ようこそ、ナースカフェへ 作:ピラサワ
あと、この物語は基本一話完結形式です。短編ですので。
独自解釈が入っております。皆様自身の解釈等ございましたら是非ご教授ください。感想、指摘等もお待ちしています。励みとさせて頂きます。
「………………」
「………………」
「………………イケる」
「え…………?」
「ああ……普通に食える、な」
「うむ、特に問題ない」
「これなら……うん、大丈夫ね」
「食べられる! 味わえるよ!」
「や……やりましたわっ! わたくし、ついに、ついに成し遂げました!」
「ああ、本当によくやったよ……!」
「一夏さん……」
「一夏の言う通りだ、よく頑張ったな……!」
「箒さん……!」
「そうね、その努力に関しては素直に尊敬するわ」
「鈴さん……!」
「頑張ったね、本当によく頑張ったねっ……!」
「シャルロットさん……!」
「よくぞ成し遂げた! 流石だな!」
「ラウラさん……! 皆さん…………!」
「「「「「ありがとう、マスター!!!!!」」」」」
「えっ、そっちですのっ!?」
▽ ▽ ▽
その話を聞いたのは、一夏さんと訓練をしていた時でした。
あんまり客が入られても忙しすぎるらしいから内緒な、と前置きをされてから一夏さんに教えていただいた情報は、なんでも食堂のそれも隅の方に目立たない扉があり、そこを開けると喫茶店があるとの事でした。
「紅茶が凄く美味かったからセシリアも気に入るんじゃないかと思ったんだ」
無邪気に笑う一夏さん……ああ、素敵ですわ。
「まあ、私の為に……ありがとうございます一夏さん!」
「ああ!」
あらあら、箒さん。そんなに睨まないで下さいませ。これは普段からのわたくしの行いによる当然の報酬なのですわ。ああ、今からもう楽しみで仕方ありませんわ!
お昼休み。
早めの昼食を済ませてから少し周りを歩いたのち数分のこと。
「えっと…………ここでしょうか?」
見つけたのは白い壁が続く食堂の隅にポツリと見えるクリーム色の扉。注視しなければ判別不可能なそれを見つけるのには少し時間がかかりました。
それにしても、
「本当に判りにくいですわね……」
客商売なのですからもっと扉を目立たせたほうが良いのではと思うのですが、兎に角入ってみましょう。
扉を引けば鈴の音、そして奥には……マスターと思わしき男性が棚のビンを整えておりました。
「いらっしゃいませ」
彼はこちらに気づくとにこやかな顔を保ったままこちらに一礼、カウンターへと案内をしてくれました。この対応だけで既にサービスの良さが伺えますわね。
「一夏さんから聞いてはおりましたが、本当に男性なのですね」
「ええ。皆様初めてご来店された方は驚かれますねぇ。特に一夏くんが入学される前は男性のスタッフは用務員の方とワタシ一人でしたから」
成る程、と頷きながら話題はもう一つの方へ移行します。
「何故あのような判りにくい扉にしているのですか?入るお客も入らないと思うのですけれど」
「この店とワタシが男性であることがバレると、恐らく大勢の生徒の皆様が来られるでしょう?繁盛するのは確かに嬉しいのですが、その分お待たせする方々も増えてしまうのでねぇ。昼休憩を有効に活用して欲しいこちらとしては、ここが溢れるよりも食堂が繁盛するほうがありがたいのですよ」
「まあ、確かに予想は出来ますわね……一夏さんもそうでしたもの」
今ならクラスメイトの方々の気持ちも分かりますわね……ああ、今思い出しても恥ずかしい! あの時の私はどうかしていましたわ!
