ようこそ、ナースカフェへ   作:ピラサワ

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 評価を下さった方々、見てくださっている方々、お気に入りに入れてくださっている皆様。何時も有難うございます。こうして評価して頂いて感謝の限りです。出来るだけいろいろなキャラクターと絡ませられるように、そしてなんとか平沢成分っぽさを出せるように頑張りますのでよろしくお願いいたします。



クラリッサ・ハルフォーフ①

 IS学園の食堂。

 

 夏休みになると流石に客足も少なくなってくるそこの隅の隅。

 

 そこには知る人ぞ知る小さな喫茶店が隠れている。

 

 ――――ただし、本日は閉店のようだが。

 

 

 

 

 

    ▽ ▽ ▽

 

 

 マスターという職業に必要なスキルには料理やコーヒー、紅茶を淹れる腕に仕入れ時の値切りの腕は勿論として他にも様々なものが存在する。その中の一つには『受け入れる感性を増やす』というものもあるのだ。

 

 IS学園に限らず、この世界には様々な性格の人間が存在する。そしてその一人一人が違う意志を持つ存在である以上、どうしても人間の好き嫌いという概念は欠かせないと言えるだろう。それは我々人間が人間で在るために必要不可欠な要素であり、且つ人間が如何に面倒な存在かをも表すものである。

 

 当然、私にも人間の好き嫌いというものは存在する。このような人は好ましいしあのような人は好きではない……と話す中でその人を自分の好き、若しくは嫌いのスペースに位置づけている。

 だが、それはプライベートでの『私』である。仮にも接客業を生業にしている以上、『ワタシ』である時にその好き嫌いを表に出すのは論外だ。しかしいくら我々が仕事とそうでない時でオンオフが切り替えられると言えども限度がある。嫌いなものは嫌いだし、気に入らないものは気に入らないことに変わりはないからだ。

 

 そこで我々マスターは様々な場所に赴き、色々な人々を観察し……その在り方を知るのである。得る知識に無駄なものなどなく、人を知り世を知ることは愚かな賢者であるためには必要な事であるからして。

 

「むっ? 貴方は……! すまない!」

 

 それらを見ながら街を練り歩いていると、何処からか声を掛けられた。

 

「そうです! 貴方は確か美術館で出会った方だ!」

 

 振り向けば右目に眼帯をした女性。ここ最近でそのようなものをつけているのはボーデヴィッヒさんだけなのでそうでないとすると中々に思い浮かばない。

 

 しかも美術館とは。

 

「ワタシですか? 美術館となると……ワタシが行ったのは相当前の話ですので人間違いなのでは?」

 

「いいえ、貴方で間違いありません。記憶力には自信があるのです」

 

 さて、あちらはワタシの事を覚えているようだ。それでは私も思い出すしかない。様々なお客様――最もあの学園でよくご来店頂くのは、非常に限られた方々なのだが――が出入りする店で働くのだからワタシも記憶力には少しばかりの自信がある。

 先程は反射的に人違いではと言ってみたがそうでないとすれば、そう……美術館…………! いや、確かに美術館とも言えるだろうか。博物館との区別が怪しいところではあるが。

 

「ああ! 貴女はそう、確か京都の……」

 

「そうです! 覚えていてくれたのですね!」

 

 それにしても彼女に限らず、外国の方々に日本語の発音はとてもむずかしいと言われている中で完璧にそれを使いこなしているのには日々驚きだ。あの月の兎、機械に死の概念を植え付けた元凶の影響はここまで大きかったのかということを改めて実感させられる。

 

「知らぬふりをされたかと思いました。もしあのまま無視され続けたのであれば――」

 

「あれば?」

 

「近くの美術館に火をつけていたかもしれません」

 

 そして唐突な爆弾発言。

 

「……あぁ」

 

 今、完璧に彼女の事を思い出した。彼女――クラリッサ・ハルフォーフさんは京都のアニメイション・ミュウジアムで出会った…………とても個性的な女性だ。

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

 クラリッサ・ハルフォーフさん。彼女の事を調べてみれば彼女の情報は直ぐに出てきた。なんでも国家的にもかなり有名なISの操縦者であるとか。少し詳しく巣をくぐると、どうやら彼女のファンクラブなぞもあるようで、その人気は中々に高いようだ。

 だがしかしその一面に興味がなく、私が実際に見て、聞いて、感じたものしか信じない――時にはそれすら信じない事もある我ながら捻れた性格をしているワタシにとって、彼女はただの少女漫画……ならびに誤った日本文化オタクであると言わざるを得ない。

 「日本の女子の髪には芋けんぴがついているものだと信じていたのに……」と本気で落ち込んでいるその姿を見た時、私は酷く驚愕したのを覚えている。

 

 ISの誕生、そして篠ノ之束の宣言は良くも悪くも外国の女性や政府の面々に日本の文化を研究させる、または正しく知るキッカケにもなっている。その為、現在において海外の女性の日本文化の理解の高さは偶に我々が置いていかれるレベルのものになっているのだ。無論その影響を受けたのか、海外の男性陣も日本語が話せる方々が増えてはいるのだが、こちらについては未だに「サイタマには悪いニンジャを殺すニンジャスレイヤーなる者が存在する」という誤解があったりする。

