝国の逆襲を経験した世代にとって、ダークスパイナーとセイスモサウルスは最も忌々しい存在なのです。嫌悪感が半端ではない。それを引き連れて駆除するなんて。私が古い人間だからなのでしょうかね。
もう一つ気になっている事は作戦の名称です。ハーメルンの笛吹き男は、ネズミを捕り終ったあと契約した賃金を受け取れなかったことに腹を立て、町の子ども達を大勢何処かに連れ去ったという。あのダークスパイナーがダイノ島の有益な資源を奪って逃走するようなことにならなければいいのだが。取り越し苦労でしょうかね。
司令所にモニターが設置されるそうです。追跡はダブルソーダーが。テントに行きます。
作戦開始地点に各部隊が到着するまで少し時間がありますね。
さっきの話の続きですがね。戦争は終わったのに、なぜ今更こんな目に合わなければならないのかとずっと考えていました。一度として大きな戦禍に巻き込まれたことの無いこの楽園のような島で、なぜ野良ゾイドが大繁殖するという事態になったのか。
自然という奴は無慈悲で、時に残酷な事も判っています。自然が自然を破壊するなんてことも許されるのですからね。だがあのディマンティスは自然ではなく、人為的な破壊兵器と考えるとどうにも収まりがつかないのですよ。
共和国軍は、社交辞令としてかもしれませんが、帝国軍に最大限の礼を尽くしています。でも元々原因を作ったのは帝国ではないですか。オーガノイドシステムの開発にしたって推進していたのはあの摂政です。
結局は自己完結ではないですか。仮にダークスパイナーで止めを刺せても、私たちの世代の中には割り切れないものが残るのです。これは年寄りの愚痴ですかね。
愚痴を溢している間に映像が……空中と、地上からのものがそれぞれのモニターに。6つのモニターを同時見るのも大変だ。いっそホエールキングかタートルシップで移送を考えなかったのでしょうか。
地形を読み取る必要があったから、ですか。まさか帝国が共和国侵攻に備えて地形図を作成しているわけではないでしょうね。
①から⑤のナンバーの振ってあるモニター映像がゴルヘックスから送信されるもので、一番右のものがダブルソーダーからの映像。画面が揺れますので、乗り物酔いにも類似した感覚に陥る場合もあります。
〝シエラ部隊、待機地点に到着。指示を待ちます〟
〝デルタ部隊、待機地点に到着、同じく指示を待ちます〟
〝インディア部隊、間もなく到着予定。本機ゴルヘックス3番機が若干後落中、本機到着次第追って連絡する〟
〝ダブルソーダーより、ズール部隊を確認。現在海岸線をダイノ島西方に向かい移動中。3機とも並走しているようだ〟
〝ズール部隊、到着予定時刻を通達せよ〟
〝ズール部隊より司令部へ。現在より20分後に目標地点到着予定。ライガーゼロは燥ぎ過ぎだ。もう10匹ほどディマンティスを破壊している。進撃状況には影響はない〟
〝オスカー部隊、先程ラッテンフェンガーのジャミングブレードが障害物と接触、第二背鰭が若干屈曲した模様。目標地点に到着次第、機能の確認をする〟
モニターの音声にしては思いのほかよく聞こえますね。それにしても「
〝オスカー到着、ジャミングブレードに問題なし。配置完了です。作戦、開始します〟
〝インディア、シールドライガー突入しました。目標、移動を開始します〟
〝ズール、同じく突入〟
〝コロニーを発見〟
〝位置を特定せよ。マーカー確認、コアの処理急げ〟
〝ディマンティス、一斉移動を開始しました〟
〝奴らコアを持っている。繁殖されると厄介だ、攻撃を継続、コアごと破壊〟
〝平地に出ました。ものすごい数だ。どこにこんな数が〟
〝地表が動くようだ。器用に衝突もせずに移動している〟
〝あの目だ。光学機能が高い。攪乱用に煙幕散布を頼む〟
〝こちらダブルソーダー、これより煙幕の散布を行う。ゴルヘックスは味方の位置を正確に伝えろ。警戒は怠るな〟
〝島の中央に群れを追い立てる。尾根伝いに東部に誘導せよ〟
〝現在ディマンティスの群れは3群に別れ移動中、南西方向に包囲から離れた群れを発見、オスカー、確認せよ〟
〝オスカー、現在海岸線付近よりマーカー地点へ移動。発見した。これより追い立てる〟
〝ラッテンフェンガー、先行には及ばない。ライガーゼロ下がれ、ジャミングウェーブを撃つぞ〟
〝シエラ部隊確認。現在ラッテンフェンガーは東北東より進攻、ジャミングウェーブ、ハウリング確認、距離宜しいか〟
〝各部隊、位置情報を伝えよ〟
〝デルタ、何処だ〟
〝いま探信を打った。確認宜しく〟
〝確認した。ラッテンフェンガー、位置情報確認。周波数同調、包囲、ダイノ島中央部山岳地帯。樹木による拡散を考慮、各部隊発振開始〟
〝ジャミングウェーブ、発振しました〟
〝オスカー、同じく発振〟
〝ズール、同じく発振開始〟
〝ダブルソーダー回避、ライガー部隊及びゴルヘックス部隊、後退〟
地鳴り?
