ようこそ、ナースカフェへ 作:ピラサワ
因みにこの話自分で書いててワケがわからなくなりましたが、そもそもこれを子供相手に流すNHKの精神がもっと分からなくなりました。
独自解釈ですので読者の方の解釈もお待ちしています。よろしくお願いします。誤字等もありましたら指摘のほどお願いいたします。
今の私の姿をもし、昔の私が見ていたらどんな反応をするだろうか?
恐らく初めに浮かぶ感情は怒りだろう。「何故教官の邪魔をした男と仲良くしているのだ!!」とでも叫ぶに違いない。容易に思い浮かべる事ができる辺り、当時の私は相当頑なな性格だったのだろう。
弱くなった。甘くなった。
きっと昔の私はそう言うだろう。「お前はそんなにナヨナヨとした人間ではなかった筈だ」「何のためにそこにいるのだ」と、今の私と出会ったときには散々罵られること間違い無しだ。
あと、これも間違いなく聞かれるだろうな。
「お前が『師匠』と呼んでいるあの男は――――一体何なのだ?」 と。
▽ ▽ ▽
IS学園の食堂。私はいつも空いていそうな席を見つけてそこに物を置いている。そこのテーブルに私の物が置いてあると分かれば、私の事を知らない人間でない限りはそこに近づくことはないからだ。そもそも女子というのはかくも噂が好きな人種だ。私の事は恐らく1年生の大体には伝わっているだろう。ふん、どいつもこいつもファッションとしてしかISを知ろうとしない馬鹿ばかりだ。とっとと教官を説得し帰ってきていただかなくては……。そんな事を考えながら席を探していると、隅の方、それも殆ど目立たない位置に、壁と似た色をした扉があるのに気づいた。気になって近づいてみれば『OPEN』の文字。
……ここなら余り人もいないだろう。目立たないしな。誰にも邪魔を入れられることのない空間であることを密かに期待しつつ扉を開くと、軽やかな鈴の音が聞こえた。
中は静かだ。あんなに五月蝿かった食堂の甲高い声が何処かに行ってしまったかのように感じた。客は誰もおらず、カウンターには店主らしき男が一人だけ…………男、だと!?
だが少し考えて納得する。女尊男卑になったとはいえ、職業にはそれに見合った性別というのが存在する場合がある。こうした喫茶店の店長であればそれは男のほうが相応しい事が多い、ただそれだけの話だろう。
「いらっしゃいませ。カウンターで宜しいですか?」
「ああ。お前はここの店主なのか?」
「はい。ここでマスターをさせて頂いています」
柔らかい口調だ。媚びているわけでもなく、飾っているわけでもない。クラリッサから喫茶店というものは『髭を生やした強面の男性がコーヒーを淹れている所なのです』と聞いていたのだが……あれは間違いだったのだろうか?
「ランチメニューはこちらになります」
手渡されたメニューを見ると、そこにはクラリッサに教えてもらったような物が並んでいた。やはり私の部下は間違ってなどいなかったのだな! この男が特殊なだけだろう。そうに違いない。
「このホットサンドのセットを頼む」
「畏まりました。お飲み物はコーヒーと紅茶、どちらになさいますか?」
少し考えてから、紅茶を頼む、と伝えた。
5分くらい経った頃に料理は来た。
「お待たせ致しました。こちらがホットサンド、そしてセットのサラダと紅茶です。砂糖は如何なさいますか?」
「要らん」
「畏まりました」
ホットサンドを齧る。サクッとした食感がしたかと思えば、すぐに中のチーズのトロトロとした感触があった。まあ、十分だな。
サラダに関しては文句なしの一言だった。金を掛けているだけあって、食材は全てキチンと一流のものが使われている。ホットサンドも十分に食える代物だった。まあ、喫茶店のマスターを名乗っているのだからコレくらいは当然なのだろうがな。それにしても、セットの紅茶が妙に美味い。いや、美味すぎるくらいだ。一体これは……?