 

 そんな中、少女漫画でしか学んでいない彼女を発見し色々と正しい文化を教え――――そして、事情を調べて色々と納得したのだ。ここまで強い出来事があったのにも関わらず瞬時に思い出せなかったとは、このヒラサワ一生の不覚である。

 

 

 

 さて、今。その彼女とは近くのファミレスにて同席している。話題は昔に教えたある伝承について。

 

「……確かにその通りです。歴史からの発展、いつだって足りないものを補うために造られた筈のソレが、いつの間にか『足りすぎている』」

 

「そうです。現代人――とは言っても我々が生まれる前の人々からの話ですが、この世は飽和しきっているのです。人間という生物はもう既に満腹であるのにも関わらず、自らの欲望、人間たちの更なる発展の為にもっと、もっとと色々なモノを創り続けている。さっき仰ったように()()()()()()()のです」

 

 無知は半端な知に優る。半端な知識を持ち、それが一旦固定してしまえばその価値観は中々壊れることがなくなってしまう。

 しかし彼女、そしてラウラ・ボーデヴィッヒさんはそれがない。植え付けられたもの、教えられたもの以外の事を知らなかった。だからこそクラリッサさんは少女漫画からそれを学ぼうとしたのだろう。彼女よりも小さいラウラさんの為に。 

 だが、少女漫画は所詮創作であり、現実にそのような都合のいいことなぞはそうそう訪れるものではない。少女の髪に芋けんぴがついている確率は恐らく宝くじ一枚で一等賞を当てる確率くらい低いだろうし、ましてや人の頬に自分のSNSアカウントを表示するコードを書ける男性などもはやゼロであろう。

 

 そうやって彼女は間違った知識を得た。しかしそれは固まりきっていなかった。

 

 何故ならば、人間個人の価値観というのは周りとの触れ合い、コミュニケイションの中で剥がれたりより強固になったりすることがあり得るからであり、また彼女が賢い人間であるからでもある。

 

 自らの価値観を持ちながら、それをより柔軟に、より正しくあろうと変化させられる人間は少ない。親、そして義務教育という名のマニュアルの植え付けに、更にガチガチに固まった価値観に囲われた世の中で育っている子供がどれだけ正しくあろうと思えるだろうか? 線が既に書かれ、更に色の指定までされている塗り絵に溺れると、一からの想像は難くなる。

 テレビという綺麗な額を指差して、「子供が泣いているね」という。無感動、無関心。憐れむ事もなく同情さえしない。あるのはただ「泣いている」という事実を言っているだけ。その映像は彼ら彼女らにとってはただの絵に過ぎない。そういう風に育ってしまったのである。

 

 その点、彼女たちの価値観というのは言わば「大部分が白紙のキャンバス」なのである。あちらでの教育によりある程度キャンバスは塗られているが、だがしかし人生を生きていく上で無駄になる知識や価値観については真っ白。そのムダ知識に人生が彩られている事を踏まえると、彼女達の未来にはまだまだ無限の可能性が秘められているとも言えるし、ちょっとしたことで全て台無しになってしまう危険さもあると言える。だからまずは誰かが下書きを書かねばならないだろう。

 

 ワタシは2Hの鉛筆。彼女たちのキャンバスに書き込めはするものの、それは彼女――いや彼女だけではない。一夏くんや鈴音さん達、恐らく色々な人間の心のキャンバスに書き込めることだろう。だが、それは直ぐに消すことが出来る。ワタシの語りはとどのつまりワタシの価値観の押し付けであるが故に。

 

「そのような飽和した世の中、それを一部でも薄くしようと考えた『百足らず様』。江戸時代の庶民、旅人を足らす為に励んだ『楽足り屋』……。素晴らしいですね」

 

「ええ。我々が長らく忘れていた……というよりは、正しく認識をしていなかった とでも言うべきなのでしょうが。ともかくその『百足らず様』によってワタシは現在の歪んだ在り方、錯覚から抜け出せたのであります」

 

「私も認識を改めないといけないかもしれません。機械もISも便利な代物ですが、物事には何でも欠点がある事を忘れていた事を否定できませんから」

 

 

 

 ワタシの下書きは時代の逆行。栄養飽和状態なのに栄養不足だと嘆き、満腹なのに空腹だと不満を感じる……ましてや、もっと便利な時代にしろなどと喚く愚かでどうしようもない人間になるのと、足りすぎを知るが故に強請らず駄々をこねず身の周りの環境を受け入れられる人間になること。どちらが正しいと言えるのか? と考えると、勿論私は後者である。彼らは負債が次の世代に影響を与えることを失念しているのだ。積もる悪習も負債も、全ては子孫の、孫子の代まで受け継がれている。それは現代も昔も関係なく人間の歴史として証明されている。

 

『SAY NO!』

 

