ようこそ、ナースカフェへ 作:ピラサワ
歌詞の解釈に独自解釈を含めております。ご了承ください。
感想や指摘、誤字報告等もお待ちしています。
場所はIS学園の食堂。食券を買う所と配膳口の付近が毎日凄く混雑している一方で、返却口が遠いという事もあって中々人がいないところも存在する。
例えば、隅のほう、とか。
そして隅の方のさらに隅っこの方には、じいっと見ないと誰も分からない、目立たない扉がある。
そこを開けると……。
「いらっしゃいませ」
若い(と思われる)マスターが出迎えてくれる、喫茶店がある。
「マスター、こんにちは」
「おや、シャルロットさん。こんにちは」
カウンターに座るとお冷を渡された。それを口に含んで落ち着いた後、早速本題に入る。
「早速使ってみましたよ、あれ!」
「ほう。どうでしたか、ワタシ特製の楽器――チューブラ・ヘルツは」
「えっと、まず――」
チューブラ・ヘルツ。僕のラファールに試験的に組み込まれた武装で、なんと開発・調整はこのマスターだ。
パイプオルガンのような管をトリガーにして、それを引くと音が鳴る。管の長さによって音の高さは違うんだけど、その音の高さの違いがこと武装の最大の特徴だ。
チューブラ・ヘルツには攻撃だけでなく補助や妨害機能も充実していて、それぞれに対応した音楽をタイミング通りに鳴らす事で全てに対応出来る。その代わり、明らかにタイミングがずれた瞬間また鳴らし直し、というデメリットも存在する。また、拡張領域をかなり大きく喰うのもデメリットだ。
だけどその欠点を踏まえてもかなり優秀な武装だし、何よりも結構楽しい。飛行しながら使用するのは難易度がとっても高いけど、上手く演奏が出来た時の達成感、相手のハイパーセンサーを惑わせる楽しさ、もとい愉しさ。ワケの分からない武器で勝った時の相手のワケが分からないという顔を見た時の愉悦。全てが私を…………。
いや、待って。そもそもだ。
「なんで武器が作れるんですか!?」
「ふふふ、マスターの嗜みですよ」
「マスターになる敷居が高すぎるよぅ……」
IS学園のマスターは武器の開発や整備なども出来ないといけないのだろうか? いや、でもマスターは喫茶店のマスターなんだから別にISの改造ができる必要はない筈なんだけど……。その内男性IS操縦者もマスターの嗜みとか言ってそうで怖い。
「それにしても、楽しく使えて頂けたようで」
「あっ、はい! 使いにくさはあったけど、今までこんな武器が無かったのでとっても……って、そもそもこんな武器あるわけないじゃないですか!」
「それはそうでしょう。ワタシが初めて開発したのですから」
こんな武器がちゃんと攻撃になるなんて、皆思うわけもないしね。仕組み自体も詳しくは分かってない。『MIDI』っていう、昔使われてた音源? みたいなのが使われてるらしいんだけど、そのMIDIについて知ってる人は本当に少なかった。というか、先生や用務員のおじさんしか知らないみたいだ。
……織斑先生には聞いてないよ? 怖いから。
で、MIDIから出る音を相手のセンサー類やらに影響を与える電波に変換したり超音波やビームに変換したりするなんやかんやがあってああなるらしい。マスター曰く、
「禁則事項です」
とのこと。
私には秘密事に首を突っ込む趣味もないし、別に使っていて不具合が起こることもないので気にしない事にした。
そもそも、私達はマスターに関して知らないことが多すぎるのだ。
「年齢は?」 「秘密です」
「年収は?」 「禁則事項です」
「休日の過ごし方は?」 「禁則事項です」
「得意教科は?」 「禁則事項(ry」
「何処に住んでいたの?」 「何処かです」
「好きなタイプは?」 「かくとう・エスパーです」
「そうじゃない」
「異性の好みは?」 「秘密です」
いやどうしろと?