一斉移動だ、こっちに向かってくる。
〝現在第一群、『焼却炉』に向かい移動中。コアも持っている。都合がいい〟
〝凱龍輝、スタンバイ完了。集光パネルへのエネルギー供給準備〟
〝デルタ、ラッテンフェンガー、来ました。約100機!〟
〝射線まで500m、誘導頼む〟
〝荷電粒子砲準備、ライガーの暴走に注意〟
〝ラッテンフェンガー、移動を停止。ゴルヘックスはライガーの前へ〟
〝ジャミングウェーブで群れを射線上に停止させろ。出来るだけ多く〟
〝『焼却炉』敷地内、群れで一杯です。焼却許可を〟
〝緩衝地帯への侵入を避ける。凱龍輝、発射を頼む〟
〝確認しました。荷電粒子砲発射、10秒前。射線上に味方はいないな〟
〝こちらダブルソーダー、射線上に味方機なし〟
〝了解、荷電粒子砲発射〟
どうした、肝心なところで。
モニターが焼付いた。真っ白で何も見えない。
命中したのか。
映像が回復しても煙で何も見えないじゃないか! こんなところでホワイトアウトとは。
漸く晴れてきた。凱龍輝の前、これは……
〝こちら凱龍輝、第一射終了。機体に異常なし。集光パネルよりエネルギー補充。第二射に備える〟
〝上空より確認、第一群のほぼ八割を破壊。射線上より離れた場所に大破したディマンティス数機、手負いの機体も数十。作戦は成功と認められる〟
〝了解、続いて第二群を誘導する。今度も頼むぞ〟
〝凱龍輝、了解〟
〝ラッテンフェンガー、第三群は待機、凱龍輝のタイミングを待つ〟
どうやら、作戦は順調なようです。この調子でディマンティスが駆除されれば、暫くは安心となるでしょう。しかしさすがに生々しいな。石化するならまだしも、後ろ半分を吹き飛ばされても鎌で這いつくばっていたり、頭部がないのにまだ動いていたり。荷電粒子砲の直撃を受けずに生き残った奴ら、自分たちがなぜここに誘導されて、みすみす焼き殺されたのかもわかっていないでしょう。
奴らには痛覚があるのでしょうか。私は無い事を願いたい。ゾイドとはいえ、生き物が焼かれる姿を見るのも忍びない。考えてみれば、奴らも好きで増えたわけでもないだろう。不幸な偶然で、こうまでなったのだからね。
〝第二群、射線上に誘導されました〟
〝ラッテンフェンガー、ディマンティスの活動を停止させろ。なぜ奴らの中でまた残骸を喰い始めているのがいるんだ〟
〝発振出力変わらず、荷電粒子砲発射直後による輻輳ではないか。移動は止まっている〟
〝『焼却炉』、準備はいいか〟
〝発射準備完了、いつでも行ける〟
〝こちらダブルソーダー、射線上に味方機なし〟
〝了解、荷電粒子砲発射〟
今度はカメラをパンさせたのか。これなら焼き付きはできないでしょう。
見えた。ああ、今度もだ。
〝凱龍輝、第二射終了。機体に異常なし。エネルギー補充。第三射に備える〟
〝了解、第三群を誘導する〟
まるでゾイドの墓場だ。黒焦げにならない分、余計に生々しい。脚や鎌、頭を突き出して、それにしてもまだ触覚が動いている。仲間の機体を喰おうとしている個体がいるとは。恐ろしい生命力だ。第三群が誘導されてくる。ざっと数百は焼かれたでしょうか。これで島にもとの暮らしが戻ってくるか。
おや、少し群れが崩れている。動きがおかしい。さっきまで地表が一斉に動く様に誘導されていたのに。ダブルソーダーのモニター⑥です。群れの密度が若干下がったと思いませんか。身を寄せ合うように移動して来たのに、今度は何か隙間が空いている。
〝第三群、誘導は完了したか〟
〝誘導完了、『焼却炉』準備はいいか〟
〝第三射準備、上空確認宜しいか〟
〝射線上に問題なし。群れの間が空いているので効率は下がる〟
〝了解、荷電粒子砲発射する〟
薙ぎ払われていく。でも、何か生き残っている機体も多いな。直前で攻撃を回避したみたいに。生き残って山の方に逃げていく奴らまでいる。あの体では、生き延びることは無理だろうが。
〝第四群、どうした。誘導に時間がかかっているぞ〟
〝こちら後方、オスカーだ。群れが逆走しているぞ。誘導できない〟
〝ダークスパイナーの脇を駆け抜ける? 馬鹿な! ジャミングウェーブは発振しているのか〟
〝出力を上げて発振中、なぜ誘導できない〟
どうしたのでしょう。群れが、こんどはほとんど群れになっていない。それに積み重なった残骸の前でそのまま後退していく。まるで死体の山を見て怖気づいて逃げていく群衆のようだ。
〝逃げていくぞ、やつら誘導されていたのではないのか〟
〝まさかこの短時間で、ジャミングウェーブに対する耐性を〟
〝全く効かない、凱龍輝の前にも行かない。山へ逃げていく〟
〝ライガー部隊、包囲できるか。駄目だ、展開した距離が広すぎる。網目が粗すぎる〟
〝何をしている、ラッテンフェンガー、一斉発振を〟
〝帝国側より報告、出力限界、ダークスパイナー全機離脱します〟
〝司令部、どうなっているのですか! 確認をお願いします。作戦の継続は……〟
次話は明日20:00UP