『蟷螂の島』(オリジナル)   作:城元太

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レポート⑥

 安全確保の為の報道規制がかかる前に最後の現場撮影とは、デニスさんもお若いのに大胆だ。危険な分、実入りが良いので私にとっては都合良いのですがね。アロザウラーに乗るのはこれで三度目です。どうです、慣れましたか。

 まだ少し慣れませんか。まあ、デニスさんはいつも身を乗り出そうとするから。

 ハーメルン作戦でしたか、残念な結果になってしまいましたね。まさか、ジャミングウェーブが効かないなんて思ってもいませんでしたからね。あれは一体なんだったんですかね。新聞で読んだのですが、オーガノイドシステムがどうとか……。

 幾つか理由がある、それで、どんな?

 オーガノイドシステムいうのはもとからジャミングウェーブが効きずらかった。そういえば奴らには、そんなシステムが入っていましたかね。

 それと、仲間に危険を知らせたから。どうやって?

 生き残ったディマンティスが、触覚を使ってコミュニケーションをとったらしい。確かにあれはアンテナでしたね。

 危険を察知する能力の高さ。具体的には?

 視覚に頼った情報分析能力? すみません、もう少しわかりやすく。

 ええ、あの赤い眼玉は確かにでかいですが、別に珍しいことではないと思うのですが。

 見ることで危険を察知できる能力が高いということですか。自律機能がものを考える力を強化したと。

 始末が悪いな、頭が良い上に増える速度まで早いなんて。嫌な話、このままではこの島だけでなく、この惑星まで奴らでいっぱいになるなんてこと、ありませんよね。

 脅かさないで下さいよ、デニスさん。これから奴らの巣にまた行こうというのに。私もアロザウラーも、まだ奴らに喰われたくはありませんからね。

 

 ところで、あれからまた島の住民は減ってしまいました。作戦が失敗に終わって――軍では失敗とは言ってませんが――荷電粒子砲やジャミングウェーブでも駆除できないと判ってから、もう翌日から脱出手続きをする人ばかりになりました。隣の家でも暫く疎開するとかで、今朝早々に出て行きました。寂しくなりましたよ。私などはこうして新聞社さんや研究者さんを乗せる仕事があるので助かりますが、この島の住民の大部分が営んでいる果樹栽培ができなくなったら、もうこの島では生活できなくなってしまう。もとから戦争が終わって、ニューヘリックシティーやデルポイ大陸に移り住む人たちも増えて来ていましたが、今回の事件は島の住民の流出を後押しする形となってしまいました。

 誰でもきつくてつらい農作業は苦手ですよ。それでもエウロペのエメラルドという称号を誇りに思って働いてきた。ところがどうだ、エメラルド色は、奴らの黄緑色の羽に置き換えられ、地表は奴らが化石木を掘り返した為に茶色く土が露出してしまった。

 羽の色といえば、デニスさんは気が付きましたか。

 そうです、奴らの羽の色ですよ。体色といってもいいかな。前にお乗せした時にも言いましたが、なにか茶色が濃くなっているような。今日の調査で確認してみましょう。

 見えてきました。新しいコロニーです。だいぶ人里に近づいて作られているから、用心した方がいいですね。アロザウラーからなるべく降りないようにして、万一の時は直ぐ逃げられるようにしておきませんか。

 そうです、安全の為です。デニスさんはまだお若い。こんなところで怪我などしてはつまらないでしょう。

 行きますよ、クレバスを覗き込みます。

 

 いました。絶対増えているな。それと、色もやっぱり違う。黄緑というよりは、もう薄茶色でしょう。それと、あの赤い羽。なんか大きくなっている気がしませんか。

 え、形が違うのがいる?

 本当ですね、鎌の形が違っているような。大きくコアをすくいあげるのに便利な形と、何か鋭くなっている形がありますね。あれで同じディマンティスなんでしょうか。仲間を運んで来た奴がいる……違う、あれは死骸だ。餌として、仲間の死体を持ってきたんだ。羽化していく、それも際限なく。

 あれ、もう色が茶色だ。それに一斉に羽化しているのに、共食いをする奴がいなくなっている。ここは完全にディマンティスの巣になってしまっている。

 気が付かれました。アロザウラーを起します。とりあえず逃げましょう。

 

 追って来てる! 今までこんなこと無かったのに。

 くそ! 行き止まりだ。こんな所に岩壁だなんて。

 止むを得ません、戦います。カメラ、ぶつからないようにしておいて下さい。

 二連ビーム砲が効かない。電磁クローを使います、接近するので足を踏ん張っていて下さいね。

 こら、どけ!

