ようこそ、ナースカフェへ   作:ピラサワ

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 ご!

 現実が押し寄せて襲ってきたために投稿が遅くなり申し訳ありません。

 今回とても難産です。自分の表現の拙さが恨めしい……。

 作品を見て下さった方々、またお気に入り登録、評価して下さった方々。いつも有難うございます。いつの間にか評価ゲージが赤色になっていて驚きました。こうして評価して頂きとても光栄であると同時に、妙なプレッシャーが肩に乗った気分でもあります。某氏と同じくステルスな作品をモットーとしてこれからも努力するのでよろしくお願い致します。


山田真耶①

 IS学園の食堂。

 

 新学期が始まり、途端に賑わうようになった生徒たちの憩い場であるそこの奥隅には他人に気付かせる気が全くないような、目立たない扉。

 

 そしてその先には日常の喧騒から引き剥がされたような静寂が包む、小さな喫茶店が存在する。

 

 

    ▽ ▽ ▽

 

 

「はぁ……」

 

 今日もまた、失敗してしまった。

 

 自分が理解しているのと、それを他人に教えるという事は違うと理解したのはIS学園に教員として入って直ぐの時。そこからは、出来るだけ分かり易く噛み砕いて教えられるように精一杯工夫をしてきた。つもりだった。

 

 だけど授業を始めようとするとからかわれるばかり。慣れようとしているのにどうしても慣れられない自分が嫌になる。

 

「はぁ……」

 

 あんまり、迷惑は掛けたくない。本来、こんなことなんか自分一人でなんとかするべき事なのだろう。きっと織斑先生なら自分でなんとかしているに違いない。あの銀の福音の暴走事件から後、私の目にもハッキリと映るくらいにあの人は落ち込んでいたのに、数日後にはもういつものあの人に戻っていた。自分を戒める事で切り替えたのか、その方法は知らないけれど……凄いなぁ、と思う。きっと私も教師として、それを見習わないといけないんだろう。

 

 でも、やっぱり辛いものは辛い。胸のモヤモヤがどうにも抱えきれなくなった時。私はいつもあそこへ向かう。

 

 

 

 

 

「こんばんは~……」

 

 ゆっくりと扉を開けると、何時も通りのがらんどうのフロア。そしてカウンターの向こうに一人の男性がいる。

 

 

 

「いらっしゃいませ。こんばんは、山田先生」

 

 ここの喫茶店のマスターであるヒラサワさんだ。ここにいつの間にか喫茶店を作っていたIS学園でも数少ない男性で、なんと織斑先生の一つ下、後輩にあたる方なのだとか。

 

「また中々難しいお顔をされていますが、何かあったのですか?」

 

「……あの、やっぱり私は教師に向いていないのかなあって。その、前に来た時にもこんな事を言った気がして……すいません」

 

「いえいえ、構いませんよ。ここは癒しを求める方々の集い場として作られているので。……と言っても、集い場と言う割には殆どの方が単独でのご来店になるのですがねぇ」

 

 しかし、それはつまり皆様が元気にやれている、ということなので嬉しいものです。そう言ってニコリと笑った。

 

 

 

「それで、教師に向いているのか、とは一体何があったのか……お聞かせ願えますか?」

 

「私、ドジだし気が弱いし。生徒の子達も授業中のお喋りをやめてくれないし……。いえ、私が生徒だった時も偶にそういう事があったので彼女たちを責めてるわけじゃないんですけれど。それでも、やっぱり辛いんです。話を聞いてくれない時、私は果たして必要なのかなあ、そう思ってしまうと止まらなくなってしまって……」

 

 いざ声に出すと自己嫌悪が止まらない。やはり自分なんかダメなんだ。もっと実力のある者が教師になるべきなのだ、という声が心に囁きかけてくる。それが苦しくて、思わず視線が下へと向いてしまった。

 

「自分はダメかもしれない……そう考えてしまう、という事でしょうか?」

 

「はい……」

 

「ふむ……では一つ、喩え話をしましょう」

 

 そう言って、マスターはグラスをコトリ、と置いた。

 

「ある所に、一人の男がいました。裕福でもない貧乏でもない、ただただ平凡な人生を歩んでいる男です。

 

 そんな彼はある時、とある噂を聞きます。なんでも、鉄で出来た山があり、そこの頂へと至った者は一生分の幸福が得られるであろう、と」

 

 一生分の幸福。それはとても夢のある話だ。それが得られればどれだけ心が軽くなるだろうか。

 

「彼は思い至ります。

 