「そうでしょう。その分、来られた数少ないお客様には出来る限りのおもてなしをさせて頂いております。ご注文はどうなさいますか?」
「お昼は食べて来たので紅茶をお願いしますわ。茶葉は……」
「畏まりました」
注文に一礼すると早速茶葉を用意し始めたマスターを慌てて呼び止めます。
「ちょっと、私はまだ紅茶としか言っておりませんわよ!?」
あまりに早計に過ぎないでしょうか? と詰め寄ると、マスターから聞こえたのは「ああ、説明不足で申し訳ありません」というものでした。そのまま言葉は続きます。
「この喫茶店では初めて紅茶を頼まれた方にはこちらの勝手で銘柄を決めさせていただいているのですよ。ああ勿論、お味は保証します。もしもご満足いただけないようなら、お代は頂きません」
最後の方は強い口調でした。
「はぁ……」
まあ、そこまで自信があるのでしたら、と言って送り出しました。紅茶の本場から来たのは分かっていらっしゃる筈なのに、本当に自信があるのかそれとも蛮勇なのか……そんな事を考えながら紅茶を待つこと10分程。
「お待たせしました。アールグレイでございます」
「ありがとうございます」
カップとティーポットがカウンターの上に出され、手慣れた手つきで注がれる紅茶の色を眺めます。淹れ方もカップの温度も完璧でした。
「砂糖は宜しいですか」
「ええ、結構ですわ」
カップを顔に近づけて、香りを確かめます。……ああ、これは自信を持たれて当然ですわ。通常の安いアールグレイの茶葉はどうにも香りが強いことが多いのですが、これはツンと来ることがない、柔らかい香りがします。この時点でもうしっかりとした茶葉であることは間違いありません。
認めます、これは十分お代を取れる茶葉ですわ。
「では、頂きます」
「どうぞ」
英国淑女たるもの決して音を立てず、静かに口に含みます。
何処かで飲んだことのある味。何か柑橘系のようなスッキリとした香りが口中に広がって、フワリと溶ける風味。間違いなく、いえ、ですがこのような離島に……でも私がこの紅茶の味を間違えることは無いはず。これは……
「……Jing Tea、ですの?」
「流石、ご名答です」
一瞬目を見開いたかと思うと、直ぐに笑みを向けてくれました。その驚いた顔が見ることが出来たからか、思わず気分は良くなってしまいました。
「私もオルコット家の人間ですもの。これくらいは判りますわ! ……いえ、そうではなく、よくこのような高価な物がありますわね」
「紅茶は各国のブランドを出来るだけ取り揃えています。色々な国から生徒さんが来られますからねぇ。ここを見つけた方々には少しでも祖国の味を味わって頂きたいなと思っているのですよ」
「まあ! 律儀ですのね」
「マスターの嗜みです」
笑うマスターはまさしく理想の英国紳士でした。もし一夏さんに先に出会ってなければ……私はもしかしたら、この方に心を惹かれていたかもしれません。勿論今の私は一夏さん一筋なのですけれど!
それにしても、何かお礼をしたいところですわね……そうですわ! 私の作ったサンドイッチをお裾分けしてあげましょう! 本来は一夏さんに渡す予定でしたが、紅茶のお礼――チップ代わりにしましょう。
「あの、マスター」
「何でしょうか?」
「お礼と言っては何ですが、よければサンドイッチを食べて頂けますか?」
一つ取り出すと、それを両手で受け取って早速口に入れてくださいました。
「これはこれは、ありがとうございます。若い方の手料理がいただけるとは、年を取るのもいいもので……す……ね…………」
暫く咀嚼していたマスターが、急に両手を広げました。どうしたのでしょうか?
「ラーーーーーイーラーーーーラ ライヨラ そーらにみごとなキノコのくーもー!」
そう言い残して……倒れました。
「ちょ、ちょっと!どうしましたの?」
「」
息を……していないですって……!?
「ま、マスター? マスター! きゅ、救急車、じゃなくて、先生、あ、電話を……」
「せ……セシリアさん、大丈夫ですよ」
「え?」
声が聞こえたので思わず振り向くと、息が止まった筈のマスターが笑顔で立っていました……顔が凄く引きつっていますが。
「セシリアさん」
「は……はい」
「その料理、人前で出してはいけませんよ。絶対です」
「そんな!? 一体どうしてですか?」
「美味しくないからです」
……即答されたそのハッキリとした言葉に、少なくないショックを受けました。
うつむいていると、頭上から唸り声、最後にため息が聞こえました。
セシリアさん、という声に顔を上げると、マスターが頭を下げておりました。
「失礼な物言いをしてしまい申し訳ありませんでした。お詫びと言っては何ですが……少し料理を見て差し上げましょう。被害者が増えてはいけませんからねぇ」
「言葉の棘を鋭くするのはやめてくださいまし!」
それからというもの、マスターと私で料理の特訓は続きました。暫くはマスターの料理を見てイメージを覚え、その後はマスターが各種材料を用意して、私が作り、それをマスターが評価する……という形で行ったのですが……
「ラーーーーーイーラーーーーラ ライヨラ あんなにみごとなひこうきぐーもー!」
「ラーーーーーイーラーーーーラ ライヨラ ゆーめにみなれたほのおのあーめー!」
試食の度にマスターは歌って倒れてしまいます。……恥ずかしながら、私も倒れることがあるのですが。その度に問題点を指摘されるのですが、そこを直してもまた新しい問題点がどんどんと出てきてしまい、キリがありませんでした。
「セシリアさん」
「はい……」
そして、あの時。
3度めの復活をされた時に言われた言葉が、酷く胸に突き刺さりました。
「諦めませんか?」
「…………」
突然残酷な目つきになったかと思うと、まるで私をあざ笑うかのようにマスターは謡い始めました。
「そう、諦めに行こう!