 まだか、一度にこの数では。

 やれるか、二匹めだ。

 馬鹿な、飛んだ!

 赤い羽根が大きく伸びている。飛距離も伸びている。以前の飛行のぎごちなさがない。

 自動追尾です。二連装ビーム、驚きましたか。

 よかった、なんとか撃ち落とすことができた。距離をとったら奴ら戻って行きます。テリトリー意識が強いのでしょう。

 兎に角帰りましょう。今日はこれ以上は接近できない。取り敢えず充分映像もとれましたから。

 

                        ※

 

 無茶をしたものだ。確かに私も若い頃には覚えはあるが、危険を冒してまでスクープを撮ろうという考え方は変えて下さい。アンドリューもよく請け負ったものだ。だが君らが命懸けで撮ってきた貴重な映像だ。充分に活用させてもらおう。ナイルズさん、御覧になっていかがですか。

 

 まずは私からも礼を言う。よくこれだけの映像をよく撮ってきてくれた。非常に参考になった。用語が専門的になることは許してくれ。

 幾つか判ったことを説明するが、どうやら奴らは、生態学でいうところの『相変異』を起し始めているらしい。

 真社会性について話したが、恐らくデニス君達の見た変異したディマンティスは、職能が分化された結果、ワーカーとソルジャーと呼ばれるカーストが発生したのだ。子育てや餌の収集を行う個体と、天敵から身を守るために兵士としての個体に分かれて、更なる増殖を効率的に行おうとしている。蟻や蜂と違うのは、奴らに女王がいないことだ。各個体が互いのコアの情報を交換し、それぞれがコアを産み落として繁殖している。ゾイドに雌雄の区別はないので、どちらもオスでありメスであり、2匹の個体がいればどこでも増えることができる同時的雌雄同体と呼べる。様々なコアの情報が共有されることで、急激な進化をすることができたのだろう。向社会性についても説明したが、互いに助け合い種の繁栄に協力する親が、自分の身体を餌にするという行動も、我々人類の理解が及ばないだけのことで生物界では珍しくもない。

 個体の変色と飛行能力の取得については、恐らく奴ら『渡り』の準備をしているのだ。ある種の動物は個体群密度が高くなると、『孤独相』と呼ばれる通常の個体から『群生相』という飛翔・移動に適した形態に変異する場合がある。この島にはこれ以上棲めなくなるのも時間の問題だ。それに先の攻撃で進化の速度が加速されたに違いない。その為に飛行機能を再生させたのだ。

 目的? もちろん大陸に渡ることに決まっている。

 これは最悪のシナリオとして聞いてくれ。奴らが大陸を目指すとしたら、あのオーガノイドが巣を掛けた古代遺跡ではないだろうか。

 北エウロペまで行かれたら、その先はもうすぐにデルポイとニクスだ。ただでさえ爆発的に増殖を始めているのに、これ以上増えたらこの惑星がディマンティスだらけになることなど時間の問題だ。

 いいかデニス君。自然環境というものは地質学的な歴史を重ねて刻まれて来たものであり、単独種が繁栄することは生物多様性の面からみて許されるものではない。この星のゾイドのユニークさは、誰もが認めるものだろう。ところが奴らはつい先程産まれたばかりの生物界のルールを知らない怪物なんだ。歯止めなく増殖し、この惑星上の全てを食い尽くしたら、自分達も滅びることを知らない。天敵も存在せず、コアを無制限に増殖させ続ければ、この最悪のシナリオが展開される可能性もあるのだよ。

 私がワイツゼッカーに、西エウロペ本土のダイノ島側にガンブラスターやプテラス等の迎撃ゾイドを配備し水際での侵入を阻止してもらう対策を講じるよう進言することはできる。だが根本的な解決には至らない。

 オーガノイドシステムは、デススティンガーとは違った方法でこの惑星を滅ぼそうとしているのだ。

 

 この星は滅びてしまうのですか。

 

 ルイ君、これは飽くまで可能性の問題だ。軍が総力を挙げればディマンティスを殲滅することも出来る。今は我々に何ができるかを検討すべきなのだ。心配はない。

 

 そ、そうですよね。少し安心しました。私は何か温かい飲み物を準備して来ます。

 

 頼みます。さてナイルズさん、今後の対応ですが……

 

 軍が総力を挙げてディマンティスの殲滅をした場合、この島も殲滅されるでしょうね。

 

 ナイルズさんそれは……。ルイ君どうした。何か落としたか?