『そこに登ることができれば、私はこの退屈で停滞した日常から抜け出せる。どうせ人の生など儚いものなのだから、いっそ死ぬ気で登ってしまおう』と」

 

「それは……」

 

 それはきっと、中々出来ることじゃない覚悟だ。覚悟も自信もない私などと比べることは出来ないと思うのだけど……。

 

 マスターの話は続く。

 

「しかし、その山の道中には幾つもの茨が這っており、とても前に進める状態ではありませんでした。更にその茨は山と同じように鉄で出来ており、半端なやり方では切れそうにありません」

 

「うわぁ……」

 

 喩え話である筈なのに、何故かこっちまでウンザリさせられるかのような錯覚を覚える。

 

「鉄山を登るために鉄の茨を切る者は『そらワッセーラ、エーイ!』と気合を入れますがソレだけで闇雲になってもソレは切れることはありませんでした。よって彼は鉄を切るための技を覚えることにしたのです。

 

 時間をかけ、努力し、技術を高めた。そのお陰で鉄をだんだんと切れるようになってきた。男は思いました。『ああ、これで前に進める。もう少しで私は頂を見ることが出来る』、と。

 

 ――しかし彼はある時限界を覚えました。いくら身につけた技を使っても、どれだけ目の前の鉄を切っても、目指す山頂ははるか遠かったが故に」

 

 ああ――それは、とても良く分かる。研鑽を積んで代表候補生になれた時、私はとても嬉しかった。だけどいつからだろう、才能の壁が見えるような気がした。自分なんかでは到底壊せそうにもない壁が。もしかすると、話の中の男性も同じ絶望を味わったのかもしれない。

 だからこそ、聞いてみたくなった。

 

「彼は……」

 

「はい?」

 

「その鉄を切る人は、どうなったんですか?諦めてしまったんですか?」

 

 いつかの私のように。

 

「はい、彼は一度諦めました……しかし、彼がふと空を見上げた時、見たのです。天高く空飛ぶ人を。

 

 その人は羽を纏っていました。勿論、それは彼が見た幻想だったのかもしれません。しかし確かに分かったことがあった。それはその人の顔が酷く明るく、晴れやかだったこと。

 

 そして気づいた。”――ああ、自分が今切るべき鉄は目の前にある鉄ではなく、自分に巣食った『諦め』『絶望』で出来た鉄であるのだ”、と」

 

「自分の中の、鉄?」

 

「はい。その鉄はワタシ達の身体を重くします。意志を弱くします。今日も死ぬ気で頑張ってきたのに、いつまで経っても明日……つまり良い未来を迎えられない。その現実が自分の中に鉄を生み出すのです。そしてそれは誰にでも生まれるモノ。大事なのは、その自分の中の鉄を切ることが出来るかどうかなのです」

 

 『諦め』『絶望』の鉄。思わず納得してしまう。私はあの人のようにはなれない、身体能力が違うから。才能がないから。そう思い始めた瞬間から、自分の動きが鈍くなったような気がした。

 

 もう駄目だと思った時、頭に浮かんだ「自分は才能がないから、負けても仕方がない」という言葉。昔の私がよく考えていたソレは、今まさに私自身を縛る鉄の鎖になっていた。

 

 そして、彼はそんな自分の中の鉄を――鎖を、切れと言う。だけど、どうすれば?

 

「自らの鎖を引き千切る方法」

 

「ッ!?」

 

 まるでこちらの心を読んでいると言わんばかりの言葉に、自分の心中を見透かされたかのような感覚を覚え、思わず身体が震えた。マスターを見ても、にこやかに笑うばかりで何も読み取ることが出来なかった。この人は一体どこまで私の事を分かっているのだろう?

 

「それは単純な方法です。自己を肯定してあげてください」

 

「自己……自分を、受け入れるっていう事ですか?」

 

「ええ。まあ、要は捉え方の問題なのです。

 

 例えば"自分には才能がない"というネガティヴな側面を、果たして『自分には才能がない。自分はここまでなのだ』と考えるのか、それとも『自分には才能がないようだ。ではここからどうやって伸ばそうか』と考えるのか。同じネガティヴの受け入れ方でも、心の持ちようはだいぶ違うものです。 ……ただ、中々にこれが難しい。特に自己肯定感があまりない方なら尚更でしょう。ですからまずは少しずつ、『今日はこれが出来た。今日の自分は頑張った』と、小さなことからでもいいので自分を励ますようにするといかがでしょうか?」

 

「小さなことから、ですか」

 

 なるほど。少しずつなら、私でもなんとかなるかもしれない。だけれど自分を励ます……なんて、どうやって?

