このゾイドのコクピットの狭さはなんとかなりませんか。複座のアロザウラーとは比較になりませんよ。まあ、コロニーの詳しい場所を知っているパイロットが私しかいないのですから仕方ないのでしょうが。危険な事は我慢できますが、狭いのはどうも。
こいつアロザウラーより新型ですよね。操縦系は随分と単純なんだ、帝国製のゾイドは。自分がこいつに乗っているなんて、なんだか複雑な気持ちですよ。
共和国軍の部隊を先導すればいいのですね、わかりました。危険手当もお願いしますよ。今更ながら現役時代を思い出します。
では、各部隊出発します。私はあまり戦いませんからね。
デニス・エクシグウス君といいましたか。ナイルズ氏から聞きましたが、よくこんな作戦を思いついたものだ。
帝国から借り受けた別のディマンティスで奴らを攪乱し、信頼関係を破壊して相討ちにさせ、その上で残骸に例の代物を撃ちこんで摂食させるとは。
ダークスパイナーを貸与してもらう時より遥かに手続きは容易だった。なにぶん目の前に何千何万もの同機体が繁殖しているのだからね。半ば譲渡といってもいい素振りだったよ。帝国軍の中でも、ディマンティスがいつ増殖してしまうのか懸念している連中もいるようだったから。
それでは一度司令部に入りましょう。
作戦の概要を説明します。帝国より貸与されたディマンティス12機を、各小隊4機で運用しゲリラ的に攻撃を仕掛ける。後方にはシールドライガーを配備し、我々のディマンティスが仕留められなかった場合の護衛を務めさせる。この作戦のポイントは、倒した野生のディマンティスに特殊な処理をして、餌として積極的に他の個体に分け与えることです。共食いの習慣を学習させることで、互いに潰しあいをさせ、個体数を減らす。一方で我々は、産み落とされているコアにも増殖を停止させるための処理を施す。本作戦は長期間に亘るため、PMCを含め土地勘のある地元のパイロットにも協力を願いました。今後ディマンティスが減った後も、継続的に駆除をしてもらうためだ。
今回もダブルソーダーのモニターから映像が送られてきますが、今回はそれぞれにゴルヘックスは同伴していないので空中映像と単独の音声のみになります。まずは経過を見守りましょう。間もなく作戦の開始、作戦名は『ゴルディオス作戦』とする。
ダブルソーダー、配置と進行状況を伝えよ。
〝ダブルソーダーより司令部へ。現在各部隊は野生のディマンティス営巣地帯に向け進撃中、途中数機を撃破、処理を施し別個体の元に移動中〟
〝オスカー部隊が敵と接触。数7。3機を破壊後、疑似的な接触行動に見せかけ処理を行い残骸を遺棄。その後残りの個体が接触するのを確認する〟
〝デルタ部隊からの報告では、一部ウォリアーとの接触を行うもののこれを撃退、撃破。撃破した残骸に処理を行い、営巣地帯のコアの上に遺棄。孵化後の幼体が摂食できるようにしたとのことです〟
〝インディア部隊、ワーカー群と接触。8機内半数を破壊、疑似的摂食行動と処理を行い遺棄。ワーカーの摂食を確認する〟
〝ズール部隊が飛翔体と接触した模様。上空からも確認。およそ30機程の群れです。ワーカーだな。各機ガトリング砲座で応戦中〟
〝シエラ部隊がウォリアーの襲撃を受けた模様。ライガーゼロが迎撃中〟
〝ズール部隊、約半数を撃墜。残骸に処理を施し遺棄。営巣地帯に投入〟
〝シエラ部隊、同じく撃退に成功。ライガーゼロが先行しすぎだ〟
〝オスカー部隊が新たな営巣を発見、護衛がないので直接コアに処理を行い離脱〟
作戦は順調のようだ。ナイルズさん、ゴルディオスが奴らの体内で孵化したことを確認できないのですか。
残念ながら、外見的に確認することはできない。ゴルディオスのコアは、通常のゾイドコアに比べて数㎝ほどしかない非常に微小なものだ。それだけに宿主に当たるゾイドも寄生されることに気付かず取り込んでしまうのだから。コアの孵化は通常の自然環境では約半数、宿主となる種の絶滅を避けるため、絶妙のバランスをとっている。だが今回は人為的に孵化率を上げたコアを準備した。孵化率はほぼ100%に近いはず。腸内細菌との共生も問題なく調整してある。充分成長し、繁殖期を迎えたゴルディオスは、微弱な電気信号を宿主の中枢神経に送りその活動を支配するようになる。養分となる仲間を見境なく襲って喰らい始める個体が増えれば、着実に寄生が進んでいると判断できるだろう。
ディマンティスをもってディマンティスを制す、ですか。
ただ、気が重いですね。想像したくないのだが、ゴルディオスが成長し切ってディマンティスの腹を食い破ってとび出してくる姿を。
デニス君、ワイツゼッカー少佐に君が独自に取材してきた映像を見せてくれないか。
それは初耳だ。そんな映像があったのか。ゴルディオスに関するものか。