と、いうように、中々隙を見せてくれない。
「ワタシの事を知りたい時は、まずは現象の花の秘密を暴くことからです」
とか言ってたけど、現象の花の秘密が何か、がまず分からないからどうしようもない。そんな謎な人だけど、私にとっては道を示してくれた恩人でもあるんだ。
今でもハッキリ覚えてる。そう、あれは――――――――
▽ ▽ ▽
私が『シャルロット・デュノア』として初めてマスターに会ったのは、タッグトーナメント戦が終わった後だった。謝らないととは思ってたんだけど、中々タイミングが掴めないまま――今に至る。
「うぅ、緊張するなあ」
一夏や他の皆には許してもらえた。だけど、じゃあ他の人にも許してもらえるなんて甘い考えなんて出来るわけもない。いや、一夏はそう思ってるのかもしれないけど。彼は優しすぎる人だから。
でも、恨まれても何かお小言を言われても、筋を通さなければ行けない時っていうのはある。この前来た時は軽かった扉を重く感じたまま、ゆっくりと開いた。
「いらっしゃいませ」
軽い鈴の音と共に前と同じような声。きっといつも変わらないであろうそれも、妙に恐ろしく感じる。
「ああ、シャルルさん。いえ……シャルロットさんの方が宜しかったですか?」
「シャルロットで、お願いします」
私が男装していたことを皆に伝えた後とはいえ、伝達速度が早すぎるような気がするのだが、気の所為なのだろうか?
「あの、騙してて、済みま――」
その謝罪は、目の前のマスターの一言によってかき消された。
「ああ、謝らなければいけないのはワタシの方なのです」
「え……?」
どういう事なんだろう? マスターには何の非も無いはずだ。少なくとも私は何もされていないのだけど。
だけど、マスターの謝罪は全く違うベクトルのものだった。
「貴女の身体が女性であると言うことはひと目見た時から見抜いておりました」
「…………えっ?」
あまりの驚きに身体が固まってしまった。え、じゃあ……私が男装してここに入っていたことを知った上で男性として接していたという事? なら、その理由は……?
「そ、そうなんですか!?」
「マスターですから」
……もしかして『シャルル』のまま他のバーに行っても見抜かれていたのだろうか? いやでも、他の子達にはバレてなかったわけだし!
「ただ、精神が男性の方……つまり、性同一性障害の方だとばかり」
「え、えぇ?」
予想だにしていなかった答えが帰ってきた。少し混乱した頭をなんとか鎮めて考えを纏める作業に入る。
つまり、身体は女の子だけど中身は男の子だと思ったから、男性操縦者の一人として接した……という事なのだろうか?
確かにそれを聞くとなんだか複雑な気分になってしまったが、それでも私がやった事は消えないわけなので謝らなければいけないのは変わらない。制止の声を無視して頭を下げた。
「でも、それでも、すいませんでした!」
――コト、とカウンターに何かが置かれた音がした。少し顔を上げてみればその正体はキレイなティーカップ。
頭を上げて下さい、と優しい声で言われたのでおずおずと頭を上げる。
カウンターの先には、前と変わらない優しげな笑顔が待っていた。
「勿論ワタシは怒っていませんよ。――よく、頑張りましたね」
「っ」
…………なんなのだろう、一夏に抱いた想いとはまた違ったこの温もりは。
恋愛感情じゃない。
友情でもない。
まるで、母さんに褒められた時のような、そんな気持ち。思い出せるはずなのに、うまく表現が出来ない。
自らが生んだ感情に疑問を抱いたまま、出された紅茶を口に含んだ。
爽やかな風味の中で香る甘さ。一見相反するかもしれないその二つは決して混じらずお互いがお互いを活かし合うように揺れ動く。
底に少し沈んでいるドライフルーツの甘さや酸味は少し強いけれど、その瑞々しさは私に元気を与えてくれるようで。
故郷の、味がしたような気がした。
「これ……飲んだことがある気がします」
「マリアージュ・フレールの『ハッピー・バースディ』という銘柄です。日本で買うと高いのですが、ワタシに関してはちょっとしたコネで安く仕入れられているのですよ」
「マリアージュ・フレール……ああ! うちの!」
ええ、とマスターは柔らかい笑みを浮かべた。
「なんか、すっきりした味わいですね。なんだか、明日も頑張れそうな気がします」
えへへ、と笑っていると、彼はニコニコと微笑んだまま指を一本立てた。
「そんな貴女にアドバイスです」
「え?」
そして、マスターは目を閉じた。
「いいですか? 貴女にはこれから先、色々と大変なことがあるでしょう。それは貴女の家庭だけではなく、IS学園での出来事でも。
だけど今、この時は自分を祝ってあげなさい。
雲に隠れていた貴女の名前は、月、そして太陽により照らされたのでしょう。
今日は貴女の始まりの日。窓にオーロラは舞い、空を包みます。
