ようこそ、ナースカフェへ   作:ピラサワ

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  ご!





 作品を見て下さった方々、またお気に入り登録、評価して下さった方々。いつも有難うございます。励みになります。
 今回少し難儀しまして非常に筆が胡乱な足跡を残しております。ご容赦下さい。

 あと第九曼荼羅に行った方々がいらっしゃればお疲れ様でした。私は残念ながら行けませんでしたが、知人から「アヴァター・アローンあったよ」という言葉を聞きまして無事DVDの購入を決意いたしました。


シャルロット・デュノア②

 IS学園の食堂。

 

 夏休みも終わりに近づき、少しずつ賑わいが戻ってきたその食堂の隅。

 

 誰も気づかないように巧妙に隠している扉の先には、小さな喫茶店が存在する。

 

 

 

 ……そして、地下にはとある人物により作られた実験場も。

 

 

 

 

 

    ▽ ▽ ▽

 

 

 

「マスター、これが……?」

 

 ――目前にあるソレを見て、思わず疑問の声が出てしまった。

 

「ええ、そうです」

 

 何の変哲もなくただ首肯するマスターを見るに、嘘はついていないのだろう。この前に試験的に渡された『チューブラ・ヘルツ』だって、始めは訳が分からなかったけれと使ってみるとこれがまた案外楽しかった。

 

 だが、今回のコレは一体何なんだ。

 

 ――砲身の後部、そして恐らく展開時の背中部分に当たる場所に設置されている太陽光パネル。

 

 そして、何よりも。

 

「え、あの。これIS用ですよね?」

 

「ええ」

 

「何ですか、これ?」

 

「これは太陽光集光並びに収縮発射システム、試験兵器『ソーラ・レイ』です」

 

「『ソーラ・レイ』……」

 

 

 とてもISが使えるとは思えないような巨大な砲身。昔フランスで流行っていた日本のロボットアニメーションを想起させるような、それこそISをつけた僕達と同じくらいの大きさだ。

 

 

 どう見ても、ISが使って良いような武器じゃなかった。

 

 

 

 

       *

 

 

「えっと、威力はどれ位?」

 

「チャージ量によります」

 

「最大まで溜めたら?」

 

「アリーナの障壁を余裕でぶち破れます」

 

「却下ッ!」

 

 あの障壁自体正攻法じゃまともに壊せないものなのに(今年に入ってから何回か破られてるって聞いたけど)、それが余裕だって? そんなのはIS用の武器じゃない、ただの質量兵器だ。

 

 そんな僕の困惑や憤りとは裏腹に、マスターはいつものようにニコニコ笑っていた。

 

「まあ、こう言っては何ですが……いざ戦闘という時に最大までエネルギーを溜められる猶予などありません。よって実際の使い所としては数%から十数%まで溜めての発射となるでしょう」

 

 そこからの説明を聞くに、どうやら最大威力はあくまで理論値であり実際に試した訳ではないらしい。それもそうだ、もしこの平気の最大威力の試験なんかやっていたらこの実験場がバレる所の騒ぎではなくなるだろうし、そもそもマスターはISに乗ることが出来ないので使用することは――多分出来ないだろう。

 

「それじゃあラウラやセシリアの武器のほうが便利じゃないですか?」

 

「それがそうとも言い切れないのです」

 

「この『ソーラ・レイ』は基本的に使用エネルギー全てを太陽光パネル式のエネルギー充填板で賄っています。よって、緊急時以外はISのエネルギーを一切使用しないのです」

 

「余談ですが、実はこの喫茶店や実験場の電気も全て太陽光で補っているのですよ」

 

「えっ、そうなんですか!?」

 

「はい。生活設備の技術がどんどんと発達し人間にとっては便利になっている一方で、電力は未だに有限資源による発電に頼っている現実にワタシは兼ねてから疑問を抱いていました。しかしワタシは非力で無名な凡人、いくら一人で叫ぼうと耳を貸す物好きは滅多にいないでしょう。ですから先ずは実績を、ということでここの校長や色んな方に頼み込みましてねぇ。太陽光を電力に変えるシステムを――」

 