「これはダージリンか……? いや、それにしては何処かスッキリとしすぎているような」
「はい。こちらはロンネフェルトの『クイーンズ・ティー』という銘柄です。お客様の仰る通りダージリンと、そしてセイロンティーがブレンドされております」
「『ロンネフェルト』……!? それは我が母国のものではないか!」
思わず声を上げてしまった。
ロンネフェルト。実際にこれまで飲んだことは無かったが、その名前をドイツで知らない者は殆どいないだろう。何しろ高級ブランドで、飲める場所は高いレストランや一流のホテルが殆どなのだ。私はそのような所に行く習慣は無かったし、あったとしてもそれを頼んだ事は無かった。
「ああ、お客様――ラウラさんはドイツのご出身でしたね。お飲みになった事はお有りですか?」
「我が隊にあのような高級な紅茶がある訳がないだろう。ただ、ドイツの人間として私が母国が持っている誇りを……待て。どうして貴様が私の出身を知っている?」
回答はある意味当然で、しかしながら驚くべきものだった。
「ワタシはこの学年の全員の顔と名前、出身地を覚えておりますので。転校生の方であってもそれは変わりません。マスターという職業は何かと記憶力が大切なのでねぇ」
「……ふむ、なる程な」
この男はマスター、という職業にキチンと誇りを持ち、そして努力をしているらしい。それは素直に評価すべき点だろう。私が軍人として誇りを持っているように、この男には男なりの誇りがあるのだ。この学園全体の顔も名前も覚えるのにはかなりの労力がかかるに違いなかっただろう。ISをまるでステイタスか何かと勘違いしている連中よりも余程好感が持てた。
「それにしても、こんなに高級なモノを何故店で出せるくらい仕入れられるのだ?」
「ふふ、紅茶を集めるのはワタシの趣味でしてね、先生方には秘密のルートでコッソリと……良いモノを仕入れさせて頂いているのですよ。ああ、これは秘密にしておいて下さい。バレると大目玉ですからねぇ」
「……いいだろう。中々飲めないモノを飲ませてもらったのだ、口止め料として受け取っておく。因みに教師にはバレないルートだと聞いたが、それは教官にもバレていないのか?」
その問いにマスターは少し考える素振りを見せ、少し悔しそうに笑った。
「教官……ああ、織斑先生ですか。先生にはすぐにバレてしまいましたよ。いやはや、誤魔化すのには自信があったのですがやはりあの人は鋭すぎる」
そうかそうか、やはりあの方は凄い! 何しろ見た目と話し方からして掴めなさそうなこの男の企みを見抜いたのだ、ドイツで教鞭を取っていた時と変わりのない鋭さなのだろう。
「当然だ、教官は最強なのだからな!」
声が大きすぎたか?マスターは少し驚いた顔をしていたが、また直ぐに笑みを浮かべ直した。
「……ふふふ、そうですね。ああ、お皿を片付けさせて頂きます。紅茶のほうは如何でしたか?」
落ち着いた雰囲気の中でマスターと談笑しているコレは、まるで喫茶店なるものではなくバーのようではないか、とどうでも良いことを考える。
憎き男の事もその取り巻きの女共の事も、今は思い浮かばなかった。
「私は紅茶には詳しくないのだが……良かった。ここに入る前は少し気分が悪かったのだが、今はこんなにも落ち着いている」
「そう仰っていただけると幸いです」
そう言ってまたマスターは笑った。
「さて」
「…………!!?」
そして襲い来る強烈な悪寒。
「いきなりで悪いのですが」
ワケも分からないままマスターを見た。……笑顔だ。だが、ただの笑顔ではないように思えた。
ニコニコとした笑みは変わっていない。だが、何故か――私はその笑顔を見て――――これから先忘れようがないような恐怖を感じた。
そして、それは間違いなどではなかったのだ。
「いいですか?ワタシが今から言う言葉を、しっかりと聞いておいて下さいね?」
雰囲気が、一気に変わった。
「っ!? ぐぅっ……!?」
大きな鉛を担いでいるかのような重さでのしかかる重圧。目を合わせただけで更に増えるソレに、膝を地面に突きかけるのを必死で堪えた。
このようなプレッシャーを出せる人間を、私は一人しか知らない。……ああ、そうさ。教官だ!
「後で先輩にドヤされるのはワタシなのですから。怖いですねぇ」
何故だ!? 何故こんなに弱そうな男が……こんなに強いプレッシャーを与えることが出来る!?
分からない。
分からない。
何故? 何故? 何故? 何故? 外見にとらわれてはならないのは分かっている。だがしかし……余りにも、違いすぎるではないか!!
そんなこちらの焦燥などまるで興味がないかのように男は語り始めた。
さっきの笑みは、いつの間にか消えていた。
「ああ、貴女は子供だ。母親に甘えることが出来なかった、哀れな子供だ」
子供。哀れ。
ドイツの研究者の連中にこれまで何度も言われたことを、初対面の赤の他人から言われたことで頭に血が上る感覚が分かった。
「っ、何を……急に何を言っている!!」
必死に虚勢を張っては見たが、動けない。こんなにも屈辱な言葉を味わったのに、さらに屈辱を重ねられた気分だ……!
そんな私の胸中など見向きもしないかのように、男は語りだす。
「なればこそ、貴女は世界を知るがいい。赤い夕日のその先には、気紛れな貴女がいるであろう。チキュウを知る貴女が外を知らぬ子供の貴女を見ている。
ああ、子供は素晴らしい。好奇心と純粋で溢れている。身体がエネルギーで満ちている。だが、それは一度失わなければならないのかもしれない。
全ては一つであり、一つは全てなのだ。一つすら得られない子供は全てになれず、全てになれないのだから一つにはなれない。
一つを知り、全てを知る。
全てとは世界であり、自己を取り巻く環境。
貴女はきっと気づくだろう。貴女の世界には、貴女を守ってくれるモノが沢山、沢山有るということを。
世界ではゾウが水を浴びている。
朝日を浴びて鳥が鳴いている。
獲物を追いかけ虎が走っている。
犬が撫でられて幸せそうに眠っている。
ゾウも、トリも、トラも、そしてイヌもヒトも。全ては繋がりを持って生きているのだ。知識を分け合っているのだ。
そしてそんな中、ヒトも生きている!