デニス君の首都の友人が入手した映像と、例の、最初にシェイラーという中古ゾイド屋からディマンティスを購入したウェイクフィールドという農業主の証言だ。私は気分が悪くなるので中座させてもらう。後を頼む。
〝スパイカーと、最初に死んだディマンティスの死んだ理由か。あんたも気持ち悪いことを聞きたがるね。
スパイカーが死ぬ前には、それはだんだん思うように操作出来なくなってきていた。
その日はいつものように昼間の果物の取り入れ作業をしていたが、突然勝手にゆっくりと動き出してね。何かに操られる様にふら付きながら進んで行くんだ。進路上の樹木もハイパーサーベルで切り裂きながら何かを探すように。やがて島に一つだけある湖に辿り着いた。すると防水処理もされていないのに、スパイカーの奴そのまま湖の中に入って行ったんだよ。まるでゾイドの入水自殺じゃないか。俺はずっとコクピットの中でなんとか操縦しようと悪戦苦闘していたが、さすがに寸前で脱出して、湖の畔で沈んで行くスパイカーを呆然と見ていたんだ。金じゃないんだ、付き合いも長かったし、使い慣れたゾイドだったから、悲しくなったよ。なんでこんなことが起きるのかと考えていた。
暫くして、スパイカーの機体の半分が水に浸かったころ、その小さな腹の辺りから、太さ70㎝ほどの赤い針金のような物がぬるってとび出してきたんだよ。
まるでスパイカーの中から針金が生えてくるように、そいつはどんどん水面に伸びていって、たちまち20mぐらいの長さになって水面を泳ぎだしやがったんだ。いや、泳ぐなんてもんじゃない、うねうねとのたうち回っているんだ。ゾイドは金属生命体だから、金属光沢を持つ生き物なんて珍しくはないが、あの目もない口もない針金みたいなゾイドを見たのは初めてだった。あれがゴルディオスというのは、あんたに聞いて初めて知ったが、あれはそんなペガサス型ゾイドみたいなもんじゃない。どうみてもあれは針金蟲という名前の方が正解だ。そのままあの針金蟲はどこか水中に沈んで行った。目の前で、腹を食い破られた俺のスパイカーがブクブクと泡を出しながら浮かんでいた。針金蟲が逃げたから正気に戻ったのかもしれないが、懸命に俺のいる岸に向かって戻って来たんだ。その時は、もしかしたら助かるのかと思ったけれど、無理だった。岸にハイパーサーベルをつけたと同時、身体の石化が始まった。そのままスパイカーは白くなって死んだよ。
まるで悪い夢さ。最初に死んだ買ったばかりのディマンティスも、死に方は同じだった。ただ、はみ出してきた針金蟲は、まえよりずっと長くて太かった。すっかり腹の中身を食い破られたディマンティスは、抜け殻のようになって湖に浮かんでいたよ。あんな蟲、この島にはいなかった。多分シェイラーの奴が何処から持ち込んだんだろう。けれどもうあんな気持ちの悪いものを見るのはこりごりだ。だからこうして俺は大陸に逃げてきたのだから〟
なんとも言いようがありませんね。
映像、これが湖で捕獲された時のゴルディオスの幼体ですか。話しと違ってだいぶ小さいですね。
宿主のいない場合は環境に応じて成長を抑制する? 不思議な生物だ。これの産んだコアを培養して、軍のディマンティスに装備させたのですね。今の農業主のように、その脱出の場面はあまり見たくはないものですな。
いずれにしても後は奴らの中でゴルディオスという時限爆弾が破裂するのを待つだけだ。デニスさんはこの後は首都に帰るのですか。
一度報告書をまとめるのですね。いろいろとお世話になりました。後は我々にお任せください。それではお元気で。
※
担当;グローサー新聞社 記者 デニス・エクシグウス
『ダイノ島に於いて大量発生したディマンティス駆除の経過について』
概要:
前大戦(第二次大陸間戦争)に於いて使用され、遺棄されたガイロス帝国開発のオーガノイドシステムを何らかの形で取り込んだアイゼンドラグーン製のSSゾイド、ディマンティスは、中古ゾイドを扱う古物商に捕獲された後、西エウロペ大陸の西岸にあるダイノ島にて農作業用として転売、果樹栽培作業に利用される。
自律機能とオーガノイドシステムによって自我が芽生えていたことを混同したディマンティスの管理責任者(この場合農業従事者)は、そのゾイドが繁殖の為山間部に逃走していたことを重視せず、そのコアの産卵に気が付かなかった。
逃走したままのディマンティスは山間部で繁殖を始める。最初の餌となるのは自ら仮死状態になった親の身体であり、後には島で産出する化石木を摂食するようになる。
島の環境に適応したディマンティスは島内各地に営巣し、爆発的な大量発生をする。また、各個体が職能分化を始め、ワーカーとウォリアーとの形態へ変化、同時に飛翔能力に優れた個体にも変化を始める。
軍による『ハーメルン作戦』が不発に終わり、増殖を妨げることに一度失敗をした。
第二の作戦として、研究者と軍の協力により『ゴルディオス作戦』を敢行。