「ああ、ソーラーパネルとかは昔から売ってますよね。だけどあれって高いんじゃ……」

 

「作らせていただきました」

 

「自作ぅ!?」

 

 なんだろう、マスターの話を聞く度にどんどんと疑問が増していく。自力で発電システムを作り上げられるこの人は一体何なのだろう。さっき自分は非力で無名だなんだと言っていたが、あんなのは絶対にウソだ。昔から日本人は謙虚さを大事にすると聞いている。きっとこのマスターは裏では第二のふる里である緑の地球を守っている戦士の為に、研究をしているに違いない。

 

「マスターですから」

 

「マスターって一体何なんだろう……」

 

 喫茶店のマスターという言葉を聞くと本来「喫茶店の店主」と連想するのが当然だけれど、最近この人の「マスター」発言は「熟練者」という意味を示しているように思えてならない。紅茶やコーヒーを入れるのがとても上手なのはまさに喫茶店のマスターという感じだけど、武器が作れて機械が修理できたりするのは喫茶店のマスターとして果たして正しいのか。

 

 ……だけど、これで。

 

 これで僕だって遠距離からでも撃てる。アレに頼らなくても、工夫をすれば脅威になれる。

 

 ――結局、あの時に僕は殆ど役に立てなかった。

 

 悔しかった。

 

 だけど、これなら。これなら……!

 

「ああ、シャルロットさん」

 

「っ! はいっ」

 

 急に話しかけられて慌てて返事をする。ちょっと不自然だったかもしれないけれど、いきなりで驚いたと考えてくれれば問題はないだろう。大丈夫だ。演技には慣れているから。

 

 こう考えてしまったのは、まだ自分の内心などバレないだろうと思っていたからだ。

 

「これは凡人の戯言です。ですので聞き流してもらっても構いません」

 

「…………」

 

 ……この一言を聞くまでは。

 

 そう、他の人ならば大丈夫だった。これで切り抜けられた筈だ。……だけど、やっぱりこの人には敵わないんだなあ。織斑先生もそうだけど、こんな凄い大人たちに囲まれてしまってはどうにも自信がなくなってしまう。転校生でまだそこまで付き合いが長くない僕でさえそう思うのだから、僕よりももっと彼らとの距離が近い一夏はもっと大変なんだろうなぁ。目標をあんなに遠くに置くのも分かる気がした。

 抵抗を諦め、大人しく忠告を聞くことにした。

 

「人々は皆違った価値観を持つ、教育者はそう教えます。しかしそれは誤りで、実は人間の価値観というものは大抵何者かの誘導により同じ方向に向けられているのです。勿論例外は存在し、また影響の強弱にも個人差はありますが……しかし尚その植え付けられた価値観を人々は自発的なものだと信じている」

 

 必死に頭の中でマスターの言葉を噛み砕く。何時迄も「意味は分からないけど響く」なんて考えていたら成長なんて訪れないから。言葉、本質を理解することで始めて本当のメッセージを受け入れることが出来る。日本語でもフランス語でも変わらない、コミュニケーションというのはそういうものだから。

 

「価値観の在り方はその言葉の通り『その物体に価値があるのかどうかの考え方』です。例えばISの特機、ソレを持っていない操縦者達は口を揃えて「羨ましい」と言います。若しくは捻くれた者ならば「アレのせいで国を背負わされるのだから可哀想だ」と考えるかもしれません。しかし彼女たちの価値観は違うわけではなく、皆一様に『特機は価値のあるものだ』そう考えている。価値があるから羨ましい、価値があるからその分のプレッシャーを負う。感じ方さえ違えどその特機に向けられる価値の大きさは皆同じである、そう()()()()()()()。しかしそれを確かめるすべなどないのです。何故なら思考が全て読み取れる人間など存在せず、また脳の信号を目視できる眼を持つ人間も存在しないからです。そこに人間の思考の根源、クオリアがある」

 

 価値観の在り方。

 

 方向性の誘導。

 

 他人の気持ちなどそうそう分からない。

 

 感情の信号。

 

 クオリア。

 

 詰め込む。詰め込む。脳内に語彙を詰め込んでゆっくりと後で整理する。

 

 だから今は、聞き取る。 

 

「貴女の在り方は何ですか?