 本当は誰かがそう言って止めるべきなのだ。各種とりどりの負を次代に押し付ける事の何が正なのか。

 

 とは言え、ただの一般人であるワタシに出来ることは、真っ白な彼女たちが汚れないようにただ下地を作っておくことだけだ。彼女たちには有象無象のようになってもらいたくはないから。勿論、ワタシのような良くもわからない凡骨になるなど以ての外である。彼ら彼女らは磨けば綺麗に光る原石だ、それを磨かず、導かずして何が大人か、何がマスターか。新しい時代を作るのは何時も少年少女、つまり若者なのである。

 

 

 自らを戒めているであろうクラリッサさんに語りかける。例え国や文化が違えど、この認識が彼女を通してより多くの人に受け入れられる事を願って。

 

「その意識を忘れなければ良いのです。今この世の中が『足りすぎている』と考えている人はあまりにも少ない。であるなら、これから増やしていくしかありません。ですから、貴女の周りでも『百足らず様』について語ってみて下さい。少しずつ、少しずつ。身の回りからの改革が大切なのです」

 

「はい!」

 

 

 

 

「…………ああ、そうそう。クラリッサさん」

 

 ……さて、ここで少し釘を刺しておこう。前に聞いた一夏君の話とラウラさんの話からするに、あの例の事件の犯人は彼女だろうから。

 

「はい?」

 

「夢を見る事は大切な事です。しかし、流石に現実に少女漫画の勢いを持ち出して来ると彼女は困惑してしまうでしょう。彼女は貴女よりも更に純粋なのですから。彼女を想う気持ちは解りますが、暴走してはいけませんよ?」

 

「くっ……善処します」

 

「何故そこで悔しそうになるんですかねぇ」

 

 思わず苦笑が漏れた。

 これでは果たして釘を刺せているのか、怪しい所だ。……そもそもこれはワタシが前もって予防すべき案件なのだろうか? 変に刺激を加えてしまうと漫画文化に深い興味を持つ彼女のことだ、『少女漫画がダメならば少年漫画がある、織斑一夏は男性なのだからそこにヒントが……!』などと思いかねない。いや、なんにせよ一長一短であるため間違っているとは言えないのではあるが。

 

 まあ、それにしても。

 

「確かに先程認識を改めさせられたばかりだ。つまり――」

 

 他人のために悩める人の、どんなに尊いことか。

 

 真剣にどうすればよいかを考えている彼女を見て思わず笑ってしまった。

 

 勿論貶すつもりなどない。寧ろ微笑ましいのである。何故ならば……。

 

 

 

 そういったものにこそ、人生の美は詰まっているのだから。

 

 

 

 

 

    ▽ ▽ ▽

 

 

 

 

『いいですか、隊長? 私の知人から聞いた話なのですが、ここ(日本)には『百足らず様』というとても――これを――』

 

「お、おおぅ……成る程! 確かに好きな男を獲る為にはまずはこういった世間話から交友を深めればよいと借りた本にも書いてあった! 実践してみるとしよう」

 

『御武運を』

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫁よ」

 

「ん? ラウラか。どうしたんだ?」

 

「偶には世間話でも、と思ってな。それより、こんな話を聞いたことはないか?」

 

「え? ――――へえ、ここにもそんなものがあったのか」

 

「ここにも!? ということは他にもあったのか!?」

 

「ああ。ウチの中学にも七不思議ってのがあってさ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、マスター」

 

「なんでしょう。織斑先生?」

 

「IS学園の七不思議とやらに新しく『百枚の紙があったはずなのにいつの間にか九十九枚に減っているのは『百足らず』の仕業だ』……などというものが出ていると噂している学生がいたのだが」

 

「!?」

 

 

 

 正しい『百足らず様』の浸透には程遠いようだ。




 私が彼女を描写しようとするとどうしても、あからさまな『外国人のにわかアニメオタク』になってしまいます。これはピラサワの不徳の致すところであり、コンテキスト・ケイジに囚われてしまい、庭師により整地されてしまった細い細い通信ケーブルを綱渡りで進む事が出来なかった事をお詫び申し上げます。

使用曲:美術館で会った人だろ
作者コメント:ステルスメジャー氏のデビュー曲であり、今と当時では歌い方にかなりの差があると感じました。
クラリッサをここで使ったのは某氏の昔のグループはまさにサブカルチャー、特に当時ではテクノブームの先駆けともなっている存在であったため、彼女のサブカル知識と半ば無理やり関連付けさせて頂きました。
 歌詞の解釈については他に真面目なものがあるのですがあまりに文章にするのが難しいため省略。

使用曲2:原子力
作者コメント:間違えてヒラサワではない曲を使ってしまいました。申し訳ありません。BOATに似ていたのでつい。
 解釈もへったくれもない、直球ド真ん中な歌詞。ステルスマン氏はかなりのお怒りだったのであろうと想像。本来の歌とはターゲットが違いますが、アトムも悪習も全ては積もる負債であることから関連付けさせて頂きました。
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