ゴルディオスとは線形虫型の寄生生物で、金属生命体ゾイドである文字通りの「ハリガネムシ」である。スパイカー、ドントレス、カマキラー等の昆虫型野生ゾイドに寄生し、宿主の体躯に合わせた成長を遂げる。寄生された宿主は、一見通常と同じ生態で過ごすが、生殖機能を奪われ摂食行動のみに執着するようになる。その間、食糧であれば同族であっても無差別に摂取し成長を遂げる。ゴルディオスは宿主の中で充分に成長を遂げると、宿主の操縦系に一種の電気信号を送り水辺に誘導する。宿主はそのまま入水し、体外に水の存在を感知したゴルディオスが宿主の表皮を破って脱出、繁殖相手を求め初めて独自に水中に移動、繁殖する。
ゴルディオスの生態は研究者の間でも未だ充分に解明されておらず、その胚にあたるコアの採集は困難を伴ったが、幸い最初期に機能を停止した農業主所有のスパイカーの石化地点からゴルディオスの繁殖地を発見、通常のゾイドと比べても非常に微細なゴルディオスのコアを採取、これの培養に成功した。
作戦の第一段階では、帝国より貸与された有人操縦のディマンティスを利用し、ゴルディオスのコアを遺棄したディマンティスの残骸に移植し、然る後に他のディマンティスに摂食させた。親の身体を餌に成長する幼体も、次々にゴルディオスの宿主となり、生殖機能を失ったまま成長、ゴルディオスの放出後次々に石化して生涯を終えていく。
作戦の第二段階として、本来の生態系であればゴルディオスは全ての宿主を殺してしまうことはないが、人為的に寄生をさせて残ったディマンティスに摂食を継続させた。
作戦の第三段階として、大量発生したゴルディオスを凱龍輝の荷電粒子砲で焼却。生態系のバランスの維持を行う。
結果:
作戦は約半年に亘って展開。最初は仲間の残骸を摂食することに躊躇していたディマンティスだが、ゴルディオスによって摂食行動に貪欲となった個体が増加すると宿主となっていない個体も積極的に共食いを開始。場合によっては孵化直後の幼体を貪り喰う様子も見受けられた。ディマンティスの島内のコミュニティーは崩壊し、一時期飛翔体となって大陸への渡りを準備していた個体も消滅。島内のディマンティスの生育密度が共食いによって下がる事により、ワーカー、ソルジャーの分化も停止。単に仲間を求めて貪り喰らう狂った野生ゾイドに成り果てた。
半年後、山間部に於いて最後のディマンティスを発見。だがそれもゴルディオスの繁殖地前で腹部よりゴルディオスをはみ出させたまま石化を始めていた。繁殖地に辿り着けなかった個体群は、海浜部に累々と残骸を晒していた。
ダイノ島でのディマンティス大量発生事件は、こうして一応の終結をみた。
考察:
人為的に再生されたオーガノイドシステムが、本来の生態系を破壊し、ダイノ島の美しい自然を失わせた。島の再生には時間がかかり、再び西エウロペのエメラルドが輝くには数十年の時間がかかると思われる。更には今回の騒動によって多くの島民が脱出し、再建には人材不足が懸念される。
責任の所在を何処に持っていけばよいのか、私もわからない。今回の事件を通し、事実は常に無慈悲であることを痛感した。
※
海辺の残骸はどうしますか。
思い出すと、実におぞましい光景だった。水中に誘導されると、途端にディマンティスの腹を食い破って無数の針金がとび出してきたのだから。
全長が6m程のゾイドの中に、どうやって20m近くのゴルディオスが寄生できたのか、今でも納得できませんね。
もともとゴルディオスは淡水で繁殖するものだったのに、この乾燥した狭い島では一か所あるだけの湖に集中して、殆ど死滅しましたよ。
海に向かった奴らは、水を感知してもそれが海であったため繁殖相手を見つけることも出来ず、そのまま海水にのたうちまわって死滅した。
あの美しい果樹林も、化石木の石垣が切り崩されて大地が剥き出しになっている。
怒りとか、悲しみより、ただただ虚しさだけが押し寄せてくる。
デニスさん、あなたはこの事件の顛末をどの様に首都に伝えるのですか。
※
お疲れ様でした。
雨のせいで、海が荒れているので、船酔いに注意してくださいね。
私は濡れても平気です、熱帯の雨は温かいから。
ナイルズさんは、ニューヘリックシティーに戻りまた研究するそうです。
ウォルター支社長は、疎開した島民の呼び戻しにがんばっています。
ワイツゼッカーさんは、ディマンティスの残骸撤去を指示して転属されました。
シェイラーさんは、またどこかで野良ゾイドを探していると思います。
確かに、いまこの島はひどいありさまです。果物畑は荒れ果て、山の斜面から流れた泥が、海を黄色に染めています。
でも、わたしはあきらめません。両親が愛したこの島を、絶対に捨てたりしません。
いつかまた来て下さい。それまでにここを元の美しい島にしておきます。
ダイノ島は美しい島なのですから。
最終話までのお付き合い、ありがとうございました。