奇跡の連続で、動物たちと繋がりを持ちながらワタシたちヒトも生きているのだ!
少女よ、後は気づくのみだ。子供の貴女が世界の貴女になるように。
世界が貴女を作り、貴女が世界を作る。世界が貴女であり、貴女が世界なのだ!
だが忘れるな、貴女が世界を見つけた時。それはチキュウを知る貴女がいなくなる時だ。
自らの世界に気づいた時、誰かの泣き声が聞こえるだろう。それは合図だ。
受け入れなさい、その哀しみを。泣きなさい、声を震わせて。
守ってくれる者がいる。抱きしめてくれる者がいる。一緒に泣いてくれる者もいる。
全てに愛されない子などいない。愛されて、ヒトは人に、そして大人になっていくのだから!
愛を知るがいい。愛される事を知り、愛する事を知る。守られている事を知る。全てを知ろうと思えた時、貴女は何かに気づく。その思いを胸に、未来へと生きるのだ。探しに行くが良い、チキュウを知る貴女自身を!」
……そう言い終えた瞬間、教官が放つようなプレッシャーは霧のように薄くなって、消えた。
「…………!」
今なら、身体が動く。
殴ってやろうと思った。屈辱的な事を言ったのだ、それくらいは許されるだろう。
「…………!?」
だが、出来ない。私の身体は「アイツを殴れ!」という私の命令に反して、NOを叫び続けている。
「ふふふ。喋りすぎてしまいましたね、申し訳ありません」
苦笑いを浮かべながら頭を下げられた。
違う! 今してほしいのはそういう事ではないのだ!
「ですが、貴女の気持ちも分かります。一夏くんには一夏くんの理由があるように、貴女には貴女の理由がある。どちらかが間違っている、というわけではないのです」
いいから、私の身体を開放しろ!!
「そういう時にぶつかり合えるのは、若者の特権です。タッグマッチ、頑張ってください」
ええい、勝手に話を進めるな!!
▽ ▽ ▽
……などと言うこともありましたねぇ、と思い返す。そんな今は、ラウラさんと共に洗濯物を干し終わったところだった。本日も晴天だ。
「師匠!今日はセシリアが久しぶりにマトモな弁当を作ってきたのだ!これも師匠の教えのお陰だな!」
「ワタシを何時まで師匠と呼ぶのですかねえ」
あの話を終えた日の数日後。タッグマッチが終わり、色々と重大な出来事が有ってから、ラウラさんはワタシを「師匠」と呼ぶようになった。もう少し年を取ってからならともかく、まだまだ三十路に届かないワタシが「師匠」と呼ばれるのはどうにもむず痒いものがある。
「私を救い出してくれたのは確かに嫁だ、一夏だ。だがしかし、私に生きる道を指し示してくれたのは貴方ではないか! ならば、私にとって貴方は永遠に師匠なワケだな!」
「いや、そのりくつはおかしい。 ……まあ、悪い気分ではありませんがね」
苦笑いを浮かべると、そうだろうそうだろう、とドヤ顔で頷かれた。可愛らしい。恐らく一夏くんの周りで一番純粋で良い子なのではないだろうか?素直なのは良いことだ。
そんな彼女はワタシの隣に座って空を見上げて笑っている。
「私には仲間がいる、部下がいる、教官がいる、嫁がいる! クラリッサ達には守られて生きてきた事が分かっている今、今度は私が皆を守り導くのだ。師匠が言っていた、全ての動物達のように!」
「……やはり刺激が強すぎましたかねぇ。ですが、貴女は確実に良い方向へと進んでいる。頑ななだけだったラウラさんはもういなくなってしまいました」
変わることが必ず良いことか、悪いことかなんてワタシには分からないが、少なくともあの時の何も知らない少女は消えてしまった、ということだけは確かだ。
今あるのは……。
「むっ!? すまない師匠、そろそろ嫁達と訓練の時間なのだ。これで失礼する」
「はい、頑張ってきて下さいね」
「ああ!」
一夏くん達と笑い合える、守り合える。世界を持ち、純粋さを忘れない、そんな可愛い女の子だ。
馬の骨、早速折れそう。皆さんは話の意味が判りましたか?ワタシは分かりませんでした。
ユング心理学の「集合的無意識」が参考になりましたが、それでも。
……歌詞の解釈は人それぞれだから(震え声)
・ロンネフェルト
ドイツのフランクフルトで創設された紅茶ブランド。日本ではかなりマイナーですが知ってる人は知ってます。香りが強すぎないため好き嫌い別れることが殆どなく、どんな銘柄でも美味しく頂けました。
・チキュウを知る貴女
ねこです
・先輩
やばそう
使用曲:地球ネコ
作者コメント:正直やりすぎたと思っています。