 

 貴女の本当の価値観とは?

 

 無意識の中に生まれた本当のクオリア、根深く埋まり、権力者の洗脳から逃れたソレをどうか探してあげてください。

 

 その先には混乱と嘆き、苦悩と葛藤が待っていることでしょう。しかしそれら負の渦の中には貴女の感じる『空洞』を埋めるモノがある。ソレを埋めた時、貴女が本当にしたかったこと、目指したかったことが分かるでしょう」

 

 それでは、頑張ってください。そう言って静かに一礼したマスターに一言、「ありがとう」とだけ残して店を出た。

 

 焦ることはなかった。目先の負に囚われる所だった。

 

 そう、僕の本質。僕の役割。

 

 そして、本当の望みを見つけたい。それにはまだまだ実力も意識も足りないだろうけど、まだ時間はあるんだ。ゆっくりと見つけていこう。 

 

「さて、頑張るぞー!」

 

 

      ▼ ▼ ▼

 

 

 シャルロットさんが出ていく数分前から、ある一つの気配が微かに見えた。すぐに消えてしまったのはきっと彼女から隠れておく為だろうと判断し、ワタシもそれを口には出さず、彼女を見送った。さて、そろそろ来るだろう。

 予測してジョッキを用意した瞬間、ドアが開かれる音がした。

 

「いらっしゃいませ、織斑先生」

 

「……お前な」

 

 開口一番、やってきたお客様――千冬さんは録音・再生機器を取り出し、再生ボタンを押した。

 

 

 

 

 

『太陽系からサワディークラップ!

 

 一億四千九百キロの果てより到来する太陽PHOTONの翻訳者として。

 

 はたまた混沌の姉妹、CHAOSの淑女たる突風……或いは高波、さざ波に秘めたる秩序、"回転"より感電を齎す者として諸君は讃えられる。

 

 HUNTERとして行け! 唯普通に呼吸する地球の行為者として、その足跡(そくせき)を毒で汚さぬ太陽系の歩行者として。例え今生で”変人”と呼ばれようとも、宇宙の秩序が諸君の隣人にある限りにおいて――――』

 

 

 

 

「こんなものを色んな所に送りつけておいて、何が”協力”だ馬鹿者。こんな不気味な音声、半ば脅しではないか」

 

「はて。見覚えがありませんが……」

 

「阿呆、下手な演技をするな。……まあいい。生」

 

「畏まりました」

 

 ――賢き者は気付く。愚か者は気付かない。非常に簡単なことであり、彼は少なくとも前者である、ただそれだけの事なのだ。

 

 翻訳者、或いは狩る者がいなくなった時、つまりはハンターが消えた時。それは終焉であり、絶望なのだと。何故なら有限には終わりが存在するのだから。

 

 狩る者が消えれば狩られる者は増える。其れが例え有害であろうとも。

 

 故に我らハンターは狩り続け、そして翻訳し続けなければならない。更に私の場合は狩る対象が増えてしまっている。この科学に塗れた世界の中で、科学により殺され科学により蘇った賢き月の兎を捕らえねばならない。全く運命というモノはいつも私を振り回す。

 

「それで、アイツはどんな感じだ?」

 

 千冬さんはよく人名をぼかす。例え兄弟でも友人でも、気が抜けると直ぐに「奴」「あいつ」と呼ぶので誰の事を聞いているのか、言っているのかを判断するのが難しい。何回も注意はしているのだが一向に改善しない所を踏まえるに、最早癖なのだろうと諦めた。

 

 因みに、ココでの「アイツ」とは彼女の事である。

 

「非常に優秀ですねぇ。彼女には一夏くんや篠ノ之さん、或いはセシリアさん達のように特段と秀でている点こそないものの、全体的に能力が纏まっているためにとても応用が利きます」

 

「確かにな。座学や実技でも安定した成績を残している」

 

「はい。よって彼女を評価するならば『万能』という言葉が一番似合うでしょう。しかし」

 

「悪くいうならば『中途半端』……そう言いたいのだろう?」

 