その時こそ夜が歌う時。
貴女の誕生を祝う時。
その時に祈りなさい。貴女を包み込む宇宙に祈りなさい。
始まりは始まるのではなく、始まりへと還るだけ。
貴女の願いはオーロラが聞いてくれる。叶う時はきっと、再びオーロラが舞う日。
そして貴女は如雨露になる。
目覚めてしまったが為に貴女は隠れてしまったのかもしれませんが、太陽の蓮は貴女を見つけてくれた。
満ちて花開く太陽に寄り添い歩むことで、きっと丘は応えてくれる。
目を見張り、願い、そして歩くのです。
もしも蓮が枯れかけたら水を与えなさい。黄泉帰らないように、そして蘇るように。
水が廻り、再び蓮を咲かせられるように。
それが如雨露の役割なのです」
「おー、ろら」
月。
太陽。
蓮。
夜の歌。
そして、如雨露。
いきなり並べられた意味不明なキーワード。普通に考えればこの地でオーロラなんて出るわけもない。きっと普通の人からすれば、マスターはおかしいのだろう。
……なのに。
与えられた詞は、きっととても大事なような気がした。彫りつけるように記憶付ける。いや、彫らなかったとしても……絶対に、これは消えないだろう。
私はマスターに何を返せるのだろう。行先を教えてくれた彼に、何が出来るのだろう。……考えるのは後だ。考える前に、まずやるべきことがある。
「マスター、ありがとうございます!」
御礼の言葉は意識せずとも出てきた。なら、後は気持ちを添えるだけだ。
一夏と母さんにしか見せたことのない、私の最高の笑顔で。
私はこの日を一生忘れない。『僕』が眠り、雲に隠れて『私』として生き始めた日。
そして、夜中にオーロラを見た日を。
▽ ▲ ▽
目の端に涙を浮かべながら、それでも笑顔で出ていったシャルロットさんを見送ったあと、静かに独りごちた。
「それにしても、IS委員会も中々質が悪いことをするものです。デュノア社の社長の性格の悪さも……いや、親バカ具合も中々ですが」
そもそも男装といった、バレた場合のリスクが大きすぎる事をせずとも、ハニートラップや単に仲良くなって聞くほうがローリスクではないか。色々と子への風当たりが強い中、IS学園に逃してやりたかったというデュノア社社長の気持ちも分からんではないが、それにしてももう少し賢いやり方があっただろうに。
しかも、データの収集などという
まあ、他所の家庭の事情にこれ以上踏み込むつもりはワタシにはない。だが、何も知らなかった哀れな子に少しばかりの同情を覚えるのも事実。先輩はこの件に関しては沈黙を貫くつもりだろうし。
ここは一つ、理由付けを増やしてやるとしよう。そうと決まれば早速実行だ。
「久しぶりに取り掛かるとしますかねぇ。腕が落ちていないといいのですが、どうにも自信がない」
試作
▽ ▽ ▽
全てを知った彼女は社長に対しある程度怒りを覚えたものの、最終的には和解出来たという。いやはや、これは社長が大泣きしたことだろう。良かった良かった、もしも話が拗れたまま倒産してしまったら――――安く紅茶が仕入れられないではないか。
テストパイロットの件については既に了承を取ってある、逆にお願いされたくらいだ――し、恐らくもう暫くは彼女は楽しく日常を過ごせることだろう。その間に事態が好転するか、それとも悪化してしまうのか。それは確率の丘が示してくれるだろうし、ワタシがどうにかすることでもない。
ワタシが彼女に望んでいる最も大きな役割――――創作楽器のモニター。
これに協力してもらえるのはとても大きい。リヴァイヴの汎用性に感謝、そしてシャルロットさんの要領の良さには圧倒的感謝だ。
「次は何を創りましょうかねぇ」
そうだ、レーザーハーブなどはどうだろう。きっとまたオモシロイ出来になるに違いない。
シャルロットさん、楽しみに待っていてくださいね。
難産でした。解釈とかそれ以前に話に合う歌を探す作業に時間がかかりすぎた。
ちょっとした解説とか。
・チューブラヘルツ:武器になった。某一狩りゲーでいう狩猟笛みたいなアレ。
・MIDI:この世界では骨董品も同然らしい
・マリアージュ・フレール:フランスの紅茶ブランド。フランスで買うと結構安いってのはマジ。フレーバーティーの知名度はかなり高い筈。
・先輩:みんな知ってる
・IS委員会とかデュノアのネタどっかで見たぞ:他の二番煎じよりも母数が少ないのでご容赦を 一応完全な丸パクリにはしていません
使用曲:オーロラ
作者コメント:AURORA3のほうがメロディー的に好きだが、まあ歌詞が同じだしどっちでもいいでしょうという事でこっち。ホントはもうひとりの登場人物に使いたかったが、この話を作るのにとても難儀したため先に使ってしまった。一度使った曲を二度と使わない、ということもないので。
頭おかしい兎とかの登場はもうちょっと先の予定。暫くは生徒や他の教師中心です。