ヒトには得手不得手があるもの。しかし、その不得手をさも得手であるかのように見せるオマエの法螺は非常に滑稽であり、愚かである。だがしかしその法螺吹くオマエをワタシは評価する。何故ならオマエは機械ではないのだから。
今のオマエはそう、吹き矢だ! 逃げながら放たれる毒に彼らは苦しみ悶えるだろう。オマエの放つ矢はヒトを彼ら彼女らを死に至らせる。
少女よ、ワタシは問う。
そのままでいいのか?」
その問いに対して、どうすればいいのかを考えます。考えます。ですが、理屈で考えれば考えるほど、どんどん思考は袋小路へと迷いこんでしまいます。
そして気づきました。
もう理屈ではダメなのです。常に冷静で、なんて不可能。なら、後は感情をそのままぶつけるしかないではありませんか。
「――――わ」
「……」
「このままでいいわけなんて、ありませんわ! わたくしだって判ります、ええ、きっと料理の才能なんて備わっていないのでしょう。ですが、それでも!」
精一杯の言葉を送りました。目を瞑りたい気持ちを堪え、こちらを見下す冷たい目に負けないように。
暫くの沈黙。マスターが突然フッと笑ったかと思うと、
「ならば石の橋を叩いて渡るが良い!
ダイアグラムだって折り紙で折ることが出来る!
やれば出来るがやらねば出来ない!
前時代を捨てて未来に生きる、ああ、確かにそれも一つの生き方。だが生き方は無数にあるのだ!
そう、オマエは磁石を目指すがいい。大切な者達を、大切な誇りをひっつけ続ける、そんな磁石。愚鈍過ぎる錆びた銅などをくっつける必要など無い。
ヒトとは本来愚かであり我儘な生き物。何を遠慮することがあるだろう。
機械を纏う少女達はそう、まるで戦うために生まれたサイボーグ。身体に機械がついているのだ、心までどうして機械にすることがあるだろうか?
さあ、今こそ本能の、感情の重さを知るがいい!
覚悟せよ、オマエの道は険しい道。山があり谷があり、崖があり、そして罠があるだろう。されどオマエは登らねばならない。心まで機械になる前に……」
「登る……」
「オマエが望むならワタシは杖と為ろう! 支えなくして登れぬ山なら支えを使えばいいだけなのだから! さて」
言葉は曖昧ですけれど、仰りたい事は判ります。日本語とはかくも難しいもの、中々覚えるのは大変です。ですけれど、この言葉が意味するものは。
私が助けを求めれば、マスターはきっと支えてくれるであろうということ。
私は応えねばなりません。その言葉に。そして、
「ついてこられますか?」
恐ろしい雰囲気は無くなったものの、未だ私を見据えるマスターの鋭い目に。
「私、私は――――!!」
▽ ▽ ▽
ラウラさんからセシリアさんの話を聞いた時は顔には勿論出さないものの思わずガッツポーズをしそうになった。もう若くもないし恥ずかしいので堪えたが。
「いやあ、セシリアさんは強敵でしたねぇ……」
皿を洗いながら感慨に耽った。
マスターの嗜みとして毒物の訓練等も半ば強制的に受けさせられたが、まさかあの訓練を超える劇薬があるとは想定していなかった。これは明らかにワタシの落ち度であり、反省点である。
「まあ、矯正は出来たでしょう」
20年を超える時の中で初めて胃薬を使った。二度と使うことがないように祈る。
だが、ここではた、と気づく。果たしてメシマズだった彼女が、こんな事で素直にレシピを参考にしだすだろうか?先輩もそうだったが、ああいう輩は教科書通りを嫌う傾向にある。寧ろ、自分に合った料理を作ると意気込み、自分で新たなレシピを…………
「――マスター!! わたくし、マスターに少しでも追いつく為に、オリジナルレシピを考えてきましたわ! 是非一度味見してくださいませ!」
アーーーーー オワッターーーー オワッターーーー
……じゃあ、またこんど!
原作よりもセシリアさんのメシマズにブーストがかかっています。最後はTw(hz)ネタ。あと口調分かりませんすみません。
・Jing Tea
創設されてから数年で一気にトップクラスのブランドになったイギリス発祥の凄い紅茶ブランド。アッサムティーは是非一度召し上がってほしい一品です。
・空に見事なキノコの雲 あんなに見事な飛行機雲 夢に見慣れた炎の雨
作者、これを戦争の出来事と解釈。その内容はお察しください。マスターの口内は大惨事世界大戦。
使用曲の下部に個人的なコメントを記す事にしました。ヒラサワシリーズ執筆の手助けにしてください。同じ苦しみを味わいましょう。
使用曲:夢の島思念公園
作者コメント:色々な意味で汎用性が高く、今後も使用する可能性大。というよりこれが使用された作品に作者は多分に影響を受けました。今敏監督の夢みる機械が見られなかったのが何よりの心残りです。
使用曲2:サイボーグ
作者コメント:この曲に関してはかなりオリジナル要素を付け加えてしまいました。また、メッセージ性をつけるためワタシの本来の解釈とも異なってしまったことをお詫びします。歌詞が短すぎるんだよ(逆ギレ)
じゃあ、またこんど!