「ええ。彼女の機体とも噛み合っているのでしょう、動きにおいても判断においても合理的で冷静です。ですが、故に()()()()()()

 

 一夏君達が他に比べて兎に角秀でている点、そこが瞬時に最大限の能力を引き出す『爆発力』だ。彼で言えば勿論『零落白夜』による一撃必殺が売りであるし、セシリアさんは中・遠距離における射撃能力で言えば一年生の専用機持ちでは頭抜けている。箒さんの格闘技術などは上級生相手でも十二分に通用するだろう。

 当然その分彼らには明確な弱点が存在しているわけだが、そこを長所で無理やりカバーすることが出来るのが強みでもある。故にハマればとてつもない実力を発揮できるだろう。

 

 だが、彼女――即ちシャルロットさんにはそれがない。威力だけで言えば『盾殺し』なるものが存在しているが、あれは一夏君達よりもさらに限定的な条件下で効力を発揮する武器であり、長所とは言い難い。安定しているからこそ、形勢を無理やりひっくり返すような能力がない。それがシャルロットさんの弱点である。

 

 そして、それを彼女自身が理解している。一年生の特機持ちの中でも最も素直で自らを冷静に省みる事が出来るであろう彼女は、夏以降からどうにも焦っているように感じられた。恐らくは例の一件が原因なのであろうが。

 

「ですが人の得手不得手は決まっており、また進むべき道を歪ませるのはワタシの望む所ではない。なので少し手を加えているのです」

 

「だからあんな毒沼に突き進ませるような忠告など吐いたのか」

 

「毒沼とは失礼な。寧ろ目隠しをほどく手伝いをしたのですが」

 

「反権力主義の権化め」

 

「物騒なことを仰る。ワタシはただアウトローを気取りたいだけなのですよ」

 

「ハッ、どうだかな」

 

 教育者、という語彙を使用したのが癪に触ったのだろうか、彼女の今日の当たりはどうにもきついものがある。ワタシに言わせれば、彼女は人々の言う一般の『教育者』というカテゴリには全く当てはまらないので気にしなくて良いと思うのだが。

 

 グラスを磨きながらそんな事を考えていると、ジョッキを置く音が聞こえた。

 

「……権力主義に真っ向から喧嘩を売った筈が、いつの間にか自分が権力を握る側になった。全く、余りにもやるせない」

 

「………………」

 

「速く捕まえねば、いずれ()()()は壊れてしまうぞ」

 

「……難儀ですね。お互いに」

 

「全くだ」

 

 苦笑し合いながら溜息を吐いた。

 

 

 

 洗脳を受けなかったが故に。自らの本質を貫き続けたが為に社会に絶望した哀しい兎。彼女の抵抗すら未だ人間の洗脳を解くには至らず、逆に新しい価値観を受け付けるキッカケを作ってしまった。

 

 その時の彼女の悔しさはどれ位のものであっただろうか。歯車の愚かさに失望し見向きすらしなくなったのも私達には理解できるが故に、早く止めなければならない。速く救わなければならない。

 

 だがそれで果たして彼女は治るのか? 幸せになれるのか?

 

 答えの浮かばない問いとともに、静かな夜は更けていく。




 機動戦士から少しアイデアを頂きました。

使用曲:ソーラ・レイ
作者コメント:本当は先に「グラヴィトン」を登場させる予定だったのですが、あれを武器としてどう使うのか、と考えた時にこの曲が浮かび、初代機動戦士が浮かび、こうなりました。

使用曲(?):ハンターを称える音声ファイル
作者コメント:Hirasawa Energy Worksの協力者に贈られた音声の一部を抜粋。なんやかんや言ってはいますが結局伝えたいのは「協力ありがとね」ということだと思います。ツンデレかな?

補足:第二のふる里、緑の地球
「ふる里」が「故郷」ではないのはヒラサワ曲に「魂のふる里」という曲があるため。緑の地球はフランスで昔大流行したと言われている『UFOロボ グレンダイザー』から拝借しました。
 
 また、シャルロットの弱点云々に関してはあくまで「この作品における弱点」だとお考えいただければ幸いです。

 それでは、またこんど!
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