 

 すみません、手元が滑って、折角支社長に作ってもらったコーヒーフィルターの針金がとび出してしまって。

 

 落ち着きなさい。コーヒーはいいから、別の温かいものを用意してくれ。ナイルズさん、あなたが決して裏付けのない発言をしないのは理解しています。ですがもう少し言葉を選んで頂けますか。まだ万策尽きたというには早すぎる。デニスさん、あなたも何かいい意見などありませんか。

 ……あなたまで絶望的な意見に賛同してしまうのですか。

 

 彼はあの営巣コロニーの様子を間近に見て、更には攻撃まで受けたのだ。納得せざるを得まい。今の私に進言できることといえば、全島民の避難と軍による一刻も早い全島一斉攻撃、及びディマンティスとそのオーガノイドシステムを備えたコアの焼却しかない。他に手段があるのならば、私が聞いてみたい位だ。

 

 あの、飲み物をお持ちしましたが、お邪魔ではありませんでしたか。なにか随分お話しされていたようなので。

 

 いや、大丈夫だ。ありがとう。ココアか。すこし頭を使ったから甘いものの方が有り難い。

 それは壊れたフィルターだね。落としたはずみで見事に針金がとび出して。今度また直しておくよ。それより君も落ち着いたかい。

 

 はい、飲み物を準備している間に落ち着きました。支社長の心遣いには感謝しています。すみません、折角作って頂いたフィルターを壊してしまって。ところで支社長、今までのお話を聞いていて思ったのですが、あのディマンティス達は人と同じ行動をしたから、人と同じように増えてしまったのですね。

 

 ルイ君、急にどうした。まずは座って。

 

 デニスさん、横、失礼します。

 お話を聞いて思い出したのです。私は幼い頃から両親に「人は助け合って生きなければならない」と言い聞かされてきました。「最初から疑うのではなく、信じ合うことから始められる」と。

 

 向社会性、利他的行動が繁栄に結びつくか。社会性昆虫は人間の社会形成とは全く違う家族集団だが、それがミクロなものではなくゾイドというマクロな生物で展開されたことが、今回の事態となったのだ。古代ゾイド文明はオーガノイドによって滅ぼされたとだけ伝えられているが、その原因はデススティンガーのような大型ゾイドではなく、或いは全く別のゾイドが原因であったのかもしれないな。

 

 私は両親の教えは正しい事だと信じています。「怖いのは人を信じられなくなった時だ」。でもあのゾイドが増えることが出来た理由がお互いの信頼と助け合いだとしたら、人間社会に対する大きな皮肉になってしまうのではないかと、悲しくなりました。

 

 ルイ君、君の御両親は間違った事など言ってはいない。人を誰も信じられなくなったら、人の社会は崩壊する。そうして私達人類は、文明を築き上げて来たのだからね。

 

 デニスさん、何か言いましたか。

 ディマンティスを駆除する方法ですか、一体どんな?

 

 それは……かなり凄惨な作戦になるな。しかしやってみる価値はありそうだ。その考えは及ばなかった。問題はどうやって奴らに取り込ませるのだ。

 なるほど、帝国にはもう一度協力を仰がねばならないが、そうすれば確かに奴らの体内に取り込まれるだろう。  

 

 そんな方法ですか。その上で残ったコアも徹底的に駆除するのですね。でもどうして突然そんなことを。もしかして、さっきのルイ君の話が参考になったのですか。

 

 君の発想は非常に面白いよ。奴らの真社会性と向社会性を崩壊させ、その上で処理を施し増殖を防ぐのか。残骸の場所を直ぐにシェイラーに確認しよう。君のアイディアをワイツゼッカーに伝え、帝国と折衝を頼み、軍との詳細な作戦を練り直す。私は必要なものを本土の知人に頼んで培養する。忙しくなるぞ。

 

 あ、あの、私の話が役に立ったのですか。

 

 勿論だ。壊れたフィルターと共に感謝させてもらう。

 




最終話は明日20:00UP
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