 

「――あれ?」

 

 そんな時、何故か少し前の出来事を思い出した。

 

 

 

 

 ……そう、あれは何時かの昼休み。

 

『山田先生! 今日はここが聞きたいんですけど……』

 

 

 

『あら、織斑くん。勿論いいですよー! えっとですね、ここでもし速度をそのままにすると直角に曲がらざるを得ないので、機体や操縦者に凄く負担がかかってしまうんです。ですからこうやって……』

 

 

 

『えーっと……ああ、そういうことか。 だからこの軌道に入る瞬間に出力を少し落として……出来たっ!』

 

 

 

『はい、そうです。よく出来ましたね!』

 

 

 

『よし、これで小テストはなんとかなりそうだ。先生、ありがとうございました!』

 

 

 

 

 

 ――そうだ、あの時。私はちゃんと教師をやれていたじゃないか。

 

 たとえ数が少なくても、私にお礼を言ってくれる子達がいる。アドバイスを求めてきてくれる子達がいる。それを喜べないなんて、それこそ教師失格だ。だから、それを誇りに思おう。まずは、それから始めよう。

 ……ああ、そうか――これか! これが、『自分を励ます』という事なんだ! なんて胸がスッキリするんだろう。

 そうして一人で感慨に浸っていると、

 

「あっ! ご、ごめんなさい!」

 

「いえ、構いませんよ。少し、元気が戻られたようで何よりです。もしも、先程『自分を励ます』事を実践されていたのでしたら、きっとそれは成功しているでしょう。いい調子です」

 

 そう言って、笑ってくれた。

 それはとっても優しい笑みで、なんだかお父さんのようだった。

 

「はい! ……あの、お話をしてくれてありがとうございました。なんだかとっても胸に響いてきて、感動しちゃいました!」

 

 そして、肩の荷を降ろすのを手伝ってくれた。沢山の感謝を込めて頭を下げる。

 

 だけどマスターは首を横に降った。

 

「いえいえ、そんなことはありません。ワタシは寧ろ、酷く分かりにくく、不親切で憎ったらしい人間なのですよ。でなければ、こんなに回りくどくは言わないでしょう。真の善人であれば、素直に言葉を贈るものです」

 

 そう言うとマスターはニヤリ、と笑った。

 

「ですから、ワタシは貴女が期待している程の者ではないのです。ワタシはただの一介のマスター。それ以上でもそれ以下でもありません」

 

 

     

     

 

 

 

 会計を終えてから店を出る間際、もう一度お礼を言おうと振り返る。

 

「ありがとうございました。私、頑張って自分の中の鉄を切ってみせますね!」

 

「はい。しかし一人で自らの鉄を切るというのは中々難しいもの。困ったら誰かの手を借りる。それもまた、鉄を切るための方法の一つであることをお忘れなきよう」

 

「はいっ! それではマスター、失礼しますね!」

 

「ええ、お休みなさいませ」

 

 ありがとうございました、という言葉を背中に店を出た。

 

 

 

 もう少し、頑張ろうと思えた。自分の中ですぐ諦めるんじゃなくて、考えてみよう。

 

 でも、それでももし辛くなってきたら……また行こう、()()の元へ。

 

 

 

     ▽ ▽ ▽

 

 

 

 人には向き不向きが存在する。それは人間が脳の感覚や身体の大きさ、性格などの様々な複雑な部分が混ざりあって出来ている以上当然のことだ。

 ワタシからすれば山田先生は決して教師に不向きな訳ではない。一競技者としての映像も見せてもらったことがあるが、効率と読みに優れていたいい動きをしており、才能がない……などと言うのは憚られるくらいのものであった。教師としても、寧ろ理解を深めさせてくれるという点では織斑先生など目でないくらいだ。まあ、これは性格の問題もあるので深くは触れないが。

 

 ワタシのような男性がこうして働く際、変に口出しをして生徒を混乱させたり、非常事態において迅速に行動が出来るように講習を受けることになっている。ワタシはその時彼女から講習を受けたのだが、兎に角山田先生は『物事を噛み砕いて教える事』に長けているのである。

 ワタシ自身以前からISの知識は無いわけではなかった――これは若き知的好奇心の暴走によるものである――のだが、では専門的な内容にも明るいかと聞かれれば決してそんな事は無かった。寧ろ無知の部分のほうが余程多かったくらいである。そのようなワタシでも理解できるよう、懇切丁寧に解説をくれたのが彼女であった。

 彼女による解説の良い所は全ての話に筋道が通っている所である。何をどうすればどうなるか、何故そうなるのか。どうすれば成功率が上がるか。それら全てを数学的理論と脳の動作仕様により綺麗に繋げることが出来るのだ。当然、脳の動作などその状況におけるストレスや感情により変わってくるため、『大勢が想像するような普通の人間』をベースに物事を考える。それらが応用になってくると、理論の組み合わせや個人個人による能力、強いイメージ等個人差のある脳の動作が関係してくる。

 つまり、山田先生は『基本を身につけさせる・記憶させる』ような内容を教えるのが非常に上手だと言うことだ。

 

 

 

 しかし、これが却って仇となるとも言える。生徒たちの世代は丁度モンド・グロッソの影響を多大に受けて育ってきた世代だ。つまりそれだけレベルの高い戦いを彼女たちは見ているため、いざ自分たちが動かす側になった時、TVの向こう側の世界への憧れにより応用技術への好奇心がとても強いのである。そして初歩的な動作――つまりは基本の理論になってくるとどうしても地味な要素が強いため、華やかな応用技術を早く学びたい彼女らにとっては「地味」「格好悪い」と言ったイメージが強くなってしまう。これが基本への関心が薄い原因である、そうワタシは踏んでいる。

 

 更にその点で言えば織斑先生は応用技術のスペシャリストの一人である。彼女自身の技量、そして一挙一動に現れる闘気、カリスマがそれらの華やかさを際立たせている。これは今の山田先生では辿り着けぬある種の高みの一つであり、そして多くの人間を魅了する一面でもあるのだ。生徒たちが応用ばかりに目が行くのも幾らか仕方のないことであろう。

 

 

 

 ――では、基本を放っておいてもいいのか?

 

 答えは否だ。そもそも応用技術というのは"基本技術を状況に応じて変化させて出来上がった技術"であるために、基本技術の土台を確立させなければそうそう出来るようになるものではない。そういったことがいきなり出来るのは際立った才能のある者だけだろう。

 

 ワタシは若者が明るい未来を切り開くのを楽しみにしている。だが、だからといって何でもかんでも教えてやるほど、()()()()()()()()()()()()()。山田先生にも言ったように、私はとても意地悪な男であるのだから。技術などは自らの努力や教師の教えを受ければ自ずと身についてくるのだ。ワタシが教えるのはそれにほんの少し変化を加えるような部分だけである。

 

 彼女は迷いながら、苦しみながらも教師の務めを果たそうとしている。その姿のなんと尊く、また眩いことか。

 

 願わくば……彼女がワタシや仮想に住む兎のように性根が捻じ曲がった人間にならないように。手遅れな人間からの言葉がその支えになることを願うばかりである。

 

 そんなことを考えていると、また扉の開く音がした。さて、今度はどんな話が聞けるだろうか。

 

 

 

「いらっしゃいませ」




使用曲:鉄切り歌(鉄山を登る男)
作者コメント:『何度も落ちる』=失敗してはやり直す 『だんだん切れ』=努力により少しずつ云々 このような感じで選びました。あのアルバムの中ではかなり明るい曲調で希望のある曲だと思います。他の解釈は本文に書いたものがほぼ全て私の解釈です。見返すと結構幼稚ですね(汗)

・校長先生のよう
某ステルス氏「起立! 気をつけ! 回れー右! 解散!」

 山田真耶は原作においては丁寧語を主に使用しているようだったのでその文体で行こうとも考えたのですが……果たして心の中でまで丁寧語を使っているのだろうか? そう考えた結果、普段通りの文体となりました。ご了承下さい。

 さて、山田先生は実力こそ高いものの、生来からの過ぎるほどの優しさが勝利への貪欲さを削ってしまったのでは、などという想像をした結果、このようなキャラクターになりました。自身の評価の低さ故に彼女の成長が阻まれたのではないか、そう考えたのが理由であります。

 当然といえば当然かもしれませんが、自己評価の低い人間ほど努力家が多いと私は考えています。自己評価が適正であり且つ才能がある、尚且つ努力家である……そういった人間は希少であります。自己評価が高く努力家、と言うのも無論存在します。ISですと鈴音などが例としてあげられるでしょうか。
 更に自論になり申し訳ないのですが、自己評価の低い方は褒めるのが上手な印象があります。兎に角自分を低く置くために、『あの人は私なんかと違ってこんな事が出来て凄い』と評価するためです。逆に極端に自己評価や自尊心が高いと『アイツはコレが下手だしこういう部分がダメだから俺(私)の方がマシだ』と思ってしまいがちだと聞きます。


 そんなこんなで、またこんど!
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